201 / 271
December
それぞれのクリスマス Side 翠葉 05話
しおりを挟む
キッチンでお湯を沸かしているとき、背後に気配を感じて振り返る。と、普段着に着替えたツカサに抱きすくめられていた。
「っ……ツカサ?」
返答がないうえ、ちょっときつめに抱きしめられている腕が緩む気配もない。
こういうときはどうしたらいいのかな……。
少し考えて、ツカサの腰に手を回し、自分からも抱きつくような要領で力を加える。
「……どうしたの?」
すると、少しの沈黙のあと、ようやく口を開いてくれた。
「今日のドレス、よく似合ってた。それから、今着てるワンピースもかわいい」
思いもしない言葉に息を呑む。それは一瞬のことで、すぐに「嬉しい」という感情が心に満ちた。
「嬉しい……誰に言われるよりも、嬉しい」
「かわいい」や「きれい」と言ってくれる人は何人かいたけれど、そのどれよりもツカサの一言が勝る。
お礼を言いたくてツカサの顔を見上げると、
「顔見るの禁止」
即座に顔を背けられた。
でも、顔を背けたところで耳から首まで真っ赤だった。
言うの、恥ずかしかったのかな……? それとも、照れているだけ?
少し考えて、その疑問が愚問であることに気づく。
自分だって、今日のツカサに「格好いい」とは伝えられてないし、今から言おうと思っても、恥ずかしくて照れてしまってなかなか口にはできない。
でも、言ったほうがいいのかな……?
考え込んでいると、
「いつも開口一番に言えなくて悪い。でも、なんとも思ってないわけじゃないから」
「うん……」
ドレス姿やワンピースを褒められたことよりも、恥ずかしいのを我慢して伝えてくれたり、思っていることを伝えようとしてくれることが嬉しいのはどうしてかな……。
でも、こういうの、秋斗さんや唯兄がツカサをからかわなかったら言ってもらえなかっただろうな。
そう思うと、ふたりに感謝の気持ちが芽生えなくもない。
どうしたら嬉しい気持ちが伝わるのかな。
悩みに悩んだ私は、それまで以上にぎゅーぎゅー抱きついた。
お湯が沸いて、
「ツカサは何が飲みたい?」
「翠と同じでいい」
「じゃ、フルーツティーを取ってもらえる?」
ツカサは何事もなかったように私から離れ、吊り戸棚の二段目に置かれたお茶を取ってくれた。
お茶を淹れてリビングへ行くと、テーブルの上に指輪の入っていた箱と、それよりも少し大きな箱が並べて置かれていた。
リボンがかけられているところを見ると、プレゼントなのかな、と思うけれど、すでに高価すぎるプレゼントをいただいてしまっているし……。
不思議に思いながらツカサの隣に腰を下ろし。
「これは……?」
指を指して尋ねると、
「もうひとつのプレゼント」
言われて、自分も用意してきたプレゼントを引き寄せた。
「私からのプレゼントはこれ」
そう言って、大きな包みと小さな包みを手渡す。と、ツカサは大きな包みのリボンを解きだした。
柔らかな包装紙から顔を出したのは、オフホワイトのマフラーとグレーのブランケット。
どちらもケーブル模様を入れた、少し凝ったデザイン。
毎日少しずつ編んで、数日前にようやく完成したのだ。
「セーターとマフラー?」
「マフラーは正解。セーターはハズレ」
ツカサはブランケットを広げ始め、
「ひざ掛け……?」
「うん。勉強するときや本を読むときに使ってもらえたら嬉しい。グレーの毛糸だから、ハナちゃんを抱っこしても白い毛が目立たないよ」
「ありがとう。もうひとつのこれは?」
ツカサが手に取ったのは、手のひらほどの大きさの箱。
中にはちょっと大き目のガラス製のジャーが入っている。
「ツカサの手、少し乾燥しているでしょう? だからね、ハンドクリームを作ったの。浸透力抜群のオイルを使って、水分多めの配合にしたからベタベタはしないと思うんだけど……」
ツカサはジャーの蓋を開けるとまず匂いをかいだ。
「ハーブ……?」
「うん。オーソドックスにラベンダーとカモミールのブレンド。柑橘系も考えたのだけど、光毒性のことを考えてやめたの」
「いい香り」
表情の緩んだツカサにほっとする。
ツカサは少量を指に取ると、手のひらや甲に広げた。
入念に肌へ塗りこみ、
「ベタベタしない……」
「でしょうっ? 何度も何度も試作を重ねたんだから!」
「でも、分量多くない? 使い切るのに結構時間かかりそうなんだけど……」
「ふふふ、大丈夫。たぶんそんなに時間はかからないよ」
不思議そうな顔をしているツカサを横目に、私は指輪を外した。
少し多めにクリームを取って、ツカサの左手を包み込む。
「ハンドマッサージに使ったら、あっというまになくなっちゃうよ。しかも、マッサージはセルフじゃありません! 私がするから、クリームはこっちのおうちに置いててね?」
