31 / 1,060
第一章 友達
29話
しおりを挟む
裏道を使ったらいつもより少し早く学校に着いた。駐車場で蒼兄と別れ、校舎へ向かう。
桜並木にも人はおらず、昇降口も閑散としたものだった。
静かな校舎に自分の足音だけが響き、音という音がとても大きく感じられた。
そんな中、教室のドアをそっと開けるとひとつの後ろ姿が目に入る。
ひとり静かに机に向かっていたのは佐野くん。
「あ、御園生、おはよ」
振り返った佐野くんはいつもと違い、眠そうではない。
「佐野くん、おはよう。早いね?」
「今日、雨だったからなぁ……」
「……雨だと普通は遅れるものじゃないの?」
現に、いつもならちらほらと昇降口にいる人も今日はいなかった。
「あぁ、雨だと朝練がないんだ。でも、起きる時間ってそうそう変えられないからさ、どうせだったらいつも通りに行って課題でもやろうと思って」
なるほど……。
納得しながら席に着く。
「朝練って、いつも何時くらいに来ているの?」
「六時半には着いてるよ」
「っ……!?」
六時半なんて、まだ自宅で学校へ行く支度の真っ最中だ。
「勉強もなんとか手の届く範囲だったけど、一応は陸上の特待枠で入学したからね。みんなよりは少し早く来て練習してる」
気負いなく話しているように見えるけど、きっと計り知れないプレッシャーがあるのだろう。
「御園生もいつも早いよね?」
「うん、蒼兄と一緒に車で通学しているから……」
「えっ!? 御園生さんとっ!?」
「うん」
佐野くんは目を輝かせたまま、
「俺、御園生さんが高二のときのインターハイ、生で見たんだ」
「あ……それ、私も見に行ったよ」
「もうさ、ほかの誰よりも速くて、しかもきれいで。羽が生えて飛んでっちゃうんじゃないかって思うくらいにきれいに見えたんだよね」
背中に羽が生えるとは思わなかったけど、私も同じようにきれいだなと思って見ていた。同じようなことを考えていた人がいたと知ると、なんだか嬉しくなる。
「そのころの俺は野球少年だったんだけど、中学に行ったら絶対に陸上部に入るって決めた瞬間だった」
何かを見て、それを始められることが少し羨ましい。
私は憧れることがあっても、実際に始められるかというと、いつも体調を考慮する必要があって、たいていはそこまで考えて諦めることが多い。
「なぁ、高二のインターハイ終わってから一度も見なくなったのって、なんで? 故障か何か?」
佐野くんは訊きづらそうに、けれど、訊かずにはいられないといった感じで訊いてくる。
「怪我ではないの。それに、佐野くんには申し訳ない理由の気がする……」
「え……?」
「あのね、ほかにやりたいことができたから辞めたみたいなの。うち、両親が建築やインテリアデザイナーをしていて、その職業に憧れて、その勉強をするためにやめたんだって」
佐野くんは一瞬ポカンとした顔をし、すぐに目を輝かせ始めた。
「格好いいっ! 俺、御園生さんリスペクト! どこまでもついていきますって感じっ!」
なんだか、魂が半分どこかへ行ってしまった感じ。
蒼兄の潔さには感心するものがあるけれど、私からしてみたら、やっぱりもったいなかったんじゃないか、と思ってしまう。
私が感じるものとは違うことを佐野くんは感じたのだろうか。だとしたら、それはなんだろう。やっぱり、「潔さ」なのかな。
「そうだ、佐野くん。今日ね、いつもの三人とお昼休みに内緒話をする予定なのだけど……。もしよければ、その内緒話、佐野くんも付き合ってもらえないかな?」
勇気を出して誘うと、佐野くんは少し考えているふうだった。
「それってさ、先週言ってたまだ解決してない部分の話?」
「……そう」
「……俺が聞いてもいい話なの?」
「あのとき、佐野くんは大丈夫だなって思ったの。けど、内容的に明るい話ではないから……」
苦笑まじりに話すと、
「もしかしたら、俺はその話を少しだけ知ってるかもしれない」
思いも寄らない言葉に瞬きを返す。
まだ秋斗さんと藤宮先輩にしか話していないものをどうして佐野くんが知っているのだろう。
不思議に思っていると、
「御園生ってさ、俺らよりも一個上でしょ?」
「っ……なんで、なんで知っているの?」
「んー……いくつか理由はある。そのうちのひとつは、御園生が願書を出したすぐあとが俺だったから……。たまたま生年月日が見えちゃったんだ。ふたつ目はリハビリ先の病院で何度も見かけてたから」
拍子抜けしてしまう。
なんだ、最初から知っている人もいたんだ。
前ほどの衝撃や抵抗は感じない。
それは、相手が佐野くんだからなのかはよくわからないけれど。
「うん、その話に起因すること」
「わかった。お昼休みね」
会話が終わる頃合を見計らったように、パラパラとクラスメイトが教室に入ってきた。
そして、今日も飛鳥ちゃん流「充電」の餌食になる。
授業は何事もなく進み、お昼休みを迎えた。
さぁ話そう、と思うものの、今日は雨。
桜香苑には行けないし、クラスでしたい話でもない。
そう思っていると、校内放送で呼び出しがかかった。
『一年B組御園生翠葉さん、至急保健室まで来るように』
なんだろう……?
