1,053 / 1,060
番外編
初めてのバレンタイン Side 翠葉 07話
しおりを挟む
帰りのホームルームが終わると、湊先生にプレゼントを渡すために保健室へ向かった。
保健室のドアをノックすると、「はい」と先生の声が聞こえ、
「失礼します」
入ってすぐ、険呑な視線を向けられる。
「あんた、今日の昼休み診察さぼったわね?」
言われて思い出す。今日が月曜日で診察の日だったことを。
「先生、ごめんなさい……忘れてました。これ、プレゼントするので許してください」
おずおずと包みを差し出すと、
「あら、フロランタンじゃない。私、コーヒーのお茶請けに食べるの好きなのよね」
と、目元と口元が緩む。
フロランタンに反応するのがツカサと同じ……。
「ま、今日はバレンタインだしね。いいわ、許してあげる」
そのあと二十分ほど診察を受け、術後の経過も問題なしと言われていつもどおりのお薬を処方された。
「その手提げ袋……まだたくさん入ってそうね?」
「はい。このあとは真白さんのところへうかがって、真白さんと涼さんの分を渡してきます。それから病院へ行って、相馬先生と藤原さんと小枝子さんと久住先生と楓先生に渡して、唯兄にホテルまで連れて行ってもらって、静さんと澤村さんと園田さんと須藤さんに渡して、帰って来たら栞さんと昇さんにプレゼントして、最後に家族に――」
指折り数えていると、湊先生が呆れた顔で私を見ていた。
「あんた、バレンタインと何かを間違えて認識してたりしないわよね?」
「クラスメイトに教えてもらったので大丈夫だと思います」
「でも、まるでクリスマスのサンタ並みだけど?」
「……それはそれで楽しいかも?」
「あぁそう……。で、司には渡したの?」
「はい、お昼休みに」
「……もしかして、コレと同じもの?」
「はい。でも、海斗くんに……というか、クラス中にそれじゃだめって言われたんですけど、あいにく同じものしか用意していなくて……」
決まり悪く言葉を濁すと、湊先生はくつくつと笑い出した。
「いいわいいわ、あんたっ。相変わらず突っ込みどころ満載だけど、司をからかうのにはもってこいっ!」
「……これ、からかう材料になるんですか?」
「なるわね。十分よ!」
先生は背を丸めて笑う始末。
「あー、ほらほら、このあとも忙しいんでしょ? もういいわよ」
半ば追い払われるようにして保健室をあとにした。
昇降口を出ると、黒い車の前に黒いスーツを着た人が立っていた。
「翠葉お嬢様、お迎えに上がりました」
そう言って、後部座席のドアを開けられる。
さすがにこの対応は気後れしてしまう。周りの人の視線を集めているからなおさらに。
「翠葉お嬢様」という言葉には慣れてきたものの、令嬢扱いされるのはどうにも慣れそうにない。
開けられた車の後部座席に乗り込むと、外からそっとドアを閉められた。
ひとりは運転席に座っていて、今ドアを閉めてくれた人は助手席に収まる。
車は緩やかに発進し、学園内の環状道路から私道へと入るところで一度停まった。
外にはふたりの男の人が立っていて、後部座席の窓が自動的に開く。きっと運転席で操作されているのだろう。
「本日は、バレンタインのプレゼントをいただきありがとうございました」
ふたりはきっちりと腰を折る。そして、車に同乗していたふたりも狭いスペースで頭を下げた。
「わっ、そんな、頭上げてくださいっ。あの、いつものお礼なので……。あの、頭下げられると困ってしまうのでっ」
わたわたしていると、四人とも頭を上げてくれた。
「真白様がお待ちですので、私たちはこちらで失礼いたします」
すると、車がゆるりと走り出す。
「あの……朗元さんにもお会いしたいのですが、庵にいらっしゃるでしょうか?」
「申し訳ございません、ろうげん様とは……」
「あっ、会長さんです。ツカサたちのおじいさん」
警護の人たちはようやく人物特定ができたようで、
「それでは先に庵へ参りましょう」
庵の前で車が停まり、自分で降りようとする前に外からドアが開けられた。
「私たちはこちらでお待ちしております」
「ありがとうございます」
少しドキドキしながら庵の入り口をノックする。と、中からスーツ姿の男の人が出てきた。
「あの、ろ――会長はいらっしゃいますか?」
「はい、おられます」
その人は私に中へ入るように促すと、庵から出ていった。……というよりも、庵の外で待機、といった感じ。
「こんにちは」
庵の中には藤原さんと朗元さんがいた。
「おぉ、久しいの。体調はどうじゃ?」
「変わりありません。朗元さんは?」
「この季節は少々辛くての。清良が目を離してくれぬわ」
ふぉっふぉっふぉ、と笑いながら庵の隅でノートパソコンを開いている藤原さんを見やる。
「顔色がいい。体調良さそうね」
藤原さんに言われ、
「おかげさまで」
まさかここで藤原さんに会えるとは思っていなかったので、なんだか得した気分だ。
「今日はどうしたのじゃ?」
「今日はプレゼントを持ってきました。朗元さん、ハッピーバレンタインですっ!」
にこりと笑って朗元さんと藤原さんに包みを渡す。
「……私にも?」
びっくりした顔をしたのは藤原さん。
「はい。夏休みにお世話になったし、手術もしていただいたし……。心ばかりのお礼です」
「……ありがとう。あとでいただくわね」
「はい」
ひとつ心配だったのは朗元さんの歯。
「実は、クッキーが少し硬めなのですが……大丈夫でしょうか?」
朗元さんはくしゃりと表情を崩し、
「心配するでない。歯はすこぶる健康じゃ」
「良かったっ! 慌しくて申し訳ないのですが、今日はこれで失礼します」
「あら、もう行くの?」
「はい。このあと真白さんのところへ寄って、そのあとは病院。その次はホテルなので」
「……フルコースね」
「はい、フルコースです」
私はペコリとお辞儀をして庵を出た。
また同じ車に乗り、ツカサの家へ向かって車が走りだす。
「あの……もしかしたら少し時間がかかるかもしれません」
私が行くという連絡をしてあるのなら、真白さんがお茶の用意をしていないわけがない。そして、私はそれを断わることはできないだろう。
「かまいません。ごゆっくりなさってきてください」
私が車から降りるとふわりと風が吹き、家のドアが開いた。そこには真白さんが立っていて、
「いらっしゃい。お茶を用意して待っていたの」
家の中はチーズケーキの香りがしていた。
「さっき焼きあがったところなの。チーズスフレ、食べていってくれる?」
「嬉しいです!」
リビングに通され、真白さんはすぐにトレイを持ってやってきた。
「真白さん、ハッピーバレンタイン!」
私は手提げ袋から包みを取り出しテーブルに置いた。
「……私、に?」
「はい。あと、涼先生にもお渡ししていただけますか?」
「まぁ、嬉しい! 涼さんもきっと喜ぶわ」
そこにカツカツカツという音が聞こえてきて、少し眠そうな顔をしたハナちゃんがやってきた。
「あ、起きた?」
真白さんが訊くところからすると、どこかで寝ていたのだろう。
「ハナちゃん、久しぶり」
ハナちゃんは二本足で立ち上がり、抱っこを要求される。催促されるままに抱え上げるとペロリ、と口を舐められた。
「でも、ごめんね。ハナちゃんには何も持ってきてないの」
頭や身体を撫でてあげていると、
「翠葉ちゃん、これ、ハナ用のクッキーなの。あげてみる?」
「えっ!? わんちゃん用のクッキーがあるんですか?」
「あるのよ」
にこりと笑って、小さな卵ボーロを三粒渡された。
「ハナちゃん、おやつだって」
言いながら一粒ずつ小さな口に近づける。と、とても嬉しそうに咀嚼して食べた。
「かわいい~……」
思わず悶えたくなるくらいかわいい仕草を見せられる。すべて食べ終わると、ハナちゃんは真白さんのもとへ行き、真白さんの隣にちょこんと座った。
「さ、私たちもいただきましょう?」
「いただきますっ!」
できたてのスフレはあたたかくて、しっとりふんわりとしていた。レモンの風味が少し強めなのは、もしかしたら涼先生の好みなのかもしれない。
「涼先生はチーズスフレがお好きなんですか?」
「えぇ、甘いものは全然だめで……」
「……フロランタンとコーヒークランブルケーキを作ってきたのですが、大丈夫でしょうか……」
蒼兄の味覚をもとに、いずれも甘さは控え目に作っているけれど……。
「コーヒーと一緒にお出しすれば大丈夫だと思うわ」
「ツカサもコーヒーと一緒に食べるって……」
「まぁっ! 司が受け取ったのっ!?」
「はい、お昼休みに……」
「今日はお赤飯を炊こうかしら……」
真白さんのテンションが急上昇してびっくりした。頬が紅潮して見えるのは気のせいではないと思う。
「あと……あの……」
「どうしたの?」
真白さんは笑顔で首を傾げる。
「あの……マフラーを編んだのですが、学校では渡せなくて……」
それを言うだけで顔が熱くなる。顔どころか身体中が熱くなった。
「手編みのマフラーなんて……司ったら幸せ者ね」
「でも、まだ渡せていないし、使ってもらえるかもわからないし……」
「……翠葉ちゃんはどうしたい?」
「え?」
正面に座る真白さんは真っ直ぐな目で私を見ていた。
「自分で渡したい? それとも私が預かって渡す?」
「……正直、面と向かって渡す勇気がなくて。でも、人に頼むのも何か違う気がするし――」
「……それなら司の部屋に置いてきたらどうかしら?」
「ツカサのお部屋……?」
「えぇ、二階のね」
真白さんは天井を指し示す。
「いらっしゃい。案内するわ」
「あの、でも、勝手に入るのは……」
尻込みする私を真白さんはクスクスと笑う。
「誰に見られても困るような部屋じゃないの。すごく性格が表れている部屋よ? マンションの湊のところにある部屋とさして変わらないわ」
真白さんは私の手を引いて二階を案内してくれた。
そこは、ブルーとグレーと黒で統一された部屋だった。デスクの上にはパソコンがあり、難しそうな英字の本や参考書が何冊か並んでいる。そして、本棚には実用書や医学書、図鑑ばかりが収まっていた。ベッドメイキングもきれいにされており、本当にここで人が暮らしているのだろうか、と思うほど、理路整然と整理整頓されている。
「蒼兄のお部屋よりもきれい……」
「私、司が小学校に上がってから一度もこの部屋を掃除したことがないのよ」
「えっ!?」
「低学年のころは楓や湊が手伝ってあげることもあったけれど、それも二年生までね。そこからは全部自分で片付けるようになったわ」
すごい……。
「その手提げ袋、デスクの上に置いておいたら必ず見ると思うの」
私は四角さが強調されるデスクの上に、またしても四角い手提げ袋をちょこんと置いた。
「メッセージカード、書く?」
「あ、いえ……カードは中に入れてあるので」
「なら完璧ね」
保健室のドアをノックすると、「はい」と先生の声が聞こえ、
「失礼します」
入ってすぐ、険呑な視線を向けられる。
「あんた、今日の昼休み診察さぼったわね?」
言われて思い出す。今日が月曜日で診察の日だったことを。
「先生、ごめんなさい……忘れてました。これ、プレゼントするので許してください」
おずおずと包みを差し出すと、
「あら、フロランタンじゃない。私、コーヒーのお茶請けに食べるの好きなのよね」
と、目元と口元が緩む。
フロランタンに反応するのがツカサと同じ……。
「ま、今日はバレンタインだしね。いいわ、許してあげる」
そのあと二十分ほど診察を受け、術後の経過も問題なしと言われていつもどおりのお薬を処方された。
「その手提げ袋……まだたくさん入ってそうね?」
「はい。このあとは真白さんのところへうかがって、真白さんと涼さんの分を渡してきます。それから病院へ行って、相馬先生と藤原さんと小枝子さんと久住先生と楓先生に渡して、唯兄にホテルまで連れて行ってもらって、静さんと澤村さんと園田さんと須藤さんに渡して、帰って来たら栞さんと昇さんにプレゼントして、最後に家族に――」
指折り数えていると、湊先生が呆れた顔で私を見ていた。
「あんた、バレンタインと何かを間違えて認識してたりしないわよね?」
「クラスメイトに教えてもらったので大丈夫だと思います」
「でも、まるでクリスマスのサンタ並みだけど?」
「……それはそれで楽しいかも?」
「あぁそう……。で、司には渡したの?」
「はい、お昼休みに」
「……もしかして、コレと同じもの?」
「はい。でも、海斗くんに……というか、クラス中にそれじゃだめって言われたんですけど、あいにく同じものしか用意していなくて……」
決まり悪く言葉を濁すと、湊先生はくつくつと笑い出した。
「いいわいいわ、あんたっ。相変わらず突っ込みどころ満載だけど、司をからかうのにはもってこいっ!」
「……これ、からかう材料になるんですか?」
「なるわね。十分よ!」
先生は背を丸めて笑う始末。
「あー、ほらほら、このあとも忙しいんでしょ? もういいわよ」
半ば追い払われるようにして保健室をあとにした。
昇降口を出ると、黒い車の前に黒いスーツを着た人が立っていた。
「翠葉お嬢様、お迎えに上がりました」
そう言って、後部座席のドアを開けられる。
さすがにこの対応は気後れしてしまう。周りの人の視線を集めているからなおさらに。
「翠葉お嬢様」という言葉には慣れてきたものの、令嬢扱いされるのはどうにも慣れそうにない。
開けられた車の後部座席に乗り込むと、外からそっとドアを閉められた。
ひとりは運転席に座っていて、今ドアを閉めてくれた人は助手席に収まる。
車は緩やかに発進し、学園内の環状道路から私道へと入るところで一度停まった。
外にはふたりの男の人が立っていて、後部座席の窓が自動的に開く。きっと運転席で操作されているのだろう。
「本日は、バレンタインのプレゼントをいただきありがとうございました」
ふたりはきっちりと腰を折る。そして、車に同乗していたふたりも狭いスペースで頭を下げた。
「わっ、そんな、頭上げてくださいっ。あの、いつものお礼なので……。あの、頭下げられると困ってしまうのでっ」
わたわたしていると、四人とも頭を上げてくれた。
「真白様がお待ちですので、私たちはこちらで失礼いたします」
すると、車がゆるりと走り出す。
「あの……朗元さんにもお会いしたいのですが、庵にいらっしゃるでしょうか?」
「申し訳ございません、ろうげん様とは……」
「あっ、会長さんです。ツカサたちのおじいさん」
警護の人たちはようやく人物特定ができたようで、
「それでは先に庵へ参りましょう」
庵の前で車が停まり、自分で降りようとする前に外からドアが開けられた。
「私たちはこちらでお待ちしております」
「ありがとうございます」
少しドキドキしながら庵の入り口をノックする。と、中からスーツ姿の男の人が出てきた。
「あの、ろ――会長はいらっしゃいますか?」
「はい、おられます」
その人は私に中へ入るように促すと、庵から出ていった。……というよりも、庵の外で待機、といった感じ。
「こんにちは」
庵の中には藤原さんと朗元さんがいた。
「おぉ、久しいの。体調はどうじゃ?」
「変わりありません。朗元さんは?」
「この季節は少々辛くての。清良が目を離してくれぬわ」
ふぉっふぉっふぉ、と笑いながら庵の隅でノートパソコンを開いている藤原さんを見やる。
「顔色がいい。体調良さそうね」
藤原さんに言われ、
「おかげさまで」
まさかここで藤原さんに会えるとは思っていなかったので、なんだか得した気分だ。
「今日はどうしたのじゃ?」
「今日はプレゼントを持ってきました。朗元さん、ハッピーバレンタインですっ!」
にこりと笑って朗元さんと藤原さんに包みを渡す。
「……私にも?」
びっくりした顔をしたのは藤原さん。
「はい。夏休みにお世話になったし、手術もしていただいたし……。心ばかりのお礼です」
「……ありがとう。あとでいただくわね」
「はい」
ひとつ心配だったのは朗元さんの歯。
「実は、クッキーが少し硬めなのですが……大丈夫でしょうか?」
朗元さんはくしゃりと表情を崩し、
「心配するでない。歯はすこぶる健康じゃ」
「良かったっ! 慌しくて申し訳ないのですが、今日はこれで失礼します」
「あら、もう行くの?」
「はい。このあと真白さんのところへ寄って、そのあとは病院。その次はホテルなので」
「……フルコースね」
「はい、フルコースです」
私はペコリとお辞儀をして庵を出た。
また同じ車に乗り、ツカサの家へ向かって車が走りだす。
「あの……もしかしたら少し時間がかかるかもしれません」
私が行くという連絡をしてあるのなら、真白さんがお茶の用意をしていないわけがない。そして、私はそれを断わることはできないだろう。
「かまいません。ごゆっくりなさってきてください」
私が車から降りるとふわりと風が吹き、家のドアが開いた。そこには真白さんが立っていて、
「いらっしゃい。お茶を用意して待っていたの」
家の中はチーズケーキの香りがしていた。
「さっき焼きあがったところなの。チーズスフレ、食べていってくれる?」
「嬉しいです!」
リビングに通され、真白さんはすぐにトレイを持ってやってきた。
「真白さん、ハッピーバレンタイン!」
私は手提げ袋から包みを取り出しテーブルに置いた。
「……私、に?」
「はい。あと、涼先生にもお渡ししていただけますか?」
「まぁ、嬉しい! 涼さんもきっと喜ぶわ」
そこにカツカツカツという音が聞こえてきて、少し眠そうな顔をしたハナちゃんがやってきた。
「あ、起きた?」
真白さんが訊くところからすると、どこかで寝ていたのだろう。
「ハナちゃん、久しぶり」
ハナちゃんは二本足で立ち上がり、抱っこを要求される。催促されるままに抱え上げるとペロリ、と口を舐められた。
「でも、ごめんね。ハナちゃんには何も持ってきてないの」
頭や身体を撫でてあげていると、
「翠葉ちゃん、これ、ハナ用のクッキーなの。あげてみる?」
「えっ!? わんちゃん用のクッキーがあるんですか?」
「あるのよ」
にこりと笑って、小さな卵ボーロを三粒渡された。
「ハナちゃん、おやつだって」
言いながら一粒ずつ小さな口に近づける。と、とても嬉しそうに咀嚼して食べた。
「かわいい~……」
思わず悶えたくなるくらいかわいい仕草を見せられる。すべて食べ終わると、ハナちゃんは真白さんのもとへ行き、真白さんの隣にちょこんと座った。
「さ、私たちもいただきましょう?」
「いただきますっ!」
できたてのスフレはあたたかくて、しっとりふんわりとしていた。レモンの風味が少し強めなのは、もしかしたら涼先生の好みなのかもしれない。
「涼先生はチーズスフレがお好きなんですか?」
「えぇ、甘いものは全然だめで……」
「……フロランタンとコーヒークランブルケーキを作ってきたのですが、大丈夫でしょうか……」
蒼兄の味覚をもとに、いずれも甘さは控え目に作っているけれど……。
「コーヒーと一緒にお出しすれば大丈夫だと思うわ」
「ツカサもコーヒーと一緒に食べるって……」
「まぁっ! 司が受け取ったのっ!?」
「はい、お昼休みに……」
「今日はお赤飯を炊こうかしら……」
真白さんのテンションが急上昇してびっくりした。頬が紅潮して見えるのは気のせいではないと思う。
「あと……あの……」
「どうしたの?」
真白さんは笑顔で首を傾げる。
「あの……マフラーを編んだのですが、学校では渡せなくて……」
それを言うだけで顔が熱くなる。顔どころか身体中が熱くなった。
「手編みのマフラーなんて……司ったら幸せ者ね」
「でも、まだ渡せていないし、使ってもらえるかもわからないし……」
「……翠葉ちゃんはどうしたい?」
「え?」
正面に座る真白さんは真っ直ぐな目で私を見ていた。
「自分で渡したい? それとも私が預かって渡す?」
「……正直、面と向かって渡す勇気がなくて。でも、人に頼むのも何か違う気がするし――」
「……それなら司の部屋に置いてきたらどうかしら?」
「ツカサのお部屋……?」
「えぇ、二階のね」
真白さんは天井を指し示す。
「いらっしゃい。案内するわ」
「あの、でも、勝手に入るのは……」
尻込みする私を真白さんはクスクスと笑う。
「誰に見られても困るような部屋じゃないの。すごく性格が表れている部屋よ? マンションの湊のところにある部屋とさして変わらないわ」
真白さんは私の手を引いて二階を案内してくれた。
そこは、ブルーとグレーと黒で統一された部屋だった。デスクの上にはパソコンがあり、難しそうな英字の本や参考書が何冊か並んでいる。そして、本棚には実用書や医学書、図鑑ばかりが収まっていた。ベッドメイキングもきれいにされており、本当にここで人が暮らしているのだろうか、と思うほど、理路整然と整理整頓されている。
「蒼兄のお部屋よりもきれい……」
「私、司が小学校に上がってから一度もこの部屋を掃除したことがないのよ」
「えっ!?」
「低学年のころは楓や湊が手伝ってあげることもあったけれど、それも二年生までね。そこからは全部自分で片付けるようになったわ」
すごい……。
「その手提げ袋、デスクの上に置いておいたら必ず見ると思うの」
私は四角さが強調されるデスクの上に、またしても四角い手提げ袋をちょこんと置いた。
「メッセージカード、書く?」
「あ、いえ……カードは中に入れてあるので」
「なら完璧ね」
3
あなたにおすすめの小説
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる