14 / 15
14話
しおりを挟む
そうなんだよ。このゲームには一個腑に落ちない描写があって。
なぜか、バレンタインのこの時期だけ。顔さえハッキリしない女の子たちの集団が画面に映り込むんだよね。
校門にたむろして出待ちしてる女の子たち。一人や二人じゃなく。あえていうなら黒山の人だかりみたいな画だった。
BLゲームなのにだよ?!
そもそも許可を取らないうちは自由に外にも出られない学校なのに、なんで出待ち??全員寮住まいだし、当然わざわざ家から登下校してる生徒なんか一人もいやしない。
だから、放課後に校門付近に用がある生徒だってそれほど多くないはずなのに。
こうして実際近くまで来て見てみると、まあまあの確率でうちの学校の生徒の姿があったりもした。
まあ、部外者は基本校内立ち入り禁止だし。在校生の知り合いとか、色々伝手を使って目当ての男子を呼び出してもらってるらしいけど。
僕もソレで呼び出された口だったりする。
最初こそ、なんで僕が行かなくちゃいけないの!?みたいに、でき得る限りのツンツンを総動員して素気無く断ってみたものの。
一回断っても二回断っても。時間をおいて何度も何度も声をかけにやってくる、名前すらよく知らない後輩の弱り果てた顔と態度についには根負けし、渋々やってきてのイマココです。
……なんで僕??
そこらの女子よりよっぽど可愛い顔してる男を横に置きたいって、変わった趣向の子でもいるの??
ほんと僕、めっちゃくちゃに可愛いよ?!冗談とかじゃなく。
もちろんカスミンの麗しさや艶やかさや美しさ等々を含んだ超絶な可愛らしさには負けるけどっ!!
なんて。まだまだ戸惑いを引き摺りつつ、普段は閑散として人の姿すら疎らにも拘わらず、今はかなりの賑わいを見せている校門へ向かって歩を進める。
しかもここ、わりと立地が悪いんだよね。バスくらいは出てるけど、それでも1時間に一本程度だったような。やたら品揃えのいいコンビニだけはかろうじてって感じで近くにあれど、言っちゃえばほぼ僻地。授業終わりのSHR直後のこの時間、どうやってここまで来たの??って話で。
この時間、こっちに向かうバスは出てないはずなのに。ていうか、生徒と教師の顔面偏差値が異常に高い学校とはいえ、こんなとこまでわざわざ押し掛けてくるって執念スゴすぎない?!
目の前で繰り広げられてる、年末のバーゲンセール会場さながらの熱気に圧されて、あと少しってところで足が止まる。
男なら、女子にモテてみたい!って思いは……正直わからなくもないんだけどさ。
……でもそれは、ここがBLゲームの世界じゃなければの話だからね!?なんでBLゲームなのに女子に爆モテ!!……なんて描写があるんだろ。いらなくない??
なぜか執拗に呼び出されてた僕も、そう言いながらノコノコここにきちゃっているわけですが。
本音を言うならこのまま回れ右して戻りたい。なんて心の中でボヤいてボンヤリ遠巻きに、蠢く人垣を眺めていると。
突然。
「あ、あのっ!!」
視界を塞ぐようにして、緩いウェーブを描く明るめの茶髪が勢いよく眼前に飛び込んできた。
「っ、ぅわッ!!」
本気で、びっくりした……っ。
その尋常じゃない近さにタタラを踏み、よろけたついでに三歩下がる。
でも、慌てて空けたはずの間をまた詰められ、縋るようでいて嫌に熱っぽい視線を注がれて、なんともいえない不快感に眉を顰めた。
「な、……なんなんですか」
意識的に低めた声で警戒心も露わに相手を睨め付けると、今度は一転。落ち着きのない動きで、両手と首がブンブンと横に振られた。
「あっ、ちが、そのっ、え、……えっと、……私っ、しゅ……愁くんのこと、すごく!応援してるんでっ!!」
「はぁ、…………はい??」
まるっきり『好きです!付き合ってください!!よろしくお願いします!!』って言わんばかりの格好で両腕をこっちに突き出して、腰を直角近くまで折り曲げた相手が、追い討ちをかけるようにさらに声を張り上げる。
「なのでっ、どうか受け取ってくださいっ!!これからも2人のこと、心の底から応援してますっ!!」
「え、ちょっ……なに、」
その人の勢いに押しきられそうになって混乱したまま、肝心といえば肝心の『誰と誰との何を?!』ってことを聞くよりも早く、小振りなラッピングバッグを強引に押し付けられた。
「この紙に効果時間とか、色々書いてあるんでっ」
「……へ?は??」
一体なにが起きてんの??って呆気に取られている隙に、これまたいきなり顔を寄せてきたその人が僕の耳元でヒソッとそんなことを囁き、何かの紙片を制服のポケットに捩じ込んできた。
「愁くんなら絶対絶対大丈夫ですっ!!」
「えっ、だから……」
だから、何が?!
相手の勢いと熱量が壮絶すぎたせいで最後まで言いたいことを何一つとして言えないまま、深々とお辞儀したあと嵐のように去って行った女子の後ろ姿を呆然と見送る。
ほんとに、猛烈な嵐に掻き回されたみたいに、頭の中がグチャグチャ……なんだったんだろ、あの子。
どう考えても、告白って感じじゃなかったし。
応援って、なんの??2人って、誰と誰のこと??
多分、文脈からいくと、僕と誰か……な気はするけど。残念ながら、あの子の顔に見覚えがないんだよね。全く、全然。これっぽっちもないんだよ。
一旦は人違いの可能性が頭を過ったものの、でもハッキリと名前呼ばれてたしな。
僕で間違いない、のか……??
なにを、くれたんだろう。絶対絶対大丈夫って、何が……
残されたセリフの端々からちょっとした恐怖を感じながらも、中身はなんだろう??っていう好奇心には逆らえず、まだまだ賑わいをみせるそこからほんの少しだけ脇に避ける。
そうしてから小さな紙袋の口を止めているシールをペリペリ剥いで、持ち手をゆっくり左右に引き、恐る恐る中を覗いてみた。
「やっぱり、チョコ。……なのかな?」
そこに入っていたのは外袋とは真逆の、シックな色合いをした化粧箱。
怪しげな艶を帯びる深紫色のリボンがかけられたそれは、一見チョコレートの箱のようにも見える。……いや。間違いなくチョコだったみたい。箱の所々に小っちゃくchocolateって箔押しがしてあった。
けど、なんか……眺めているうちに妙な既視感を覚えて首を傾げる。
この箱。どこかで見たような。
しばらく矯めつ眇めつして頭を悩ませ唸っていたら、突然ある映像が脳裡に閃き。
思わず声を上げた。
「……あっ!」
……あれ?これって、まさか……
そうだった……。ヤバい、……ヤバいっ!!すっかり忘れてた!!
しかも、こんな直前も直前になってから思い出すなんて……最悪だ。
今もらったこれ、さ。もしかしなくても、媚薬イベント用のチョコじゃない??
頭の片隅に飛来した仮説をなんとか打ち消したくて。深呼吸してから袋の中に手を突っ込み、問題のその箱を取り出す。
アルファベットが書いてある上と横。を流し見て、勢いよく裏返し底面の表示によくよく目を通した。
「……あー」
やっぱり。ほら。……商品名が、あまりにあからさまな『ラヴ♡ラヴポーション』……わかりやすすぎる。
「……まさかの、入手先」
意外な裏設定に遭遇しちゃって今にも白目を剥きそう。
ファン垂涎の裏話……ってほどじゃないけど、自分に一切関係なければちょっとは喜べたものを。
急にキリキリ痛み出したような気がする胃を、片手でギュウッと押さえつけた。
バレンタインに発生する媚薬イベントは、主人公がどのルートを辿っていたとしても発端となるのが、この僕だったりする。肝心なソレを、今の今まで忘れてた……。なんでよりにもよってそのことを忘れるかなぁー……
カスミンに、今までの態度を悔いて涙を流して謝罪して。仲直りを持ちかけるフリをし、『お詫びにもならないけど、頑張って作ったんだ。よかったら、一緒に食べよ?』とかって、目をウルウルさせながらチョコレートの箱を差し出す『僕』がそんなことを告げるシーンがあった。
確か、こんな箱だったはず。ゲーム画面じゃ、さすがに商品名までは読み取れなかったけど。
そして、媚薬入りのそれを食べちゃったカスミンが熱を持て余して悶え苦しんでる所に、ずっとカスミンのことを狙ってたとかいうヤバいモブキャラを差し向けようとする。……って、返す返すもどれだけ性格悪いの、僕!?
結局はハッピーエンドで落ち着いて、好感度が爆上がりする追い込みのイベントではあったりするんだよ。というか、このバレンタインイベントが出現するかしないかってのと、その結果如何でエンディングが決まると言っても過言じゃない。
『僕』が持ってた媚薬チョコの入手経路までは説明されてなかったから、完っ全に油断してた。まさか、そのための女子だったの??
BLゲームになんで女子?女子にもモテてますよアピールのため?!とかモヤモヤしてたけど。確かにこんな怪しい物、……一朝一夕じゃ手に入れられないよね。
元々の『僕』なら、もしかしたらどんな手段を使ってでも用意しかねない気もする……かな。うん。もしかしたら。やりかねない。
一応はそうやって落とし所を見付けたような気はしたけど、正直コレは。持て余すというか。
どーしよ、これ……とか悄然としてその場に佇んでると。
校門の方で絶えず上がってた浮かれたようなキャーキャーともまた違う、どちらかというと批難がましさが含まれてるような刺々しいキャーキャー声が校舎の方向からこっちへと、徐々に音量を増しながら近付いてきた。
一体何事??とか面食らっちゃうような騒音?というか、キャンキャンとした怒鳴り声があたりに響き、つられるようにして視線を向けた先に見知った姿を認めて瞬きを一つ。
ものすっごく嫌そうな顔をしながら、腕の先にぶら下げた他校の女子をせっついて歩くその人が、空いてるもう片方の手で猫かなんかを追っ払うみたいにして指先を動かした。
「はいはい。散った散った。関係者以外の校内への立ち入りは禁止ですよ~。キリがないんで、もう門を閉じま~す」
「竹田先輩?なにしてるんですか」
なにしてるっていうよりも、その人誰。めちゃくちゃ雑に取り押さえてるって感じだし暴れてるけど。どう見てもうちの生徒じゃないよね??的な混乱が強い。ほんと誰、ソレ。
「ん?あー、小野寺じゃん。なにお前も呼び出された口?」
会長に一方的に話しかけに行ってるうちに、会えば顔見知り程度の会話を交わすようになった風紀委員長の竹田先輩が、チラリとこっちに目を向けた。
ちなみに、文句のつけようがないイケメンではあるけども。残念ながら攻略対象者じゃない。
竹田先輩ルートも、ちょっと見てみたかったかも。とか思わせる、風紀委員にしてはテキトーすぎるようにも感じる性格が特に今、明らかにその表情に出てるしなんならダダ漏れてる。
腕の先にいる人の様子からいって、きっと面倒くさい用向きを押し付けられたかなんかしたんだろうな。なんて思いながらも、軽く頷いて返した。
「へー。自分よりも可愛い野郎をわざわざ選んでチョコ渡すとか。物好きな奴もいるもんだな」
僕が手にしてるファンシー寄りの紙袋を横目で見つつ、たいして興味もなさそうな調子でそう言われたけど。
やっぱ僕って可愛い括りなんだ……とか。自分で思うだけならまだしも、って言葉が飛んできたため苦笑をこぼす。
「オレは勝手に校内に侵入してきた不審者どもを丁重に追い出してから正門に鍵をかける係。……を押し付けられた」
あ。ほんとに押し付けられたんだ。
会長あたりが命令してきそうなイメージだけど、竹田先輩に鍵束を押し付けたのはどうも先生たちらしい。
「そうなんですか。っていうか、……不審者は、その人??」
「これもあっちもまあそうだな。しかも、毎年毎年。そこそこ数がいるから嫌ンなる」
疲れた顔でそう言われても、僕としては去年の記憶が薄ボンヤリすぎて首を捻るのみ。
バレンタイン当日に女子が押しかけてきていた光景以前に、ハルカ先輩絡みの出来事しか憶えてないとか……。
自分だけど自分じゃない自分に呆れて頭を抱える。
「残りは掻き集めた助っ人たちに任せてあるし、裏門は副委員長が閉めに行った。……あぁ、きたきた。捕獲お疲れさん!」
自己嫌悪ともいえないような複雑な思いを抱え、やや顔を俯けていた僕を気にかける様子もなく、明後日の方向に向けて声をかけて大きく片手を振り上げた竹田先輩の、その視線の先をなんとなく目で追いかけた。
「……小野寺?」
そして、僕が相手を認識するより早く。
聞き慣れた平坦な声で名前を呼ばれて、思わず姿勢を正した。
どうしよう……今更だけど、どんな顔をすればいいのか、わかんない。
一方的とはいえ、なんか怒らせたちゃったらしいのはまず間違いないし。
散々無視されてたこととか、うっかり頭をよぎっちゃった寂しさとか……。もう、いろいろなものがごちゃ混ぜになって。
今までどんな気持ちで喋ってたかとか、普通の態度ってどんなだったかとか、自分に与えられたキャラ設定とか。全部、全部が吹っ飛んだ。
「あ、……陽加先輩っ。その……」
それでもなんとか絞り出した声で、自分の態度の不審さなんかを誤魔化すように必死に言葉を紡ぎ出す。
でもさ、……お久しぶりですってのはどう考えても変だよね。いっそ嫌味ったらしくて、僕らしい気がしなくもないけど。
なんて言おうか一人でグルグル考えてる真っ最中。
いつの間にかすぐ近くまで歩み寄ってきていたらしいハルカ先輩の眉がわずかに顰められたのが見えた。
「それは?」
竹田先輩と同じく他校の女子の首根っこを無造作に掴み上げた状態のハルカ先輩が、普段と何一つ変わらない冷めた声と目付きで僕の手元にある、僕には不似合いな物について指摘する。
「……え、どれ……あっ。コレ??は、そのっ……」
一瞬呆けて、でも次の瞬間。
心当たりがありすぎる後ろ暗さに駆られ、慌ててそれを背中に隠した。
なぜか、バレンタインのこの時期だけ。顔さえハッキリしない女の子たちの集団が画面に映り込むんだよね。
校門にたむろして出待ちしてる女の子たち。一人や二人じゃなく。あえていうなら黒山の人だかりみたいな画だった。
BLゲームなのにだよ?!
そもそも許可を取らないうちは自由に外にも出られない学校なのに、なんで出待ち??全員寮住まいだし、当然わざわざ家から登下校してる生徒なんか一人もいやしない。
だから、放課後に校門付近に用がある生徒だってそれほど多くないはずなのに。
こうして実際近くまで来て見てみると、まあまあの確率でうちの学校の生徒の姿があったりもした。
まあ、部外者は基本校内立ち入り禁止だし。在校生の知り合いとか、色々伝手を使って目当ての男子を呼び出してもらってるらしいけど。
僕もソレで呼び出された口だったりする。
最初こそ、なんで僕が行かなくちゃいけないの!?みたいに、でき得る限りのツンツンを総動員して素気無く断ってみたものの。
一回断っても二回断っても。時間をおいて何度も何度も声をかけにやってくる、名前すらよく知らない後輩の弱り果てた顔と態度についには根負けし、渋々やってきてのイマココです。
……なんで僕??
そこらの女子よりよっぽど可愛い顔してる男を横に置きたいって、変わった趣向の子でもいるの??
ほんと僕、めっちゃくちゃに可愛いよ?!冗談とかじゃなく。
もちろんカスミンの麗しさや艶やかさや美しさ等々を含んだ超絶な可愛らしさには負けるけどっ!!
なんて。まだまだ戸惑いを引き摺りつつ、普段は閑散として人の姿すら疎らにも拘わらず、今はかなりの賑わいを見せている校門へ向かって歩を進める。
しかもここ、わりと立地が悪いんだよね。バスくらいは出てるけど、それでも1時間に一本程度だったような。やたら品揃えのいいコンビニだけはかろうじてって感じで近くにあれど、言っちゃえばほぼ僻地。授業終わりのSHR直後のこの時間、どうやってここまで来たの??って話で。
この時間、こっちに向かうバスは出てないはずなのに。ていうか、生徒と教師の顔面偏差値が異常に高い学校とはいえ、こんなとこまでわざわざ押し掛けてくるって執念スゴすぎない?!
目の前で繰り広げられてる、年末のバーゲンセール会場さながらの熱気に圧されて、あと少しってところで足が止まる。
男なら、女子にモテてみたい!って思いは……正直わからなくもないんだけどさ。
……でもそれは、ここがBLゲームの世界じゃなければの話だからね!?なんでBLゲームなのに女子に爆モテ!!……なんて描写があるんだろ。いらなくない??
なぜか執拗に呼び出されてた僕も、そう言いながらノコノコここにきちゃっているわけですが。
本音を言うならこのまま回れ右して戻りたい。なんて心の中でボヤいてボンヤリ遠巻きに、蠢く人垣を眺めていると。
突然。
「あ、あのっ!!」
視界を塞ぐようにして、緩いウェーブを描く明るめの茶髪が勢いよく眼前に飛び込んできた。
「っ、ぅわッ!!」
本気で、びっくりした……っ。
その尋常じゃない近さにタタラを踏み、よろけたついでに三歩下がる。
でも、慌てて空けたはずの間をまた詰められ、縋るようでいて嫌に熱っぽい視線を注がれて、なんともいえない不快感に眉を顰めた。
「な、……なんなんですか」
意識的に低めた声で警戒心も露わに相手を睨め付けると、今度は一転。落ち着きのない動きで、両手と首がブンブンと横に振られた。
「あっ、ちが、そのっ、え、……えっと、……私っ、しゅ……愁くんのこと、すごく!応援してるんでっ!!」
「はぁ、…………はい??」
まるっきり『好きです!付き合ってください!!よろしくお願いします!!』って言わんばかりの格好で両腕をこっちに突き出して、腰を直角近くまで折り曲げた相手が、追い討ちをかけるようにさらに声を張り上げる。
「なのでっ、どうか受け取ってくださいっ!!これからも2人のこと、心の底から応援してますっ!!」
「え、ちょっ……なに、」
その人の勢いに押しきられそうになって混乱したまま、肝心といえば肝心の『誰と誰との何を?!』ってことを聞くよりも早く、小振りなラッピングバッグを強引に押し付けられた。
「この紙に効果時間とか、色々書いてあるんでっ」
「……へ?は??」
一体なにが起きてんの??って呆気に取られている隙に、これまたいきなり顔を寄せてきたその人が僕の耳元でヒソッとそんなことを囁き、何かの紙片を制服のポケットに捩じ込んできた。
「愁くんなら絶対絶対大丈夫ですっ!!」
「えっ、だから……」
だから、何が?!
相手の勢いと熱量が壮絶すぎたせいで最後まで言いたいことを何一つとして言えないまま、深々とお辞儀したあと嵐のように去って行った女子の後ろ姿を呆然と見送る。
ほんとに、猛烈な嵐に掻き回されたみたいに、頭の中がグチャグチャ……なんだったんだろ、あの子。
どう考えても、告白って感じじゃなかったし。
応援って、なんの??2人って、誰と誰のこと??
多分、文脈からいくと、僕と誰か……な気はするけど。残念ながら、あの子の顔に見覚えがないんだよね。全く、全然。これっぽっちもないんだよ。
一旦は人違いの可能性が頭を過ったものの、でもハッキリと名前呼ばれてたしな。
僕で間違いない、のか……??
なにを、くれたんだろう。絶対絶対大丈夫って、何が……
残されたセリフの端々からちょっとした恐怖を感じながらも、中身はなんだろう??っていう好奇心には逆らえず、まだまだ賑わいをみせるそこからほんの少しだけ脇に避ける。
そうしてから小さな紙袋の口を止めているシールをペリペリ剥いで、持ち手をゆっくり左右に引き、恐る恐る中を覗いてみた。
「やっぱり、チョコ。……なのかな?」
そこに入っていたのは外袋とは真逆の、シックな色合いをした化粧箱。
怪しげな艶を帯びる深紫色のリボンがかけられたそれは、一見チョコレートの箱のようにも見える。……いや。間違いなくチョコだったみたい。箱の所々に小っちゃくchocolateって箔押しがしてあった。
けど、なんか……眺めているうちに妙な既視感を覚えて首を傾げる。
この箱。どこかで見たような。
しばらく矯めつ眇めつして頭を悩ませ唸っていたら、突然ある映像が脳裡に閃き。
思わず声を上げた。
「……あっ!」
……あれ?これって、まさか……
そうだった……。ヤバい、……ヤバいっ!!すっかり忘れてた!!
しかも、こんな直前も直前になってから思い出すなんて……最悪だ。
今もらったこれ、さ。もしかしなくても、媚薬イベント用のチョコじゃない??
頭の片隅に飛来した仮説をなんとか打ち消したくて。深呼吸してから袋の中に手を突っ込み、問題のその箱を取り出す。
アルファベットが書いてある上と横。を流し見て、勢いよく裏返し底面の表示によくよく目を通した。
「……あー」
やっぱり。ほら。……商品名が、あまりにあからさまな『ラヴ♡ラヴポーション』……わかりやすすぎる。
「……まさかの、入手先」
意外な裏設定に遭遇しちゃって今にも白目を剥きそう。
ファン垂涎の裏話……ってほどじゃないけど、自分に一切関係なければちょっとは喜べたものを。
急にキリキリ痛み出したような気がする胃を、片手でギュウッと押さえつけた。
バレンタインに発生する媚薬イベントは、主人公がどのルートを辿っていたとしても発端となるのが、この僕だったりする。肝心なソレを、今の今まで忘れてた……。なんでよりにもよってそのことを忘れるかなぁー……
カスミンに、今までの態度を悔いて涙を流して謝罪して。仲直りを持ちかけるフリをし、『お詫びにもならないけど、頑張って作ったんだ。よかったら、一緒に食べよ?』とかって、目をウルウルさせながらチョコレートの箱を差し出す『僕』がそんなことを告げるシーンがあった。
確か、こんな箱だったはず。ゲーム画面じゃ、さすがに商品名までは読み取れなかったけど。
そして、媚薬入りのそれを食べちゃったカスミンが熱を持て余して悶え苦しんでる所に、ずっとカスミンのことを狙ってたとかいうヤバいモブキャラを差し向けようとする。……って、返す返すもどれだけ性格悪いの、僕!?
結局はハッピーエンドで落ち着いて、好感度が爆上がりする追い込みのイベントではあったりするんだよ。というか、このバレンタインイベントが出現するかしないかってのと、その結果如何でエンディングが決まると言っても過言じゃない。
『僕』が持ってた媚薬チョコの入手経路までは説明されてなかったから、完っ全に油断してた。まさか、そのための女子だったの??
BLゲームになんで女子?女子にもモテてますよアピールのため?!とかモヤモヤしてたけど。確かにこんな怪しい物、……一朝一夕じゃ手に入れられないよね。
元々の『僕』なら、もしかしたらどんな手段を使ってでも用意しかねない気もする……かな。うん。もしかしたら。やりかねない。
一応はそうやって落とし所を見付けたような気はしたけど、正直コレは。持て余すというか。
どーしよ、これ……とか悄然としてその場に佇んでると。
校門の方で絶えず上がってた浮かれたようなキャーキャーともまた違う、どちらかというと批難がましさが含まれてるような刺々しいキャーキャー声が校舎の方向からこっちへと、徐々に音量を増しながら近付いてきた。
一体何事??とか面食らっちゃうような騒音?というか、キャンキャンとした怒鳴り声があたりに響き、つられるようにして視線を向けた先に見知った姿を認めて瞬きを一つ。
ものすっごく嫌そうな顔をしながら、腕の先にぶら下げた他校の女子をせっついて歩くその人が、空いてるもう片方の手で猫かなんかを追っ払うみたいにして指先を動かした。
「はいはい。散った散った。関係者以外の校内への立ち入りは禁止ですよ~。キリがないんで、もう門を閉じま~す」
「竹田先輩?なにしてるんですか」
なにしてるっていうよりも、その人誰。めちゃくちゃ雑に取り押さえてるって感じだし暴れてるけど。どう見てもうちの生徒じゃないよね??的な混乱が強い。ほんと誰、ソレ。
「ん?あー、小野寺じゃん。なにお前も呼び出された口?」
会長に一方的に話しかけに行ってるうちに、会えば顔見知り程度の会話を交わすようになった風紀委員長の竹田先輩が、チラリとこっちに目を向けた。
ちなみに、文句のつけようがないイケメンではあるけども。残念ながら攻略対象者じゃない。
竹田先輩ルートも、ちょっと見てみたかったかも。とか思わせる、風紀委員にしてはテキトーすぎるようにも感じる性格が特に今、明らかにその表情に出てるしなんならダダ漏れてる。
腕の先にいる人の様子からいって、きっと面倒くさい用向きを押し付けられたかなんかしたんだろうな。なんて思いながらも、軽く頷いて返した。
「へー。自分よりも可愛い野郎をわざわざ選んでチョコ渡すとか。物好きな奴もいるもんだな」
僕が手にしてるファンシー寄りの紙袋を横目で見つつ、たいして興味もなさそうな調子でそう言われたけど。
やっぱ僕って可愛い括りなんだ……とか。自分で思うだけならまだしも、って言葉が飛んできたため苦笑をこぼす。
「オレは勝手に校内に侵入してきた不審者どもを丁重に追い出してから正門に鍵をかける係。……を押し付けられた」
あ。ほんとに押し付けられたんだ。
会長あたりが命令してきそうなイメージだけど、竹田先輩に鍵束を押し付けたのはどうも先生たちらしい。
「そうなんですか。っていうか、……不審者は、その人??」
「これもあっちもまあそうだな。しかも、毎年毎年。そこそこ数がいるから嫌ンなる」
疲れた顔でそう言われても、僕としては去年の記憶が薄ボンヤリすぎて首を捻るのみ。
バレンタイン当日に女子が押しかけてきていた光景以前に、ハルカ先輩絡みの出来事しか憶えてないとか……。
自分だけど自分じゃない自分に呆れて頭を抱える。
「残りは掻き集めた助っ人たちに任せてあるし、裏門は副委員長が閉めに行った。……あぁ、きたきた。捕獲お疲れさん!」
自己嫌悪ともいえないような複雑な思いを抱え、やや顔を俯けていた僕を気にかける様子もなく、明後日の方向に向けて声をかけて大きく片手を振り上げた竹田先輩の、その視線の先をなんとなく目で追いかけた。
「……小野寺?」
そして、僕が相手を認識するより早く。
聞き慣れた平坦な声で名前を呼ばれて、思わず姿勢を正した。
どうしよう……今更だけど、どんな顔をすればいいのか、わかんない。
一方的とはいえ、なんか怒らせたちゃったらしいのはまず間違いないし。
散々無視されてたこととか、うっかり頭をよぎっちゃった寂しさとか……。もう、いろいろなものがごちゃ混ぜになって。
今までどんな気持ちで喋ってたかとか、普通の態度ってどんなだったかとか、自分に与えられたキャラ設定とか。全部、全部が吹っ飛んだ。
「あ、……陽加先輩っ。その……」
それでもなんとか絞り出した声で、自分の態度の不審さなんかを誤魔化すように必死に言葉を紡ぎ出す。
でもさ、……お久しぶりですってのはどう考えても変だよね。いっそ嫌味ったらしくて、僕らしい気がしなくもないけど。
なんて言おうか一人でグルグル考えてる真っ最中。
いつの間にかすぐ近くまで歩み寄ってきていたらしいハルカ先輩の眉がわずかに顰められたのが見えた。
「それは?」
竹田先輩と同じく他校の女子の首根っこを無造作に掴み上げた状態のハルカ先輩が、普段と何一つ変わらない冷めた声と目付きで僕の手元にある、僕には不似合いな物について指摘する。
「……え、どれ……あっ。コレ??は、そのっ……」
一瞬呆けて、でも次の瞬間。
心当たりがありすぎる後ろ暗さに駆られ、慌ててそれを背中に隠した。
252
あなたにおすすめの小説
【本編完結】完璧アルファの寮長が、僕に本気でパートナー申請なんてするわけない
中村梅雨(ナカムラツユ)
BL
海軍士官を目指す志高き若者たちが集う、王立海軍大学。エリートが集まり日々切磋琢磨するこの全寮制の学舎には、オメガ候補生のヒート管理のため“登録パートナー”による処理行為を認めるという、通称『登録済みパートナー制度』が存在した。
二年生になったばかりのオメガ候補生:リース・ハーストは、この大学の中で唯一誰ともパートナー契約を結ばなかったオメガとして孤独に過ごしてきた。しかしある日届いた申請書の相手は、完璧な上級生アルファ:アーサー・ケイン。絶対にパートナーなんて作るものかと思っていたのに、気付いたら承認してしまっていて……??制度と欲望に揺れる二人の距離は、じりじりと変わっていく──。
夢を追う若者たちが織り成す、青春ラブストーリー。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
異世界転生してBL漫画描いてたら幼馴染に迫られた
はちも
BL
異世界転生した元腐男子の伯爵家三男。
病弱設定をうまく使って、半引きこもり生活を満喫中。
趣味と実益を兼ねて、こっそりBL漫画を描いていたら──
なぜか誠実一直線な爽やか騎士の幼馴染にバレた!?
「……おまえ、俺にこうされたいのか?」
そんなわけあるかーーーっ!!
描く側だったはずの自分が、
誤解と好意と立場の違いにじわじわ追い詰められていく。
引きこもり腐男子貴族のオタ活ライフは、
王子と騎士に目をつけられ、
いつの間にか“逃げ場のない現実”へ発展中!?
誠実一直線騎士 × 流され系オタク
異世界・身分差・勘違いから始まる
リアル発展型BLコメディ。
*基本的に水・土の20時更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる