297 / 1,060
第七章 つながり
25話
しおりを挟む
唯兄に電話をかけるのは初めて――
ディスプレイに表示されている名前と番号が、見たことのない文字と数字で新鮮。
私の携帯には限られた人たちの名前と番号しか表示されることがないから。
それでも、高校に通うことがなければ持たなかったであろう携帯。そして、持ったとしても蒼兄か両親からしかかかってこなかったであろう携帯。
今は違う……。
家族以外に桃華さんたちや湊先生、栞さんや司先輩、秋斗さんからかかってくる。
「なんなら私からかけるわよ?」
湊先生に声をかけられてはっとした。
「違うんです、そうじゃなくて――」
慌てて引き止めると、「ん?」と訊かれた。
「ディスプレイの表示が新鮮っていうか……。今は色んな人の名前や番号が入っていて、家族以外の人からも電話やメールが届くなぁ……って思っただけなんです」
「普通でしょ?」
どこか含みを持った笑みが司先輩に似ていた。
そんな表情を見てほっとしてしまう私は、何かおかしいのだろうか。
改めて携帯に向き直り通話ボタンを押す。
二コールで呼び出し音は途切れ、「リィ?」と声が聞こえてくる。
「うん。今日はもう帰りなさいって」
『具合、悪い?』
「少し疲れたみたい。エネルギー不足だって」
『そっか。じゃ、コンシェルジュに車出してもらうからちょっと待ってて』
「ありがとう。お仕事は大丈夫?」
『うん、平気』
そんな話をして切った。
「声、上ずってませんでしたか?」
湊先生を振り仰ぐと、
「大丈夫だった」
それから十分もすると保健室のドアがノックされ、唯兄が入ってきた。
ここは一応学校で、部外者立ち入り禁止じゃないのかな、なんて思って尋ねてみたら、
「俺、藤宮警備の人間だもん」
しごくもっともな言葉が返された。
「リィの荷物はこれで全部?」
置いてあったかばんを見て言われる。
「はい。でも、自分で持てます」
「このぐらい持たせなさい」
唯兄はイヒヒと笑った。
私はこの笑顔を曇らせてしまうのだろうか……。
「翠葉、気をつけてね」
湊先生の声に我に返り、お礼を言って保健室を出た。
オルゴールを渡すとしたらどのタイミングがいいのだろう。
唯兄は帰ってからも仕事だろうし、夕飯のあと……? それとも、帰ってからすぐに時間を取ってもらったほうがいいのだろうか。
迎えに来るのにコンシェルジュを頼ったということは、唯兄は車の運転免許を持っていないのだろう。ならば、藤宮学園前のバス停の最終バスが終わったころのほうがいいだろうか。
頭の中でぐるぐると考えがめぐる。
「リィ? さっきから難しい顔してるけど……」
「え? あ、難しいこと考えています」
「……秋斗さんのこと?」
「違います」
「くっ、即答かよ」
……だって、本当に違うから。
昇降口で靴を履き替え外に出ると、車の前に高崎さんが立っていた。
「翠葉ちゃん、おかえりなさい。じゃ、マンションへ帰ろう」
後部座席のドアまで開けられてお姫様状態だ。
唯兄も一緒に後部座席に乗り込んだ。
唯兄の胸にはちらりとチェーンが見えている。
「何? 鍵が気になるの?」
顔を覗き込まれ、しかも核心をつかれてドキリとする。
「なんだ、言ってくれれば見せるのに」
唯兄は、長めのチェーンを首から外して見せてくれた。
あまりにも簡単にひょいと渡されたものだから、慌てて両手で受け止める。
よく見ると、細かい傷がいくつもついていた。
なくすと深刻を極めるくらい必死になって探すのに、普段は持っているという確信があればそれでいいのかもしれない。
「それ、本当はペアキーって呼ばれるもので、対になる鍵があるんだ」
唯兄は何気なく口にする。
「俺が持ってるのがガーネットで、対の鍵にはターコイズがはまってる」
その言葉に心臓がピョンと飛び跳ねる。
「でも、どこにあるんだか……。きっと、もうその鍵を一対にしてやることはできないんだろうな」
軽く笑いを含ませた明るい声が胸に突き刺さる。
唯兄、私、それ知っているの……。その鍵、私が持っているの……。
「もし、今もう片方の鍵が俺の手元にあったらリィにその赤い石のほうをあげるのにね」
その言葉が胸に痛い。目に涙が滲む。
「……リィ?」
声を発せずにいると、
「もしかして、湊さんから何か聞いた?」
「あ……えと、すごく大切な鍵だって――」
涙が零れそうで、急いでハンカチに含ませた。
唯兄は細く長く息を吐き出すと、
「あとで昔話をしようかね」
私の頭をポンポンと叩いてくれた。
私は小さくコクリと頷いた。
その話がどんなものであるのか、私は大まかにわかっているにも関わらず。
自分をずるい人間だなと思いながら、もう一度頷いた。
マンションに戻ってきて車を降りると、フロントでは見たことのない人が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
知らない人というだけで緊張してしまった私は、咄嗟に「こんにちは」と返してしまった。
唯兄が立ち止まり、
「変じゃない?」
「え?」
「おかえりなさいって言われたら?」
「あ……」
自分も立ち止まり、フロントを振り返る。
「ただいま、戻りました……?」
口にすると、やけに身長の高い人が肩を震わせ始めた。
でも、この場にはもっとひどい人がいて、その人は私が振り返って言葉を口にした瞬間に盛大に吹きだしたのだ。
それはほかの誰でもない唯兄。
唯兄を見てから再びフロントの人を見ると、もう一度「おかえりなさいませ」と腰を折られた。
けれど、その人の身体はプルプル、という具合に震えていて、どう見ても笑いを堪えているようにしか見えなかった。
そこに車のキーをチャリンチャリン音をさせて戻ってきたのは高崎さん。
「真下さん、何やってるんですか?」
高崎さんはフロントに声をかけ、私たちに視線を向ける。
「何かあった?」
高崎さんに優しく訊かれ、今あったことを話すと、隣の唯兄が座り込むのと同時にフロントの人の姿も見えなくなった。
フロントの中からは押し殺したような笑い声……。
どうしよう。これは早急に立ち去ったほうがいいのかな。
「普段は鉄火面の真下さんがこんなに笑うとは……。翠葉ちゃん、すごいね? で、真下さーん?」
高崎さんはフロントの外側から内側を覗き込む。
「彼女、俺の親友の妹なんで紹介します。でもって、隠れて笑わなくても大丈夫ですよ。崎本さんなら今日は夕方まで戻りませんから」
すると、高崎さんと同じくらいの身長の人が立ち上がった。
「彼女、御園生翠葉ちゃん。ゲストルームの住人。彼は若槻唯さん。秋斗先輩の家の留守番だそうです。で、この人は俺の先輩コンシェルジュで真下忍さん」
「真下忍です。笑ってしまい申し訳ございません……」
スマートに挨拶をされたものの、口元が引きつっている。
「……御園生翠葉です。笑いが提供できて何よりです」
「くっ……」
今度は高崎さんまでもが笑いだした。
ひどいなぁ……。
唯兄も笑いながら、
「自分は短期滞在ですが、お世話になります」
きっちりとお辞儀をして、私の背中に当てて歩くよう促した。
エレベーターの中で、
「リィは時々受け答えが変な子になるよね?」
「……だって知らない人だったんだもの」
「……人見知り?」
むぅ……。
認めたくはないけれど、人見知りではないとは言い切れない。
「そういえば、湊さんにもそんなこと言われてたっけ?」
それはきっと、唯兄がパソコンの設定に来てくれた日のことだ。
唯兄とはどうして普通に接することができたのだろう。
あの場に蒼兄と秋斗さんが一緒にいたから?
それとも――前にお姉さんと話したことがあったから……?
「じゃ、あとでね」
「えっ?」
「……やっぱ聞いてなかったか」
慌てて謝る。
「そんな必死に謝ることじゃないよ。俺、無事にデータ送信できてるか確認してからゲストルームに行くからって言っただけ」
そう言われてひとりで九階に降りた。
ゲストルームのドアを開けると栞さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
挨拶を済ませ、洗面所で手洗いうがいをして廊下へ出ると、
「どういう経緯があるのかわからないけど、あのオルゴール、翠葉ちゃんが持っていたのね」
栞さんは少し困ったように笑った。
「翠葉ちゃん、私思うの。別に今日言わなくてもかまわないんじゃないかしら。もう三年も経っているのだから、今日明日、一週間先だって何かが大きく変わるわけじゃないのよ。だから、翠葉ちゃんが言えるタイミングで切り出せばいいと思う」
それは私を気遣う言葉だった。
「ごめんね、こんなことしか言えなくて……」
悲しそうに笑った栞さんに何を言えるはずもなかった。
だって、三年間持っていたのは私なのだから。
もし神様がいたとして、運命というものが実際にあるのだとしたら、これは間違いなく私の役目なのだ。
「……制服、着替えちゃいますね」
控え目に笑みを添えると、
「嫌な役を押し付けてごめんね」
と、栞さんに抱きしめられた。
栞さんは優しいから、きっと心が血を流している。
私はす、と息を吸い込み、
「あのね、湊先生からどんなに無理をしてもいいって言われたんです。だから、私にできることをがんばろうと思います」
「……翠葉ちゃんは時々ものすごく強いわね」
そんな一言と共に身体を解放された。
「最近知ったんです……。支えてくれる人がいるから強くなれるのかな。それとも、がんばっているから人が支えようと思ってくれるのかな? どちらにしても、支えてくれる人がいるのだからがんばらなくちゃいけないと思うんです」
そう言って、私は自室のドアを閉めた。
ドアを背に思う。
今日は色んなことがありすぎだ……。
久しぶりの学校では生徒総会があるし、朝見つけた鍵は唯兄のもので、謎を纏っていたオルゴールの過去も判明した。
それだけで私の頭も心もパンクしそう。
心臓は全力疾走気味だ。
でも、まだ終わらない。今日はまだ、終わらない――
ディスプレイに表示されている名前と番号が、見たことのない文字と数字で新鮮。
私の携帯には限られた人たちの名前と番号しか表示されることがないから。
それでも、高校に通うことがなければ持たなかったであろう携帯。そして、持ったとしても蒼兄か両親からしかかかってこなかったであろう携帯。
今は違う……。
家族以外に桃華さんたちや湊先生、栞さんや司先輩、秋斗さんからかかってくる。
「なんなら私からかけるわよ?」
湊先生に声をかけられてはっとした。
「違うんです、そうじゃなくて――」
慌てて引き止めると、「ん?」と訊かれた。
「ディスプレイの表示が新鮮っていうか……。今は色んな人の名前や番号が入っていて、家族以外の人からも電話やメールが届くなぁ……って思っただけなんです」
「普通でしょ?」
どこか含みを持った笑みが司先輩に似ていた。
そんな表情を見てほっとしてしまう私は、何かおかしいのだろうか。
改めて携帯に向き直り通話ボタンを押す。
二コールで呼び出し音は途切れ、「リィ?」と声が聞こえてくる。
「うん。今日はもう帰りなさいって」
『具合、悪い?』
「少し疲れたみたい。エネルギー不足だって」
『そっか。じゃ、コンシェルジュに車出してもらうからちょっと待ってて』
「ありがとう。お仕事は大丈夫?」
『うん、平気』
そんな話をして切った。
「声、上ずってませんでしたか?」
湊先生を振り仰ぐと、
「大丈夫だった」
それから十分もすると保健室のドアがノックされ、唯兄が入ってきた。
ここは一応学校で、部外者立ち入り禁止じゃないのかな、なんて思って尋ねてみたら、
「俺、藤宮警備の人間だもん」
しごくもっともな言葉が返された。
「リィの荷物はこれで全部?」
置いてあったかばんを見て言われる。
「はい。でも、自分で持てます」
「このぐらい持たせなさい」
唯兄はイヒヒと笑った。
私はこの笑顔を曇らせてしまうのだろうか……。
「翠葉、気をつけてね」
湊先生の声に我に返り、お礼を言って保健室を出た。
オルゴールを渡すとしたらどのタイミングがいいのだろう。
唯兄は帰ってからも仕事だろうし、夕飯のあと……? それとも、帰ってからすぐに時間を取ってもらったほうがいいのだろうか。
迎えに来るのにコンシェルジュを頼ったということは、唯兄は車の運転免許を持っていないのだろう。ならば、藤宮学園前のバス停の最終バスが終わったころのほうがいいだろうか。
頭の中でぐるぐると考えがめぐる。
「リィ? さっきから難しい顔してるけど……」
「え? あ、難しいこと考えています」
「……秋斗さんのこと?」
「違います」
「くっ、即答かよ」
……だって、本当に違うから。
昇降口で靴を履き替え外に出ると、車の前に高崎さんが立っていた。
「翠葉ちゃん、おかえりなさい。じゃ、マンションへ帰ろう」
後部座席のドアまで開けられてお姫様状態だ。
唯兄も一緒に後部座席に乗り込んだ。
唯兄の胸にはちらりとチェーンが見えている。
「何? 鍵が気になるの?」
顔を覗き込まれ、しかも核心をつかれてドキリとする。
「なんだ、言ってくれれば見せるのに」
唯兄は、長めのチェーンを首から外して見せてくれた。
あまりにも簡単にひょいと渡されたものだから、慌てて両手で受け止める。
よく見ると、細かい傷がいくつもついていた。
なくすと深刻を極めるくらい必死になって探すのに、普段は持っているという確信があればそれでいいのかもしれない。
「それ、本当はペアキーって呼ばれるもので、対になる鍵があるんだ」
唯兄は何気なく口にする。
「俺が持ってるのがガーネットで、対の鍵にはターコイズがはまってる」
その言葉に心臓がピョンと飛び跳ねる。
「でも、どこにあるんだか……。きっと、もうその鍵を一対にしてやることはできないんだろうな」
軽く笑いを含ませた明るい声が胸に突き刺さる。
唯兄、私、それ知っているの……。その鍵、私が持っているの……。
「もし、今もう片方の鍵が俺の手元にあったらリィにその赤い石のほうをあげるのにね」
その言葉が胸に痛い。目に涙が滲む。
「……リィ?」
声を発せずにいると、
「もしかして、湊さんから何か聞いた?」
「あ……えと、すごく大切な鍵だって――」
涙が零れそうで、急いでハンカチに含ませた。
唯兄は細く長く息を吐き出すと、
「あとで昔話をしようかね」
私の頭をポンポンと叩いてくれた。
私は小さくコクリと頷いた。
その話がどんなものであるのか、私は大まかにわかっているにも関わらず。
自分をずるい人間だなと思いながら、もう一度頷いた。
マンションに戻ってきて車を降りると、フロントでは見たことのない人が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
知らない人というだけで緊張してしまった私は、咄嗟に「こんにちは」と返してしまった。
唯兄が立ち止まり、
「変じゃない?」
「え?」
「おかえりなさいって言われたら?」
「あ……」
自分も立ち止まり、フロントを振り返る。
「ただいま、戻りました……?」
口にすると、やけに身長の高い人が肩を震わせ始めた。
でも、この場にはもっとひどい人がいて、その人は私が振り返って言葉を口にした瞬間に盛大に吹きだしたのだ。
それはほかの誰でもない唯兄。
唯兄を見てから再びフロントの人を見ると、もう一度「おかえりなさいませ」と腰を折られた。
けれど、その人の身体はプルプル、という具合に震えていて、どう見ても笑いを堪えているようにしか見えなかった。
そこに車のキーをチャリンチャリン音をさせて戻ってきたのは高崎さん。
「真下さん、何やってるんですか?」
高崎さんはフロントに声をかけ、私たちに視線を向ける。
「何かあった?」
高崎さんに優しく訊かれ、今あったことを話すと、隣の唯兄が座り込むのと同時にフロントの人の姿も見えなくなった。
