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第21章 狂える土
それぞれの新たな力
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舞奈の思いつきで禍我愚痴支部協力チームの教導任務についた小夜子とサチ。
小夜子の術を借りた舞奈の演武により、ザンは近接戦闘のコツをつかんだ。
冴子らはサチとの対話で術の強度を増す手段に気づいた。
……そんな事があった次の日の朝。
昨日と変わらぬ青空の下……
「……ちっす! 今日もみんなで仲良しさんだな」
普段通りに通学路を歩いていた舞奈は、見知った人影を見かけて挨拶する。
「あっマイちゃん。おはよう」
「マイおはよー」
「どうも」
「おはよう、舞奈ちゃん」
園香にチャビー、小夜子にサチだ。
ご近所同士、仲良く4人で登校していたらしい。
仲睦まじくて何よりだ。
そんな事を思って少し笑いながら、
「あのねマイ! 小夜子さんかお土産をくれたんだよ!」
「トルコアイスだよ。すっごくのびるの」
「あたしも食ったぞ。普通にアイスの味するよな」
「うんうん。やわらかい甘さで美味しいよね」
舞奈も混ざり、クラスメートと和気あいあいと話しながら歩く。
「バイト先の人がくれたのよ。小夜子ちゃんが頑張ってるからって」
「小夜子さんスゴイ!」
「ふふっ本当にスーパーバイトですね」
サチが代わって小学生2人と話す間に……
「……昨日はお疲れ様。恩に着るぜ」
「別に。大した事をした訳じゃないわ」
さりげなく小夜子の隣に移動し、ねぎらいの言葉をかける。
小夜子がバイト先で頑張っていたのは本当だ。
彼女の協力のおかげで懸念だったザンは気づきを得た。
このままいけば、舞奈の目論見通りに今後の彼は戦力になる。
そして舞奈たちとの任務が終わった後にも生きのびられる。
それは舞奈が、彼の友人だった切丸にはしてやれなかった事だ。
対する小夜子がぶっきらぼうな口調に反して表情がやわらかいのは、単に帰り際にフランがお礼の言葉と共に割と大げさめな土産を渡したからだ。
その点もサチは嘘は言っていない。
円滑な人間関係の基本は感謝と礼儀である。
そんな小夜子に……
「……で、どう思う? あいつら」
「練度については他の支部と変わらないと思うけど。巣黒以外はあんなものじゃないかしら。むしろ舞奈ちゃんの方が詳しいでしょ?」
「ま、そりゃそうなんだがな」
舞奈は何となく尋ねてみる。
小学生らしく、新しい仲間の事を旧知の友人から聞きたいという理由もある。
だが、それより、舞奈と同じくらい実戦経験の豊富な(【期間】でのキャリアそのものは舞奈より長い)小夜子に仲間の実力を確認してほしかった。
今回の戦闘が終わった後も任務は続く。
その中で皆がやっていけるかどうかを見定めたかった。
彼女ら、彼らを失わずに済む確証が欲しかった。
チームの一員になってしまった自分や明日香だけの評価では不安だった。
それが小夜子に協力を仰いだもうひとつの理由だ。
そして小夜子の答えも予想通り。
自分の判断が正しかったことが確認できて小さく笑う舞奈だが、
「ただ……」
続く言葉に訝しむ。
「何か引っかかる事でもあるのか?」
「ええ。気のせいかもしれないけど」
「構わん。聞かせてくれ」
躊躇する小夜子を何食わぬ表情でうながす。
意外にも舞奈は仲間を疑われた、という理由で気を悪くしたりはしない。
協力チームの皆を大切に思っているのは本当だが、これはこれだ。
信頼できる筋の言葉なら聞いておきたい。
その上で間違っていたら気のせいだと笑い飛ばす。
その程度の度量は持ち合わせているつもりだ。
それに……
「……そういやそうか。スマン、あいつも見た目ほどアレな奴じゃないんだ。あんな腹だが腕は立つし、あれでも面子の中では常識人なんだ」
ドルチェを念頭に置いてフォローする。
彼の見た目にアレな部分が多々ある事実は舞奈も把握している。
小夜子もかなり気にしていたのには気づいていた。
幼馴染の忘れ形見でもあるチャビーの教育に悪そうとか思っているのだろう。
だから言いつつ苦笑する舞奈に……
「……いえ、そっちじゃなくて」
小夜子は面白くもなさそうに返す。
じゃあ誰なんだ? と訝しむ舞奈は、
「えっと、先方の責任者……?」
「トーマスさんか?」
「ええ。あとハカセさん? 眼鏡の人」
「やんすもか」
続いて出てきた名前に少しおどろく。
2人とも完璧な性格とは言い難い。
色男のトーマスは悪く言えば事なかれ主義。
やんすも肝心な時にいない……というか彼の存在が肝心な状況がない。
だが2人とも小夜子視点で何か言われるタイプには見えない。
少なくともドルチェを差し置いて。
その様に訝しむ舞奈に、
「あの2人の異能力が何だか聞いてる?」
「やんすは【偏光隠蔽】らしいが」
「……相手、年上なのよね?」
逆に小夜子は問いかける。
年長者に勝手にあだ名つけて呼んでいる舞奈に苦笑しながら、
「じゃあ、トーマスさんが何物なのかは知らないのね?」
「ああ。2人とも直接戦闘には参加してないし」
「舞奈ちゃんが何でもやりすぎるからよ」
「へいへい。少しは自重するよ」
「でも注意はしたほうがいいと思う。他にも何か隠してる気がするわ」
軽口のついでを装って、そう続けた。
なるほど。
彼らがほぼ人数外の扱いなのを不審に思っているらしい。
まあ確かに組織の内外との渉外担当みたいなトーマスはともかく、やんすは本当にいてもいなくても戦力的には変わらない賑やかしの扱いだ。
ザンをどうにかするのなら、そっちもどうにかすべきだろう。なので、
「ああ、気に留めておくよ」
舞奈も何食わぬ表情のまま同意して――
「――でね! パパがアイスをのばしたら、ネコポチもにゅーんってのびて」
「わっ楽しそう。ネコポチちゃんも気に入ったのね」
「……楓さんとこのバーストに似てきてないか? あいつ」
「ふふっ、猫だものね」
友人との会話に混ざっていった。
と、まあ、その後は何事もなく学校に到着。
小夜子たちと別れ、舞奈たち3人は自分たちの教室へ。
「ちーっす」
「テックおはよう! 安倍さんもおはよう!」
「2人ともおはよう」
「おはよう」
「あら、おはよう。……日比野さん相変わらず元気ね」
「あはは。昨日、小夜子さんからお土産を貰ったから嬉しいんだよ」
先に登校していたらしいテックと明日香に挨拶し――
「――あっ委員長! 桜ちゃんもおはよう!」
「なのー!」
「おはようなのです。今、桜さんと『きゃお』の特集の話をしていたのです」
「あ! それ見たよ!」
委員長たちと楽しそうに話し出すチャビーと園香の背を見やりつつ……
「……ケバブありがとう。届くの楽しみにしてるわ」
「ははっ良いって事よ。いつもの礼だ」
舞奈はテックの隣の席の椅子を勝手に借りて座る。
「アイスにするつもりだったんだけど、舞奈が食いでのあるものが良いって」
「好都合だわ。今、親が揃って出張に行ってるから簡単なものばかり食べてて」
「そっか。そっちはそっちで大変なんだな」
柄にもなく照れたように語るテックに相槌を打ちつつ、
「そうそう。例の3人組? の住所が特定されたみたい」
「例の……って、あいつらの事か?」
「ええ」
テックにうながされるままタブレッを覗きこむ。
今しがた明日香としていた話の主役はこれだったようだ。
舞奈たちが再戦する予定の狂える土の殺人鬼。
ドレスの中年男。
狂った女。
そして奴らがママと呼ぶ3匹目。
逃げた奴らの足取りを、諜報部より早くスーパーハッカーがつかんだらしい。
タブレットの画面に表示されているのは見覚えのある地図。
埼玉の一角にマークされている3つの印。
そのうち、ひとつは以前に舞奈たちが実地調査しようとしていた民家だ。
「どうやら奴らは3ヵ所のアジトを転々として暮らしているらしいわ」
「なるほどな。それで奴ら、あの時に『外側』から来やがったのか」
明日香の補足に納得する。
あの日、問題の家屋を調べようとしていた舞奈たちより先に、離れた場所で笑っていたザンが奇襲された。
舞奈は無意識に、奴らが別の窓か何処かから出て回りこんだと思っていた。
あるいは偶然に外出していて戻ってきたと。
だが何の事はない。
奴らは3ヵ所のうち別のアジトにいたのだ。
それをテックの知人? 有志? が見つけてくれた。
「にしても、よく調べられたな。先方の諜報部より凄え」
「特定を趣味にしている人たちの掲示板で、例の動画の人たちがブームなの。だから先方の諜報部も同じタイミングで同じ情報を入手しているはずよ」
「なるほどな。けど、こいつらも無茶するなあ。相手は殺人鬼だぞ?」
隅に追いやられた情報窓に表示された掲示板を斜め読む。
複数の人物が、得意げに断片的な情報を書きこんでいるらしい。
そんな様子を見やりながら苦笑して、
「アジトが無人の廃墟にあるんでなければ付近にも人が住んでるでしょ? その人がたまたま近くで見かけた不審者の情報をネットに投稿してもリスクはないわ」
「なるほどな。市民の力って訳か……」
テックの答えに思わず笑う。
あの街の住人は、狂える土どもに散々な迷惑をかけられている。
不正移民を装って埼玉の一角に住みついた人型怪異どもは、騒音を、犯罪を、ヤニをまき散らして元からの住民の平穏と安全を脅かしている。
それに対する反撃を市民が無自覚のまましてやったと思うのは気分が良い。
もっとも、それは舞奈たちが首尾よくやれたらの話だ。
それに、もうひとつの問題は……
「……ただ、同じネットワークを奴らが持っている可能性があるわ」
「まーそりゃそうだよな」
続くテックの言葉に口をへの字に曲げる。
彼の地域に居座っている狂える土は5万匹はいると聞く。
そいつらが地元市民と同じようなネットワークを形成していたのだとしたら、舞奈たちが奴らを奇襲しようとしても筒抜けだ。
「そちらも何らかの対策をする必要があるわね」
「ああ、まったくだ」
明日香と2人で納得する。
次こそ殺人鬼どもを確実に始末するために、そちらについても手を打たなければならない。
作戦をたてる時にでも言っておかなければ。
そう脳裏に刻む。
……そうこうしているうちに人も増えてきた。
麗華様も登校してきて、天井から降ってきたみゃー子に仰天して大騒ぎする。
じきに担任の先生がやってきてホームルームが始まる。
……そのように何事もなく一日の授業を終えて放課後。
何事もなく下校した舞奈と明日香は2人で県の支部から埼玉支部へ。
そして普段と同じ待合室で……
「……ありゃ、今日は2人だけか?」
「ザンさんとドルチェさんは先に出たでやんす」
「2人で訓練したいんですって」
「そりゃ感心だ」
待っていた2人の話を聞いて舞奈は笑う。
昨日の件で、彼らがやる気を出してくれたのなら良い事だ。
少人数で怪異の実効支配地域をうろつくのは非推奨と言う話だったが「タクシーで行ったでやんす」と聞いたので問題ない事にする。
どうせ経費になるのだろうし。
なので4人も先方に向かう最中……
「……それにしても、巣黒の子は本当に凄いわね」
「そうでやんすね。若いのに肝が据わってるでやんす」
「まあ小夜子さんはなあ……」
2人の所感に苦笑する。
そんな舞奈に冴子はくすりと笑い、
「サチさんも術者として相応な実力者よ。心構えを聞けて勉強になったわ」
笑顔で言った。
自分より年下の女子高生を、素直にそう評する事ができるのは大人だからか。
だが、それを冴子が実践するには障害があると舞奈は感じていた。
サチが語った、守りたいもの。
それを彼女が見つけ出せたらいいのにと舞奈は思う。
と、柄にもなくそんな事を考えながら……
「……なんでやんすか?」
「いや別に」
「舞奈さん、やっぱりあっしを」
「そのネタは前にもやっただろ……」
何となく小夜子の言葉を思い出す。
対するやんすの「いやん」みたいな視線を誤魔化しながら先方へ到着し、
「みなさん、いらっしゃい」
「おっフランちゃん、ちっす。お土産サンキューな。みんな喜んでたよ」
「ふふっ。よかったです」
普段通りに出迎えてくれたフランに礼を言い、
「そういやトーマスさんは?」
「訓練室です。ザンさんとドルチェさんが使われるとおっしゃられたので」
「なるほどな」
言われるがまま訓練室へ。
「おっこりゃ感心だ」
口元に笑みを浮かべる。
聞いた通り、ザンとドルチェは訓練していた。
実戦形式の立ち回りをしているらしい。
互いに訓練用の木刀で斬り結ぶ2人を見やる。
心なしかザンの動きが的確になっている気がする。
あのドルチェと、一見すると互角以上に戦っているように見える。
まあ彼の本来の得物は暗器だし、手加減もしているのだろうが。
「あんまりザンを甘やかすなよ!」
「そりゃないっすよ舞奈さん!」
「ハハッ! それでも前よりはマシになってるぜ!」
「ホントっすか!?」
「甘やかしたくないのか、甘やかしたいのかどっちよ」
良い気分で軽口を叩く舞奈に明日香がやれやれと肩をすくめ、
「トーマスさん。こちらに射撃場はありますか?」
「ああ。こっちだよ」
「おまえも訓練か?」
「そんなところ。ちょっとつき合いなさいよ」
2人はトーマス氏に案内されて部屋を出る。
そして巣黒に比べてこじんまりしたレーンが並んだ射撃場で……
「……ここの銃で撃つのか?」
「普通の銃の方がわかりやすいでしょ? 見てて」
訝しむ舞奈の前で、明日香は支部の備品の小型拳銃を構える。
集中し、小さく真言を唱え――
「な……っ!?」
「――!?」
トーマスが驚愕する。
舞奈も驚く。
何故なら放たれた弾丸は、標的の代わりに据え置かれた装甲板を撃ち抜いた。
舞奈はそれを、術の威力の確認用に確保されている、廃棄された戦闘車両の前面装甲だと聞いていた。
それが、力まかせにほぼ貫通。
下手をすると背面から飛び出て後ろの壁まで貫通する勢いだ。
無理やりに穴をこじ開けられた装甲版そのものもひび割れ、ひしゃげて使い物にならなくなっている。
明日香が普通の小型拳銃で発砲した小口径弾で。
その正体に舞奈は気づいた。
彼女が得手とする付与魔法【力弾】の強化版。
舞奈も何度かお世話になった【炎榴弾】と同様に、銃そのものにではなく一発の銃弾の弾頭に魔力を収束させる、いわば手動で放つ攻撃魔法だ。
それは彼女自身が掌から放つ【力砲】と同等の威力を持つ斥力場の砲弾。
つまり銃口から放たれる魔法の砲撃だ。
なるほど明日香は一見するとクールに見えるが負けず嫌いだ。
そして昨日、レーザー照射の付与魔法の術者が彼女じゃないと舞奈は落胆した。
だから意地になって、代替になるような新たな手札を仕入れたのだろう。
あるいは以前から鍛錬ないし研究していた術を急きょ形にしたか。
明日香は強力過ぎる自身の手札を、さらに強力にすべく常に爪を研いでいる。
だが、そんな明日香が不自然に疲労している事にも舞奈は気づく。
穿たれた装甲板を、眼光鋭く睨みつけているのがその証拠だ。
突発的な消耗と憔悴を無理やりに誤魔化しているのだ。
斥力を司る荼枳尼天の咒は術者を疲弊させる。
もちろん熟達した術者でもある明日香は、ある程度の消耗を抑えられる。
だが施術そのものに集中力が必要な場面では無理なのだろう。
それでも舞奈は、
「一発あれば十分だ。次は外さん」
ニヤリと笑う。
明日香も鮫の如く剣呑な笑みを返す。
今の一撃を奴の急所に撃ちこめば、【光の盾】を貫通して仕留められる。
2発目は必要ない。
それを実際にやってみせる程度の甲斐性はあるつもりだ。
そう考えて不敵に笑った、その時――
「――あっトーマスさん! 皆さんもこちらにいらっしゃいましたか!」
フランが息を切らせてやってきた。
「どうしたよ?」
「諜報部からの連絡です!」
「ほう」
「監視していた例の3人に、不審な動きがあったそうです!」
トーマスを差し置いて尋ねた舞奈は、返ってきた答えにニヤリと笑う。
熟練者の教導により皆がそれぞれに手にした新たな力。
それを披露する機会が早くも訪れたらしい。
小夜子の術を借りた舞奈の演武により、ザンは近接戦闘のコツをつかんだ。
冴子らはサチとの対話で術の強度を増す手段に気づいた。
……そんな事があった次の日の朝。
昨日と変わらぬ青空の下……
「……ちっす! 今日もみんなで仲良しさんだな」
普段通りに通学路を歩いていた舞奈は、見知った人影を見かけて挨拶する。
「あっマイちゃん。おはよう」
「マイおはよー」
「どうも」
「おはよう、舞奈ちゃん」
園香にチャビー、小夜子にサチだ。
ご近所同士、仲良く4人で登校していたらしい。
仲睦まじくて何よりだ。
そんな事を思って少し笑いながら、
「あのねマイ! 小夜子さんかお土産をくれたんだよ!」
「トルコアイスだよ。すっごくのびるの」
「あたしも食ったぞ。普通にアイスの味するよな」
「うんうん。やわらかい甘さで美味しいよね」
舞奈も混ざり、クラスメートと和気あいあいと話しながら歩く。
「バイト先の人がくれたのよ。小夜子ちゃんが頑張ってるからって」
「小夜子さんスゴイ!」
「ふふっ本当にスーパーバイトですね」
サチが代わって小学生2人と話す間に……
「……昨日はお疲れ様。恩に着るぜ」
「別に。大した事をした訳じゃないわ」
さりげなく小夜子の隣に移動し、ねぎらいの言葉をかける。
小夜子がバイト先で頑張っていたのは本当だ。
彼女の協力のおかげで懸念だったザンは気づきを得た。
このままいけば、舞奈の目論見通りに今後の彼は戦力になる。
そして舞奈たちとの任務が終わった後にも生きのびられる。
それは舞奈が、彼の友人だった切丸にはしてやれなかった事だ。
対する小夜子がぶっきらぼうな口調に反して表情がやわらかいのは、単に帰り際にフランがお礼の言葉と共に割と大げさめな土産を渡したからだ。
その点もサチは嘘は言っていない。
円滑な人間関係の基本は感謝と礼儀である。
そんな小夜子に……
「……で、どう思う? あいつら」
「練度については他の支部と変わらないと思うけど。巣黒以外はあんなものじゃないかしら。むしろ舞奈ちゃんの方が詳しいでしょ?」
「ま、そりゃそうなんだがな」
舞奈は何となく尋ねてみる。
小学生らしく、新しい仲間の事を旧知の友人から聞きたいという理由もある。
だが、それより、舞奈と同じくらい実戦経験の豊富な(【期間】でのキャリアそのものは舞奈より長い)小夜子に仲間の実力を確認してほしかった。
今回の戦闘が終わった後も任務は続く。
その中で皆がやっていけるかどうかを見定めたかった。
彼女ら、彼らを失わずに済む確証が欲しかった。
チームの一員になってしまった自分や明日香だけの評価では不安だった。
それが小夜子に協力を仰いだもうひとつの理由だ。
そして小夜子の答えも予想通り。
自分の判断が正しかったことが確認できて小さく笑う舞奈だが、
「ただ……」
続く言葉に訝しむ。
「何か引っかかる事でもあるのか?」
「ええ。気のせいかもしれないけど」
「構わん。聞かせてくれ」
躊躇する小夜子を何食わぬ表情でうながす。
意外にも舞奈は仲間を疑われた、という理由で気を悪くしたりはしない。
協力チームの皆を大切に思っているのは本当だが、これはこれだ。
信頼できる筋の言葉なら聞いておきたい。
その上で間違っていたら気のせいだと笑い飛ばす。
その程度の度量は持ち合わせているつもりだ。
それに……
「……そういやそうか。スマン、あいつも見た目ほどアレな奴じゃないんだ。あんな腹だが腕は立つし、あれでも面子の中では常識人なんだ」
ドルチェを念頭に置いてフォローする。
彼の見た目にアレな部分が多々ある事実は舞奈も把握している。
小夜子もかなり気にしていたのには気づいていた。
幼馴染の忘れ形見でもあるチャビーの教育に悪そうとか思っているのだろう。
だから言いつつ苦笑する舞奈に……
「……いえ、そっちじゃなくて」
小夜子は面白くもなさそうに返す。
じゃあ誰なんだ? と訝しむ舞奈は、
「えっと、先方の責任者……?」
「トーマスさんか?」
「ええ。あとハカセさん? 眼鏡の人」
「やんすもか」
続いて出てきた名前に少しおどろく。
2人とも完璧な性格とは言い難い。
色男のトーマスは悪く言えば事なかれ主義。
やんすも肝心な時にいない……というか彼の存在が肝心な状況がない。
だが2人とも小夜子視点で何か言われるタイプには見えない。
少なくともドルチェを差し置いて。
その様に訝しむ舞奈に、
「あの2人の異能力が何だか聞いてる?」
「やんすは【偏光隠蔽】らしいが」
「……相手、年上なのよね?」
逆に小夜子は問いかける。
年長者に勝手にあだ名つけて呼んでいる舞奈に苦笑しながら、
「じゃあ、トーマスさんが何物なのかは知らないのね?」
「ああ。2人とも直接戦闘には参加してないし」
「舞奈ちゃんが何でもやりすぎるからよ」
「へいへい。少しは自重するよ」
「でも注意はしたほうがいいと思う。他にも何か隠してる気がするわ」
軽口のついでを装って、そう続けた。
なるほど。
彼らがほぼ人数外の扱いなのを不審に思っているらしい。
まあ確かに組織の内外との渉外担当みたいなトーマスはともかく、やんすは本当にいてもいなくても戦力的には変わらない賑やかしの扱いだ。
ザンをどうにかするのなら、そっちもどうにかすべきだろう。なので、
「ああ、気に留めておくよ」
舞奈も何食わぬ表情のまま同意して――
「――でね! パパがアイスをのばしたら、ネコポチもにゅーんってのびて」
「わっ楽しそう。ネコポチちゃんも気に入ったのね」
「……楓さんとこのバーストに似てきてないか? あいつ」
「ふふっ、猫だものね」
友人との会話に混ざっていった。
と、まあ、その後は何事もなく学校に到着。
小夜子たちと別れ、舞奈たち3人は自分たちの教室へ。
「ちーっす」
「テックおはよう! 安倍さんもおはよう!」
「2人ともおはよう」
「おはよう」
「あら、おはよう。……日比野さん相変わらず元気ね」
「あはは。昨日、小夜子さんからお土産を貰ったから嬉しいんだよ」
先に登校していたらしいテックと明日香に挨拶し――
「――あっ委員長! 桜ちゃんもおはよう!」
「なのー!」
「おはようなのです。今、桜さんと『きゃお』の特集の話をしていたのです」
「あ! それ見たよ!」
委員長たちと楽しそうに話し出すチャビーと園香の背を見やりつつ……
「……ケバブありがとう。届くの楽しみにしてるわ」
「ははっ良いって事よ。いつもの礼だ」
舞奈はテックの隣の席の椅子を勝手に借りて座る。
「アイスにするつもりだったんだけど、舞奈が食いでのあるものが良いって」
「好都合だわ。今、親が揃って出張に行ってるから簡単なものばかり食べてて」
「そっか。そっちはそっちで大変なんだな」
柄にもなく照れたように語るテックに相槌を打ちつつ、
「そうそう。例の3人組? の住所が特定されたみたい」
「例の……って、あいつらの事か?」
「ええ」
テックにうながされるままタブレッを覗きこむ。
今しがた明日香としていた話の主役はこれだったようだ。
舞奈たちが再戦する予定の狂える土の殺人鬼。
ドレスの中年男。
狂った女。
そして奴らがママと呼ぶ3匹目。
逃げた奴らの足取りを、諜報部より早くスーパーハッカーがつかんだらしい。
タブレットの画面に表示されているのは見覚えのある地図。
埼玉の一角にマークされている3つの印。
そのうち、ひとつは以前に舞奈たちが実地調査しようとしていた民家だ。
「どうやら奴らは3ヵ所のアジトを転々として暮らしているらしいわ」
「なるほどな。それで奴ら、あの時に『外側』から来やがったのか」
明日香の補足に納得する。
あの日、問題の家屋を調べようとしていた舞奈たちより先に、離れた場所で笑っていたザンが奇襲された。
舞奈は無意識に、奴らが別の窓か何処かから出て回りこんだと思っていた。
あるいは偶然に外出していて戻ってきたと。
だが何の事はない。
奴らは3ヵ所のうち別のアジトにいたのだ。
それをテックの知人? 有志? が見つけてくれた。
「にしても、よく調べられたな。先方の諜報部より凄え」
「特定を趣味にしている人たちの掲示板で、例の動画の人たちがブームなの。だから先方の諜報部も同じタイミングで同じ情報を入手しているはずよ」
「なるほどな。けど、こいつらも無茶するなあ。相手は殺人鬼だぞ?」
隅に追いやられた情報窓に表示された掲示板を斜め読む。
複数の人物が、得意げに断片的な情報を書きこんでいるらしい。
そんな様子を見やりながら苦笑して、
「アジトが無人の廃墟にあるんでなければ付近にも人が住んでるでしょ? その人がたまたま近くで見かけた不審者の情報をネットに投稿してもリスクはないわ」
「なるほどな。市民の力って訳か……」
テックの答えに思わず笑う。
あの街の住人は、狂える土どもに散々な迷惑をかけられている。
不正移民を装って埼玉の一角に住みついた人型怪異どもは、騒音を、犯罪を、ヤニをまき散らして元からの住民の平穏と安全を脅かしている。
それに対する反撃を市民が無自覚のまましてやったと思うのは気分が良い。
もっとも、それは舞奈たちが首尾よくやれたらの話だ。
それに、もうひとつの問題は……
「……ただ、同じネットワークを奴らが持っている可能性があるわ」
「まーそりゃそうだよな」
続くテックの言葉に口をへの字に曲げる。
彼の地域に居座っている狂える土は5万匹はいると聞く。
そいつらが地元市民と同じようなネットワークを形成していたのだとしたら、舞奈たちが奴らを奇襲しようとしても筒抜けだ。
「そちらも何らかの対策をする必要があるわね」
「ああ、まったくだ」
明日香と2人で納得する。
次こそ殺人鬼どもを確実に始末するために、そちらについても手を打たなければならない。
作戦をたてる時にでも言っておかなければ。
そう脳裏に刻む。
……そうこうしているうちに人も増えてきた。
麗華様も登校してきて、天井から降ってきたみゃー子に仰天して大騒ぎする。
じきに担任の先生がやってきてホームルームが始まる。
……そのように何事もなく一日の授業を終えて放課後。
何事もなく下校した舞奈と明日香は2人で県の支部から埼玉支部へ。
そして普段と同じ待合室で……
「……ありゃ、今日は2人だけか?」
「ザンさんとドルチェさんは先に出たでやんす」
「2人で訓練したいんですって」
「そりゃ感心だ」
待っていた2人の話を聞いて舞奈は笑う。
昨日の件で、彼らがやる気を出してくれたのなら良い事だ。
少人数で怪異の実効支配地域をうろつくのは非推奨と言う話だったが「タクシーで行ったでやんす」と聞いたので問題ない事にする。
どうせ経費になるのだろうし。
なので4人も先方に向かう最中……
「……それにしても、巣黒の子は本当に凄いわね」
「そうでやんすね。若いのに肝が据わってるでやんす」
「まあ小夜子さんはなあ……」
2人の所感に苦笑する。
そんな舞奈に冴子はくすりと笑い、
「サチさんも術者として相応な実力者よ。心構えを聞けて勉強になったわ」
笑顔で言った。
自分より年下の女子高生を、素直にそう評する事ができるのは大人だからか。
だが、それを冴子が実践するには障害があると舞奈は感じていた。
サチが語った、守りたいもの。
それを彼女が見つけ出せたらいいのにと舞奈は思う。
と、柄にもなくそんな事を考えながら……
「……なんでやんすか?」
「いや別に」
「舞奈さん、やっぱりあっしを」
「そのネタは前にもやっただろ……」
何となく小夜子の言葉を思い出す。
対するやんすの「いやん」みたいな視線を誤魔化しながら先方へ到着し、
「みなさん、いらっしゃい」
「おっフランちゃん、ちっす。お土産サンキューな。みんな喜んでたよ」
「ふふっ。よかったです」
普段通りに出迎えてくれたフランに礼を言い、
「そういやトーマスさんは?」
「訓練室です。ザンさんとドルチェさんが使われるとおっしゃられたので」
「なるほどな」
言われるがまま訓練室へ。
「おっこりゃ感心だ」
口元に笑みを浮かべる。
聞いた通り、ザンとドルチェは訓練していた。
実戦形式の立ち回りをしているらしい。
互いに訓練用の木刀で斬り結ぶ2人を見やる。
心なしかザンの動きが的確になっている気がする。
あのドルチェと、一見すると互角以上に戦っているように見える。
まあ彼の本来の得物は暗器だし、手加減もしているのだろうが。
「あんまりザンを甘やかすなよ!」
「そりゃないっすよ舞奈さん!」
「ハハッ! それでも前よりはマシになってるぜ!」
「ホントっすか!?」
「甘やかしたくないのか、甘やかしたいのかどっちよ」
良い気分で軽口を叩く舞奈に明日香がやれやれと肩をすくめ、
「トーマスさん。こちらに射撃場はありますか?」
「ああ。こっちだよ」
「おまえも訓練か?」
「そんなところ。ちょっとつき合いなさいよ」
2人はトーマス氏に案内されて部屋を出る。
そして巣黒に比べてこじんまりしたレーンが並んだ射撃場で……
「……ここの銃で撃つのか?」
「普通の銃の方がわかりやすいでしょ? 見てて」
訝しむ舞奈の前で、明日香は支部の備品の小型拳銃を構える。
集中し、小さく真言を唱え――
「な……っ!?」
「――!?」
トーマスが驚愕する。
舞奈も驚く。
何故なら放たれた弾丸は、標的の代わりに据え置かれた装甲板を撃ち抜いた。
舞奈はそれを、術の威力の確認用に確保されている、廃棄された戦闘車両の前面装甲だと聞いていた。
それが、力まかせにほぼ貫通。
下手をすると背面から飛び出て後ろの壁まで貫通する勢いだ。
無理やりに穴をこじ開けられた装甲版そのものもひび割れ、ひしゃげて使い物にならなくなっている。
明日香が普通の小型拳銃で発砲した小口径弾で。
その正体に舞奈は気づいた。
彼女が得手とする付与魔法【力弾】の強化版。
舞奈も何度かお世話になった【炎榴弾】と同様に、銃そのものにではなく一発の銃弾の弾頭に魔力を収束させる、いわば手動で放つ攻撃魔法だ。
それは彼女自身が掌から放つ【力砲】と同等の威力を持つ斥力場の砲弾。
つまり銃口から放たれる魔法の砲撃だ。
なるほど明日香は一見するとクールに見えるが負けず嫌いだ。
そして昨日、レーザー照射の付与魔法の術者が彼女じゃないと舞奈は落胆した。
だから意地になって、代替になるような新たな手札を仕入れたのだろう。
あるいは以前から鍛錬ないし研究していた術を急きょ形にしたか。
明日香は強力過ぎる自身の手札を、さらに強力にすべく常に爪を研いでいる。
だが、そんな明日香が不自然に疲労している事にも舞奈は気づく。
穿たれた装甲板を、眼光鋭く睨みつけているのがその証拠だ。
突発的な消耗と憔悴を無理やりに誤魔化しているのだ。
斥力を司る荼枳尼天の咒は術者を疲弊させる。
もちろん熟達した術者でもある明日香は、ある程度の消耗を抑えられる。
だが施術そのものに集中力が必要な場面では無理なのだろう。
それでも舞奈は、
「一発あれば十分だ。次は外さん」
ニヤリと笑う。
明日香も鮫の如く剣呑な笑みを返す。
今の一撃を奴の急所に撃ちこめば、【光の盾】を貫通して仕留められる。
2発目は必要ない。
それを実際にやってみせる程度の甲斐性はあるつもりだ。
そう考えて不敵に笑った、その時――
「――あっトーマスさん! 皆さんもこちらにいらっしゃいましたか!」
フランが息を切らせてやってきた。
「どうしたよ?」
「諜報部からの連絡です!」
「ほう」
「監視していた例の3人に、不審な動きがあったそうです!」
トーマスを差し置いて尋ねた舞奈は、返ってきた答えにニヤリと笑う。
熟練者の教導により皆がそれぞれに手にした新たな力。
それを披露する機会が早くも訪れたらしい。
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