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Last Side View Story
61~62 Side 秋斗 02話
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翌日彼女の病室を訪れると、ノックのあと数秒遅れて返事が聞こえてきた。
ゆっくりとドアを開け、
「今、大丈夫かな?」
顔を覗かせ尋ねると、「大丈夫です」と彼女は身体を起こした。
「学校のパソコン持ってきたから使い方を少しレクチャーさせてね」
「お願いします」
レクチャーも何も、大したことはない。使うソフトと手順を教えるのみ。十分とかからずに終わる内容。
いくら彼女が機械に疎くても、このくらいなら問題なく使うことができるだろう。
「ここまでで何かわからないことは?」
「ありません」
「じゃぁ、次。受けられなかった授業の最後にやるテスト。これも難しいことはない。ペンタブに書いたものに名前をつけて保存して、先生宛てに添付メールを送るだけ。ファイル名は日にちと教科名でOK」
これにてお仕事終了。
さて、お姫様には困っていただきますか……。
「こんなに簡単なら唯や蒼樹でも良かったんじゃないかって思ってる?」
彼女は否定の言葉を呑み込んだような顔をした。
「正直だね」
でも、
「そんな顔しないで? 俺は、いつもどんなことに対してでも、正直で素直な翠葉ちゃんでいてほしいと思っているから」
何度でも同じことを伝えよう。君が誰を好きでも俺は君が好きだと。
けど、何度伝えても君はそれを受け入れはしないんだろうね。
だから、今一歩踏み込むよ。
「翠葉ちゃん、ひとつお願いしてもいいかな?」
「……なんでしょう?」
おどおどした目で訊かれた。俺は笑顔で答える。
「お茶、淹れてもらえる?」
「え?」
意表をつかれたって顔がかわいい。
「お茶。久しぶりに、翠葉ちゃんが淹れてくれたお茶が飲みたいんだ」
「あ、はい」
彼女はスリッパをパタパタとさせて簡易キッチンへ向かった。
こうして彼女の淹れたお茶を飲めるのはあと何回かな。
君は俺が来たときはラベンダーティーを淹れてくれる。司が来たときには何を淹れるの?
こんな話題にすら、きっと君は困ってしまうんだろうね。
サイドテーブルに司が得た委任状が置いてあった。俺のかばんにも同様のものが入っている。
カップを持って戻ってきた彼女に、
「司が補習の先生になるんだってね」
「はい……」
彼女はどこか気まずそうに返事をした。
「もし、選ぶ自由が翠葉ちゃんにあったらどうする? 選べるとしたら、どうする?」
「……え? 選ぶって……何をですか?
「この用紙、もう一枚あるんだ」
きょとんとしている彼女に、俺が持ってきた委任状を手渡した。
「今日ここに来たのが蒼樹でも唯でもない理由。それはね、これを渡すため」
彼女はゆっくりと視線をクリアファイルに落とし、学園長と高校長の朱印を認めた。
本来なら、学園と交わした委任状を彼女に見せる必要はない。ただ。証明するための行為。そして、司がここに置いていったのは、権利を主張するためだと思う。だから、俺もそれに習う。
「学園長と高校長の直筆サインに学校印つき。正式書類だよ」
見る見るうちに彼女の眉がハの字になっていく。
「この役はさ、翠葉ちゃんの学力を保てさえすれば俺でも司でもかまわないんだ。だから、翠葉ちゃんが選んでね。都度、連絡をもらったほうが教えに来るから」
ごめんね。こんなやり方しかできなくて。
今にも震えだしそうな手に自分の手を重ね、畳み掛けるように彼女が取るであろう選択を口にした。
「翠葉ちゃんは優しいから、どちらかを選ぶことはしないよね。きっと、俺と司を交互に呼ぶんだろうね」
彼女は何も言わない。いや、言えない、かな。俺はそれもわかっていて、
「それでいいんだよ」
救いにもならない言葉を残して病室を立ち去った。
これで舞台は整った。
あと少しで、第一ラウンド終了の鐘を鳴らせる。
俺と司を同じラインに並べ、彼女に選択権を与える――ここまでは今までと変わらない。
彼女はきっと俺が言ったとおりの行動をとるだろう。けれど、のちに司しか呼べなくなる。
俺は君に知らせることなく、この携帯を解約するから。
そして二十九日には日本を発つ。
携帯を解約してから一週間は猶予期間があるけど……君はどうする?
俺に連絡がつかなくなったことを誰かに話す? それとも話さない?
誰かに訊いて情報を得ようとしてくれたなら、出国前に会いに来よう。
なんのアクションもなかったら、俺はしばらく君の前から姿を消すことにする。
蔵元や周りの人間には二週間くらいで帰国すると話してあるけど、実のところは半年くらいは帰らないつもりだ。今のご時世、国内にいなくても仕事はできるからね。
こうやって物理的な距離ができれば、君はもう少し素直になれるんじゃないかな。
俺がいなくなって司と過ごす時間が増えれば、ごく自然に司へ手を伸ばせるんじゃないかな。
少しの間、俺の存在を忘れてしまえばいい。
最初こそ、俺がいない日常に違和感を覚えるかもしれない。けれど、しだいに俺がいないことが日常になる。そうなってくれればいい。
今、この状況で自分を選んでほしいとは思わない。むしろ、何に迷うことなく司を選んでほしい。
苦しんでる君を前にアプローチなんてできないし、モーションなんてかけられない。
いっそのこと、司と想いが通じてしまったほうが動きやすい。
君はこれ以上苦しむ必要はないよ。
翠葉ちゃん、第一ラウンドを終わらせよう。
終わりを告げる鐘を鳴らそう――
ゆっくりとドアを開け、
「今、大丈夫かな?」
顔を覗かせ尋ねると、「大丈夫です」と彼女は身体を起こした。
「学校のパソコン持ってきたから使い方を少しレクチャーさせてね」
「お願いします」
レクチャーも何も、大したことはない。使うソフトと手順を教えるのみ。十分とかからずに終わる内容。
いくら彼女が機械に疎くても、このくらいなら問題なく使うことができるだろう。
「ここまでで何かわからないことは?」
「ありません」
「じゃぁ、次。受けられなかった授業の最後にやるテスト。これも難しいことはない。ペンタブに書いたものに名前をつけて保存して、先生宛てに添付メールを送るだけ。ファイル名は日にちと教科名でOK」
これにてお仕事終了。
さて、お姫様には困っていただきますか……。
「こんなに簡単なら唯や蒼樹でも良かったんじゃないかって思ってる?」
彼女は否定の言葉を呑み込んだような顔をした。
「正直だね」
でも、
「そんな顔しないで? 俺は、いつもどんなことに対してでも、正直で素直な翠葉ちゃんでいてほしいと思っているから」
何度でも同じことを伝えよう。君が誰を好きでも俺は君が好きだと。
けど、何度伝えても君はそれを受け入れはしないんだろうね。
だから、今一歩踏み込むよ。
「翠葉ちゃん、ひとつお願いしてもいいかな?」
「……なんでしょう?」
おどおどした目で訊かれた。俺は笑顔で答える。
「お茶、淹れてもらえる?」
「え?」
意表をつかれたって顔がかわいい。
「お茶。久しぶりに、翠葉ちゃんが淹れてくれたお茶が飲みたいんだ」
「あ、はい」
彼女はスリッパをパタパタとさせて簡易キッチンへ向かった。
こうして彼女の淹れたお茶を飲めるのはあと何回かな。
君は俺が来たときはラベンダーティーを淹れてくれる。司が来たときには何を淹れるの?
こんな話題にすら、きっと君は困ってしまうんだろうね。
サイドテーブルに司が得た委任状が置いてあった。俺のかばんにも同様のものが入っている。
カップを持って戻ってきた彼女に、
「司が補習の先生になるんだってね」
「はい……」
彼女はどこか気まずそうに返事をした。
「もし、選ぶ自由が翠葉ちゃんにあったらどうする? 選べるとしたら、どうする?」
「……え? 選ぶって……何をですか?
「この用紙、もう一枚あるんだ」
きょとんとしている彼女に、俺が持ってきた委任状を手渡した。
「今日ここに来たのが蒼樹でも唯でもない理由。それはね、これを渡すため」
彼女はゆっくりと視線をクリアファイルに落とし、学園長と高校長の朱印を認めた。
本来なら、学園と交わした委任状を彼女に見せる必要はない。ただ。証明するための行為。そして、司がここに置いていったのは、権利を主張するためだと思う。だから、俺もそれに習う。
「学園長と高校長の直筆サインに学校印つき。正式書類だよ」
見る見るうちに彼女の眉がハの字になっていく。
「この役はさ、翠葉ちゃんの学力を保てさえすれば俺でも司でもかまわないんだ。だから、翠葉ちゃんが選んでね。都度、連絡をもらったほうが教えに来るから」
ごめんね。こんなやり方しかできなくて。
今にも震えだしそうな手に自分の手を重ね、畳み掛けるように彼女が取るであろう選択を口にした。
「翠葉ちゃんは優しいから、どちらかを選ぶことはしないよね。きっと、俺と司を交互に呼ぶんだろうね」
彼女は何も言わない。いや、言えない、かな。俺はそれもわかっていて、
「それでいいんだよ」
救いにもならない言葉を残して病室を立ち去った。
これで舞台は整った。
あと少しで、第一ラウンド終了の鐘を鳴らせる。
俺と司を同じラインに並べ、彼女に選択権を与える――ここまでは今までと変わらない。
彼女はきっと俺が言ったとおりの行動をとるだろう。けれど、のちに司しか呼べなくなる。
俺は君に知らせることなく、この携帯を解約するから。
そして二十九日には日本を発つ。
携帯を解約してから一週間は猶予期間があるけど……君はどうする?
俺に連絡がつかなくなったことを誰かに話す? それとも話さない?
誰かに訊いて情報を得ようとしてくれたなら、出国前に会いに来よう。
なんのアクションもなかったら、俺はしばらく君の前から姿を消すことにする。
蔵元や周りの人間には二週間くらいで帰国すると話してあるけど、実のところは半年くらいは帰らないつもりだ。今のご時世、国内にいなくても仕事はできるからね。
こうやって物理的な距離ができれば、君はもう少し素直になれるんじゃないかな。
俺がいなくなって司と過ごす時間が増えれば、ごく自然に司へ手を伸ばせるんじゃないかな。
少しの間、俺の存在を忘れてしまえばいい。
最初こそ、俺がいない日常に違和感を覚えるかもしれない。けれど、しだいに俺がいないことが日常になる。そうなってくれればいい。
今、この状況で自分を選んでほしいとは思わない。むしろ、何に迷うことなく司を選んでほしい。
苦しんでる君を前にアプローチなんてできないし、モーションなんてかけられない。
いっそのこと、司と想いが通じてしまったほうが動きやすい。
君はこれ以上苦しむ必要はないよ。
翠葉ちゃん、第一ラウンドを終わらせよう。
終わりを告げる鐘を鳴らそう――
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