銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第22章 神になりたかった男

調査2

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 そのようにレナ達とのパトロールの初日を終えた翌日。
 つまり晴れた平日の朝。
 まだ人気のないホームルーム前の教室で……

「……という訳なんだ」
「相変わらず大変ね」
「まあ今回は役得もあるっちゃああるからマシだけどな」
 椅子の背に肘をついたままだらだらと話す舞奈。
 タブレットに映る何かの動画に注視しながら耳だけで聞くテック。
 優雅な朝のひと時だ。

 舞奈はテックに、今回の降って湧いたようなトラブルについて話していた。
 英国の魔術結社から奪われたプリドゥエンの箱舟(しかも複数)。
 それによって転移されてくる可能性のある黒い不法移民たち。
 来日したスカイフォールの一団による調査とパトロールに、舞奈と明日香も協力している事。
 魔獣退治の後の束の間の平穏は、本当に束の間だった。
 そんな舞奈に、

「役得ってレナの事?」
「まあな。文句なしのカワイ子ちゃんだろ?」
 テックは少し顔を上げて問いかける。

「それは認めるけど。……ゾマの前でも同じ事を言えるの?」
「その園香と、レナちゃんが一緒にいる間はお預けなんだから仕方ないだろう?」
「はいはい」
「レナちゃんと一緒に園香を守る算段なんだぜ」
 舞奈が返した軽口に、テックは表情が薄いながらも苦笑してみせる。

 昼間の調査とパトロールを終えた後は、レナは家で園香と一緒だ。
 レナと園香が仲の良い幼馴染だからだ。
 そんな中で園香と何かするのは不可能なのは事実だ。
 他の不埒者も、舞奈も。
 そもそもレナが滞在している間は親父さんもお袋さんも夜は家にいる。

「まあ、それはいいけど……」
 対するテックはそっち方面には興味無さそうに答えながら……

「……けどその、箱舟ってのを防犯カメラで探すのは無理よ」
「いや流石にそれはあたしにもわかるよ」
 再び顔を上げて正面から見やりつつ、噛んで含めるように諭してきた。
 対して今度は舞奈が苦笑する。
 まあ常日頃から調査をテックに頼りっぱなしだったのは認めるが。

 英国の魔術結社から奪われたというプリドゥエン箱舟は魔道具アーティファクトだ。
 魔力感知には反応するらしいが、それ以外は普通の置物と変わらないしネットに書きこみをしたりもしない。
 流石にスーパーハッカーの力を借りて探す代物じゃないだろう。
 その程度の道理は理解しているつもりだ。
 それでも……

「……いちおうデカい代物らしいから、ちょっと前くらいから他所から不自然な大荷物が運びこまれてないか調べられるか?」
「やってはみるけど、大きい荷物なら委員長の家の会社に幾つでもあるわよ?」
「いや倉庫の中じゃ使えないはずだ。この前みたいに空きアパートとか――」
「――なるほど。急に家主が外国人に変わった建物とか?」
「おおっ、それそれ!」
「了解。運びこまれた時期の見当はつく?」
「んー向こうの魔術結社とやらから奪われたのがKoboldとやりあってる最中くらいらしいから、それ以降で頼む」
 そのように言葉巧みに仕事を頼む。

 プリドゥエンの箱舟は複数セットで人や物を転移する魔道具アーティファクトだ。
 奴らはそれで、海外から仲間を呼び寄せるために使うつもりらしい。
 ならば奪われた箱舟は以前に舞奈たちが攻略した無人のアパートのような適切な施設に運びこまれるはずだ。
 その様子を防犯カメラで追う事は不可能じゃないはずだと舞奈は思う。

 もちろんレナ達の魔力感知による調査を信用していない訳ではないが、捜索の手札も種類も多いに越した事はない。
 何よりテックが噛んでくれると調査とは違う方向から知見が得られる事も多い。
 自分や、知的ではあるが根っこのところでは自分と同じ殴りこみ屋な明日香と違ってテックは生粋の情報屋だ。目の付け所が違う。
 例えば今しがたのように。なので、

「結構な期間なんだけど……まあいいわ」
「埋め合わせはするよ」
「期待してるわよ」
 嘆息するテックをなだめるように笑みを浮かべてみせる。
 テックもニヤリと微笑を返す。
 そうするうちに……

「……あっおはよう明日香」
「あら、おはよう2人とも」
「ちーっす」
 ドアをガラリと開けて明日香が登校してきた。

「ルーシアちゃんとのデートはどうだった?」
「そんなんじゃないわよ。そっちはどうだったか知らないけど」
「楽しかったぜ。騎士団の連中とも一緒だったけどな」
「よかったわね」
 軽口に、明日香は大仰に肩をすくめつつ、

「こっちは殿下の魔力感知に主だった反応は無し。ただ探知魔法ディビネーションを応用した意図的な隠匿を確実に見抜ける自信がないから、レナ殿下にも見てほしいって」
「あっちはあっちでそうなってるのか」
 かいつまんで昨日の話をする。

 つまり舞奈と同様に目立った進展はなし。
 あとルーシア王女もレナとは逆の意味で自身の感知に限界を感じていたらしい。
 まあ過信されるよりはるかにマシではある。
 それでも色々と大変なんだなあと苦笑する舞奈に、

「あと調査中に不法移民の襲撃? を退けたわ」
「襲撃だと?」
「ええ。相手はパキスタン人の成人男性。1匹」
「1匹って事は、脂虫?」
「当然。突き出した警官の話では、この前のアパートに詰めていた集団の残党じゃないかって話よ」
「まあ警官ならそう言うわな」
 舞奈とテックの疑問に答えながら淡々と話を続ける。

 金髪の集団だから襲いたくなったのだろうか?
 まあ他の住人に被害が出る前に慣れた人間を襲ってくれて良かったと思う。

「そうそう。対処した騎士たちの動きが以前より良くなってたわよ」
「そいつは結構。EU圏のトラブルとやらで鍛えられたかな?」
「かもしれないわね」
 続く、まあ朗報に顔をほころばせていると……

「……あっマイちゃん。みんなもおはよう」
「マイも安倍さんもテックもおはよー!」
「ちーっす」
「あら、おはよう」
「おはよう」
 園香とチャビーもやってきた。
 2人が開けたドアから他の生徒たちもやってきて、教室が少しにぎやかになる。

「レナちゃん、昨晩はどうだった?」
「お仕事で凄く疲れたみたい。お風呂に入ってご飯を食べたらすぐ寝ちゃった」
「ハハッ! 昼間に少し付き合ったが、頑張ってたからな」
「そうなんだ。お仕事なの?」
「まあ、そんな感じだ」
 楽しそうに話す園香を見やって舞奈も笑う。

 レナや舞奈たちが何をしているかを園香やチャビーに話す事はできない。
 彼女が不法移民とも箱舟とも無縁の社会で生きる普通の市民だから。
 それでも友人として気持ちは通じ合っているから、こうして笑い合える。
 なので……

「そういえば夕食の時にレナちゃんがね……」
「ネコポチとね!」
「一緒に食ったのか?」
「うん! 帰りは暗くなっちゃったからマーサさんが送ってくれたんだよ! マーサさん、話がすごく面白いの!」
「良かったわね」
「……暇なのか? あの人は」
「それより殿下とネコポチちゃんはどうなったの?」
 はずんだ声色の園香やチャビーの話に、皆も笑顔で耳を傾け、話をうながす。
 そうする間だけは、舞奈もキナ臭い話を頭の中から追い出した。

 ふと教室の隅を見やると、みゃー子がゴブリンの物まね(?)をしていた。
 今日も初等部の教室は平和だった。

……そんなこんなでホームルームが始まり、昼間の授業も滞りなく過ぎる。

 そして何事もなく放課後。
 下校した舞奈たちは今日もレナ達のパトロールに同行した。

「……通行人が多いが、感知はできるのか?」
「街中で魔力感知くらい普通にできるわよ。魔術結社のロッジもないからなりかけの魔力みたいなのもないし、ロンドンやマンチェスターよりよっぽど楽よ」
「そいつは結構」
 勝ち気なレナに答えつつ、居並ぶ店舗を横目に商店街を歩く。

 今日の舞奈たちの持ち場は学校や商店街がある亜葉露あばろ町だ。
 初等部の授業が終わった後くらいの時間だが、通りに人はそこそこいる。
 女児を先頭にぞろぞろ歩くヨーロッパ系の金髪の集団を、道行く人々がちらちらと見やる視線も感じる。
 まあ人数的に目立つのは仕方ない。
 不幸中の幸いなのは、金髪どもの容姿が映画俳優ほどぱっとしない事。
 あるいは不審者として通報されない程度に顔立ちは白人な事だ。

「市民が多いと有事の際の巻き添えが心配だな」
「そいつは今のところ問題なさそうだ」
 ジェイクが周囲を見渡しながら難しい顔をする。
 彼らはEU圏の騒動の収拾にも駆り出されていたと聞くし、まあ明日香が見て成長がわかるくらい色々と大変な事があったのだろう。
 何故なら怪異どもは周囲の被害を考慮して暴れたりはしない。
 なんなら自身の邪悪な目的や保身のために市民を盾にしたり襲ったりする。
 何処の国でも同じだ。だが、

「む。まさか一般市民にお前のような自衛能力があるのか?」
「いやそれ、どんな街だよ」
 言ってみた途端、上半身マッチョがボケてきたので苦笑する。
 まったく。

「昨日も今日も、それっぽい不審者が見当たらないんだ。ここら辺も本来は外国人なんて滅多にいないしな」
「言われてみればそうだな……」
「ほら、昨日の諜報部の連中も見た事すらないって言ってたろ? だから箱舟を先に見つけて奪い返せば、人への被害は最小限で済む」
「おお、それは素晴らしい」
「……はずだ」
「おおい……」
 舞奈は説明してみせるが、最後の言葉にジェイクは思わず苦笑する。

 だが、そればっかりは仕方がない。
 舞奈だって事情も知らない怪異どもによる被害をゼロにできると断言できるほど運の良さに自信はない。
 いっそ目の前に浅黒い顔の不審者があらわれてくれたほうがマシだ。
 そうすれば舞奈が直接ぶちのめして他の怪異の居場所を吐かせ、起きるはずだった他の被害を防ぐ事ができる。
 そんな事を考えながら……

「……っていうか、今日はマーサさんこっちなのか」
「ええ。同じ体制で見回るより効果は上がりますので」
「だと良いけどな……」
 何食わぬ顔で同行してくるマーサに苦笑する。
 先日はルーシアと同行したり、レナと一緒に夕食にお呼ばれしたりと自由だ。

 そして今日の舞奈たちの持ち場は学校や商店街がある亜葉露町だ。
 ルーシア達と一緒に統零とうれ町を巡るより面白いと思ったのかもしれない。
 まったく。
 野放図な術者兼メイドに内心で肩をすくめた途端……

「……あの野郎」
 思わず苦虫を噛み潰したような表情をする。
 何故なら人混みの中に、別の野放図な知人を見つけてしまった。

 もちろん皆が危惧するような敵じゃない。
 黒くもないし、大柄でも怪異でも中毒者でもない。
 だが服も着ていない。
 唯一の装飾品として片眼鏡をかけ、形の良い乳を誇示するように揺らせてモデルのように堂々と通りを練り歩いている。
 そんな隠す素振りすらないわいせつ物の側を、他の人々は普通に通り過ぎる。

 ある意味で不法移民よりはるかに異様な絵面。
 だが残念ながら舞奈がよく知っている状況、そして人物だ。

 強力な認識阻害によって着衣していると周囲には見せかけながら全裸で歩く女。
 要するに高等魔術師の山崎ハニエルだ。

 舞奈も通行人と一緒に気づかぬ素振りを決めこもうとするが……

「……やあ、舞奈君。こんな所で会うとは奇遇だね」
 全裸は舞奈たちに早速に気づき、にこやかな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
 ひとりだったらダッシュで逃げてやったところだが、今回はそうではない。
 なので全裸と王女が、

「貴女はヘルバッハの件の時の――」
「高等魔術師の山崎ハニエルだ。お久しぶりです。レナ王女」
 大変なげかわしい事に普通に挨拶などしている所に、

「おおい、年頃の男性もいるんだ。服着ろよ」
「……?」
 苦笑しながらツッコんでみせる。
 だがハニエル本人(良い面の皮だ)は元より他の面子も一斉に首をかしげ……

「……えっ何を言ってるんだ?」
「服は着てるんだナ」
「妙な幻覚でも見たか? そんな事ばかり考えてるからだぞ」
 一斉にツッコんできた。
 逆に舞奈が困る。
 生え際が後退している奴は説教までしてきたし。
 もちろん冗談を言っている雰囲気ではない。

 妙な幻覚を見せられて服を着てると思わされているのはあんたらだ!
 そう思ったが、言っても無駄なのはわかっている。
 耐性のない騎士たちが認識阻害の効果を受けるのは仕方がない。

 だが流石に魔術師ウィザードでもあるレナは全裸を見抜けて……

「……どういうふざけ方よ? それ、園ちゃんの前で言ってないでしょうね?」
 見抜けてない!?
 本気で軽蔑している目つきで睨んできた。

……彼女にだけはKAGEの件は黙っていようと心に決める。

 それはともかくハニエルの認識阻害にはレナすら抵抗できないらしい。
 つまりヘルバッハの時も全裸とは知らずに共闘していたという事か?
 何とも心穏やかで羨ましい限りだ。

 まあ確かにレナは優秀なルーン魔術師とはいえ年若い。
 対してハニエルの言動はこんなだが、その技量は舞奈も認めざるを得ないほど。
 身なりはともかく身体も技術も相応の年月を重ねた大人だ。
 大魔法インヴォケーションを含む多彩な魔術、護符による疑似呪術を操り、舞奈たちの大掛かりな作戦を何度もサポートしてくれたのは事実だ。
 その差が、こんな些細な場所でもあらわれたのだろう。
 そんな事を考えて、やれやれと苦笑した途端……

「……なるほど高等魔術の【消失の衣バニッシュメント・コート】ですか」
(こっちが気づくのか……!?)
 マーサがボソリとひとりごちた。
 この上なく面白いものを見てウキウキした表情をしているので、冗談で逆張りをしている風でもなさそうだ。
 彼女は公道で全裸が王女に謁見している珍妙な絵面を正しく認識している。

 再び舞奈はビックリする。
 正直なところマーサのケルト魔術師としての腕前は凡庸だ。
 彼女にとって魔術は生活に役立つ最低限のスキルに過ぎないからだろう。
 魔術結社【組合C∴S∴C∴】のメンバーの中でもおそらく有力者であろうハニエルとは比べるまでもない、実力ではレナの方がはるかに上だ。
 だが認識阻害、つまり意識への介入に用いられるフックのひとつは思いこみ。
 つまりは常識だ。
 子供が認識阻害を見破りやすいのと同じ。
 ある意味で常識のない人間も、そうでない人間より認識阻害に抵抗しやすい。

「言っとくが真似するなよ? あんたの技量じゃあ本当に全裸で歩いてるのと変わらんからな」
「流石にそのくらいの常識はありますよ」
「だと良いがな」
 釘を刺して返ってきた言葉に、思わず苦笑してみせる。
 途端……

「……そう言う事かっ!?」
「うおっ!?」
「どうしたんだナ!?」
 いきなりゴードン氏が爆発した。
 正確には血の気の多い中学生みたいに鼻血を吹いた。
 他の騎士たちが仰天する。

 こちらは【精神読解マインド・リード】で舞奈の心を読んで意識への介入を確信したか。
 そもそも以前に彼は舞奈の表層意識を何度も読んでいる。
 その際にも、そういう全裸が徘徊しているという情報は伝わっていたはずだ。
 斯様に自分が見ているものが幻だと確信する事によっても認識阻害を見破れる。
 故に彼もまた着衣という欺瞞を見抜く事ができた。
 それが良い事かどうかはともかく。

 そのように他の騎士やレナが慌てて童貞壮年を介抱する中……

「……で、何の用でこんな所をうろついてたんだ?」
 舞奈は全裸に問いかける。
 流石にこの状況で、単に面白そうだからという理由で全裸を見せつけに来るほど暇を持て余している奴だとは思いたくない。
 そんな【組合C∴S∴C∴】の上位術者は、

「英国から強奪された魔道具アーティファクトの行方を、【組合C∴S∴C∴】でも追っているのさ」
「成果はあったのか?」
「残念ながら。本当にこの界隈にあるとしたら、よほど厳重に隠蔽されているのだろうね」
「そりゃまた」
 その登場からは意外なほど簡潔に伝えた。
 だが彼女の言葉に舞奈は口をへの字に曲げる。

 国内有数の魔術結社でもある【組合C∴S∴C∴】が、奪われたプリドゥエンの箱舟の捜索に乗り出す事そのものは普通に納得できる展開だ。
 そのために彼女が動いているという話も。

 だがハニエルは熟達した術者だ。
 つまり箱舟は彼女が見つけられない隠し方をされているという事になる。
 単純に魔術の技量によるものか?
 何らかの裏技によるものか?
 どちらにしても厄介だ。
 あるいは実は、この界隈に箱舟は存在しないのか?

「それじゃあ、わたしは調査に戻るよ」
「人様に迷惑かけないようにな」
 ハニエルはその場を離れる。
 大半の人間は見る事の出来ない形の良い尻を見やりながら……

「……まったく」
 舞奈は苦笑する。

 正直、国内の魔術結社が協力してくれていると知れたのは悪い事じゃない。
 だが肝心の成果は何も得られなかった。
 純朴な童貞壮年の心が汚れただけだった。なので、

(やかましい)
 ゴードンの文句を脳裏で聞きつつ……

「……やれやれ。張の店が近いし、飯でも食うか?」
「パトロールの途中よ」
「これも情報収集だよ」
 見知った繁華街に並ぶ店から『太賢飯店』の看板を見つけて勝手に向かう。
 他の皆も仕方なく続く。
 まあ色々な意味で、このまま調査を続けても効果は薄いと察していたのだろう。
 なので……

「……ちーっす」
 建てつけの悪いドアをガラリと開けて、

「おや舞奈ちゃん、いらっしゃいアル。それにスカイフォールの皆さんも!」
 千客万来を見やった途端に満面の笑顔になった張に苦笑しながら我が物顔で入店した途端……

「……今度はあんたか」
「おや舞奈さん。皆さんも奇遇ですね」
「あっどうも。この時期の夜半は冷えますね」
「あたしはあんたたちを見た途端に肝が冷えたがな」
 カウンターを睨みつける。

 何故ならそこでも半裸が飯を食っていた。
 正確にはストッキングと眼鏡のみを身に着けた、顔立ちだけは知的な美女。
 その隣で汁なし担々麺をすする、地味な普通の格好をした小柄な女。

 ひとりは言わずと知れた高等魔術師チャムエル。
 もうひとりはKoboldとの一件でチャムエルと一緒にいた……要はチャムエルカーの運転手だ。

「よっ調子はどうだ?」
 舞奈は2人の隣の席にドッカリ座る。
 単にそこがいつもの席だからだ。
 それにチャムエルが所属する【協会S∴O∴M∴S∴】も箱舟の行方を追っているはずだ。
 レナに情報収集だと言った手前、話を聞く機会を逃すべきじゃない。

「注文は何にするアルか?」
「担々麺と餃子で」
 メニュー表も見ずに、張にいつものメニューを頼む。
 その背後で騎士たちはテーブル席を陣取ってワイワイと注文を決めている。
 マーサも一緒だ。

 その一方でレナは舞奈の隣に座り……

「ちょっ!? 貴女!? 公共の往来で……!!」
「こっちは見抜けるのか? ……っていうか、何処かに閾値があるのか?」
 隣のチャムエルを見やって露骨に動揺する。
 店に入った時は普通に挨拶してたし、近づいてから気づいたのだろうか?
 こういうのも腕の差なのだろうか?

 金属とビーム、重力の魔術を操る高等魔術師である彼女。
 だが認識阻害の腕前はハニエルには及ばないらしい。
 術者としての技量はマーサ<チャムエル<レナ<ハニエルと言ったところか?
 そこまで単純でもないのかもしれないが。

 ちなみにヘルバッハとの決戦の際には彼女はハニエルと一緒にいた。
 レナが気づかなかったのはこっちの認識阻害に巻きこまれていたからか?
 そのように訝しむ舞奈、それどころじゃないレナを尻目に、

「いやーさっぱりですよ」
 運転手の方が答えた。
 そんな事だろうと思った。

 まあスカイフォールの王族に加えて複数の魔術結社が乗り出してくる案件だ。
 敵もそれなりの対策をしていると考えるのが妥当だろう。
 つまり、そう簡単には見つからない。
 いつも舞奈が引き受けているような仕事と同じだ。

 一方、テーブル席ではゴードン氏がまた鼻血を吹いて騒ぎになっている。
 うっかりこちらを見てしまったらしい。
 気だけは若くて結構な事だ。

 なので舞奈は雑談などしながら普段通りに食事を平らげ、普段通りにツケにしてから今日のパトロール隊の解散に合わせて帰宅した。
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