「場所、ちょうどいいから湊ちゃんに提供してもらわね?」
言い出したのは海斗くん。
私にとっては願ってもない場所だけど、湊先生は許可してくれるだろうか。
一抹の不安を抱えながら五人揃って保健室を訪れた。
保健室を前に、ノックをしてドアを静かに開ける。と、
「なんでそんなに大人数なのよ」
見てわかるほどに呆れられた。
「え? それは湊ちゃんが翠葉を取って食わないように見張るため?」
海斗くんが真顔で答えると、
「食うか、阿呆っ」
容赦なく先生は海斗くんの頭をはたいた。
「湊ちゃん、その手癖どうにかしたほうがいいって……」
などと言いながらも、早速打診を始める。
「あのさ、お願いがあんだけど。ちょっとここで内緒話させてよ」
「……うるさくしないならかまわないわよ」
「ありがとうございます」
五人揃って頭を下げると、
「お茶くらいは淹れてあげるわ。適当に座んなさい」
と、白く丸いテーブルを指差す。
椅子に座るとちょっと感激した。
少々奇妙な曲線だな、とは思っていたのだけど、座ってみると、その曲線が見事に身体にフィットしたのだ。
最近流行の人間工学に基づいたつくりであることを教えてもらうと、やっぱりお医者さんなんだな、なんて思う。
椅子に感激していると、お茶が運ばれてきた。
テーブルの真ん中にトレイを置くと、
「あなたたちは先に食べてなさい。御園生さんはこっち」
と、窓際のデスクへと促された。
「あなたの主治医、紫さんから連絡があったの。身体の負担を考慮すると、週一の診察はこっちでやったほうがいいだろうって。検査は今までと変わらず病院でやる。そのほかは私が診ることになったから」
パソコンのモニターには私のカルテが表示されていた。
「じゃ、まずは腕を出して」
血圧測定から始まり、脈を測り、リンパ腺を耳の下あたり、鎖骨のあたり、脇の下、両肘の内側、膝の裏側とチェックをしていく。
「あの、お薬はどうしたらいいんでしょう? それと検査の予約とか……」
ふと抱いた疑問を尋ねると、
「ここで処方できるから大丈夫よ。検査の予約もこのパソコンから取れるように秋斗になんとかさせるわ。すでにカルテはここで見られるようにしてもらえたから、なんとななるでしょ。緊急時に備えて点滴セットも揃えた。だから、何かあればすぐにいらっしゃい。診察は毎週月曜日のこの時間」
「はい、よろしくお願いします」
「血圧は七十八の五十二。……本当に低いのね。倒れないように気をつけなさいよ?」
眉間にしわを寄せる表情すら藤宮先輩とそっくりだ。
「で? 保健室に何しに来たのよ」
「あの、私の身体のことを話そうと思って……。先週、倒れたときにとても心配をかけてしまったので。……でも、教室では話しづらくて。本当は外へ行こうと思っていたんですけど、あいにく雨で……」
「なるほど、いいわよ。必要があれば私がフォローする」
「すみません。ありがとうございます」
食べながら話すという器用なことができないので、まずは先にお弁当を食べることになった。
話題は、ゴールデンウィーク明けに予定されている、学年交流キャンプの話で持ちきりだった。
主に飛鳥ちゃんと海斗くんがはしゃいで話している。
桃華さんは、
「日焼けしたくないわ」
と、少し憂鬱そう。
佐野くんは、
「出発日も朝練あんのかなぁ……。帰ってきた日に午後練あんのかなぁ……」
と、どこか思案顔。
「バスでは絶対私が翠葉の隣っ!」
飛鳥ちゃんの言葉が嬉しくて、少し申し訳ない。
私はそのキャンプには行かない。すでに不参加で届けを提出してあった。
最後の私がようやく食べ終わり、空気がなんとなく変わるのを肌で感じる。
割と冷静なのは佐野くんのみ。
「そのキャンプね、私、不参加なの」
その話を糸口に話し始めることにした。
「えーっ!? 翠葉がいなかったら楽しさ半減だよっ!?」
すぐさま飛鳥ちゃんが反応を見せる。
「そう言ってもらえて本当に嬉しいのだけど、無理なんだ」
「……なかなか話に入ってこないし、またあの困ってます、って顔をしてるからそうなのかとは思ったけれど……。それも身体が原因なの?」
