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第21章 狂える土
日常4
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昨晩、埼玉の一角で勃発したライトバン2台の暴走事件。
あるいは追突事故。
地元警察の発表によると両車の運転手はどちらも身元不明。
そして、どちらも死亡を確認。
片方の車に拉致されていた邦人の少女2人だけが無事に保護された。
そんなニュースが朝のテレビを賑わせた、ある晴れた日の朝。
まだ人気の少ないホームルーム前の教室の隅で……
「……バフおか?」
舞奈はボソリと答えながら、目前のみゃー子を見やる。
逆向きに座った椅子の、背もたれにだらしなく肘をついたまま大あくび。
みゃー子は両手を頭のサイドにあてて、ふにゃふにゃと謎の動きをしている。
相も変わらず訳がわからない。
「じゃあヤギ」
舞奈は続けて言ってみる。
だが、みゃー子は気にせずふにゃふにゃ動いている。
先日に死闘を繰り広げた狂った女と別の意味で、みゃー子の言動は意味不明だ。
まあ、こいつには悪気がないのはわかる。
だが理解できる違いはそれだけだ。
言動に脈絡が無く、まともに相手しても意味が無いという点は変わらない。
今しも、ふにゃふにゃ動きながら頭に手を当てて舞奈を見ている。
何かの物真似だと思う。
舞奈は当ててほしいのか? と勝手に判断して当てっこをしている。
みゃー子も是とも非とも言わず謎の反応を続けている。
なので舞奈もそのまま意味のない当てっこで朝の貴重な時間を潰している。
何故なら今の舞奈は、急いで対処すべき懸案も考えるべき事もない。
なにせ大きな仕事を完遂した直後なのだ。
故に何となく気が抜けていたりもする。
あと、昨日は帰りが遅くなったので少し眠い。
被害もなく首尾よく撤収できたとはいえ、事後報告に時間をとられたのだ。
「そんじゃ……あれか? ユニコーンって奴。ほら、ゲームや漫画に出てくる」
無反応。というか動きが変わらない。
これも違うらしい。
先日に、舞奈たちは首狩り殺人鬼の怪異どもと死闘を繰り広げ、倒した。
ゲームや漫画の敵役より凶悪で、しかも実在する人型のバケモノ。
そいつら3匹を、舞奈たち禍我愚痴支部強力チームの面々は3匹とも排除。
しかも味方に被害なし。
奴らに誘拐された少女2人も無事。
ついでに作戦後にはトーマス氏からの的確な指示に従い、警察が到着する前に現場を離れる事もできた。
文句のつけようもない完璧な勝利だ。
その事実に比べれば、翌日のニュースで身元不明のカージャック&暴走犯として事故死した事にされていたくらいは屁でもない。
なので今日も昨日と変わる事なく舞奈は普通に登校していた。
でもって、みゃー子の遊びにつき合っていた。
舞奈は物事に頓着する性質じゃないつもりだが、やりかけた仕事は完遂したい。
なので当てっこを始めたら当てられないと意地になって……
「じゃあほら、アレだ。……カモノハシ?」
踊るみゃー子を眺めながら思いついた名前を口にした途端、
「――まさかカモシカの事を言ってないわよね?」
背後から声。
億劫そうに首だけ動かして見やると、ドアを開けた明日香がいた。
先日の戦闘で、予想外の強敵だった『ママ』を排除した立役者。
彼女は鬼気迫る奇襲によって最大の敵を倒したのだ。
そんな彼女も今日は普通に登校してきていた。
でもって、普通に舞奈に絡んできた。
こちらもまあ、目先の障害がなくなって安堵しているのだろう。
要は精神的に暇なのだ。
「おっ。いいんちょもおはよーさん」
「おはようなのです」
一緒に来たらしい委員長に、あくび交じりに挨拶を返す。
その姿のあまりのだらしなさに、
「志門さんは今日もいつもに輪をかけて退屈を持て余している感じなのです。何か発散できるような楽しい事があれば良いのですが……」
(いや発散は腹いっぱいしてきたつもりだが)
当然ながら事情を知らない委員長が割と本気で気遣う様子に苦笑しながら、
「なに朝から訳のわからない事やってるのよ?」
「じゃーおまえは、みゃー子の言動を理解して常に的確な反応を返せるのか?」
「だから、なんで小室さんが考えてる事を理解しようなんてしてるのよ?」
ジト目で見てくる明日香を睨み返した途端……
「……みゃー子さん、鹿なのですか?」
委員長がボソリと答える。
途端、みゃー子は奇声を発しながら走り回りはじめた。
正解らしい。
あれも鹿の物真似だろうか?
