光のもとで2

葉野りるは

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October

紫苑祭二日目 Side 翠葉 11話

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 曲が終わり会場が拍手に包まれる。
 ワルツだけは七組二十一ペアが同じ曲で一斉に踊るため、拍手もそれ相応の大きさ。
 四方へ向かって礼を済ませフロアを退場すると、壁際に着いた途端に六人が顔を突き合わせ、
「「「「「「ノーミスっ!?」」」」」」
 次の瞬間には六人全員が大きく頷いた。そして、誰からともなく手を上げハイタッチを交わす。
 次には上の観覧席から「お疲れ様!」などたくさんの声をかけられ、それらに笑顔でそれに応えていると、放送委員に動きがあった。
『審査結果が出ましたので発表いたします! 輝かしい一位は赤組の三ペア! 審査員全員一致の結果でした』
 その言葉に再度喜びの声をあげ、ワルツメンバーと喜びを分かち合う。
 きゃいきゃいと騒ぎながらメンバーが観覧席へ戻ろうとする流れの中、私はひとりフロアに留まった。
「御園生?」
「あ、私、本部に行く」
「……足、痛む?」
「ちょっとね……。でも大丈夫。ただ、観覧席へ上がってすぐまた下りるのはつらいから」
「わかった。着替えは?」
「あー……ジャージに着替えても、どうせすぐに後夜祭の準備で着替えるからこのままでいいや」
「了解。……因みに、海斗とか簾条に問い詰められたらどうしたらいい?」
 先を歩くふたりを見る分には、まだ興奮冷めやらぬ状態のようだけど……。
「海斗くんと桃華さんなら話してもいいよ。でも、あまり大ごとにはしたくないから、人のいないところで話してね」
「わかった」

 ダンスを終えても私の緊張は完全には緩んでいなかった。
 ワルツは終わった。嬉しいことに一位をとることができた。でも、私を突き落とした人は今この状況をどんな目で見ているだろう。
 階段から落ちて私が振り返ったときには突き落とした人はもういなかった。それは、私が落ちるのを見届けてからいなくなったのか、それとも押すだけ押してすぐに逃げたのか――
 どちらにせよ、この状況は喜ばしいものではないだろう。ギリギリと奥歯を噛み締めているかもしれない。
 そう思えば、まだ右足をかばって歩くことはできなかったし、無様な姿など見せてやるものか、と思う。
 そんな自分を少し笑う。
 本当、救いようのない負けず嫌いだ。でも、これが私だし、もし谷崎さんのように「吹けば飛ぶ」とでも思っていたのならご愁傷様。
 私、痛みに対しては耐性があるんだから――

 本部ではすべての確認が終わったのか、パソコンに表示されていたものをプリントアウトする工程に入っていた。それにざっと目を通したツカサは、各委員会の長たちにプリントを配る。
 私に気づいた優太先輩が、
「翠葉ちゃん、お疲れ! ダンス、超きれいだった!」
「ありがとうございます」
「あんなに踊れるなら後夜祭のファーストワルツも大丈夫そうだね」
「……はい?」
 後夜祭でワルツを踊るのは楽しみにしていたけれど、「ファーストワルツ」という響きは今初めて聞いた。
「後夜祭のファーストワルツって、なんの話でしょう?」
 嫌な予感しかしないだけに、何を思うでもなく苦笑を浮かべる。と、
「あれ? 翠葉ちゃん知らないの?」
 だから、何を……。
 私の視線に何かを悟ったらしい優太先輩は、一歩後ずさってから、
「後夜祭は、フロア中央で姫と王子がファーストワルツを踊るとこから始まるんだ。で、曲の途中からその他大勢が加わって踊りだす。一曲目のワルツが終わるとカントリーダンスに移行して、二曲踊ったらもう一度ワルツ。そして最後にチークダンスなんだけど……知らなかった?」
「そんなの知りませんっ! だって去年は――」
 思い出してはたと我に返る。
 去年の後夜祭は始めから参加していなかった。私たちが校庭に着いたときにはすでにチークダンス前のワルツが始まっていたのだ。
「あぁ、去年は姫がふたりいたし、翠葉ちゃんは運動だめだと思ってたから茜先輩と司が踊る予定だったんだよね。でも、翠葉ちゃんも来なければ司も来ないしで、茜先輩のご指名を受けて会長がファーストワルツを踊ったんだ」
 そんなこと知らない……。
 紅葉祭のDVDは何度も見たけれど、後夜祭のシーンで茜先輩と久先輩が切り取られて踊っていることに疑問などまったく抱かなかった。
「ツカサっ、どうして教えてくれなかったのっ!?」
「知ってると思ってたから?」
 しれっと答えられてぐうの音も出ない。 
 確かに、人から聞かずとも、自身で流れすべてを把握していればこういう事態にはならなかったわけで……。
「すみません……知らなかった私が悪いです」
 そんな会話をしていると、沙耶先輩が飛翔くんとやってきた。
 ふたりは同じ赤組ではあるものの、接点があるわけではない。そんなふたりが並んでいることに嫌な予感がした。
 沙耶先輩が何を言う前に場所を移そうと思ったけれど、
「姫を突き落とした犯人並びに、妨害工作をした組が判明したけど、ここで留めておく? それとも、体育委員と紫苑祭実行委員に情報を上げてペナルティを発令する?」
 端的だけど、的を射た話は言葉少なに何が起こったのかを語っていた。
 たぶん、風紀委員の誰かが私についていて犯人を見ていた。もしくは、飛翔くんが沙耶先輩に何が起こったのかを話して、桜林館についている監視カメラから犯人を割り出した。そんなところだろう。
「青木、それ、なんの話?」
「姫、話すわよ?」
 確認のようで、まるで確認の意味をなさない質問。
 沙耶先輩は私の返事を待つことなく、ワルツの前に起きたことをツカサと優太先輩に話した。
 ツカサが動き、次の動作を察する。
「だめっ」
 ツカサは負傷した足を見るためにドレスの裾をめくろうとしたのだ。
「応急処置はしてある。今は誰にも見せたくないし悟られたくもないっ」
 その言葉にツカサは動作を改め、私を椅子に座らせた。
「で、犯人は?」
 優太先輩が尋ねると、
「実行犯はひとりだけど、話を聞いたところによると三人で企てたことみたいね。組自体はまったく関与も関知もしてないでしょうよ」
 沙耶先輩の意味深な視線に、「え?」と思う。
「だって、黒組の女子の犯行だもの。春日くんも藤宮くんも知らなかったでしょ?」
「青木、三人の名前を」
 沙耶先輩はため息をつきながら、ポケットからメモ用紙を取り出した。
 そのメモを見ながらツカサは眉をひそめる。
「一番上に書いてある芳川彩加が実行犯。三人とも藤宮くんのファンよ。もっとも、ファンというか本気というか……そのあたり難しいけど」
「難しいって何が……?」
「つまり、藤宮くんとワルツで踊りたかった子たちの犯行。ここのところ、姫にちょっかい出す人間いなかったから、今回のことを未然に防げなかったのは風紀委員の怠慢でもある。姫、悪かったわね」
「そんなっ――」
 沙耶先輩の謝罪に反応しつつ、顔から一切の表情をなくし、さらには何も口にしないツカサから目が離せなかった。
 ツカサは無言で身体の向きを変え、委員長たちが集う方へ歩き出す。
「ツカサっ!? 待ってっっっ」
 振り返ったツカサはものすごく険しい表情をしていた。
「黒組の優勝を取り消す」
「だめっ。それ、全然意味ないから」
 きっぱりと言うと、ツカサが戻ってきた。
「意味がないって?」
「だって、私を突き落としても、ワルツに支障はなかったよ? うちはワルツで一位をとった」
「それ、結果論じゃない? 事実、翠は怪我をしたわけで、何もペナルティを受けないのは筋が通らない」
「だからっ、どうしてそれを黒組が負わなくちゃいけないのっ!? 私が突き落とされたことを知っている人が黒組に何人いるのっ? 私を突き落とした人が黒組の人だとしても、黒組を背負って突き落としたわけじゃないでしょう? 個人的な恨みが根源でしょう? それ、黒組も赤組も関係ないでしょう?」
「でも――」
「大丈夫。ちゃんとペナルティは負ってもらうから」
 そこまで言うと、沙耶先輩が口端を上げた。
「さ、姫さんどうする?」
「……実行犯を含め、その三人は後夜祭の参加禁止。でも、後夜祭が終わるまでは下校するのも禁止で」
 私の言葉に沙耶先輩と飛翔くんが声をあげて笑い、優太先輩はきょとんとした顔をしている。ツカサにおいては、「それ、ペナルティになるの?」と訝しがる始末だ。
「ツカサのファンなら私とツカサが踊るのは見たくないはず。もしかしたら、私を突き落としたのはそれが目的だったかもしれないでしょう? それなら、踊ってみせましょう?」
 にこりと笑って見せると飛翔くんがくつくつと笑いながら、
「負けず嫌いなうえ、性格もそこそこいいんだな?」
 もちろん、この「いい」というのは「悪い」の意味だろう。
 私は笑顔のまま、「お褒めに与り光栄です」と請合った。
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