桃華さんに訊かれる。
桃華さんは人の動向をよく見ている。そして、佐野くんもどちらかと言うと桃華さん寄りの人に思えた。
「これ、見てもらえる?」
先日秋斗さんに話すときに使ったルーズリーフをテーブルの中央に置いた。
「知らない言葉ばっか……」
飛鳥ちゃんの言葉に、「そうだよね」と言葉を返す。
「いくつかの言葉は保健体育で聞き覚えがあるけど……」
と、言ったのは海斗くん。
「血圧数値ってよくわからないけど、正常値からしてみたら、翠葉の血圧は半分ちょっとしかないってことよね?」
桃華さんに訊かれてコクリと頷く。
佐野くんはルーズリーフを見ているだけで何も言わない。
「えぇと……病気の話の前にひとつカミングアウト。私、ここにいる四人よりもひとつ年上です」
まずはここから話さなくちゃいけないだろう。
湊先生は少し離れたところからこちらの様子を見ていてくれた。
佐野くんは事前に知っていたということもあり、とくに驚くでもなく聞いている。けど、ほかの三人はそれぞれ衝撃を受けたようだ。
その気持ちはわからなくもない。
私は年上っぽくないし、そうも見えない。
……違う、そうじゃないかな。この場合、病気の話をされると思っていたら、違うものが降ってきた、という感じだろうか。だからびっくりされたのかな。
「私ね、ここに書いてあることが原因で、去年、半年以上入院していたの。だから、一年留年してるんだ」
佐野くん以外の三人は、ひどく驚いた顔で私を見ていた。
桜並木にも人はおらず、昇降口も閑散としたものだった。
静かな校舎に自分の足音だけが響き、音という音がとても大きく感じられた。
そんな中、教室のドアをそっと開けるとひとつの後ろ姿が目に入る。
ひとり静かに机に向かっていたのは佐野くん。
「あ、御園生、おはよ」
振り返った佐野くんはいつもと違い、眠そうではない。
「佐野くん、おはよう。早いね?」
「今日、雨だったからなぁ……」
「……雨だと普通は遅れるものじゃないの?」
現に、いつもならちらほらと昇降口にいる人も今日はいなかった。
「あぁ、雨だと朝練がないんだ。でも、起きる時間ってそうそう変えられないからさ、どうせだったらいつも通りに行って課題でもやろうと思って」
なるほど……。
納得しながら席に着く。
「朝練って、いつも何時くらいに来ているの?」
「六時半には着いてるよ」
「っ……!?」
六時半なんて、まだ自宅で学校へ行く支度の真っ最中だ。
「勉強もなんとか手の届く範囲だったけど、一応は陸上の特待枠で入学したからね。みんなよりは少し早く来て練習してる」
気負いなく話しているように見えるけど、きっと計り知れないプレッシャーがあるのだろう。
「御園生もいつも早いよね?」
「うん、蒼兄と一緒に車で通学しているから……」
「えっ!? 御園生さんとっ!?」
「うん」
佐野くんは目を輝かせたまま、
「俺、御園生さんが高二のときのインターハイ、生で見たんだ」
「あ……それ、私も見に行ったよ」
「もうさ、ほかの誰よりも速くて、しかもきれいで。羽が生えて飛んでっちゃうんじゃないかって思うくらいにきれいに見えたんだよね」
背中に羽が生えるとは思わなかったけど、私も同じようにきれいだなと思って見ていた。同じようなことを考えていた人がいたと知ると、なんだか嬉しくなる。
「そのころの俺は野球少年だったんだけど、中学に行ったら絶対に陸上部に入るって決めた瞬間だった」
何かを見て、それを始められることが少し羨ましい。
私は憧れることがあっても、実際に始められるかというと、いつも体調を考慮する必要があって、たいていはそこまで考えて諦めることが多い。
「なぁ、高二のインターハイ終わってから一度も見なくなったのって、なんで? 故障か何か?」
佐野くんは訊きづらそうに、けれど、訊かずにはいられないといった感じで訊いてくる。
「怪我ではないの。それに、佐野くんには申し訳ない理由の気がする……」
「え……?」
「あのね、ほかにやりたいことができたから辞めたみたいなの。うち、両親が建築やインテリアデザイナーをしていて、その職業に憧れて、その勉強をするためにやめたんだって」
佐野くんは一瞬ポカンとした顔をし、すぐに目を輝かせ始めた。
「格好いいっ! 俺、御園生さんリスペクト! どこまでもついていきますって感じっ!」
なんだか、魂が半分どこかへ行ってしまった感じ。
蒼兄の潔さには感心するものがあるけれど、私からしてみたら、やっぱりもったいなかったんじゃないか、と思ってしまう。
私が感じるものとは違うことを佐野くんは感じたのだろうか。だとしたら、それはなんだろう。やっぱり、「潔さ」なのかな。
「そうだ、佐野くん。今日ね、いつもの三人とお昼休みに内緒話をする予定なのだけど……。もしよければ、その内緒話、佐野くんも付き合ってもらえないかな?」
勇気を出して誘うと、佐野くんは少し考えているふうだった。
「それってさ、先週言ってたまだ解決してない部分の話?」
「……そう」
「……俺が聞いてもいい話なの?」
「あのとき、佐野くんは大丈夫だなって思ったの。けど、内容的に明るい話ではないから……」
苦笑まじりに話すと、
「もしかしたら、俺はその話を少しだけ知ってるかもしれない」
思いも寄らない言葉に瞬きを返す。
まだ秋斗さんと藤宮先輩にしか話していないものをどうして佐野くんが知っているのだろう。
不思議に思っていると、
「御園生ってさ、俺らよりも一個上でしょ?」
「っ……なんで、なんで知っているの?」
「んー……いくつか理由はある。そのうちのひとつは、御園生が願書を出したすぐあとが俺だったから……。たまたま生年月日が見えちゃったんだ。ふたつ目はリハビリ先の病院で何度も見かけてたから」
拍子抜けしてしまう。
なんだ、最初から知っている人もいたんだ。
前ほどの衝撃や抵抗は感じない。
それは、相手が佐野くんだからなのかはよくわからないけれど。
「うん、その話に起因すること」
「わかった。お昼休みね」
会話が終わる頃合を見計らったように、パラパラとクラスメイトが教室に入ってきた。
そして、今日も飛鳥ちゃん流「充電」の餌食になる。
授業は何事もなく進み、お昼休みを迎えた。
さぁ話そう、と思うものの、今日は雨。
桜香苑には行けないし、クラスでしたい話でもない。
そう思っていると、校内放送で呼び出しがかかった。
『一年B組御園生翠葉さん、至急保健室まで来るように』
なんだろう……?
「場所、ちょうどいいから湊ちゃんに提供してもらわね?」
言い出したのは海斗くん。
私にとっては願ってもない場所だけど、湊先生は許可してくれるだろうか。
一抹の不安を抱えながら五人揃って保健室を訪れた。
保健室を前に、ノックをしてドアを静かに開ける。と、
「なんでそんなに大人数なのよ」
見てわかるほどに呆れられた。
「え? それは湊ちゃんが翠葉を取って食わないように見張るため?」
海斗くんが真顔で答えると、
「食うか、阿呆っ」
容赦なく先生は海斗くんの頭をはたいた。
「湊ちゃん、その手癖どうにかしたほうがいいって……」
などと言いながらも、早速打診を始める。
「あのさ、お願いがあんだけど。ちょっとここで内緒話させてよ」
「……うるさくしないならかまわないわよ」
「ありがとうございます」
五人揃って頭を下げると、
「お茶くらいは淹れてあげるわ。適当に座んなさい」
と、白く丸いテーブルを指差す。
椅子に座るとちょっと感激した。
少々奇妙な曲線だな、とは思っていたのだけど、座ってみると、その曲線が見事に身体にフィットしたのだ。
最近流行の人間工学に基づいたつくりであることを教えてもらうと、やっぱりお医者さんなんだな、なんて思う。
椅子に感激していると、お茶が運ばれてきた。
テーブルの真ん中にトレイを置くと、
「あなたたちは先に食べてなさい。御園生さんはこっち」
と、窓際のデスクへと促された。
「あなたの主治医、紫さんから連絡があったの。身体の負担を考慮すると、週一の診察はこっちでやったほうがいいだろうって。検査は今までと変わらず病院でやる。そのほかは私が診ることになったから」
パソコンのモニターには私のカルテが表示されていた。
「じゃ、まずは腕を出して」
血圧測定から始まり、脈を測り、リンパ腺を耳の下あたり、鎖骨のあたり、脇の下、両肘の内側、膝の裏側とチェックをしていく。
「あの、お薬はどうしたらいいんでしょう? それと検査の予約とか……」
ふと抱いた疑問を尋ねると、
「ここで処方できるから大丈夫よ。検査の予約もこのパソコンから取れるように秋斗になんとかさせるわ。すでにカルテはここで見られるようにしてもらえたから、なんとななるでしょ。緊急時に備えて点滴セットも揃えた。だから、何かあればすぐにいらっしゃい。診察は毎週月曜日のこの時間」
「はい、よろしくお願いします」
「血圧は七十八の五十二。……本当に低いのね。倒れないように気をつけなさいよ?」
眉間にしわを寄せる表情すら藤宮先輩とそっくりだ。
「で? 保健室に何しに来たのよ」
「あの、私の身体のことを話そうと思って……。先週、倒れたときにとても心配をかけてしまったので。……でも、教室では話しづらくて。本当は外へ行こうと思っていたんですけど、あいにく雨で……」
「なるほど、いいわよ。必要があれば私がフォローする」
「すみません。ありがとうございます」
食べながら話すという器用なことができないので、まずは先にお弁当を食べることになった。
話題は、ゴールデンウィーク明けに予定されている、学年交流キャンプの話で持ちきりだった。
主に飛鳥ちゃんと海斗くんがはしゃいで話している。
桃華さんは、
「日焼けしたくないわ」
と、少し憂鬱そう。
佐野くんは、
「出発日も朝練あんのかなぁ……。帰ってきた日に午後練あんのかなぁ……」
と、どこか思案顔。
「バスでは絶対私が翠葉の隣っ!」
飛鳥ちゃんの言葉が嬉しくて、少し申し訳ない。
私はそのキャンプには行かない。すでに不参加で届けを提出してあった。
最後の私がようやく食べ終わり、空気がなんとなく変わるのを肌で感じる。
割と冷静なのは佐野くんのみ。
「そのキャンプね、私、不参加なの」
その話を糸口に話し始めることにした。
「えーっ!? 翠葉がいなかったら楽しさ半減だよっ!?」
すぐさま飛鳥ちゃんが反応を見せる。
「そう言ってもらえて本当に嬉しいのだけど、無理なんだ」
「……なかなか話に入ってこないし、またあの困ってます、って顔をしてるからそうなのかとは思ったけれど……。それも身体が原因なの?」
桃華さんに訊かれる。
桃華さんは人の動向をよく見ている。そして、佐野くんもどちらかと言うと桃華さん寄りの人に思えた。
「これ、見てもらえる?」
先日秋斗さんに話すときに使ったルーズリーフをテーブルの中央に置いた。
「知らない言葉ばっか……」
飛鳥ちゃんの言葉に、「そうだよね」と言葉を返す。
「いくつかの言葉は保健体育で聞き覚えがあるけど……」
と、言ったのは海斗くん。
「血圧数値ってよくわからないけど、正常値からしてみたら、翠葉の血圧は半分ちょっとしかないってことよね?」
桃華さんに訊かれてコクリと頷く。
佐野くんはルーズリーフを見ているだけで何も言わない。
「えぇと……病気の話の前にひとつカミングアウト。私、ここにいる四人よりもひとつ年上です」
まずはここから話さなくちゃいけないだろう。
湊先生は少し離れたところからこちらの様子を見ていてくれた。
佐野くんは事前に知っていたということもあり、とくに驚くでもなく聞いている。けど、ほかの三人はそれぞれ衝撃を受けたようだ。
その気持ちはわからなくもない。
私は年上っぽくないし、そうも見えない。
……違う、そうじゃないかな。この場合、病気の話をされると思っていたら、違うものが降ってきた、という感じだろうか。だからびっくりされたのかな。
「私ね、ここに書いてあることが原因で、去年、半年以上入院していたの。だから、一年留年してるんだ」
佐野くん以外の三人は、ひどく驚いた顔で私を見ていた。
32
あなたにおすすめの小説
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる