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番外編
初めてのバレンタイン Side 翠葉 03話
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「まずはどこに行くの?」
「手芸用品店」
「手芸……?」
「うん。毛糸を買いに行くの。唯兄も好きな毛糸選んでね」
「編んでくれるのっ!?」
目を見開いてものすごく驚いたって顔をされたから、私も一緒になって驚いた。
「……編む、よ? でも、今日明日しか時間が取れないから、凝ったものは作れないけど……。その分、差し色になるような毛糸を選んでね」
「わー! 嬉しいっ。手編みのマフラーとか初めてっ!」
「そうなの?」
「そうなのっ。力(りき)入れて選ぼうっと」
手芸用品店に入ると「このくらいの太さ」と毛糸の太さを指定して、唯兄には自由に選んでもらうことにした。
私はお父さんと蒼兄の毛糸を選ぶ。お父さんには黒い毛糸に紫のモヘアが絡めてあるもの。蒼兄には同じ種類の毛糸で黒い毛糸に水色のモヘアが絡めてあるもの。五玉ずつカゴに入れていくと、唯兄がふたつの毛糸で悩んでいた。
「そのふたつで悩んでいるの?」
「そう。リィはもう決まったの?」
カゴの中を見られ、「うん」と答える。
「こっちのブルーが蒼兄で、紫がお父さん。どうかな?」
「似合うと思うけど……司っちのは?」
「え……?」
「え? って、司っちにだってあげるんでしょ?」
「うん、お菓子はあげるけど……」
「マフラーはっ!?」
「えっ!?」
訊かれて驚く。でも、唯兄は私の返答に驚いていた。
「ツカサにもあげるものなの?」
「逆っ、普通逆でしょっ!?」
「そう、なの……?」
「ああああ、もうこの子はっ! ほら、司っちの選ぶよっ」
カゴを取られ、毛糸がずらりと並ぶ什器(じゅうき)の森へ引き戻される。
「唯兄、ちょっと待って。さすがに四本は編めないっ」
「じゃ、家族の編まずに司っちの編みなさい」
「それは嫌」
「なんで」
「だって……うちの年中行事だもの」
唯兄はカックリと肩を落として落胆する。
「でもさ、俺たちに編んで司っちに編まなかったら司っちぐれ――ないか」
「うん。そんなことでぐれたりはしないと思う」
唯兄は頭を抱えて「う゛ーーーん」と唸っていたけれど、最後には「もういいやっ」と投げ出した。そして、悩んでいた二種類の毛糸も放り、
「俺、あんちゃんたちと同じ毛糸のコレ。コレがいい」
唯兄は黒い毛糸に白いモヘヤが絡んだ毛糸を手に取った。その毛糸を見て思う。
「ねぇ、唯兄……」
「ん?」
「編んだら……編んだら喜んでくれるかな?」
誰が、とは言わなくても唯兄ならわかってくれる。そう思って名前は口にしなかった。
「喜ぶんじゃない? 反応は薄いかもしれないけど」
「そうかな……。使ってくれるかな?」
「大丈夫っ! 使わなかったら俺が責任もっていびり倒してあげるっ」
それなら――と、唯兄が手にした毛糸を十個カゴに入れた。
「えぇっ!? もしかして俺と同じ色?」
「……だめ?」
「むむむ……耐えましょう、耐えますともっ。司っち、使わなかったらマジ絞め殺すっ」
若干物騒な物言いをしつつ、会計を済ませて手芸用品店をあとにした。
毛糸は嵩張るものの重くはない。唯兄と私は片手に紙袋を下げ、手をつないで駅ビル内を移動していた。
「次は?」
「ラッピング用品を買いたいの。駅ビルならどこかにそういうショップがあるんじゃないかと思って……」
「あぁ、それならこのシーズン、どこへ行っても売ってるよ」
本館と新館をつなぐフロアに出ると、赤やピンクのハートがそこら中に溢れていた。
「あー、やってるやってる。ここ一帯、バレンタイン催事場っぽいね」
吹き抜けのフロアは小さなブースがいくつも連なっている。
パッと見たところ、出来合いのチョコレートを売っているお店もあれば手作りチョコの材料を売っているお店もある。そして、ラッピング用品を売っているお店もあった。
「どんなのを探してるの?」
「クッキーと少し固めのケーキを作るんだけど、どんなのに入れたらいいと思う?」
「シンプルに透明な袋でもいいんじゃない? それに、ほら、こういうリボンつけてさ」
唯兄が手に取ったのは、薄い紫色のリボンの両端が金糸で縁取られたものだった。
「かわいい……」
「ほかにもミントグリーン、ブルー、ピンク、ボルドー、レモンイエローがあるよ」
「本当だ……。ミントグリーン、かわいいなぁ。でも、藤色もピンクもかわいいなぁ……」
リボンを前に悩んでいると、
「七十三人もいるんだから、関係別でリボンの色分けすればいいじゃん」
「……唯兄、頭いいね?」
「なんのこれしき……」
結局、藤色とミントクリーンとボルドーのリボンを三メートルずつ、英字印刷がされたオイルペーパーを五メートル、クリアな袋一〇〇枚入りを購入した。
「メッセージカードはいいの?」
訊かれて、「あ」と思う。
「もう少し時間があったらなぁ……。写真をカードにする時間があったのに……」
「それは諦めなさい……」
「うん」
私はおとなしく、五〇枚入りの小さなカードをふたつとマスキングテープをひとつ購入した。
催事場には様々な人がいた。
出来合いのチョコレートを見て目を輝かせている小学生、手作りチョコの材料を友達と選びに来ている女の子たち。ラッピング用品を前に延々と悩むOLさんらしき人。
とても賑わっていたけれど、その場に男の人がいなかったところを見ると、やっぱり女の子がメインのイベントなのかな、と思わなくもない。
男の人と一緒に来ているのは私しかいなかったけれど、その中にいても唯兄は浮くことはなく馴染んでいた。
「唯兄って本当にどこにいても馴染んじゃうのね?」
「――やらないよ? やらないけどね……俺、女装したらそんじょそこらの女に負ける気はしない」
「……いつか見たいな」
「だめ」
「どうして?」
「面白がる人間が多すぎるから」
「残念……」
「そこっ、真面目に残念がらないようにっ」
外は雪が降ってきそうな空模様。
底冷えする寒さとはこういうことをいうのだろう。
手袋やマフラーをしていても、寒さがしんしんと身に染みる。
「今日は一段と寒いね」
「寒い寒いっ。とっととホテルに戻って荷物置いたらあったかいもの飲んでいこう」
「うん」
私たちは息が上がらない程度に急ぎ足でホテルへ戻った。
荷物が多すぎるという理由から、表からは入らず従業員通用口を使う。
通路で人とすれ違うたび、「お疲れ様です」と声をかけながら歩く唯兄のあとに続き、
「唯兄」
「ん?」
「静さんや園田さん、澤村さんと須藤さんにも渡したいのだけど、月曜日の唯兄の予定ってどうなってるかな……?」
「……しゃぁないな。夜だったら連れてきてあげられる」
「本当っ? 月曜日は病院にも行かなくちゃだから行く場所いっぱいなの」
私はあまり深く考えていなかったと思う。
学校に行けばみんなに渡せると思っていたし、病院へ行けば先生たちに渡せると思っていた。病院へ行く途中、真白さんのところに寄ればいいとか、その程度にしか考えていなかった。
そんな中、ひとつだけ疑問に思ったのが幸いだったのかも。
「三年生は自由登校になっているのだけど……。どうやったら久先輩と茜先輩に会えるだろう?」
「……リィ、あのさ、念のために七十三人の内訳を聞かせてもらえるかな?」
「え? えーと、クラスメイトでしょう? 生徒会メンバーでしょう? 病院の先生たちと、ホテルでお世話になっている人たちと警護してくださってる方々。それと、朗元さんと真白さん。あと家族とマンションの人とコンシェルジュの皆さん?」
「はい、質問。……それ、どうやって配んの?」
「――今から考える」
「ぅおおおいっ。ちょぉっと待てっ」
唯兄は人の邪魔にならないように通路の脇に止まると、携帯を手に電話をかけ始めた。
「クゥ? 今どこ? スタジオ? 明後日の予定は? ……じゃ、明後日は朝学校に行くのね? あのさ、悪いんだけど、朝、昇降口でリィを待っててくんないかな? 漏れなくいいことあるから。――それは秘密。秘密になってない気もするけど、じゃぁねっ」
ピッ、と切って間を開けずに次の電話をかける。
「お疲れ様です、若槻です。あの、ものは相談なんですが……。明後日の朝、誰でもかまわないのでマンションのエントランスに待機していていただけませんか? ――そうですよね、近接警護じゃないですからね。――そこをなんとかっ! ――お手数おかけしますがよろしくお願いいたします」
ピッ、と通話を切って「一丁あがり」と携帯をしまった。
「これでクゥと警備の人間に渡すセッティングはしたよ。ほか、生徒会メンバーと病院サイドは自分でなんとかしなよ? 夕方になったら病院まで迎えにいってあげるから、その足でホテルへ行こう」
「唯兄、大好きっ! ありがとうっ」
そのあと、唯兄のお部屋であたたかいミルクカモミールティーをいただいて、マンションへと戻ってきた。
時刻は四時。
「唯兄、荷物、お部屋に持っていってもらってもいい?」
「いいけど……今度は何?」
「お菓子の生地作り……。七倉さんが手伝ってくれるの」
「……あんま無理しちゃだめだよ? まだ退院してから半月も経ってないんだから。ちょっと待って、俺も挨拶していく」
唯兄はロータリーに車を停め、一緒にエントランスへ向かった。
今度出迎えてくれたのは高崎さん。
「リィがお世話になりっぱなしですみません」
唯兄が頭を下げると、
「とんでもない。うちはいつでも大歓迎」
高崎さんは砕けた調子で請合ってくれる。
「でも、何分退院してからまだ半月と経っていないので、できればあまり立ち仕事はさせたくなくて……」
すると奥から七倉さんが出てきた。
「大丈夫ですよ。キッチンチェアーをご用意してあります」
「本当に何から何までスミマセン……」
私は唯兄と一緒に頭を下げた。
「そちら、ラッピング用品でしたらお預かりいたします。切り分け作業も調理室でやることになりますので、そのほうがよろしいかと……」
「あ、じゃ、お願いします」
唯兄が持っていたラッピング用品は七倉さんの手へ渡り、唯兄とはその場で別れた。
「手芸用品店」
「手芸……?」
「うん。毛糸を買いに行くの。唯兄も好きな毛糸選んでね」
「編んでくれるのっ!?」
目を見開いてものすごく驚いたって顔をされたから、私も一緒になって驚いた。
「……編む、よ? でも、今日明日しか時間が取れないから、凝ったものは作れないけど……。その分、差し色になるような毛糸を選んでね」
「わー! 嬉しいっ。手編みのマフラーとか初めてっ!」
「そうなの?」
「そうなのっ。力(りき)入れて選ぼうっと」
手芸用品店に入ると「このくらいの太さ」と毛糸の太さを指定して、唯兄には自由に選んでもらうことにした。
私はお父さんと蒼兄の毛糸を選ぶ。お父さんには黒い毛糸に紫のモヘアが絡めてあるもの。蒼兄には同じ種類の毛糸で黒い毛糸に水色のモヘアが絡めてあるもの。五玉ずつカゴに入れていくと、唯兄がふたつの毛糸で悩んでいた。
「そのふたつで悩んでいるの?」
「そう。リィはもう決まったの?」
カゴの中を見られ、「うん」と答える。
「こっちのブルーが蒼兄で、紫がお父さん。どうかな?」
「似合うと思うけど……司っちのは?」
「え……?」
「え? って、司っちにだってあげるんでしょ?」
「うん、お菓子はあげるけど……」
「マフラーはっ!?」
「えっ!?」
訊かれて驚く。でも、唯兄は私の返答に驚いていた。
「ツカサにもあげるものなの?」
「逆っ、普通逆でしょっ!?」
「そう、なの……?」
「ああああ、もうこの子はっ! ほら、司っちの選ぶよっ」
カゴを取られ、毛糸がずらりと並ぶ什器(じゅうき)の森へ引き戻される。
「唯兄、ちょっと待って。さすがに四本は編めないっ」
「じゃ、家族の編まずに司っちの編みなさい」
「それは嫌」
「なんで」
「だって……うちの年中行事だもの」
唯兄はカックリと肩を落として落胆する。
「でもさ、俺たちに編んで司っちに編まなかったら司っちぐれ――ないか」
「うん。そんなことでぐれたりはしないと思う」
唯兄は頭を抱えて「う゛ーーーん」と唸っていたけれど、最後には「もういいやっ」と投げ出した。そして、悩んでいた二種類の毛糸も放り、
「俺、あんちゃんたちと同じ毛糸のコレ。コレがいい」
唯兄は黒い毛糸に白いモヘヤが絡んだ毛糸を手に取った。その毛糸を見て思う。
「ねぇ、唯兄……」
「ん?」
「編んだら……編んだら喜んでくれるかな?」
誰が、とは言わなくても唯兄ならわかってくれる。そう思って名前は口にしなかった。
「喜ぶんじゃない? 反応は薄いかもしれないけど」
「そうかな……。使ってくれるかな?」
「大丈夫っ! 使わなかったら俺が責任もっていびり倒してあげるっ」
それなら――と、唯兄が手にした毛糸を十個カゴに入れた。
「えぇっ!? もしかして俺と同じ色?」
「……だめ?」
「むむむ……耐えましょう、耐えますともっ。司っち、使わなかったらマジ絞め殺すっ」
若干物騒な物言いをしつつ、会計を済ませて手芸用品店をあとにした。
毛糸は嵩張るものの重くはない。唯兄と私は片手に紙袋を下げ、手をつないで駅ビル内を移動していた。
「次は?」
「ラッピング用品を買いたいの。駅ビルならどこかにそういうショップがあるんじゃないかと思って……」
「あぁ、それならこのシーズン、どこへ行っても売ってるよ」
本館と新館をつなぐフロアに出ると、赤やピンクのハートがそこら中に溢れていた。
「あー、やってるやってる。ここ一帯、バレンタイン催事場っぽいね」
吹き抜けのフロアは小さなブースがいくつも連なっている。
パッと見たところ、出来合いのチョコレートを売っているお店もあれば手作りチョコの材料を売っているお店もある。そして、ラッピング用品を売っているお店もあった。
「どんなのを探してるの?」
「クッキーと少し固めのケーキを作るんだけど、どんなのに入れたらいいと思う?」
「シンプルに透明な袋でもいいんじゃない? それに、ほら、こういうリボンつけてさ」
唯兄が手に取ったのは、薄い紫色のリボンの両端が金糸で縁取られたものだった。
「かわいい……」
「ほかにもミントグリーン、ブルー、ピンク、ボルドー、レモンイエローがあるよ」
「本当だ……。ミントグリーン、かわいいなぁ。でも、藤色もピンクもかわいいなぁ……」
リボンを前に悩んでいると、
「七十三人もいるんだから、関係別でリボンの色分けすればいいじゃん」
「……唯兄、頭いいね?」
「なんのこれしき……」
結局、藤色とミントクリーンとボルドーのリボンを三メートルずつ、英字印刷がされたオイルペーパーを五メートル、クリアな袋一〇〇枚入りを購入した。
「メッセージカードはいいの?」
訊かれて、「あ」と思う。
「もう少し時間があったらなぁ……。写真をカードにする時間があったのに……」
「それは諦めなさい……」
「うん」
私はおとなしく、五〇枚入りの小さなカードをふたつとマスキングテープをひとつ購入した。
催事場には様々な人がいた。
出来合いのチョコレートを見て目を輝かせている小学生、手作りチョコの材料を友達と選びに来ている女の子たち。ラッピング用品を前に延々と悩むOLさんらしき人。
とても賑わっていたけれど、その場に男の人がいなかったところを見ると、やっぱり女の子がメインのイベントなのかな、と思わなくもない。
男の人と一緒に来ているのは私しかいなかったけれど、その中にいても唯兄は浮くことはなく馴染んでいた。
「唯兄って本当にどこにいても馴染んじゃうのね?」
「――やらないよ? やらないけどね……俺、女装したらそんじょそこらの女に負ける気はしない」
「……いつか見たいな」
「だめ」
「どうして?」
「面白がる人間が多すぎるから」
「残念……」
「そこっ、真面目に残念がらないようにっ」
外は雪が降ってきそうな空模様。
底冷えする寒さとはこういうことをいうのだろう。
手袋やマフラーをしていても、寒さがしんしんと身に染みる。
「今日は一段と寒いね」
「寒い寒いっ。とっととホテルに戻って荷物置いたらあったかいもの飲んでいこう」
「うん」
私たちは息が上がらない程度に急ぎ足でホテルへ戻った。
荷物が多すぎるという理由から、表からは入らず従業員通用口を使う。
通路で人とすれ違うたび、「お疲れ様です」と声をかけながら歩く唯兄のあとに続き、
「唯兄」
「ん?」
「静さんや園田さん、澤村さんと須藤さんにも渡したいのだけど、月曜日の唯兄の予定ってどうなってるかな……?」
「……しゃぁないな。夜だったら連れてきてあげられる」
「本当っ? 月曜日は病院にも行かなくちゃだから行く場所いっぱいなの」
私はあまり深く考えていなかったと思う。
学校に行けばみんなに渡せると思っていたし、病院へ行けば先生たちに渡せると思っていた。病院へ行く途中、真白さんのところに寄ればいいとか、その程度にしか考えていなかった。
そんな中、ひとつだけ疑問に思ったのが幸いだったのかも。
「三年生は自由登校になっているのだけど……。どうやったら久先輩と茜先輩に会えるだろう?」
「……リィ、あのさ、念のために七十三人の内訳を聞かせてもらえるかな?」
「え? えーと、クラスメイトでしょう? 生徒会メンバーでしょう? 病院の先生たちと、ホテルでお世話になっている人たちと警護してくださってる方々。それと、朗元さんと真白さん。あと家族とマンションの人とコンシェルジュの皆さん?」
「はい、質問。……それ、どうやって配んの?」
「――今から考える」
「ぅおおおいっ。ちょぉっと待てっ」
唯兄は人の邪魔にならないように通路の脇に止まると、携帯を手に電話をかけ始めた。
「クゥ? 今どこ? スタジオ? 明後日の予定は? ……じゃ、明後日は朝学校に行くのね? あのさ、悪いんだけど、朝、昇降口でリィを待っててくんないかな? 漏れなくいいことあるから。――それは秘密。秘密になってない気もするけど、じゃぁねっ」
ピッ、と切って間を開けずに次の電話をかける。
「お疲れ様です、若槻です。あの、ものは相談なんですが……。明後日の朝、誰でもかまわないのでマンションのエントランスに待機していていただけませんか? ――そうですよね、近接警護じゃないですからね。――そこをなんとかっ! ――お手数おかけしますがよろしくお願いいたします」
ピッ、と通話を切って「一丁あがり」と携帯をしまった。
「これでクゥと警備の人間に渡すセッティングはしたよ。ほか、生徒会メンバーと病院サイドは自分でなんとかしなよ? 夕方になったら病院まで迎えにいってあげるから、その足でホテルへ行こう」
「唯兄、大好きっ! ありがとうっ」
そのあと、唯兄のお部屋であたたかいミルクカモミールティーをいただいて、マンションへと戻ってきた。
時刻は四時。
「唯兄、荷物、お部屋に持っていってもらってもいい?」
「いいけど……今度は何?」
「お菓子の生地作り……。七倉さんが手伝ってくれるの」
「……あんま無理しちゃだめだよ? まだ退院してから半月も経ってないんだから。ちょっと待って、俺も挨拶していく」
唯兄はロータリーに車を停め、一緒にエントランスへ向かった。
今度出迎えてくれたのは高崎さん。
「リィがお世話になりっぱなしですみません」
唯兄が頭を下げると、
「とんでもない。うちはいつでも大歓迎」
高崎さんは砕けた調子で請合ってくれる。
「でも、何分退院してからまだ半月と経っていないので、できればあまり立ち仕事はさせたくなくて……」
すると奥から七倉さんが出てきた。
「大丈夫ですよ。キッチンチェアーをご用意してあります」
「本当に何から何までスミマセン……」
私は唯兄と一緒に頭を下げた。
「そちら、ラッピング用品でしたらお預かりいたします。切り分け作業も調理室でやることになりますので、そのほうがよろしいかと……」
「あ、じゃ、お願いします」
唯兄が持っていたラッピング用品は七倉さんの手へ渡り、唯兄とはその場で別れた。
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