凄いスピードで教室中を跳ね回るみゃー子を舞奈は無言で見やる。
単純に他の生徒の迷惑だし、騒々しくて隣のクラスの担任が飛んできそうだ。
そうしながら、3度ふわわとあくびをする。
別にあれを放っておいても、誰かが命の危険に晒される事はない。
なので手近に居た委員長に眠そうな笑みを向け、
「すごいな委員長」
「鹿には角があるのです」
言った途端に返ってきた答えに苦笑する。
「あるだろう、カモノハシにも」
「だから、それはカモシカ」
明日香もツッコんでくる。
そんな風に朝から久しぶりの平穏を享受していると……
「おはようマイちゃん、みんな」
「マイおはよー! みんなおはよー!」
「おはよう」
「おっ園香。皆もちーっす」
「あら、おはよう」
「皆さん、おはようなのです」
園香たちも登校してきた。
挨拶を返す。
チャビーとテックも一緒に教室まで来たらしい。
そんなテックは通学鞄から私物のタブレットを取り出し……
「……カモノハシはこれ」
差し出してきた。
舞奈は思わず覗きこみ、情報窓いっぱいに表示された動物の写真を見やる。
映っているのは、くちばしが大きいアヒルの出来損ないみたいな謎の生き物だ。
「なんだこりゃ?」
「だから、カモノハシ」
テックの補足に「ふむ」と答える。
奇妙な動物の容姿に愛嬌を感じるのは、今の舞奈に精神的な余裕があるからか。
そう言えばテックのタブレットで事件の動画とか資料とかではなく動物の画像を見る事なんて滅多になかったなあと何となく和みながら……
「……いや、もうちょっと、こう、トナカイみたいな奴じゃなかったか?」
「だから、それはカモシカだっつってるでしょ」
「カモシカはこれ」
「ああ、これだこれ」
言ってみた途端に切り替わった画像を、まじまじと眺めながら笑う。
睨んでくる明日香は礼儀正しく無視。
「わっカモシカだ! かわいいー!」
「ふふっ。バフおちゃんにちょっと似てるね」
「だろ? だから、あたしも最初はそう言ったんだ」
チャビーと園香が一緒にタブレットを覗きこんでくる。
女子は毛がふさふさした可愛い動物が大好きだ。
舞奈はたまたま余裕があるからそうだけど、山の手暮らしの友人は常にそうだ。
「カモシカは哺乳綱の偶蹄目、ウシ科ヤギ亜科に属するカモシカ属の総称よ」
「スゴイ! 安倍さん、物知りだ!」
「ほらヤギじゃねーか」
さっそく始まった明日香の解説に、舞奈は思わずドヤ顔をする。
明日香の知識自慢は今に始まった事じゃないが、今の舞奈は気分がいい。
「ヤギとウシの仲間なの?」
首を傾げるチャビーに明日香は瞳を輝かせ、
「そんな感じ。偶蹄目には他にもカバ、イノシシ、ラクダ、キリン、シカ、それにクジラが含まれるわね」
「……ナニ朝から訳のわからん事を言ってやがる」
「何よ?」
「その並びでクジラはねーだろ」
「そう決まってるんだから仕方ないでしょう」
続く話に思わずツッコむ。
隣で園香とテックが苦笑する。
そのように初等部の教室はいつも通りに平和だった。
さらに今日に限っては、その後も特に目立ったトラブルもなく放課後になった。
そういえば舞奈の今までの人生で、厄介事は畳みかけるようにやってきた。
故に最初のトラブルが起きないと後も続かないらしい。
良い事だ。
なので舞奈も明日香も有り難く平和を享受しながら下校する。
そして先日と同じように県の支部を経由して埼玉支部へ。
いつも通りに他支部の皆と合流して……
「……よっドルチェさん。今朝のニュースを見てから安否が心配だったんだ」
「こんにちは」
「おお舞奈殿に明日香殿。某も報道を見てビックリ仰天でござったよ」
「俺たちなんか最初からいなかった事になってたけどな」
「やんすねー」
「それは、まあ、状況を誤魔化すために先方も尽力してくれた訳だし……」
他愛のない馬鹿話をしながら禍我愚痴支部へ向かう。
ドルチェにザン、やんす、冴子。
皆が一様にほがらかな雰囲気なのは舞奈たちと同じ。
なにせ、この面子にフランを加えた7人で首尾よく勝利した翌日なのだ。
大通りを飛び回る狂える土どもも、今日くらいは嫌そうに見ないでおいてやろうと思える心の余裕がある。
そのように道中でも特に悶着もなく先方に到着した舞奈たちは……
「……今日は仕事ないのか」
「そうなんですよ」
ちょっと拍子抜けした声をあげる。
出迎えてくれたフランが申し訳なさそうに答える。
舞奈たちは先日の作戦の目的を首尾よく達成した。
救出された少女たちも担ぎこまれた病院で心身に異常が無い事が確認された。
そして父親を奪われた彼女らの生活を、これ以上に脅かす者はもういない。
とはいえ、彼女らを救い出す際に少しばかり派手にやりすぎたのも事実だ。
カーチェイスの末に追突事故、さらには戦術結界を張って戦闘だ。
なので今回も諜報部は後始末に奔走している。
今朝みたいな報道への口出しは序の口だ。
その間、舞奈たち実行部隊の協力者チームはお休みという訳らしい。
山場の後に休みがある、何ともホワイトな仕事である。
正直、来る前に言ってくれれば良かったのにと少し思う。
だがまあ、だから今日は来なくていいと言われても舞奈も困っただろう。
いちおう舞奈たちは仕事として禍我愚痴支部に通っているのだ。
そんな舞奈の内心などお構いなしに、
「休みなのか? なら皆で遊びにいこうぜー」
ザンが相変わらず呑気に言った。
だが今日ばかりは皆も気持ちに余裕がある。
彼の能天気さを咎める理由も特にない。なので……
「……そうでゴザルな。このまま帰るのも寂しいでゴザルし」
「わたしは構わないわよ」
「そんじゃ、パトロールも兼ねて皆で街をぶらつくか」
ドルチェの言葉を皮切りに、何となく皆で何処かに行く事になった。
「けど、何処にいくでやんすか?」
言いつついそいそ準備よくるるぶを取り出したやんすに、
「服を……買いに行ったほうがいいかもしれないわね」
ボソリと冴子が答える。
口調がちょっとシリアスだ。
そして同じくらいシリアスな視線はドルチェの太ましい腹に向けられている。
作戦中、ずっと気になっていたらしい。
縦はともかく横にはありえないくらい大きい彼のシャツで、ニチアサのアニメのキャラクターが常にニッコリ微笑んでいる事に。
大人として。
社会人として。
もちろん可愛らしいアニメのキャラクターは怪異に対する牽制になる。
マイナスの感情から生まれた怪異どもが美しいものを嫌うからだ。
ドルチェの腹で微笑む可愛いアニメの女の子も、先日の戦闘で地味に敵の集中力を乱す事で勝利に貢献していたのかもしれない。
だが、それはそれ。
これはこれ。
社会人には相応しい普段の服装というものがある。
銃を抜き身で持ち歩かないのと同じだ。なので、
「そうでゴザルなあ。某も新しい上着が欲しいと思っていたところでゴザル」
「いや、シャツの事なんじゃないのか?」
「やんすねー」
ドルチェのボケにザンがツッコみ、
「なるほど。ザン殿も同じものが着たくなる頃でゴザルか」
「ええっ!?」
「やんすっ!?」
「どんな頃だよそりゃ」
重ねられたボケにザンが馬鹿正直にビックリして、舞奈がツッコみ、
「じゃあ近くに百貨店がありますので、ご案内しますね」
「お手数をおかけしてすいません」
にこやかなフランに連れられて皆で支部を出る。
生真面目な明日香だけは外部からの協力者がノリで現地の人間を動かす事に恐縮している様子だが、それも恐縮止まりだ。皆で遊ぶ事に異存はないらしい。
なので――
「――でさ、明日香の奴、クジラまでヤギの仲間だって言うんだ」
「まあ目まで遡れば、同じ鯨偶蹄目でやんすね」
「流石は明日香殿。博識でゴザルなあ」
「ええっ? 本当の事なのか?」
「ほら見なさい」
そんな馬鹿話をしながら歩く。
「だってクジラは魚だろ? なんでヤギやラクダの仲間なんだよ」
「舞奈殿。クジラは魚じゃないでゴザルよ」
「なんだって!?」
「舞奈さん、義務教育は受けたでやんすか?」
「……今日の授業はつつがなくな」
初等部のな。
ちょっとした失言への怒涛のツッコミに舞奈はむくれる。
隣で「えっ?」みたいな表情をしたザンに気づく余裕もない。
そんな楽しそうな面々の側で……
「……忙しいのに、着き合わせてしまってごめんなさいね」
先を歩くフランに向かって、少し申し訳なさそうに冴子が言った。
「お気になさらず。渉外や調整のフェイズでわたしがする事はないですし」
フランは振り向きながらにこやかに答える。
褐色の肌をした彼女の衣服の下には、痛々しい包帯が見え隠れしている。
先日の戦闘による負傷だ。
敵の本丸だった『ママ』の猛攻から、彼女は文字通り命がけで仲間を守った。
少なくとも明日香とやんす、冴子が無事だったのは彼女の尽力があってこそだ。
だが圧倒的な魔力を振るう『ママ』と相対したフランも無傷とはいかなかった。
身体強化こそ使っていても打撃によるダメージは相当だ。
しかも無茶な筋肉の使い方をしたせいで軽く肉離れも起こしていたとも。
今の彼女に仕事がないのは、休養の意味合いもあるのだろう。
それでも皆とこうやって出かけて楽しそうにしているのは、ひとり身体を休めているより、そのほうが本人的には養生になるのだろう。
彼女にとって、仲間を守るための戦闘には傷つくだけの価値がある。
仲間とのふれあいは負傷と釣り合う報酬になり得る。
いかにも彼女らしいと思う。
そんなフランは……
「……それに変装用の衣装も買い足さなくちゃいけませんし」
「ごめんなさい……」
次いでニコニコと答える。
今度は舞奈が少しバツが悪そうにする。
以前の狂った女との戦闘で、舞奈は変装用の帽子をひとつお釈迦にしていた。
「あっいえ、古くなり過ぎないように定期的に新しい衣装を買ってるので」
「なるほど……。それは盲点でした」
恐縮しながら語られた気遣いに明日香が感心する。
諜報部の気遣いなのか、フラン個人の気遣いなのかはわからないが。
そんな様子を見やって笑いながら、
「にしても、ここらは変わらないなあ」
「やんすねー」
舞奈は街に目を向け、ひとりごちる。
人型怪異に実効支配された埼玉の一角は相変わらずだ。
あちらこちらで狂える土どもが大騒ぎをしている。
免許を持ってない舞奈ですらヤバイとわかる積載量オーバーなトラックが、昨日のライトバンみたいな挙動で通りを暴走している。
運転手はもちろん狂える土だ。
舞奈たちがひとつ、ふたつの悪を正しても、街そのものが変わる訳じゃない。
狂える土どもは街ひとつを実質的に占拠しているのだ。
その上で、何か大きな災厄をもたらそうとしている。
先日の勝利も、所詮は根本的な状況の究明と解決への布石でしかない。
だが今の舞奈たちがやるべき事は休養だ。
厄介な事件への対応は、また明日から嫌というほどできるのだから。
なので今回は幸運にも騒ぎに巻きこまれる事なく百貨店へ。
「おっこれ、ここの服だったんだ」
「気に入ってたのか、それ」
入って早々、ザンが見覚えのあるシャツを見つけてはしゃぐ。
以前に変装して偵察に出かけた時に着ていたものだ。
3匹の怪異を探ろうとしていた時だったか。
いや、当時は敵は2匹だと思っていた。
その時の服装を、彼は地味に気に入っていたらしい。
「まさか一張羅を汚したくないから動きが悪かったとか言わないよな?」
「ええっ舞奈さん、それは酷いっすよ」
やれやれと苦笑する舞奈たちから、少し離れた婦人服の売り場では……
「……さ、流石にこれは派手なんじゃ」
「フランちゃん若いんだし、似合うと思うわよ」
「やんすねー」
女の子たちもかしましく盛り上がっていた。
「おおっ明日香殿! リアルな猫の顔柄のシャツでゴザルか。お目が高い」
「いえ、特に買うつもりはないですよ」
別の場所でも盛り上がっていた。
どうでもいいが、女児服のコーナーで女児に普通に声をかけられるドルチェは肝が据わってるなあと思った。
そのように皆で楽しく買い物をした結果――
「――いい買い物をしたでゴザル」
「それは……よかったわね」
ドルチェは満面の笑みを浮かべて言った。
背には自身の体積が倍になったように膨らんだリュック。
買ったものを詰めこんだのだ。
冴子は遠い目をして、何かを諦めたような表情で答える。
何故ならドルチェは例のアニメキャラのシャツを大量に買っていた。
しかも自分に合うサイズの。
ちょうどセールをしていたらしい。
明日からは毎日ちょっとずつ違う顔のアニメキャラの顔が見られるのだろう。
まあ、本人が満足しているのなら舞奈としては何も言う事はない。
そのように店を出て歩きながら、
「何処かで食事をしていくでやんす」
「おっ! そいつはいい!」
やんすの提案にザンが喝采をあげる。
彼の手にもシャツを買った紙袋。
「何か食べたいものはありますか?」
「そうね……」
フランの問いに冴子が考え……
「……絶対に後ろを向かないようにして聞いてくれ」
「どうしたでやんすか?」
「言った通りだ。できればこのまま面白い話をしてる感じで」
不意に舞奈が声をひそめる。
「何かのゲームでやんすか?」
「まあ、そんな感じだ」
のんびりと尋ねてくるやんすに、舞奈は肩をすくめて答える。
「ザン殿は苦手そうなゲームでゴザルなあ」
「そりゃねぇよ」
ドルチェの軽口に、
「わっ!? な、なんすかっ!?」
冴子がザンの頭を押さえる。
言ってるそばから後ろを向こうとした様子に冴子が気づいたらしい。
そんな様子を横目で見やって苦笑しながら……
「……誰か尾行てきてる。複数人だ」
「ひっ!?」
ボソリと言った。
やんすが小さく悲鳴をあげたのは、ナチュラルに振り返ろうとしたので睨みつけて制止したからだ。まったく。
それはともかく……
「……たぶん全員が異能力者よ」
「そうみたいね」
明日香が視線を向けないように言う。
冴子もうなずいたという事は、魔力感知で後方を探ったか。
異能力者や妖術師は、その身に魔力を宿している。
それを術者である明日香や冴子は魔力感知で察知する事ができる。
術を使っている最中の他の術者も同じようにわかる。
そんな中で全員を異能力者だと断じたのは魔力の量か質からか。
だが明日香自身のような魔術師を、常時に魔力感知で見つける事はできない。
魔術師は施術の直前に無から魔力を生み出すからだ。
逆に言えば尾行者の中にも魔術師がいる可能性はゼロではない。
そうだった場合、こちらに異能力者が3人いる事はバレている。
フランが妖術師なのも同様だ。
幸いにも風下なのにヤニの悪臭はしない。
相手が怪異である可能性は低い。
だが異能力者のグループを尾行する異能力者が普通じゃないのも事実だ。
舞奈はやれやれと肩をすくめる。
作戦直後の思わぬ休日の最中に、これまた思いがけずあらわれた謎の集団。
どうやら新たな厄介事は、明日まで待ってはくれなかったらしい。
「しゃあないなあ……」
ひとりごち、舞奈は背後の集団に気づかれぬよう動き始めた。
あるいは追突事故。
地元警察の発表によると両車の運転手はどちらも身元不明。
そして、どちらも死亡を確認。
片方の車に拉致されていた邦人の少女2人だけが無事に保護された。
そんなニュースが朝のテレビを賑わせた、ある晴れた日の朝。
まだ人気の少ないホームルーム前の教室の隅で……
「……バフおか?」
舞奈はボソリと答えながら、目前のみゃー子を見やる。
逆向きに座った椅子の、背もたれにだらしなく肘をついたまま大あくび。
みゃー子は両手を頭のサイドにあてて、ふにゃふにゃと謎の動きをしている。
相も変わらず訳がわからない。
「じゃあヤギ」
舞奈は続けて言ってみる。
だが、みゃー子は気にせずふにゃふにゃ動いている。
先日に死闘を繰り広げた狂った女と別の意味で、みゃー子の言動は意味不明だ。
まあ、こいつには悪気がないのはわかる。
だが理解できる違いはそれだけだ。
言動に脈絡が無く、まともに相手しても意味が無いという点は変わらない。
今しも、ふにゃふにゃ動きながら頭に手を当てて舞奈を見ている。
何かの物真似だと思う。
舞奈は当ててほしいのか? と勝手に判断して当てっこをしている。
みゃー子も是とも非とも言わず謎の反応を続けている。
なので舞奈もそのまま意味のない当てっこで朝の貴重な時間を潰している。
何故なら今の舞奈は、急いで対処すべき懸案も考えるべき事もない。
なにせ大きな仕事を完遂した直後なのだ。
故に何となく気が抜けていたりもする。
あと、昨日は帰りが遅くなったので少し眠い。
被害もなく首尾よく撤収できたとはいえ、事後報告に時間をとられたのだ。
「そんじゃ……あれか? ユニコーンって奴。ほら、ゲームや漫画に出てくる」
無反応。というか動きが変わらない。
これも違うらしい。
先日に、舞奈たちは首狩り殺人鬼の怪異どもと死闘を繰り広げ、倒した。
ゲームや漫画の敵役より凶悪で、しかも実在する人型のバケモノ。
そいつら3匹を、舞奈たち禍我愚痴支部強力チームの面々は3匹とも排除。
しかも味方に被害なし。
奴らに誘拐された少女2人も無事。
ついでに作戦後にはトーマス氏からの的確な指示に従い、警察が到着する前に現場を離れる事もできた。
文句のつけようもない完璧な勝利だ。
その事実に比べれば、翌日のニュースで身元不明のカージャック&暴走犯として事故死した事にされていたくらいは屁でもない。
なので今日も昨日と変わる事なく舞奈は普通に登校していた。
でもって、みゃー子の遊びにつき合っていた。
舞奈は物事に頓着する性質じゃないつもりだが、やりかけた仕事は完遂したい。
なので当てっこを始めたら当てられないと意地になって……
「じゃあほら、アレだ。……カモノハシ?」
踊るみゃー子を眺めながら思いついた名前を口にした途端、
「――まさかカモシカの事を言ってないわよね?」
背後から声。
億劫そうに首だけ動かして見やると、ドアを開けた明日香がいた。
先日の戦闘で、予想外の強敵だった『ママ』を排除した立役者。
彼女は鬼気迫る奇襲によって最大の敵を倒したのだ。
そんな彼女も今日は普通に登校してきていた。
でもって、普通に舞奈に絡んできた。
こちらもまあ、目先の障害がなくなって安堵しているのだろう。
要は精神的に暇なのだ。
「おっ。いいんちょもおはよーさん」
「おはようなのです」
一緒に来たらしい委員長に、あくび交じりに挨拶を返す。
その姿のあまりのだらしなさに、
「志門さんは今日もいつもに輪をかけて退屈を持て余している感じなのです。何か発散できるような楽しい事があれば良いのですが……」
(いや発散は腹いっぱいしてきたつもりだが)
当然ながら事情を知らない委員長が割と本気で気遣う様子に苦笑しながら、
「なに朝から訳のわからない事やってるのよ?」
「じゃーおまえは、みゃー子の言動を理解して常に的確な反応を返せるのか?」
「だから、なんで小室さんが考えてる事を理解しようなんてしてるのよ?」
ジト目で見てくる明日香を睨み返した途端……
「……みゃー子さん、鹿なのですか?」
委員長がボソリと答える。
途端、みゃー子は奇声を発しながら走り回りはじめた。
正解らしい。
あれも鹿の物真似だろうか?
凄いスピードで教室中を跳ね回るみゃー子を舞奈は無言で見やる。
単純に他の生徒の迷惑だし、騒々しくて隣のクラスの担任が飛んできそうだ。
そうしながら、3度ふわわとあくびをする。
別にあれを放っておいても、誰かが命の危険に晒される事はない。
なので手近に居た委員長に眠そうな笑みを向け、
「すごいな委員長」
「鹿には角があるのです」
言った途端に返ってきた答えに苦笑する。
「あるだろう、カモノハシにも」
「だから、それはカモシカ」
明日香もツッコんでくる。
そんな風に朝から久しぶりの平穏を享受していると……
「おはようマイちゃん、みんな」
「マイおはよー! みんなおはよー!」
「おはよう」
「おっ園香。皆もちーっす」
「あら、おはよう」
「皆さん、おはようなのです」
園香たちも登校してきた。
挨拶を返す。
チャビーとテックも一緒に教室まで来たらしい。
そんなテックは通学鞄から私物のタブレットを取り出し……
「……カモノハシはこれ」
差し出してきた。
舞奈は思わず覗きこみ、情報窓いっぱいに表示された動物の写真を見やる。
映っているのは、くちばしが大きいアヒルの出来損ないみたいな謎の生き物だ。
「なんだこりゃ?」
「だから、カモノハシ」
テックの補足に「ふむ」と答える。
奇妙な動物の容姿に愛嬌を感じるのは、今の舞奈に精神的な余裕があるからか。
そう言えばテックのタブレットで事件の動画とか資料とかではなく動物の画像を見る事なんて滅多になかったなあと何となく和みながら……
「……いや、もうちょっと、こう、トナカイみたいな奴じゃなかったか?」
「だから、それはカモシカだっつってるでしょ」
「カモシカはこれ」
「ああ、これだこれ」
言ってみた途端に切り替わった画像を、まじまじと眺めながら笑う。
睨んでくる明日香は礼儀正しく無視。
「わっカモシカだ! かわいいー!」
「ふふっ。バフおちゃんにちょっと似てるね」
「だろ? だから、あたしも最初はそう言ったんだ」
チャビーと園香が一緒にタブレットを覗きこんでくる。
女子は毛がふさふさした可愛い動物が大好きだ。
舞奈はたまたま余裕があるからそうだけど、山の手暮らしの友人は常にそうだ。
「カモシカは哺乳綱の偶蹄目、ウシ科ヤギ亜科に属するカモシカ属の総称よ」
「スゴイ! 安倍さん、物知りだ!」
「ほらヤギじゃねーか」
さっそく始まった明日香の解説に、舞奈は思わずドヤ顔をする。
明日香の知識自慢は今に始まった事じゃないが、今の舞奈は気分がいい。
「ヤギとウシの仲間なの?」
首を傾げるチャビーに明日香は瞳を輝かせ、
「そんな感じ。偶蹄目には他にもカバ、イノシシ、ラクダ、キリン、シカ、それにクジラが含まれるわね」
「……ナニ朝から訳のわからん事を言ってやがる」
「何よ?」
「その並びでクジラはねーだろ」
「そう決まってるんだから仕方ないでしょう」
続く話に思わずツッコむ。
隣で園香とテックが苦笑する。
そのように初等部の教室はいつも通りに平和だった。
さらに今日に限っては、その後も特に目立ったトラブルもなく放課後になった。
そういえば舞奈の今までの人生で、厄介事は畳みかけるようにやってきた。
故に最初のトラブルが起きないと後も続かないらしい。
良い事だ。
なので舞奈も明日香も有り難く平和を享受しながら下校する。
そして先日と同じように県の支部を経由して埼玉支部へ。
いつも通りに他支部の皆と合流して……
「……よっドルチェさん。今朝のニュースを見てから安否が心配だったんだ」
「こんにちは」
「おお舞奈殿に明日香殿。某も報道を見てビックリ仰天でござったよ」
「俺たちなんか最初からいなかった事になってたけどな」
「やんすねー」
「それは、まあ、状況を誤魔化すために先方も尽力してくれた訳だし……」
他愛のない馬鹿話をしながら禍我愚痴支部へ向かう。
ドルチェにザン、やんす、冴子。
皆が一様にほがらかな雰囲気なのは舞奈たちと同じ。
なにせ、この面子にフランを加えた7人で首尾よく勝利した翌日なのだ。
大通りを飛び回る狂える土どもも、今日くらいは嫌そうに見ないでおいてやろうと思える心の余裕がある。
そのように道中でも特に悶着もなく先方に到着した舞奈たちは……
「……今日は仕事ないのか」
「そうなんですよ」
ちょっと拍子抜けした声をあげる。
出迎えてくれたフランが申し訳なさそうに答える。
舞奈たちは先日の作戦の目的を首尾よく達成した。
救出された少女たちも担ぎこまれた病院で心身に異常が無い事が確認された。
そして父親を奪われた彼女らの生活を、これ以上に脅かす者はもういない。