フロントの中からは押し殺したような笑い声……。
どうしよう。これは早急に立ち去ったほうがいいのかな。
「普段は鉄火面の真下さんがこんなに笑うとは……。翠葉ちゃん、すごいね? で、真下さーん?」
高崎さんはフロントの外側から内側を覗き込む。
「彼女、俺の親友の妹なんで紹介します。でもって、隠れて笑わなくても大丈夫ですよ。崎本さんなら今日は夕方まで戻りませんから」
すると、高崎さんと同じくらいの身長の人が立ち上がった。
「彼女、御園生翠葉ちゃん。ゲストルームの住人。彼は若槻唯さん。秋斗先輩の家の留守番だそうです。で、この人は俺の先輩コンシェルジュで真下忍さん」
「真下忍です。笑ってしまい申し訳ございません……」
スマートに挨拶をされたものの、口元が引きつっている。
「……御園生翠葉です。笑いが提供できて何よりです」
「くっ……」
今度は高崎さんまでもが笑いだした。
ひどいなぁ……。
唯兄も笑いながら、
「自分は短期滞在ですが、お世話になります」
きっちりとお辞儀をして、私の背中に当てて歩くよう促した。
エレベーターの中で、
「リィは時々受け答えが変な子になるよね?」
「……だって知らない人だったんだもの」
「……人見知り?」
むぅ……。
認めたくはないけれど、人見知りではないとは言い切れない。
「そういえば、湊さんにもそんなこと言われてたっけ?」
それはきっと、唯兄がパソコンの設定に来てくれた日のことだ。
唯兄とはどうして普通に接することができたのだろう。
あの場に蒼兄と秋斗さんが一緒にいたから?
それとも――前にお姉さんと話したことがあったから……?
「じゃ、あとでね」
「えっ?」
「……やっぱ聞いてなかったか」
慌てて謝る。
「そんな必死に謝ることじゃないよ。俺、無事にデータ送信できてるか確認してからゲストルームに行くからって言っただけ」
そう言われてひとりで九階に降りた。
ゲストルームのドアを開けると栞さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
挨拶を済ませ、洗面所で手洗いうがいをして廊下へ出ると、
「どういう経緯があるのかわからないけど、あのオルゴール、翠葉ちゃんが持っていたのね」
栞さんは少し困ったように笑った。
「翠葉ちゃん、私思うの。別に今日言わなくてもかまわないんじゃないかしら。もう三年も経っているのだから、今日明日、一週間先だって何かが大きく変わるわけじゃないのよ。だから、翠葉ちゃんが言えるタイミングで切り出せばいいと思う」
それは私を気遣う言葉だった。
「ごめんね、こんなことしか言えなくて……」
悲しそうに笑った栞さんに何を言えるはずもなかった。
だって、三年間持っていたのは私なのだから。
もし神様がいたとして、運命というものが実際にあるのだとしたら、これは間違いなく私の役目なのだ。
「……制服、着替えちゃいますね」
控え目に笑みを添えると、
「嫌な役を押し付けてごめんね」
と、栞さんに抱きしめられた。
栞さんは優しいから、きっと心が血を流している。
私はす、と息を吸い込み、
「あのね、湊先生からどんなに無理をしてもいいって言われたんです。だから、私にできることをがんばろうと思います」
「……翠葉ちゃんは時々ものすごく強いわね」
そんな一言と共に身体を解放された。
「最近知ったんです……。支えてくれる人がいるから強くなれるのかな。それとも、がんばっているから人が支えようと思ってくれるのかな? どちらにしても、支えてくれる人がいるのだからがんばらなくちゃいけないと思うんです」
そう言って、私は自室のドアを閉めた。
ドアを背に思う。
今日は色んなことがありすぎだ……。
久しぶりの学校では生徒総会があるし、朝見つけた鍵は唯兄のもので、謎を纏っていたオルゴールの過去も判明した。
それだけで私の頭も心もパンクしそう。
心臓は全力疾走気味だ。
でも、まだ終わらない。今日はまだ、終わらない――
5
あなたにおすすめの小説
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる