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21~24 Side 秋斗 02話
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テーブルに用意されていた薬を彼女に飲ませると、十分としないうちにとろんとし始めた。
今にもそこで寝てしまいそうな状態だ。
「翠葉ちゃん、夏とはいえ風邪をひかないようにベッドへ戻ろう?」
いつものように横抱きにして彼女の使う部屋へと運ぶ。
腕の中の彼女は必死で目を開けようとしているが、抗えないほどの睡魔に襲われているらしい。
薬が良く効く体質なんだな……。
そのとき――胸に手が添えられドキリとする。
彼女に視線を落とすも、まったく意識をしているようには見えなかった。
それにしても……ここ数週間でどのくらい体重が落ちたのか。
彼女を抱えるということを何度もしてきたが、すいぶんと軽くなったように思う。
「……少し痩せたね」
言えば彼女は苦笑する。
「元気になったらまた森林浴に行こう?」
俺に言えるのはこんなことくらい。
彼女は「本当……?」と目をまん丸に見開く。
「……本当。前にも約束したでしょう? また、外でランチしよう」
彼女は視線を落として沈黙した。
「……どうしてそこで黙っちゃうのかな」
律儀っていうか、真面目っていうか……。
付き合うことを断わったら、一緒にいることも話すこともすべてがぎこちなくなった。
会えばどう接したらいいのかわからず悩んでいるのが丸わかりだ。
俺は何も変わらないと言ったのだから、何を気にする必要もないのに……。
そんな彼女を追い詰めるようなことはしない。
ベッドに下ろし、
「何も考えなくていいから少し休んで? 俺、ここで仕事してるから」
空ろな目を手で覆う。
目を閉じて、少し休めばいい。
「あ……でも、携帯鳴るしキーボードの音がうるさいかな」
できれば彼女が目に入る場所で仕事をしていたいけど、音がうるさいかもしれない。
それならリビングか蒼樹の部屋が妥当かな、と立ち上がり部屋を出ようとすると、
「行かないで――」
「……え?」
自分の耳を疑った。
振り返ると、慌てている彼女がいた。
「翠葉ちゃん?」
「あのっ……私、すぐに寝てしまうので……だから、それまででいいから……この部屋にいてほしいです」
言葉は不安げに小さくなっていく。
俺は彼女の側まで戻り、彼女の額にかかる髪を払う。
「翠葉ちゃんがいいって言うならずっといるよ。だから、おやすみ……」
拒まれるかと思いながら顔を近づけたけれど、避けられることはなく、目を閉じキスを受けてくれた。
顔を離すと、心なしか表情が和らいで見えた。そして、そのときには眠りに落ちていた。
「半分くらいは寝ぼけてたかな……」
彼女らしくない言動と反応だった。これが素だと嬉しいんだけど……。
玄関に置いてあったアタッシュケースからパソコンと資料を取りだし仕事にかかる。
パソコンには蔵元と若槻からのメールが届いていた。
蔵元からのメールは仕事の割り振り。
俺がやる予定だった仕事を二件若槻に回し、その仕事が上がってくるおおよその時間と最終確認は俺がやるようにという内容。
若槻からのメールは主に愚痴だった。
件名 :ずるいですよ
本文 :俺に仕事振って自分はリィの側で仕事?
今度うまいもの食わせてくださいよ。
それから、リィに手ぇ出さないことっ!
五時までにはデータ送信します。
(蔵元さんに四時厳守って言われたけど無理です)
なんとも若槻らしいメールだった。
もしかしたら若槻もここに来たいのかもしれない。
でも、今日くらいは俺に譲れよ……。
重役には面倒なのが多いが、俺の直属部下二名は使える。間違いなく内部組織に残る人材だろう。
ただ、現状は蔵元が俺と若槻のフォローをしている状態。やっぱりもうひとりは入れるべきなのかもしれない。
彼女の寝顔を見つつ、持ち帰った仕事を始めた。
四時は無理と言っていたわりに、若槻からのメールは早くに届いた。
四時二十分、ずいぶんがんばったな。
それらをチェックし終えると栞ちゃんが帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま。翠葉ちゃんは?」
「お昼にゼリーを食べてからずっと寝てる」
「そう……。身体が起こせないのはつらいでしょうけど、薬で眠れるなら眠ってしまったほうがいいわ」
栞ちゃんは彼女の額に触れてからタオルケットを掛け直す。
「すぐに夕飯の支度をするわね」
栞ちゃんはいそいそと部屋を出ていった。
ぐっすりと眠る彼女に視線をやる。
規則正しい小さな寝息が、部屋ごとどこかへトリップさせてくれる気がした。
残りのチェックを済ませると、データ送信のために蒼樹の部屋へ行く。
一度、メインコンピューターに送信したものを、本社で蔵元にピックアップしてもらうことになっていた。
スタンドプレーを好む俺や若槻がこうして仕事をできているのは、蔵元が架け橋をしてくれているほかならない。もう少し待遇を良くするべきなのかもしれない。
「秋斗くん、そろそろご飯よ」
廊下から栞ちゃんに声をかけられた。
「このデータを送信し終わったら行きます」
「じゃ、私は翠葉ちゃんを起こしてくるわね」
データは八十パーセントが送信済み。残り二十パーセント……。
送信が終わると蔵元に連絡し、データを確認してもらってから彼女の部屋へと足を向けた。
中から聞こえてきた会話に足を止める。
「――そう。恋をすると色んなことを考えない? それこそ、どうしたら好きになってもらえるかとか、かわいくなりたいとか。……翠葉ちゃんはそう思ったことない?」
「そこまで気持ちが追いついてない……。でも、隣に並ぶときには外見だけでも年齢差を感じさせたくないないなって思いました」
藤山でデートした日のことか……?
「それもそのひとつよ。でも、どうして?」
「……どうしてだろう」
「もしかして後悔しているの?」
後悔ってなんの……? っていうか、これ、なんの話だ?
「そうかもしれないです」
「それは好きになったことを? それとも、断わったことを?」
「……断わったのは自分で決めたことだから後悔なんてしちゃだめだと思うし、後悔しても何も変わらないと思う。でも、好きにならなければこんなふうに困らなかったかな、とは思います」
栞ちゃんのため息が聞こえると、
「翠葉ちゃん、どうしてそんなに我慢しちゃうのかな?」
「我慢、ですか?」
「うん。好きなら好きでいいと思うの。私から見ると、もっと楽な道があるのに、翠葉ちゃんは棘ばかりの茨の道を選んで歩いているように見えるわ」
「楽な道はどれでしょう?」
翠葉ちゃん、君はそんなこともわからないの?
「好きな人に甘えてしまえばいいのに。秋斗くんは受け止めてくれるだろうし、断わられた今でも待ってくれているのでしょう?」
「――でも」
「……でも?」
気にしているのは雅のことだろうか……。
「翠葉ちゃん、私知ってるのよ。検査の日、雅に会ったでしょう?」
「どうしてっ!?」
「あまりにも翠葉ちゃんの様子がおかしいから静兄様を問い質したのよ。お兄様に限って調べてわからないことなんて何もないから」
先日湊ちゃんに怒られたばかりだが、栞ちゃんも裏事情を知っているとなれば、俺はどこかのタイミングでやはり怒られるのだろう。それは仕方がないかな……。
湊ちゃんには、「起きてしまったことは仕方がない。けど、そのあとのフォローくらいはきちんとしろ」と言われた。けれども、俺はフォローというフォローはできずにいる。
彼女が俺に話してさえくれればどんなフォローだってするつもりだったし、できただろう。が、彼女は俺に何を言うこともなくひとりで答えを出した。
「何を言われたのかは聞いてないわ。でも、さしづめ秋斗くんには近寄るなって内容なんじゃない?」
当たりだよ。でも……そんな生易しい言葉ではなかったけれど。
「……少し違うかな? 雅さんは教えてくれたんです。秋斗さんのお嫁さんになる人は子どもを産める健康な身体じゃないといけないとか――」
は……?
「……翠葉ちゃんはそれを真に受けたの?」
「真に受けたというか……納得してしまったんです」
翠葉さん……あれはどんなに都合よく受け取っても「助言」とは言えないと思うんだけど……。
彼女の言葉に危機感を覚えたのか、栞ちゃんの声が少し硬質なものへと変化した。
「翠葉ちゃん、ちゃんと自分で納得したことならこんなふうに葛藤はしないものよ? 雅の言うことなんて気にしなくていいの。翠葉ちゃんがどうしたいか、それだけよ? それにね、結婚なんてまだ考えなくていいの。付き合ったからってその人と結婚しなくちゃいけないなんてことないんだから」
確かにね……彼女はまだ十七歳だ。でも、もし付き合うとしたら俺は結婚するつもりでいるけれど……。
もともと開いていたドアを軽くノックする。と、ふたりの視線がこちらを向いた。
「お話し中失礼。栞ちゃん、その話の続きは俺がしてもいいかな?」
栞ちゃんに選手交代を申し出る。
「いいわよ。もう……いつまで放っておくのかと思ったわ」
栞ちゃんは俺から視線を彼女に戻し、
「少し秋斗くんと話しなさい。でも、いつもの癖はだめよ?」
「……癖?」
「そう。翠葉ちゃんは頭の中で考えて答えしか言わないことがあるから。ちゃんと考えている過程も相手に伝えること。いい?」
「……はい」
栞ちゃんは彼女のことをよく見ている。
彼女の思考回路は時々わからない。擦れてないというよりは、純粋すぎるというか……。俺の常識が通用しないことがしばしばある。
そんなところにも新鮮さは感じているけれど、時々とても困るのも確か。
栞ちゃんがドアを閉めて出ていくと、ゆっくりと彼女のもとまで近づいた。
「さて……翠葉ちゃん、何から話そうか」
「何を話せばいいでしょう」
彼女は身を少し強張らせる。
ここ最近はずっとこんな感じだ。
「まずは、俺を振った本当の理由かな?」
にこりと笑みを向けると、彼女の喉がゴクリと動いたのがわかった。
しだいに顔が引きつり出す。
でもさ……いい加減色々と白状してもらおうと思っているから。
翠葉ちゃん、覚悟してもらおうか? 俺、今日は引かないよ――
今にもそこで寝てしまいそうな状態だ。
「翠葉ちゃん、夏とはいえ風邪をひかないようにベッドへ戻ろう?」
いつものように横抱きにして彼女の使う部屋へと運ぶ。
腕の中の彼女は必死で目を開けようとしているが、抗えないほどの睡魔に襲われているらしい。
薬が良く効く体質なんだな……。
そのとき――胸に手が添えられドキリとする。
彼女に視線を落とすも、まったく意識をしているようには見えなかった。
それにしても……ここ数週間でどのくらい体重が落ちたのか。
彼女を抱えるということを何度もしてきたが、すいぶんと軽くなったように思う。
「……少し痩せたね」
言えば彼女は苦笑する。
「元気になったらまた森林浴に行こう?」
俺に言えるのはこんなことくらい。
彼女は「本当……?」と目をまん丸に見開く。
「……本当。前にも約束したでしょう? また、外でランチしよう」
彼女は視線を落として沈黙した。
「……どうしてそこで黙っちゃうのかな」
律儀っていうか、真面目っていうか……。
付き合うことを断わったら、一緒にいることも話すこともすべてがぎこちなくなった。
会えばどう接したらいいのかわからず悩んでいるのが丸わかりだ。
俺は何も変わらないと言ったのだから、何を気にする必要もないのに……。
そんな彼女を追い詰めるようなことはしない。
ベッドに下ろし、
「何も考えなくていいから少し休んで? 俺、ここで仕事してるから」
空ろな目を手で覆う。
目を閉じて、少し休めばいい。
「あ……でも、携帯鳴るしキーボードの音がうるさいかな」
できれば彼女が目に入る場所で仕事をしていたいけど、音がうるさいかもしれない。
それならリビングか蒼樹の部屋が妥当かな、と立ち上がり部屋を出ようとすると、
「行かないで――」
「……え?」
自分の耳を疑った。
振り返ると、慌てている彼女がいた。
「翠葉ちゃん?」
「あのっ……私、すぐに寝てしまうので……だから、それまででいいから……この部屋にいてほしいです」
言葉は不安げに小さくなっていく。
俺は彼女の側まで戻り、彼女の額にかかる髪を払う。
「翠葉ちゃんがいいって言うならずっといるよ。だから、おやすみ……」
拒まれるかと思いながら顔を近づけたけれど、避けられることはなく、目を閉じキスを受けてくれた。
顔を離すと、心なしか表情が和らいで見えた。そして、そのときには眠りに落ちていた。
「半分くらいは寝ぼけてたかな……」
彼女らしくない言動と反応だった。これが素だと嬉しいんだけど……。
玄関に置いてあったアタッシュケースからパソコンと資料を取りだし仕事にかかる。
パソコンには蔵元と若槻からのメールが届いていた。
蔵元からのメールは仕事の割り振り。
俺がやる予定だった仕事を二件若槻に回し、その仕事が上がってくるおおよその時間と最終確認は俺がやるようにという内容。
若槻からのメールは主に愚痴だった。
件名 :ずるいですよ
本文 :俺に仕事振って自分はリィの側で仕事?
今度うまいもの食わせてくださいよ。
それから、リィに手ぇ出さないことっ!
五時までにはデータ送信します。
(蔵元さんに四時厳守って言われたけど無理です)
なんとも若槻らしいメールだった。
もしかしたら若槻もここに来たいのかもしれない。
でも、今日くらいは俺に譲れよ……。
重役には面倒なのが多いが、俺の直属部下二名は使える。間違いなく内部組織に残る人材だろう。
ただ、現状は蔵元が俺と若槻のフォローをしている状態。やっぱりもうひとりは入れるべきなのかもしれない。
彼女の寝顔を見つつ、持ち帰った仕事を始めた。
四時は無理と言っていたわりに、若槻からのメールは早くに届いた。
四時二十分、ずいぶんがんばったな。
それらをチェックし終えると栞ちゃんが帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま。翠葉ちゃんは?」
「お昼にゼリーを食べてからずっと寝てる」
「そう……。身体が起こせないのはつらいでしょうけど、薬で眠れるなら眠ってしまったほうがいいわ」
栞ちゃんは彼女の額に触れてからタオルケットを掛け直す。
「すぐに夕飯の支度をするわね」
栞ちゃんはいそいそと部屋を出ていった。
ぐっすりと眠る彼女に視線をやる。
規則正しい小さな寝息が、部屋ごとどこかへトリップさせてくれる気がした。
残りのチェックを済ませると、データ送信のために蒼樹の部屋へ行く。
一度、メインコンピューターに送信したものを、本社で蔵元にピックアップしてもらうことになっていた。
スタンドプレーを好む俺や若槻がこうして仕事をできているのは、蔵元が架け橋をしてくれているほかならない。もう少し待遇を良くするべきなのかもしれない。
「秋斗くん、そろそろご飯よ」
廊下から栞ちゃんに声をかけられた。
「このデータを送信し終わったら行きます」
「じゃ、私は翠葉ちゃんを起こしてくるわね」
データは八十パーセントが送信済み。残り二十パーセント……。
送信が終わると蔵元に連絡し、データを確認してもらってから彼女の部屋へと足を向けた。
中から聞こえてきた会話に足を止める。
「――そう。恋をすると色んなことを考えない? それこそ、どうしたら好きになってもらえるかとか、かわいくなりたいとか。……翠葉ちゃんはそう思ったことない?」
「そこまで気持ちが追いついてない……。でも、隣に並ぶときには外見だけでも年齢差を感じさせたくないないなって思いました」
藤山でデートした日のことか……?
「それもそのひとつよ。でも、どうして?」
「……どうしてだろう」
「もしかして後悔しているの?」
後悔ってなんの……? っていうか、これ、なんの話だ?
「そうかもしれないです」
「それは好きになったことを? それとも、断わったことを?」
「……断わったのは自分で決めたことだから後悔なんてしちゃだめだと思うし、後悔しても何も変わらないと思う。でも、好きにならなければこんなふうに困らなかったかな、とは思います」
栞ちゃんのため息が聞こえると、
「翠葉ちゃん、どうしてそんなに我慢しちゃうのかな?」
「我慢、ですか?」
「うん。好きなら好きでいいと思うの。私から見ると、もっと楽な道があるのに、翠葉ちゃんは棘ばかりの茨の道を選んで歩いているように見えるわ」
「楽な道はどれでしょう?」
翠葉ちゃん、君はそんなこともわからないの?
「好きな人に甘えてしまえばいいのに。秋斗くんは受け止めてくれるだろうし、断わられた今でも待ってくれているのでしょう?」
「――でも」
「……でも?」
気にしているのは雅のことだろうか……。
「翠葉ちゃん、私知ってるのよ。検査の日、雅に会ったでしょう?」
「どうしてっ!?」
「あまりにも翠葉ちゃんの様子がおかしいから静兄様を問い質したのよ。お兄様に限って調べてわからないことなんて何もないから」
先日湊ちゃんに怒られたばかりだが、栞ちゃんも裏事情を知っているとなれば、俺はどこかのタイミングでやはり怒られるのだろう。それは仕方がないかな……。
湊ちゃんには、「起きてしまったことは仕方がない。けど、そのあとのフォローくらいはきちんとしろ」と言われた。けれども、俺はフォローというフォローはできずにいる。
彼女が俺に話してさえくれればどんなフォローだってするつもりだったし、できただろう。が、彼女は俺に何を言うこともなくひとりで答えを出した。
「何を言われたのかは聞いてないわ。でも、さしづめ秋斗くんには近寄るなって内容なんじゃない?」
当たりだよ。でも……そんな生易しい言葉ではなかったけれど。
「……少し違うかな? 雅さんは教えてくれたんです。秋斗さんのお嫁さんになる人は子どもを産める健康な身体じゃないといけないとか――」
は……?
「……翠葉ちゃんはそれを真に受けたの?」
「真に受けたというか……納得してしまったんです」
翠葉さん……あれはどんなに都合よく受け取っても「助言」とは言えないと思うんだけど……。
彼女の言葉に危機感を覚えたのか、栞ちゃんの声が少し硬質なものへと変化した。
「翠葉ちゃん、ちゃんと自分で納得したことならこんなふうに葛藤はしないものよ? 雅の言うことなんて気にしなくていいの。翠葉ちゃんがどうしたいか、それだけよ? それにね、結婚なんてまだ考えなくていいの。付き合ったからってその人と結婚しなくちゃいけないなんてことないんだから」
確かにね……彼女はまだ十七歳だ。でも、もし付き合うとしたら俺は結婚するつもりでいるけれど……。
もともと開いていたドアを軽くノックする。と、ふたりの視線がこちらを向いた。
「お話し中失礼。栞ちゃん、その話の続きは俺がしてもいいかな?」
栞ちゃんに選手交代を申し出る。
「いいわよ。もう……いつまで放っておくのかと思ったわ」
栞ちゃんは俺から視線を彼女に戻し、
「少し秋斗くんと話しなさい。でも、いつもの癖はだめよ?」
「……癖?」
「そう。翠葉ちゃんは頭の中で考えて答えしか言わないことがあるから。ちゃんと考えている過程も相手に伝えること。いい?」
「……はい」
栞ちゃんは彼女のことをよく見ている。
彼女の思考回路は時々わからない。擦れてないというよりは、純粋すぎるというか……。俺の常識が通用しないことがしばしばある。
そんなところにも新鮮さは感じているけれど、時々とても困るのも確か。
栞ちゃんがドアを閉めて出ていくと、ゆっくりと彼女のもとまで近づいた。
「さて……翠葉ちゃん、何から話そうか」
「何を話せばいいでしょう」
彼女は身を少し強張らせる。
ここ最近はずっとこんな感じだ。
「まずは、俺を振った本当の理由かな?」
にこりと笑みを向けると、彼女の喉がゴクリと動いたのがわかった。
しだいに顔が引きつり出す。
でもさ……いい加減色々と白状してもらおうと思っているから。
翠葉ちゃん、覚悟してもらおうか? 俺、今日は引かないよ――
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