左手が終わって右手に移ろうと思ったとき、
「その前に俺からのプレゼント」
と、テーブルに置かれた箱を手渡された。
それは、ガラスジャーの入っていた箱よりは小さく、重量もそれほど重くない。
「なんだろう……?」
不思議に思いながら包みを開けるとスケルトンの箱が出てきて、中にはコロンとした球体の瓶が入っていた。
薄紫色の液体が入っているところを見ると、
「香水……?」
「そう。名前が翠好みだと思って」
言われて、スケルトンの箱に書かれたスペルを目で追う。
「これ、なんて読むの? それ以前に何語?」
英語ではなさそうだけれど……。
「エクラドゥアルページュ。フランス語」
「訳は?」
「光のハーモニー」
「わぁ、すてきっ! 色も薄紫できれいね? どんな香り?」
「……実際にかいでみれば?」
「そうする」
手ぬぐいを取り出し、そこへシュッ、とひと吹きする。と、少しおとなっぽい香りがあたりに広がった。
「いい香り……でも、なんだかおとなっぽい香りだね」
「……確かに」
それはまるで、今知ったようなコメント。
「ツカサはこの香水の香り、知っていたんじゃないの?」
「いや……」
ツカサは言葉を濁し顔を背ける。
えぇと……どういうことだろう?
この香りを気に入ったからプレゼントしてくれたんじゃないのかな……。
「ツカサ……?」
ツカサはひどくばつの悪い顔で、
「香りは確認してなかった。ただ、ネットで名前を見つけたとき、翠が好きそうな名前だったから……」
言いづらそうに口にする様がとてもかわいい。
「どんな香りの構成なのか知りたいから、少しネットで調べてもいい?」
尋ねると、リビングテーブルの上に置いてあったタブレットを貸してくれた。
香水の名前を入力すると、すぐにいくつものサイトがヒットする。
値段が出ていそうなサイトは避けて表示させると、
「トップノートはグリーンライラック、シシリアンレモンリーブス。ミドルノートはピーチブロッサム、レッドピオニー。ラストノートはホワイトシダーとスイートムスク……」
おとなっぽさを感じるのはムスクかな、と考えていると、ツカサが小さくため息をついた。
何かと思ってその先を読み進めると、「エクラドゥアルページュは甘すぎない大人な香り」と記されていた。
その下には口コミが書かれていたわけだけど、ざっと見ただけでも十代のコメントはなく、二十代後半のコメントが目立つ。
「香り、嫌いだったらつけなくていいから」
「えっ、嫌いじゃないよっ!?」
ツカサはひどく落胆したような顔をしている。
「あのっ、少し大人っぽい香りだなって思っただけで、嫌いとかつけたくないとかそういうことじゃなくて――」
「無理しなくていいんだけど」
「無理なんてしてないっ。ただ、普段使いはできないから、ツカサとどこかへ出かけるときや、特別な日につけたいなって……。名前もすてきだし、本当に、嬉しいよ? ありがとうね?」
ふとすれば取り上げられてしまう気がして、私は慌てて香水瓶を手に持った。
けれど、返された言葉は意外なもの。
「普段使いできる香りってどんなの?」
「えっ? ……えぇと、香りの弱いコロンとかかな?」
「コロン?」
「うん。香水にはいくつか種類があって、香りの持続時間に差があるの」
「つまり、香りの強さが違うってこと?」
「そう。これは香りの強いオードパルファムだから、学校にはつけていかれない」
中には香水をつけてきている女の子もいるけれど、香りが強すぎると先生に注意されるし、周りの人が匂い酔いしてしまう、という話も聞く。
だから、私の周りの女の子は、別の方法で「香り」というお洒落を楽しんでいた。
運動部に所属している飛鳥ちゃんや香月さんは、いくつかの制汗剤を使いわけているし、桃華さんにいたっては香袋を愛用している。美乃里さんは、穏やかに香る練り香を使っていると言っていた。
私も、以前看護師さんにいただいた香水が残りわずかになったことから、何かないかとリサーチを始めたところで、その候補にオーデコロンが挙がっていたのだ。
「コロンってどこで売ってるもの?」
どうしてそんなことを訊かれるのかと思いながら、
「ドラッグストアとか?」
「坂を下ったところにあるドラッグストアにもある?」
「え? うん、あると思うけど……?」
「じゃ、今から行こう」
「えっ!? どうしてっ!?」
何がどうしてそうなるのかがまったくわからない。
「あの、本当にこの香水の香り、好きよっ!?」
「でも、普段使いはできないんだろ?」
言葉に詰まると、ツカサは私の手を取った。
「俺のわがままに付き合って」
わが、まま……?
「自分がプレゼントした香りをつけていてほしい。いわばマーキングみたいなもの」
言っていることとは裏腹に、切実そうな表情で言われるから反する言葉を返せない。
では、どうしてこんなにも香りにこだわるのか――
それはわかる気がした。
「秋斗さんからいただいた香水が原因……?」
「…………」
「もう、秋斗さんからいただいた香水は身につけてないよ? ときどきルームスプレーとして使ってるだけ」
もしかしたら、それもいやなのだろうか。
「秋兄の香水を使うなとは言わない。でも、わがままは聞いてほしい」
「……わかった」
互いにコートを着て玄関へ向かい、先に靴を履いて玄関を出ようとしたツカサに抱きついた。
「行く前にぎゅってして……」
「……あのさ、後ろから抱きつかれてたらできないんだけど」
その言葉に思わず笑みが零れる。
腕を解くと、すぐにツカサが抱きしめてくれた。
「ツカサ……」
「ん?」
「私はツカサが好きよ?」
「……わかってる」
ツカサが不安になっているのはわかるのに、このときの私にはちょっと勇気が足りなくて、自分からキスをすることはできなかった――
「っ……ツカサ?」
返答がないうえ、ちょっときつめに抱きしめられている腕が緩む気配もない。
こういうときはどうしたらいいのかな……。
少し考えて、ツカサの腰に手を回し、自分からも抱きつくような要領で力を加える。
「……どうしたの?」
すると、少しの沈黙のあと、ようやく口を開いてくれた。
「今日のドレス、よく似合ってた。それから、今着てるワンピースもかわいい」
思いもしない言葉に息を呑む。それは一瞬のことで、すぐに「嬉しい」という感情が心に満ちた。
「嬉しい……誰に言われるよりも、嬉しい」
「かわいい」や「きれい」と言ってくれる人は何人かいたけれど、そのどれよりもツカサの一言が勝る。
お礼を言いたくてツカサの顔を見上げると、
「顔見るの禁止」
即座に顔を背けられた。
でも、顔を背けたところで耳から首まで真っ赤だった。
言うの、恥ずかしかったのかな……? それとも、照れているだけ?
少し考えて、その疑問が愚問であることに気づく。
自分だって、今日のツカサに「格好いい」とは伝えられてないし、今から言おうと思っても、恥ずかしくて照れてしまってなかなか口にはできない。
でも、言ったほうがいいのかな……?
考え込んでいると、
「いつも開口一番に言えなくて悪い。でも、なんとも思ってないわけじゃないから」
「うん……」
ドレス姿やワンピースを褒められたことよりも、恥ずかしいのを我慢して伝えてくれたり、思っていることを伝えようとしてくれることが嬉しいのはどうしてかな……。
でも、こういうの、秋斗さんや唯兄がツカサをからかわなかったら言ってもらえなかっただろうな。
そう思うと、ふたりに感謝の気持ちが芽生えなくもない。
どうしたら嬉しい気持ちが伝わるのかな。
悩みに悩んだ私は、それまで以上にぎゅーぎゅー抱きついた。
お湯が沸いて、
「ツカサは何が飲みたい?」
「翠と同じでいい」
「じゃ、フルーツティーを取ってもらえる?」
ツカサは何事もなかったように私から離れ、吊り戸棚の二段目に置かれたお茶を取ってくれた。
お茶を淹れてリビングへ行くと、テーブルの上に指輪の入っていた箱と、それよりも少し大きな箱が並べて置かれていた。
リボンがかけられているところを見ると、プレゼントなのかな、と思うけれど、すでに高価すぎるプレゼントをいただいてしまっているし……。
不思議に思いながらツカサの隣に腰を下ろし。
「これは……?」
指を指して尋ねると、
「もうひとつのプレゼント」
言われて、自分も用意してきたプレゼントを引き寄せた。
「私からのプレゼントはこれ」
そう言って、大きな包みと小さな包みを手渡す。と、ツカサは大きな包みのリボンを解きだした。
柔らかな包装紙から顔を出したのは、オフホワイトのマフラーとグレーのブランケット。
どちらもケーブル模様を入れた、少し凝ったデザイン。
毎日少しずつ編んで、数日前にようやく完成したのだ。
「セーターとマフラー?」
「マフラーは正解。セーターはハズレ」
ツカサはブランケットを広げ始め、
「ひざ掛け……?」
「うん。勉強するときや本を読むときに使ってもらえたら嬉しい。グレーの毛糸だから、ハナちゃんを抱っこしても白い毛が目立たないよ」
「ありがとう。もうひとつのこれは?」
ツカサが手に取ったのは、手のひらほどの大きさの箱。
中にはちょっと大き目のガラス製のジャーが入っている。
「ツカサの手、少し乾燥しているでしょう? だからね、ハンドクリームを作ったの。浸透力抜群のオイルを使って、水分多めの配合にしたからベタベタはしないと思うんだけど……」
ツカサはジャーの蓋を開けるとまず匂いをかいだ。
「ハーブ……?」
「うん。オーソドックスにラベンダーとカモミールのブレンド。柑橘系も考えたのだけど、光毒性のことを考えてやめたの」
「いい香り」
表情の緩んだツカサにほっとする。
ツカサは少量を指に取ると、手のひらや甲に広げた。
入念に肌へ塗りこみ、
「ベタベタしない……」
「でしょうっ? 何度も何度も試作を重ねたんだから!」
「でも、分量多くない? 使い切るのに結構時間かかりそうなんだけど……」
「ふふふ、大丈夫。たぶんそんなに時間はかからないよ」
不思議そうな顔をしているツカサを横目に、私は指輪を外した。
少し多めにクリームを取って、ツカサの左手を包み込む。
「ハンドマッサージに使ったら、あっというまになくなっちゃうよ。しかも、マッサージはセルフじゃありません! 私がするから、クリームはこっちのおうちに置いててね?」
左手が終わって右手に移ろうと思ったとき、
「その前に俺からのプレゼント」
と、テーブルに置かれた箱を手渡された。
それは、ガラスジャーの入っていた箱よりは小さく、重量もそれほど重くない。
「なんだろう……?」
不思議に思いながら包みを開けるとスケルトンの箱が出てきて、中にはコロンとした球体の瓶が入っていた。
薄紫色の液体が入っているところを見ると、
「香水……?」
「そう。名前が翠好みだと思って」
言われて、スケルトンの箱に書かれたスペルを目で追う。
「これ、なんて読むの? それ以前に何語?」
英語ではなさそうだけれど……。
「エクラドゥアルページュ。フランス語」
「訳は?」
「光のハーモニー」
「わぁ、すてきっ! 色も薄紫できれいね? どんな香り?」
「……実際にかいでみれば?」
「そうする」
手ぬぐいを取り出し、そこへシュッ、とひと吹きする。と、少しおとなっぽい香りがあたりに広がった。
「いい香り……でも、なんだかおとなっぽい香りだね」
「……確かに」
それはまるで、今知ったようなコメント。
「ツカサはこの香水の香り、知っていたんじゃないの?」
「いや……」
ツカサは言葉を濁し顔を背ける。
えぇと……どういうことだろう?
この香りを気に入ったからプレゼントしてくれたんじゃないのかな……。
「ツカサ……?」
ツカサはひどくばつの悪い顔で、
「香りは確認してなかった。ただ、ネットで名前を見つけたとき、翠が好きそうな名前だったから……」
言いづらそうに口にする様がとてもかわいい。
「どんな香りの構成なのか知りたいから、少しネットで調べてもいい?」
尋ねると、リビングテーブルの上に置いてあったタブレットを貸してくれた。
香水の名前を入力すると、すぐにいくつものサイトがヒットする。
値段が出ていそうなサイトは避けて表示させると、
「トップノートはグリーンライラック、シシリアンレモンリーブス。ミドルノートはピーチブロッサム、レッドピオニー。ラストノートはホワイトシダーとスイートムスク……」
おとなっぽさを感じるのはムスクかな、と考えていると、ツカサが小さくため息をついた。
何かと思ってその先を読み進めると、「エクラドゥアルページュは甘すぎない大人な香り」と記されていた。
その下には口コミが書かれていたわけだけど、ざっと見ただけでも十代のコメントはなく、二十代後半のコメントが目立つ。
「香り、嫌いだったらつけなくていいから」
「えっ、嫌いじゃないよっ!?」
ツカサはひどく落胆したような顔をしている。
「あのっ、少し大人っぽい香りだなって思っただけで、嫌いとかつけたくないとかそういうことじゃなくて――」
「無理しなくていいんだけど」
「無理なんてしてないっ。ただ、普段使いはできないから、ツカサとどこかへ出かけるときや、特別な日につけたいなって……。名前もすてきだし、本当に、嬉しいよ? ありがとうね?」
ふとすれば取り上げられてしまう気がして、私は慌てて香水瓶を手に持った。
けれど、返された言葉は意外なもの。
「普段使いできる香りってどんなの?」
「えっ? ……えぇと、香りの弱いコロンとかかな?」
「コロン?」
「うん。香水にはいくつか種類があって、香りの持続時間に差があるの」
「つまり、香りの強さが違うってこと?」
「そう。これは香りの強いオードパルファムだから、学校にはつけていかれない」
中には香水をつけてきている女の子もいるけれど、香りが強すぎると先生に注意されるし、周りの人が匂い酔いしてしまう、という話も聞く。
だから、私の周りの女の子は、別の方法で「香り」というお洒落を楽しんでいた。
運動部に所属している飛鳥ちゃんや香月さんは、いくつかの制汗剤を使いわけているし、桃華さんにいたっては香袋を愛用している。美乃里さんは、穏やかに香る練り香を使っていると言っていた。
私も、以前看護師さんにいただいた香水が残りわずかになったことから、何かないかとリサーチを始めたところで、その候補にオーデコロンが挙がっていたのだ。
「コロンってどこで売ってるもの?」
どうしてそんなことを訊かれるのかと思いながら、
「ドラッグストアとか?」
「坂を下ったところにあるドラッグストアにもある?」
「え? うん、あると思うけど……?」
「じゃ、今から行こう」
「えっ!? どうしてっ!?」
何がどうしてそうなるのかがまったくわからない。
「あの、本当にこの香水の香り、好きよっ!?」
「でも、普段使いはできないんだろ?」
言葉に詰まると、ツカサは私の手を取った。
「俺のわがままに付き合って」
わが、まま……?
「自分がプレゼントした香りをつけていてほしい。いわばマーキングみたいなもの」
言っていることとは裏腹に、切実そうな表情で言われるから反する言葉を返せない。
では、どうしてこんなにも香りにこだわるのか――
それはわかる気がした。
「秋斗さんからいただいた香水が原因……?」
「…………」
「もう、秋斗さんからいただいた香水は身につけてないよ? ときどきルームスプレーとして使ってるだけ」
もしかしたら、それもいやなのだろうか。
「秋兄の香水を使うなとは言わない。でも、わがままは聞いてほしい」
「……わかった」
互いにコートを着て玄関へ向かい、先に靴を履いて玄関を出ようとしたツカサに抱きついた。
「行く前にぎゅってして……」
「……あのさ、後ろから抱きつかれてたらできないんだけど」
その言葉に思わず笑みが零れる。
腕を解くと、すぐにツカサが抱きしめてくれた。
「ツカサ……」
「ん?」
「私はツカサが好きよ?」
「……わかってる」
ツカサが不安になっているのはわかるのに、このときの私にはちょっと勇気が足りなくて、自分からキスをすることはできなかった――
13
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる