366 / 593
第17章 GAMING GIRL
ホームセンター制圧 ~銃技&戦闘魔術&異能力vs巨大屍虫
しおりを挟む
怪異に占拠された街を2台の軽乗用車で進む一行。
カーチェイスの後に、倍の数であらわれた敵車。突如として湧き出た屍虫の群れ。
「ちょ!? 待ってよ!?」
「どうすんの? このままじゃ俺ちゃんたち囲まれちまうぜ」
ピアースがまともに怯える。
スプラも軽口を叩きながらも動揺する。そのとき、
『こちらバーン! こちらに状況を打開する案がある!』
「どういうことだ?」
胸元の通信機からバーンの声が溢れる。
『明日香ちゃんが言うには、近くにある施設を奴らが不自然に避けてるらしい! たぶんホームセンターだ! 一旦、そこに逃げこむ!』
おそらく偵察用の式神を放っていたか。
明日香の用意周到さが、攻撃魔法以上に一行の窮地を救っている。
融通のきかない性格故に占術の腕前はからっきしな彼女。
だが斥候と理論的思考を軸にした偵察の腕前はちょっとしたものだ。
「そうか……了解した!」
トルソは即答。
明日香の判断を信用したのだ。
先ほど3台の敵車を瞬時に粉砕した明日香の力量を見た直後だからか。
加えて数多の修羅場をくぐってきた彼は、ただの子供と魔術師の区別がつく。
だから次の瞬間、バーンの車が加速する。
舞奈たちの車に並走し、少し追い越す。
途端、後部座席の窓から小さな何かが放り投げられた。ドッグタグだ。
一瞬の後、数個のドッグタグが一斉にプラズマの塊と化す。
群れ成すプラズマ塊は稲妻の砲弾と化し、前方めがけて突き進む。
即ち【雷嵐】。
いつもみたいにベルトごと投げたりはしない。
リソースを節約したいのだろう。
それでも明日香が創造できる魔力は以前よりパワーアップしている。
低い位置から放たれたプラズマの砲弾たちは一斉に前へ向かって飛ぶ。
やや狙いが荒い気がするものの、水平に降る稲妻の雨が屍虫の群れを薙ぎ払う。
直前まで屍虫どもがひしめいていたそこは、今や焼け焦げた消し炭の道だ。
『今のうちに!』
『お、おう!』
通信機から漏れる明日香の指示と、圧倒されるバーンの声。
同時にバーンの車がさらにスピードを上げる。
「こちらも追従する!」
トルソも答えながらアクセルを踏みこむ。
すると舞奈たちの車も、新たに跳び出してきた1匹を跳ね飛ばしながら続く。
背後からエンジン音。
見やると新たなダサ車が迫る。
「こっちはあたしが足止めするよ」
舞奈は後部座席の窓から身を乗り出して改造拳銃を撃つ。2発。
先頭の2台の斜めになったタイヤに穴が開き、スピンして互いに激突する。
続くダサ車も勢い余って車の壁に激突、うち何台かが炎上する。
玉突き事故から逃れるように、2台の軽乗用車はトップスピードで走る。
そうやって法定速度など度外視してかっ飛ばし、
「あっそこの角を曲がってください。その先です」
「ピアースが道を知ってる! 次の角だ!」
『右? 左?』
「右にしか道ないだろ!? 目を開けて運転してくれ!」
「あっすいません! そこの細い道です!」
「左だ左! 細い道!」
『ええっ!?』
ピアースの頼りにならない案内。
踊らされるトルソと通信機の向こうで混乱するバーン。
『それ車で通る道じゃないじゃん!』
「すいません以前に近道に使った道で……」
『ハンドル切ってください! サポートします』
こっちの車が先行したほうが良かったんじゃないかと無言で見守る舞奈の目前で、バーンの車が直角に曲がる。
運転免許を持たない舞奈ですらわかるくらい不自然な直角さだ。
明日香が【力波】で斥力場を操り、車の向きを無理やりに変えたのだろう。
そして民家の垣根と垣根の間にのびる、自転車同士ならどうにかすれ違えるくらいの細い道を、2台の軽乗用車が左右をこすりながら走る。
前を走るバーンの車は悲惨な状況だ。
続けざまのカーチェイスで相応のダメージを受けている。
鉄パイプで殴られ、ダサ車に体当たりされて外装はボロボロ。
走っているだけでもやっとの有様だ。
だが、こちらの車も状況は似たり寄ったりだろう。
どうにかして代わりの足を確保する必要があると舞奈は思う。
おそらくトルソやバーンも同じ考えだったのだろう。
だから明日香の案に乗った。
まあ、ホームセンターに車が売っているかは知らないが。
そんなことを考える舞奈の目前で、
『おおっと!』
バーンの車が、道の向こうからあらわれた屍虫を跳ね飛ばす。
千切れて後続車の前に落ち、そのまま轢かれた上半身が焼き焦げているのを見やる。
バンパーが【火霊武器】で燃えているらしい。
「……そっか。くるまも運転手の異能力を使えるんだっけ」
「よく知ってるな。異能力者が運転するヴィークルは異能力者の身体の一部だ。慣れればサムライ系の異能だけでなく【装甲硬化】や【狼牙気功】も使える」
ひとりごちた舞奈にトルソが答える。
舞奈は花屋で見た20年後の夢を思い出したのだ。
仲間の異能力者たちはロボットで異能力を使っていた。
だが、なるほど。現実の世界でも異能力者は車を自身の現身や、得物や武具と見なして異能力を使えるらしい。
そう考えれば先ほどのカーチェイスでのトルソの余裕も合点がいく。
おそらく自身の車に【装甲硬化】を使っていたか。
ピアースが斥力場障壁を張ろうと頑張っていた手前、特に何も言わなかった。
だが実際は、窓の中にでも撃ちこまれなければ酷い被害はなかったのだろう。
そんな妙技まで用い、どうにか細い路地を駆け抜けて跳び出した先には、
「店の周りにいっぱいいるんだけど!?」
「だが中にはいない。入れない理由があるんじゃないのか?」
怯えるピアースに舞奈が答える。
目前に広がるのは、広い広い駐車場。
その奥に鎮座する1階建ての広い建築物。
ショーウィンドウを兼ねた広い窓から、並ぶ棚が見える。
掲げられた看板からしてホームセンターに間違いない。
だが避けているとは言うが建物を遠巻きに囲み、駐車場にまで溢れた不穏な人影。
薄汚い野球のユニフォームを着こんだ喫煙者の群れだ。
しかも双眸を狂たように見開き、両手のカギ爪を振り上げた屍虫。
到着したホームセンター周辺も屍虫どものテリトリーだった。
だが広いショーウィンドウ越しに見える店内に目だった人影はない。
まあ一応、明日香の情報通りだ。
「意外に考えてるじゃないのさ、お子様のくせに」
「っていうか今の一瞬で見えたのか?」
スプラとトルソが感心し、驚く。
舞奈たちの軽乗用車は跳び出してきた屍虫を蹴散らしながら駐車場に停まる。
同時にドアを蹴り開けるように舞奈が跳び出す。
跳びかかって来た1匹を殴り倒して喉笛をナイフでかき切る。
なるほど屍虫だ。
カギ爪が生えているし動きも素早い。舞奈ほどじゃないが。
車の接近に気づいて群れから離れて走り寄ってきたか。
他の同類と意思疎通して集団で襲いかかってこなかったのは不幸中の幸い。
身体能力と引き換えになけなしの理性を失った屍虫の知性は動物以下だ。
だが楽観視する気にはなれない。
舞奈たちが結界に侵入して、まず襲ってきたのは進行していない脂虫の珍走団。
そいつらを片付けたら銃で武装したダサ車。屍虫の群れ。
どうにか見つけた拠点に出来そうな施設の周囲にも屍虫の集団。
それらがすべて奴らの本能によるものだとは思えない。
もっと高いレイヤーから何かが奴らを指揮し、侵入者を組織的に襲わせている。
舞奈が考える僅かな隙に、弓矢を携えたスプラ、太刀を構えたトルソが跳び出す。
最後に長い槍を苦労して取り出しながらピアースが出てくる。
少し離れた場所にバーンの車が停まる。
ボロボロになったドアが蹴り開けられて切丸とバーン、明日香が跳び出す。
襲いかかってきた数匹を切丸は両手の刀で、バーンは燃える剣で斬り伏せる。
こちらの腕前も相当だ。
「これより、あのホームセンターを占拠する」
「へへっ! 腕が鳴るぜ!」
トルソの指示に、まずはバーンがいきり立つ。
カーチェイスしながらの撃ち合いで活躍できなかった鬱憤がたまっているらしい。
先ほどのダイナミックなドライビングでは満足できなかったか、
「バァァァニング!」
楽しそうに叫びながら屍虫どもを斬り伏せ、焼き払う。
そんなバーンを尻目に、
「じゃあ、MVPは俺ちゃんがいただき!」
言いつつスプラが弓を引き絞り、放つ。
放たれた矢は膨らみ、巨大な水の塊なって飛翔する。
どうやら魔術を焼きつけられた特別な矢か。
魔術の水塊は密集した屍虫をまとめて轢き潰し、爆発。
破片は周囲の屍虫を斬り刻む。
楓の手札に少し似ている。
「へぇ、やるじゃねぇか!」
「まだまだ! 俺ちゃんの怒涛の攻めはこれからよ!」
笑うバーンを尻目に、次いで新たにつがえた矢には紫電が宿る。
こちらは御馴染みの【雷霊武器】。
矢継ぎ早に放たれた稲妻の矢は屍虫の胸に突き刺さって焼く。
やや不自然なゲル状になってアスファルトの上に留まる魔術の水が、紫電の残滓を吸収し、放電することで他の屍虫の動きを鈍らせる。
なるほど彼の異能力を最大限に活かすための、魔術によるサポートか。
「足は止めたぜ! 後はまかせた!」
役目を果たして跳び退るスプラの側で、
「了解しました。……魔弾!」
明日香の掌から放電する巨大な雷球が放たれる。
即ち【雷弾・弐式】。
明日香が修めた戦闘魔術の中でも初歩的な、故にシンプルに強力な電撃。
恐ろしいプラズマの砲弾は放電で動きの鈍った屍虫どもを次々に飲みこみ、消し炭に変えながら飛び、ホームセンターの壁を焦がして消える。
そんな代物を矢継ぎ早に3発。
「すごい……」
「こいつはスゲェ! 流石は魔法系だ!」
凄まじい攻撃魔法の威力にピアースが目を剥く。
バーンは興奮のあまり叫ぶ。聞き慣れない言い回しはゲーム用語か?
他の異能力者たちも驚愕の表情は同じだ。
だが瞬時にして数を半分に減じた屍虫どもは、さすがに奇襲に気づいたらしい。
雄叫びをあげながら一行めがけて襲い来る。
舞奈は短機関銃で数匹を片づける。
ばら撒くように撃ち放たれた小口径ライフル弾のそれぞれが、手品のように屍虫の胴に、頭に吸いこまれて粉砕する。
うちいくつかは貫通して背後の屍虫を同時に撃ち抜く。
「ヒュー! 惚れちゃいそうだぜ! おチビちゃん!」
「流石だな舞奈!」
恐るべき射撃技術に、これまた側の男たちが驚愕する。
まあ無駄弾を撃たず、可能な限り残弾を温存したいという思惑も少しある。
なので少しばかり撃ち漏らした何匹かを、
「俺の出番がなくらなくて良かった!」
トルソは太刀で叩き斬る。
ひと目で重量のほどが知れるほどの重い太刀を苦も無く振るい、怪異の胴を両断だ。
次いで真横から襲い来るもう1匹のカギ爪を片腕で受け止める。
変哲のない作業服を【装甲硬化】で無敵の鎧と化したのだ。
間髪入れずに蹴り倒す。
距離が開いた敵を斜めに袈裟斬りにする。
「あんたもやるじゃないか!」
別の1匹を左手のナイフで仕留める舞奈の側で、
「いくぜぇ! バーニング!」
バーンの剣に炎が宿る。
燃えさかる剣が、襲い来る屍虫どもを焼き尽くす。
舞奈も負けじと迫る屍虫に跳びついて首を掻き切る。
その側で、
「僕を忘れてもらっちゃあ困るね!」
2本の刀を構えた切丸が突撃する。
高速化の異能力【狼牙気功】による突進力を生かした爆発するような一撃。
それは今は亡き執行人バーストがしていたという戦法だ。
小柄な刀剣の使い手が、大人の男性サイズの敵と相対するには効果的なのだろう。
だが先方が透明化からの奇襲なのに対し、切丸のそれは物理的な速さを攻撃速度と威力へと変えた、見えていても対処できない必殺の一撃。
そんな代物をまともにくらった屍虫は、成す術もなく胴をえぐられ倒れ伏す。
そのように勢いの乗った2本の刀が、くわえ煙草の怪異を無慈悲に次々に粉砕する。
その一方で、
「う、うわぁ!」
ピアースはへっぴり腰で槍を突き出す。
幸運にも避けられずに胸元に当たった先端に、宿らせた斥力の刃が屍虫を穿つ。
こちらは見ていて不安になるような攻防だ。
それでも拙いながら1匹を倒すことができた。
次いで跳びかかってきた1匹に対応できずに身をこわばらせる。
だが振り下ろしたカギ爪が虚空で止まる。
青年の周囲を、会得したばかりの【重力武器】による斥力場が覆っていた。
だから舞奈は左手で抜いた拳銃で屍虫の頭を吹き飛ばしつつも「あんたは下がっててくれ」という一言を飲みこんだ。
そのように着実の敵の数を減らす一行だが、
「トルソさん避けてください!」
「!?」
明日香の警告に思わず見やるトルソの目前。
そこにが巨大な何かが『降って』来た。
「――魔弾!」
明日香が迎撃を試みる。
だが焦って放ったプラズマの砲弾は屍虫の巨躯をかすめて虚空へと消える。
避けたトルソの残像を踏み抜いて降り立ったのは巨大な大屍虫だ。
着地の衝撃でアスファルトが凹む。
背丈は長身なトルソより大きな3メートルほど。
進行する際に服が破れたか上半身は歪に膨らんだ筋肉の塊。
飛んできたように見えたのは、凄まじいジャンプ力で跳躍してきたか。
落下の勢いをも乗せた凄まじいパンチがトルソを襲う。
「くっ!」
トルソは受け止めた太刀ごと吹き飛ばされる。
武具を強化する【装甲硬化】でなければ太刀ごと粉砕されていた。
「これが大屍虫ってやつか!?」
「で、でかい……!」
いきり立つ切丸と怯むピアース。
「いや、そんな生易しいもんじゃないぞ」
「ネームドモンスターって奴だな!」
口元を歪める舞奈の言葉に、口元に不敵な笑みを浮かべて答えるバーン。
舞奈の脳裏をよぎるのは、以前に相対した死霊使いクラフター。
奴は複数の脂虫を貼り合わせて巨大なゾンビを作ったらしい。
目の前の屍虫も似たようなものだ。
素体こそ1匹だが、怪異の魔力を限界以上に注ぎこまれたのだろう。
いうなれば巨大屍虫とでも言ったところか。
何せ周囲に立ちこめるWウィルスそのものが、ひとつの県を結界で包むほどのパワーの源なのだ。どんな出鱈目がおきても不思議じゃない。
「まあ何匹も合体した奴よりマシか」
「あれか? ディフェンダーズのクラフター・ジャイアントゾンビって奴」
(……あの女、映画でも同じことやってたのか)
ゲーマーなだけでなく映画好きでもあるらしいバーンの言葉に苦笑する。
まあ奴が映画の中だけでなく実在することはこの際、脇に置いておくとして、
「いくぜデカブツ! バアァァニング!」
「僕の敵じゃあないね!」
バーンは爆炎の如く燃え盛る剣を振り上げ、渾身の力で振り下ろす。
切丸も2本の刀を構えて突進する。
だが3本の刃は巨大屍虫の逞しい脚を少し焼き、傷つけるのみ。
「くっ!」
「うわあっ!」
「バーンさん!? 切丸くん!?」
巨大屍虫は丸太のような拳で2人を殴り飛ばす。
ボーリングのような勢いでアスファルトを転がる2人。
悲鳴をあげるピアース。
だが受け身を取った2人に大事はない。
「おーこわっ。こりゃまじめに戦ったらヤバイ相手だ」
軽口を叩きながらも、スプラは矢継ぎ早に矢を放つ。
雷撃の雨にさらされた巨大屍虫は怯む。
「そいつは同感だ」
舞奈も短機関銃で巨人の目を潰す。
どんなに巨大になっても鍛えきれない両目を小口径ライフル弾にえぐられ、激痛と暗闇に巨大屍虫は叫ぶ。その隙に、
「――妨害」
明日香が氷塊を放ち、巨大屍虫の下半身を氷漬けにする。
即ち【氷獄】。【氷棺・弐式】より強力な氷による拘束術。
正直なところ弾速が遅く、避けられやすい術ではある。
だから十分な援護を確認してから施術した。
代わりに威力は絶大。
なにせ魔獣マンティコアすら僅かの間、拘束せしめた魔術だ。
「斥力による攻撃なら皮膚と筋肉による防護を貫通しやすいはず。ピアースさん!」
「あ、ああ!」
明日香の言葉に突き動かされ、ピアースが手にした槍の穂先が黒く光る。
斥力場のフィールドを生み出す【重力武器】の魔力が収束されているのだ。
「え、ええい!」
頼りないながらも槍で突く。だが……
「……おい」
「えっ? ええっ!?」
巨大屍虫のシックスパックの中心を、僅かにそれてわき腹を穿った斥力場の槍。
だが漆黒の槍は無情にも表皮を削るのみ。
腕力か勢いか魔力のどれが足りないらしい。
呆然とするピアース。
態勢を立て直したバーンと切丸、トルソまでもが硬直する。
急場にしては万全の連携の元で繰り出されたはずの必殺の一撃。
それすら効果がない相手に、もはや対処は不可能。
そう皆が思った瞬間、
「下がってください!」
「ええっ? ……うわ!」
「――災厄!」
明日香は叫ぶとともにドッグタグをばらまき、魔術語。
途端、タグのそれぞれが見えざる力場の杭と化す。
砲弾の如く斥力の嵐が怪異めがけて放たれる。
1発が避け損ねて転んだピアースの斥力場障壁に干渉して引き千切る。
そのまま全弾が巨大怪異の胴に激突。
工事現場か事故のような凄まじい異音とともに、幾つもの風穴を開ける。
即ち【砲嵐】。
斥力場の砲弾を複数まとめて発射する魔術。
先ほど明日香が示唆した通りに鋭く、敵の防護を貫通しやすい斥力の刃。
攻撃魔法として放たれたそれの勢いは斥力の槍をはるかに超える。
そんなものが、複数。
強大な筋肉による暴虐を、さらに上回る魔法による暴力によって粉砕したのだ。
明日香には――魔術師にはそれができる。
一行が目を見開く中、引き千切られた巨大屍虫の上半身が路地に叩きつけられる。
下半身を縛める氷も溶けて、下半身もドウと倒れる。
だが同時に上下に千切られた身体そのものも塵になって消える。
大屍虫は肉体を悪の魔力で置き換えた代物だ。
魔法が消えれば存在そのものが消える。
そのようにして巨大怪異を含む屍虫を群れをあらかた倒した一行は、
「うっ後ろから敵が来てる!」
「このまま店内に突入する!」
ピアースの悲鳴、トルソの指示に急かされ、開け放たれた店のドアに突入する。
トルソとバーンが跳び入り、ポイントマンよろしく店内を警戒する。
次いで短機関銃を、小型拳銃を構えた舞奈と明日香。
敵影はなし。
まあ屍虫がいないのはショーウィンドウ越しに見えていた。
だが天井や棚の陰から跳び出してくる様子もない。気配もない。
だから直後にスプラや切丸、ピアースも続く。
店の周囲には後続の屍虫が殺到する。
そいつらも店の入り口で止まった。
店内に侵入しようとする気配はない。
他の屍虫がショーウィンドウごしに叫び、猛り狂う様子が不気味なのは事実だ。
だがホームセンターの中に入った舞奈たちを威嚇しているというより、一行の姿が見えなくなって、あたり構わず吠えているといった様子。
何らかの力で、外から中が認識できなくなっているらしい。
そうするうちに屍虫どもは唸るのを止め、店の外を徘徊しはじめた。
侵入者たちのことを諦めたか、忘れたか。
どちらにせよ、今のところ店の中は安全のようだ。
そのようにしてホームセンターを占拠した一行は……
「……シャイでクールな俺ちゃんが、なんでこんな肉体労働を」
「そのクールなおフェイスを屍虫どもにかじられていいなら、おまえが寝る場所だけ手抜きして構わんぞ」
「ちぇっ」
スプラとトルソが入り口にバリケードを築いていた。
材料は金属製のワゴンや什器。
軽くて運びやすい資材コーナーの木材を使おうというスプラ案は、そんなもん積んでも意味がないと満場一致で却下された。
気づくと日も暮れかけている。
脂虫・屍虫だらけの街中を夜間にうろつくのは自殺行為だ。
おまけに一行が店の中にいる間は相手も出だしはできない様子。
なので少なくとも今晩はここで野営をすることに決まった。
そのために舞奈たちは入り口を封鎖して安全を確保しようとしているのだ。
そのままホームセンターを当座の拠点にするか、早々に引き払って支部の拠点に向かうのかは後で決める。
「っていうか、あっちの子供に負けてるぞ」
「ええっいやあれはもう人間じゃないだろう……」
2人が見やる隣では、
「舞奈ちゃん、すごい力なんだね」
「おまえ本当は【虎爪気功】なんじゃないのか?」
「普通に鍛えてるだけだよ」
未成年組が同じ什器を運んでいた。
屍虫でも簡単にはどうこうできなさそうな重い什器の片側にピアースと切丸。
反対側には後ろ向きに歩く舞奈。
その程度、鍛え抜かれた舞奈にとっては余裕だ。
「だいたい、あのバーニング野郎は何処にいったのさ?」
「明日香と店内の探索だ。おっ」
愚痴るスプラに答えるうちに、鈍いモーター音とともにシャッターが降り始めた。
探索組が開閉スイッチを見つけたらしい。
外の屍虫はこちらが見えないらしいとはいえ、念には念をだ。
ただし外の様子がわかるよう、全部は閉めずに何か所かは開けておく。
「よし、入り口と開いてるショーウィンドウを封鎖したら休憩だ。念のために奴らが侵入してきそうな個所を見回ってから、食料の確保だ」
「それ休憩か? やれやれ、先が思いやられるぜ」
トルソの指示に従い、スプラの愚痴を聞きつつ作業を終わらせる。
そうするうちに、棚の向こうから明日香とバーンがやってきた。
どうやら先方も探索を終えたらしい。
そのようにして一行は、脂虫と屍虫で溢れた街の中で一時の安穏を手に入れた。
カーチェイスの後に、倍の数であらわれた敵車。突如として湧き出た屍虫の群れ。
「ちょ!? 待ってよ!?」
「どうすんの? このままじゃ俺ちゃんたち囲まれちまうぜ」
ピアースがまともに怯える。
スプラも軽口を叩きながらも動揺する。そのとき、
『こちらバーン! こちらに状況を打開する案がある!』
「どういうことだ?」
胸元の通信機からバーンの声が溢れる。
『明日香ちゃんが言うには、近くにある施設を奴らが不自然に避けてるらしい! たぶんホームセンターだ! 一旦、そこに逃げこむ!』
おそらく偵察用の式神を放っていたか。
明日香の用意周到さが、攻撃魔法以上に一行の窮地を救っている。
融通のきかない性格故に占術の腕前はからっきしな彼女。
だが斥候と理論的思考を軸にした偵察の腕前はちょっとしたものだ。
「そうか……了解した!」
トルソは即答。
明日香の判断を信用したのだ。
先ほど3台の敵車を瞬時に粉砕した明日香の力量を見た直後だからか。
加えて数多の修羅場をくぐってきた彼は、ただの子供と魔術師の区別がつく。
だから次の瞬間、バーンの車が加速する。
舞奈たちの車に並走し、少し追い越す。
途端、後部座席の窓から小さな何かが放り投げられた。ドッグタグだ。
一瞬の後、数個のドッグタグが一斉にプラズマの塊と化す。
群れ成すプラズマ塊は稲妻の砲弾と化し、前方めがけて突き進む。
即ち【雷嵐】。
いつもみたいにベルトごと投げたりはしない。
リソースを節約したいのだろう。
それでも明日香が創造できる魔力は以前よりパワーアップしている。
低い位置から放たれたプラズマの砲弾たちは一斉に前へ向かって飛ぶ。
やや狙いが荒い気がするものの、水平に降る稲妻の雨が屍虫の群れを薙ぎ払う。
直前まで屍虫どもがひしめいていたそこは、今や焼け焦げた消し炭の道だ。
『今のうちに!』
『お、おう!』
通信機から漏れる明日香の指示と、圧倒されるバーンの声。
同時にバーンの車がさらにスピードを上げる。
「こちらも追従する!」
トルソも答えながらアクセルを踏みこむ。
すると舞奈たちの車も、新たに跳び出してきた1匹を跳ね飛ばしながら続く。
背後からエンジン音。
見やると新たなダサ車が迫る。
「こっちはあたしが足止めするよ」
舞奈は後部座席の窓から身を乗り出して改造拳銃を撃つ。2発。
先頭の2台の斜めになったタイヤに穴が開き、スピンして互いに激突する。
続くダサ車も勢い余って車の壁に激突、うち何台かが炎上する。
玉突き事故から逃れるように、2台の軽乗用車はトップスピードで走る。
そうやって法定速度など度外視してかっ飛ばし、
「あっそこの角を曲がってください。その先です」
「ピアースが道を知ってる! 次の角だ!」
『右? 左?』
「右にしか道ないだろ!? 目を開けて運転してくれ!」
「あっすいません! そこの細い道です!」
「左だ左! 細い道!」
『ええっ!?』
ピアースの頼りにならない案内。
踊らされるトルソと通信機の向こうで混乱するバーン。
『それ車で通る道じゃないじゃん!』
「すいません以前に近道に使った道で……」
『ハンドル切ってください! サポートします』
こっちの車が先行したほうが良かったんじゃないかと無言で見守る舞奈の目前で、バーンの車が直角に曲がる。
運転免許を持たない舞奈ですらわかるくらい不自然な直角さだ。
明日香が【力波】で斥力場を操り、車の向きを無理やりに変えたのだろう。
そして民家の垣根と垣根の間にのびる、自転車同士ならどうにかすれ違えるくらいの細い道を、2台の軽乗用車が左右をこすりながら走る。
前を走るバーンの車は悲惨な状況だ。
続けざまのカーチェイスで相応のダメージを受けている。
鉄パイプで殴られ、ダサ車に体当たりされて外装はボロボロ。
走っているだけでもやっとの有様だ。
だが、こちらの車も状況は似たり寄ったりだろう。
どうにかして代わりの足を確保する必要があると舞奈は思う。
おそらくトルソやバーンも同じ考えだったのだろう。
だから明日香の案に乗った。
まあ、ホームセンターに車が売っているかは知らないが。
そんなことを考える舞奈の目前で、
『おおっと!』
バーンの車が、道の向こうからあらわれた屍虫を跳ね飛ばす。
千切れて後続車の前に落ち、そのまま轢かれた上半身が焼き焦げているのを見やる。
バンパーが【火霊武器】で燃えているらしい。
「……そっか。くるまも運転手の異能力を使えるんだっけ」
「よく知ってるな。異能力者が運転するヴィークルは異能力者の身体の一部だ。慣れればサムライ系の異能だけでなく【装甲硬化】や【狼牙気功】も使える」
ひとりごちた舞奈にトルソが答える。
舞奈は花屋で見た20年後の夢を思い出したのだ。
仲間の異能力者たちはロボットで異能力を使っていた。
だが、なるほど。現実の世界でも異能力者は車を自身の現身や、得物や武具と見なして異能力を使えるらしい。
そう考えれば先ほどのカーチェイスでのトルソの余裕も合点がいく。
おそらく自身の車に【装甲硬化】を使っていたか。
ピアースが斥力場障壁を張ろうと頑張っていた手前、特に何も言わなかった。
だが実際は、窓の中にでも撃ちこまれなければ酷い被害はなかったのだろう。
そんな妙技まで用い、どうにか細い路地を駆け抜けて跳び出した先には、
「店の周りにいっぱいいるんだけど!?」
「だが中にはいない。入れない理由があるんじゃないのか?」
怯えるピアースに舞奈が答える。
目前に広がるのは、広い広い駐車場。
その奥に鎮座する1階建ての広い建築物。
ショーウィンドウを兼ねた広い窓から、並ぶ棚が見える。
掲げられた看板からしてホームセンターに間違いない。
だが避けているとは言うが建物を遠巻きに囲み、駐車場にまで溢れた不穏な人影。
薄汚い野球のユニフォームを着こんだ喫煙者の群れだ。
しかも双眸を狂たように見開き、両手のカギ爪を振り上げた屍虫。
到着したホームセンター周辺も屍虫どものテリトリーだった。
だが広いショーウィンドウ越しに見える店内に目だった人影はない。
まあ一応、明日香の情報通りだ。
「意外に考えてるじゃないのさ、お子様のくせに」
「っていうか今の一瞬で見えたのか?」
スプラとトルソが感心し、驚く。
舞奈たちの軽乗用車は跳び出してきた屍虫を蹴散らしながら駐車場に停まる。
同時にドアを蹴り開けるように舞奈が跳び出す。
跳びかかって来た1匹を殴り倒して喉笛をナイフでかき切る。
なるほど屍虫だ。
カギ爪が生えているし動きも素早い。舞奈ほどじゃないが。
車の接近に気づいて群れから離れて走り寄ってきたか。
他の同類と意思疎通して集団で襲いかかってこなかったのは不幸中の幸い。
身体能力と引き換えになけなしの理性を失った屍虫の知性は動物以下だ。
だが楽観視する気にはなれない。
舞奈たちが結界に侵入して、まず襲ってきたのは進行していない脂虫の珍走団。
そいつらを片付けたら銃で武装したダサ車。屍虫の群れ。
どうにか見つけた拠点に出来そうな施設の周囲にも屍虫の集団。
それらがすべて奴らの本能によるものだとは思えない。
もっと高いレイヤーから何かが奴らを指揮し、侵入者を組織的に襲わせている。
舞奈が考える僅かな隙に、弓矢を携えたスプラ、太刀を構えたトルソが跳び出す。
最後に長い槍を苦労して取り出しながらピアースが出てくる。
少し離れた場所にバーンの車が停まる。
ボロボロになったドアが蹴り開けられて切丸とバーン、明日香が跳び出す。
襲いかかってきた数匹を切丸は両手の刀で、バーンは燃える剣で斬り伏せる。
こちらの腕前も相当だ。
「これより、あのホームセンターを占拠する」
「へへっ! 腕が鳴るぜ!」
トルソの指示に、まずはバーンがいきり立つ。
カーチェイスしながらの撃ち合いで活躍できなかった鬱憤がたまっているらしい。
先ほどのダイナミックなドライビングでは満足できなかったか、
「バァァァニング!」
楽しそうに叫びながら屍虫どもを斬り伏せ、焼き払う。
そんなバーンを尻目に、
「じゃあ、MVPは俺ちゃんがいただき!」
言いつつスプラが弓を引き絞り、放つ。
放たれた矢は膨らみ、巨大な水の塊なって飛翔する。
どうやら魔術を焼きつけられた特別な矢か。
魔術の水塊は密集した屍虫をまとめて轢き潰し、爆発。
破片は周囲の屍虫を斬り刻む。
楓の手札に少し似ている。
「へぇ、やるじゃねぇか!」
「まだまだ! 俺ちゃんの怒涛の攻めはこれからよ!」
笑うバーンを尻目に、次いで新たにつがえた矢には紫電が宿る。
こちらは御馴染みの【雷霊武器】。
矢継ぎ早に放たれた稲妻の矢は屍虫の胸に突き刺さって焼く。
やや不自然なゲル状になってアスファルトの上に留まる魔術の水が、紫電の残滓を吸収し、放電することで他の屍虫の動きを鈍らせる。
なるほど彼の異能力を最大限に活かすための、魔術によるサポートか。
「足は止めたぜ! 後はまかせた!」
役目を果たして跳び退るスプラの側で、
「了解しました。……魔弾!」
明日香の掌から放電する巨大な雷球が放たれる。
即ち【雷弾・弐式】。
明日香が修めた戦闘魔術の中でも初歩的な、故にシンプルに強力な電撃。
恐ろしいプラズマの砲弾は放電で動きの鈍った屍虫どもを次々に飲みこみ、消し炭に変えながら飛び、ホームセンターの壁を焦がして消える。
そんな代物を矢継ぎ早に3発。
「すごい……」
「こいつはスゲェ! 流石は魔法系だ!」
凄まじい攻撃魔法の威力にピアースが目を剥く。
バーンは興奮のあまり叫ぶ。聞き慣れない言い回しはゲーム用語か?
他の異能力者たちも驚愕の表情は同じだ。
だが瞬時にして数を半分に減じた屍虫どもは、さすがに奇襲に気づいたらしい。
雄叫びをあげながら一行めがけて襲い来る。
舞奈は短機関銃で数匹を片づける。
ばら撒くように撃ち放たれた小口径ライフル弾のそれぞれが、手品のように屍虫の胴に、頭に吸いこまれて粉砕する。
うちいくつかは貫通して背後の屍虫を同時に撃ち抜く。
「ヒュー! 惚れちゃいそうだぜ! おチビちゃん!」
「流石だな舞奈!」
恐るべき射撃技術に、これまた側の男たちが驚愕する。
まあ無駄弾を撃たず、可能な限り残弾を温存したいという思惑も少しある。
なので少しばかり撃ち漏らした何匹かを、
「俺の出番がなくらなくて良かった!」
トルソは太刀で叩き斬る。
ひと目で重量のほどが知れるほどの重い太刀を苦も無く振るい、怪異の胴を両断だ。
次いで真横から襲い来るもう1匹のカギ爪を片腕で受け止める。
変哲のない作業服を【装甲硬化】で無敵の鎧と化したのだ。
間髪入れずに蹴り倒す。
距離が開いた敵を斜めに袈裟斬りにする。
「あんたもやるじゃないか!」
別の1匹を左手のナイフで仕留める舞奈の側で、
「いくぜぇ! バーニング!」
バーンの剣に炎が宿る。
燃えさかる剣が、襲い来る屍虫どもを焼き尽くす。
舞奈も負けじと迫る屍虫に跳びついて首を掻き切る。
その側で、
「僕を忘れてもらっちゃあ困るね!」
2本の刀を構えた切丸が突撃する。
高速化の異能力【狼牙気功】による突進力を生かした爆発するような一撃。
それは今は亡き執行人バーストがしていたという戦法だ。
小柄な刀剣の使い手が、大人の男性サイズの敵と相対するには効果的なのだろう。
だが先方が透明化からの奇襲なのに対し、切丸のそれは物理的な速さを攻撃速度と威力へと変えた、見えていても対処できない必殺の一撃。
そんな代物をまともにくらった屍虫は、成す術もなく胴をえぐられ倒れ伏す。
そのように勢いの乗った2本の刀が、くわえ煙草の怪異を無慈悲に次々に粉砕する。
その一方で、
「う、うわぁ!」
ピアースはへっぴり腰で槍を突き出す。
幸運にも避けられずに胸元に当たった先端に、宿らせた斥力の刃が屍虫を穿つ。
こちらは見ていて不安になるような攻防だ。
それでも拙いながら1匹を倒すことができた。
次いで跳びかかってきた1匹に対応できずに身をこわばらせる。
だが振り下ろしたカギ爪が虚空で止まる。
青年の周囲を、会得したばかりの【重力武器】による斥力場が覆っていた。
だから舞奈は左手で抜いた拳銃で屍虫の頭を吹き飛ばしつつも「あんたは下がっててくれ」という一言を飲みこんだ。
そのように着実の敵の数を減らす一行だが、
「トルソさん避けてください!」
「!?」
明日香の警告に思わず見やるトルソの目前。
そこにが巨大な何かが『降って』来た。
「――魔弾!」
明日香が迎撃を試みる。
だが焦って放ったプラズマの砲弾は屍虫の巨躯をかすめて虚空へと消える。
避けたトルソの残像を踏み抜いて降り立ったのは巨大な大屍虫だ。
着地の衝撃でアスファルトが凹む。
背丈は長身なトルソより大きな3メートルほど。
進行する際に服が破れたか上半身は歪に膨らんだ筋肉の塊。
飛んできたように見えたのは、凄まじいジャンプ力で跳躍してきたか。
落下の勢いをも乗せた凄まじいパンチがトルソを襲う。
「くっ!」
トルソは受け止めた太刀ごと吹き飛ばされる。
武具を強化する【装甲硬化】でなければ太刀ごと粉砕されていた。
「これが大屍虫ってやつか!?」
「で、でかい……!」
いきり立つ切丸と怯むピアース。
「いや、そんな生易しいもんじゃないぞ」
「ネームドモンスターって奴だな!」
口元を歪める舞奈の言葉に、口元に不敵な笑みを浮かべて答えるバーン。
舞奈の脳裏をよぎるのは、以前に相対した死霊使いクラフター。
奴は複数の脂虫を貼り合わせて巨大なゾンビを作ったらしい。
目の前の屍虫も似たようなものだ。
素体こそ1匹だが、怪異の魔力を限界以上に注ぎこまれたのだろう。
いうなれば巨大屍虫とでも言ったところか。
何せ周囲に立ちこめるWウィルスそのものが、ひとつの県を結界で包むほどのパワーの源なのだ。どんな出鱈目がおきても不思議じゃない。
「まあ何匹も合体した奴よりマシか」
「あれか? ディフェンダーズのクラフター・ジャイアントゾンビって奴」
(……あの女、映画でも同じことやってたのか)
ゲーマーなだけでなく映画好きでもあるらしいバーンの言葉に苦笑する。
まあ奴が映画の中だけでなく実在することはこの際、脇に置いておくとして、
「いくぜデカブツ! バアァァニング!」
「僕の敵じゃあないね!」
バーンは爆炎の如く燃え盛る剣を振り上げ、渾身の力で振り下ろす。
切丸も2本の刀を構えて突進する。
だが3本の刃は巨大屍虫の逞しい脚を少し焼き、傷つけるのみ。
「くっ!」
「うわあっ!」
「バーンさん!? 切丸くん!?」
巨大屍虫は丸太のような拳で2人を殴り飛ばす。
ボーリングのような勢いでアスファルトを転がる2人。
悲鳴をあげるピアース。
だが受け身を取った2人に大事はない。
「おーこわっ。こりゃまじめに戦ったらヤバイ相手だ」
軽口を叩きながらも、スプラは矢継ぎ早に矢を放つ。
雷撃の雨にさらされた巨大屍虫は怯む。
「そいつは同感だ」
舞奈も短機関銃で巨人の目を潰す。
どんなに巨大になっても鍛えきれない両目を小口径ライフル弾にえぐられ、激痛と暗闇に巨大屍虫は叫ぶ。その隙に、
「――妨害」
明日香が氷塊を放ち、巨大屍虫の下半身を氷漬けにする。
即ち【氷獄】。【氷棺・弐式】より強力な氷による拘束術。
正直なところ弾速が遅く、避けられやすい術ではある。
だから十分な援護を確認してから施術した。
代わりに威力は絶大。
なにせ魔獣マンティコアすら僅かの間、拘束せしめた魔術だ。
「斥力による攻撃なら皮膚と筋肉による防護を貫通しやすいはず。ピアースさん!」
「あ、ああ!」
明日香の言葉に突き動かされ、ピアースが手にした槍の穂先が黒く光る。
斥力場のフィールドを生み出す【重力武器】の魔力が収束されているのだ。
「え、ええい!」
頼りないながらも槍で突く。だが……
「……おい」
「えっ? ええっ!?」
巨大屍虫のシックスパックの中心を、僅かにそれてわき腹を穿った斥力場の槍。
だが漆黒の槍は無情にも表皮を削るのみ。
腕力か勢いか魔力のどれが足りないらしい。
呆然とするピアース。
態勢を立て直したバーンと切丸、トルソまでもが硬直する。
急場にしては万全の連携の元で繰り出されたはずの必殺の一撃。
それすら効果がない相手に、もはや対処は不可能。
そう皆が思った瞬間、
「下がってください!」
「ええっ? ……うわ!」
「――災厄!」
明日香は叫ぶとともにドッグタグをばらまき、魔術語。
途端、タグのそれぞれが見えざる力場の杭と化す。
砲弾の如く斥力の嵐が怪異めがけて放たれる。
1発が避け損ねて転んだピアースの斥力場障壁に干渉して引き千切る。
そのまま全弾が巨大怪異の胴に激突。
工事現場か事故のような凄まじい異音とともに、幾つもの風穴を開ける。
即ち【砲嵐】。
斥力場の砲弾を複数まとめて発射する魔術。
先ほど明日香が示唆した通りに鋭く、敵の防護を貫通しやすい斥力の刃。
攻撃魔法として放たれたそれの勢いは斥力の槍をはるかに超える。
そんなものが、複数。
強大な筋肉による暴虐を、さらに上回る魔法による暴力によって粉砕したのだ。
明日香には――魔術師にはそれができる。
一行が目を見開く中、引き千切られた巨大屍虫の上半身が路地に叩きつけられる。
下半身を縛める氷も溶けて、下半身もドウと倒れる。
だが同時に上下に千切られた身体そのものも塵になって消える。
大屍虫は肉体を悪の魔力で置き換えた代物だ。
魔法が消えれば存在そのものが消える。
そのようにして巨大怪異を含む屍虫を群れをあらかた倒した一行は、
「うっ後ろから敵が来てる!」
「このまま店内に突入する!」
ピアースの悲鳴、トルソの指示に急かされ、開け放たれた店のドアに突入する。
トルソとバーンが跳び入り、ポイントマンよろしく店内を警戒する。
次いで短機関銃を、小型拳銃を構えた舞奈と明日香。
敵影はなし。
まあ屍虫がいないのはショーウィンドウ越しに見えていた。
だが天井や棚の陰から跳び出してくる様子もない。気配もない。
だから直後にスプラや切丸、ピアースも続く。
店の周囲には後続の屍虫が殺到する。
そいつらも店の入り口で止まった。
店内に侵入しようとする気配はない。
他の屍虫がショーウィンドウごしに叫び、猛り狂う様子が不気味なのは事実だ。
だがホームセンターの中に入った舞奈たちを威嚇しているというより、一行の姿が見えなくなって、あたり構わず吠えているといった様子。
何らかの力で、外から中が認識できなくなっているらしい。
そうするうちに屍虫どもは唸るのを止め、店の外を徘徊しはじめた。
侵入者たちのことを諦めたか、忘れたか。
どちらにせよ、今のところ店の中は安全のようだ。
そのようにしてホームセンターを占拠した一行は……
「……シャイでクールな俺ちゃんが、なんでこんな肉体労働を」
「そのクールなおフェイスを屍虫どもにかじられていいなら、おまえが寝る場所だけ手抜きして構わんぞ」
「ちぇっ」
スプラとトルソが入り口にバリケードを築いていた。
材料は金属製のワゴンや什器。
軽くて運びやすい資材コーナーの木材を使おうというスプラ案は、そんなもん積んでも意味がないと満場一致で却下された。
気づくと日も暮れかけている。
脂虫・屍虫だらけの街中を夜間にうろつくのは自殺行為だ。
おまけに一行が店の中にいる間は相手も出だしはできない様子。
なので少なくとも今晩はここで野営をすることに決まった。
そのために舞奈たちは入り口を封鎖して安全を確保しようとしているのだ。
そのままホームセンターを当座の拠点にするか、早々に引き払って支部の拠点に向かうのかは後で決める。
「っていうか、あっちの子供に負けてるぞ」
「ええっいやあれはもう人間じゃないだろう……」
2人が見やる隣では、
「舞奈ちゃん、すごい力なんだね」
「おまえ本当は【虎爪気功】なんじゃないのか?」
「普通に鍛えてるだけだよ」
未成年組が同じ什器を運んでいた。
屍虫でも簡単にはどうこうできなさそうな重い什器の片側にピアースと切丸。
反対側には後ろ向きに歩く舞奈。
その程度、鍛え抜かれた舞奈にとっては余裕だ。
「だいたい、あのバーニング野郎は何処にいったのさ?」
「明日香と店内の探索だ。おっ」
愚痴るスプラに答えるうちに、鈍いモーター音とともにシャッターが降り始めた。
探索組が開閉スイッチを見つけたらしい。
外の屍虫はこちらが見えないらしいとはいえ、念には念をだ。
ただし外の様子がわかるよう、全部は閉めずに何か所かは開けておく。
「よし、入り口と開いてるショーウィンドウを封鎖したら休憩だ。念のために奴らが侵入してきそうな個所を見回ってから、食料の確保だ」
「それ休憩か? やれやれ、先が思いやられるぜ」
トルソの指示に従い、スプラの愚痴を聞きつつ作業を終わらせる。
そうするうちに、棚の向こうから明日香とバーンがやってきた。
どうやら先方も探索を終えたらしい。
そのようにして一行は、脂虫と屍虫で溢れた街の中で一時の安穏を手に入れた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる