光のもとで2

葉野りるは

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October

紫苑祭一日目 Side 翠葉 02話

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 開会式が始まると校長先生の短い言葉があり、そのあとに数々の祝辞が連なることなく選手宣誓が行われる。
 ミーティングで何度か顔を合わせた実行委員長が手をあげ声を張る様は、とても勇ましく見えた。
「宣誓っ! 私たち選手一同は、互いを支え、励まし、自分を信じて、一戦一戦を全力でプレーすることを誓います。三年C組貝塚隼人っ」
 そのあと全校生徒によるラジオ体操が行われ、徒競走を始めるべく全校生徒の大移動が始まった。
 徒競走は生徒全員が走るため放送委員の実況中継が入ることもなく、淡々とピストルの音が鳴り響く。
 本部席から見て一番奥のレーンが一年男子。手前へ向けて、一年女子、二年男子、二年女子、三年男子、三年女子。それぞれがタイムなど関係のないクラス順、出席番号順に並び、次々とスタートを切るのだ。
 私はその様を本部席から眺めていた。
 あの人は朝に挨拶をする人。あの人は中央委員会で何度も顔を合わせて話せるようになった人。あの人は食堂にいることが多く、遠くからでも手を振ってくれる人。
 去年に比べると、見知った顔が格段に増えていた。中には顔と名前が一致している人もいるし、友人といえる人もいる。
 クラスや部活、生徒会以外にも知り合いが増えて、それまで以上に視野が開けていくような感覚があった。
 世界が広がる、とはこういうことを言うのだろうか。
 三学年全クラスが走る中、走り終わった人たちによる応援が始まれば、グラウンドは徐々に賑やかになっていく。けれども、一組前のグループがゴールした途端、歓声が止んだ。
 これから誰が走るのかとスタートラインに目をやると、佐野くんが立っていた。
「用意っ」
 パンッ――
 久しぶりに人の走る姿を注視した。
 きれいなフォームで誰よりも早く駆け抜ける。スタートからほかの人との差があり、ゴールするときには数メートルの差が空いていた。
「さすが……」
 そこへ戻ってきた優太先輩に、
「あちゃ、佐野くんの番だったのか。もうちょい早く戻ってこれたら良かったね、ごめんごめん」
「あ、いえ、そんな……」
「でも、俺戻ってきたから翠葉ちゃん観戦に行ってきていいよ」
「え? でも……」
「今は集計の仕事ないでしょ? 海斗や簾条さんもまだだし、司が走るのもこれから。行っておいで」
 座っていたパイプ椅子を強引に引かれ、優太先輩に甘えることにした。

 ゴール近くにたどり着いたとき、飛翔くんがトップでゴールインしたところだった。
 さすがは飛翔くん。足も速ければ人気も高い。
 組の応援というよりは、飛翔くんを応援する声しか聞こえてこなかったように思う。
 中には走りきった飛翔くんにタオルを差し出す女の子もいたけれど、飛翔くんは「いらない」の一言で突っぱねる。しかし、そんなことは想定内なのか、女の子たちは飛翔くんのあとをついていく。
 それを見て抱いた感想などひとつしかない。
 気丈だなぁ……。私なら無理だ、色々と……。
 片思いの人に「タオルを使ってください」と差し出すこともできそうになければ、突っぱねられたあと、その人を追いかけて歩くこともできそうにはない。
 さらには、追いかけて歩いてはいるものの、それに飛翔くんが対応しているふうではないのだ。
 飛翔くんを好きになるということがどれほど大変なことなのか、などと変なところに気が向いてしまう。と、その人物が私をめがけてやってくる。もちろん、多数の女の子を引き連れて。
 何かの間違いだと思いたい。
 ゆっくりと自分の背後を振り返ってみたものの、これといった人はおらず、再度飛翔くんに視線を向ければばっちりと目が合ってしまった。
 あの、来ないでください……。
 切実に願うも、飛翔くんの長いコンパスは確実に私との距離を詰めていた。
 たどり着くなり、すでに確認済みの内容をつらつらと話され、なんとなく意味を察する。
 つまり、「仕事してるから邪魔すんな」ということを、周りの女の子に対し行動のみで表しているのだろう。
 結果、私は疎むような目で見られることになるわけで……。
 こういう視線にまったく免疫がないわけではない。けれど、
「飛翔くん、確信犯すぎて文句を言いたいです」
「利用できるものは利用する」
「それの何が悪い」と言わんがごとく視線を返され、私は口を噤むに留めた。
 背後からそれまで以上の歓声が聞こえてきて、今度は誰が走るのか、と振り返る。と、ツカサと海斗くんがスタートを切るところだった。
 ピストルが鳴った瞬間、ふっ、と音が消え、そのあとのことはあまりよく覚えていない。
 視界には海斗くんとツカサのふたりが入っていたはずなのに、気づけば私の目はツカサしか追っていなかった。
 周りでキャーキャー騒ぐ声も何も聞こえなくなり、ただただ涼しい顔で走るツカサを見ていた。
 たぶん、「目を奪われる」とはこういうことを言うのだ。
 あっという間の十数秒がスローモーションで見えていた感じ。
 ゴールテープを切った途端に周りの音が聞こえ始め、あまりの歓声の大きさにびっくりして一歩引く。そこへ一言、
「あんた、赤組の副団なんだけど」
「え……?」
「今、誰の応援してたんだか」
「あ……」
「別にいいけど」
 飛翔くんは澄ました顔で本部へ向かって歩き出した。

 徒競走が終われば全学年の女子が行う玉運び。
 この時間はパソコン三台を使ってひたすら徒競走のタイムを打ち込む。残りのひとりが玉運びの集計をするのだ。
 内訳は、私以外の三人が入力。私は玉運びの集計。
 私は隣の放送席から聞こえてくる順位をもとに集計しつつ、徒競走のタイムが書かれた手書きデータのコピーを見て暗算をしていた。
 解が出ては欄外に総合タイムと平均タイムを記入していく。玉運びが終わるころ、ツカサの入力が終わった。
「ツカサ、これ」
「あぁ、助かる」
 ツカサがエクセルに表示されるタイムと見合わせていく。と、飛翔くんの声が割り込んだ。
 どうやら飛翔くんの入力も終わったようだ。
「それ、なんですか」
 私は玉運びの集計表を確認をしながら、
「徒競走の総合タイム」
「は……?」
「だから、徒競走の総合タイムだよ」
「なんで?」
 この場合の「なんで」とは、どの部分にかかるのだろう。
 どうしてそんなことをする必要があるのか――という意味だろうか。それなら、
「飛翔くんが入力ミスがあるかもしれないって言っていたでしょう? だから、予防的措置が必要かなと思って暗算で答えを出しておいたの。――よしっ、玉運びの集計完了。飛翔くん、これも打ち込んでもらえる?」
 飛翔くんへ用紙を差し出すと、飛翔くんには珍しく驚いた顔をしていた。
「どうかした?」
「……あんた、今まで玉運びの集計してたんじゃ……」
「うん、していたけど……?」
「それでどうして二十一組分の総合タイムなんて――」
「え……? あぁ、いつ計算したかということ?」
 飛翔くんは目で「そうだ」と肯定する。
「私、競技は見ずに放送委員が話すゴール着順しか聞いていなかったから、競技時間は丸々暗算に当てていたの」
 飛翔くんはツカサを振り返り、エクセルの集計欄と私の手書きの数字を交互に見ていく。
 その動作に不安を煽られ、
「ツカサ、私、計算ミスしてた?」
「いや、今のところ全部一致。あと、優太が受け持ってるクラスを確認するのみ」
「良かった。……あ、ツカサも飛翔くんもスウェーデンリレーの召集かかってるよ?」
 ふたりは連れ立って校庭へ向かって走っていった。
「翠葉ちゃんの計算力は相変わらずだね。飛翔も驚いてたっぽいし、これで少し当たりが柔らかくなるといいんだけど」
「それはどうでしょう? 計算力といっても単なる足し算割り算ですし、飛翔くんは何かと手厳しいので、このくらいのことでは認めてもらえない気がします」
「確かに……」
「……でも、当たりはきついけど、冷たい人じゃないのはわかったので……」
「そう?」
「はい」
 私と優太先輩はダブルチェックを済ませると、現時点での点数を電光掲示板へ表示させた。
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