とはいえ、彼女らを救い出す際に少しばかり派手にやりすぎたのも事実だ。
カーチェイスの末に追突事故、さらには戦術結界を張って戦闘だ。
なので今回も諜報部は後始末に奔走している。
今朝みたいな報道への口出しは序の口だ。
その間、舞奈たち実行部隊の協力者チームはお休みという訳らしい。
山場の後に休みがある、何ともホワイトな仕事である。
正直、来る前に言ってくれれば良かったのにと少し思う。
だがまあ、だから今日は来なくていいと言われても舞奈も困っただろう。
いちおう舞奈たちは仕事として禍我愚痴支部に通っているのだ。
そんな舞奈の内心などお構いなしに、
「休みなのか? なら皆で遊びにいこうぜー」
ザンが相変わらず呑気に言った。
だが今日ばかりは皆も気持ちに余裕がある。
彼の能天気さを咎める理由も特にない。なので……
「……そうでゴザルな。このまま帰るのも寂しいでゴザルし」
「わたしは構わないわよ」
「そんじゃ、パトロールも兼ねて皆で街をぶらつくか」
ドルチェの言葉を皮切りに、何となく皆で何処かに行く事になった。
「けど、何処にいくでやんすか?」
言いつついそいそ準備よくるるぶを取り出したやんすに、
「服を……買いに行ったほうがいいかもしれないわね」
ボソリと冴子が答える。
口調がちょっとシリアスだ。
そして同じくらいシリアスな視線はドルチェの太ましい腹に向けられている。
作戦中、ずっと気になっていたらしい。
縦はともかく横にはありえないくらい大きい彼のシャツで、ニチアサのアニメのキャラクターが常にニッコリ微笑んでいる事に。
大人として。
社会人として。
もちろん可愛らしいアニメのキャラクターは怪異に対する牽制になる。
マイナスの感情から生まれた怪異どもが美しいものを嫌うからだ。
ドルチェの腹で微笑む可愛いアニメの女の子も、先日の戦闘で地味に敵の集中力を乱す事で勝利に貢献していたのかもしれない。
だが、それはそれ。
これはこれ。
社会人には相応しい普段の服装というものがある。
銃を抜き身で持ち歩かないのと同じだ。なので、
「そうでゴザルなあ。某も新しい上着が欲しいと思っていたところでゴザル」
「いや、シャツの事なんじゃないのか?」
「やんすねー」
ドルチェのボケにザンがツッコみ、
「なるほど。ザン殿も同じものが着たくなる頃でゴザルか」
「ええっ!?」
「やんすっ!?」
「どんな頃だよそりゃ」
重ねられたボケにザンが馬鹿正直にビックリして、舞奈がツッコみ、
「じゃあ近くに百貨店がありますので、ご案内しますね」
「お手数をおかけしてすいません」
にこやかなフランに連れられて皆で支部を出る。
生真面目な明日香だけは外部からの協力者がノリで現地の人間を動かす事に恐縮している様子だが、それも恐縮止まりだ。皆で遊ぶ事に異存はないらしい。
なので――
「――でさ、明日香の奴、クジラまでヤギの仲間だって言うんだ」
「まあ目まで遡れば、同じ鯨偶蹄目でやんすね」
「流石は明日香殿。博識でゴザルなあ」
「ええっ? 本当の事なのか?」
「ほら見なさい」
そんな馬鹿話をしながら歩く。
「だってクジラは魚だろ? なんでヤギやラクダの仲間なんだよ」
「舞奈殿。クジラは魚じゃないでゴザルよ」
「なんだって!?」
「舞奈さん、義務教育は受けたでやんすか?」
「……今日の授業はつつがなくな」
初等部のな。
ちょっとした失言への怒涛のツッコミに舞奈はむくれる。
隣で「えっ?」みたいな表情をしたザンに気づく余裕もない。
そんな楽しそうな面々の側で……
「……忙しいのに、着き合わせてしまってごめんなさいね」
先を歩くフランに向かって、少し申し訳なさそうに冴子が言った。
「お気になさらず。渉外や調整のフェイズでわたしがする事はないですし」
フランは振り向きながらにこやかに答える。
褐色の肌をした彼女の衣服の下には、痛々しい包帯が見え隠れしている。
先日の戦闘による負傷だ。
敵の本丸だった『ママ』の猛攻から、彼女は文字通り命がけで仲間を守った。
少なくとも明日香とやんす、冴子が無事だったのは彼女の尽力があってこそだ。
だが圧倒的な魔力を振るう『ママ』と相対したフランも無傷とはいかなかった。
身体強化こそ使っていても打撃によるダメージは相当だ。
しかも無茶な筋肉の使い方をしたせいで軽く肉離れも起こしていたとも。
今の彼女に仕事がないのは、休養の意味合いもあるのだろう。
それでも皆とこうやって出かけて楽しそうにしているのは、ひとり身体を休めているより、そのほうが本人的には養生になるのだろう。
彼女にとって、仲間を守るための戦闘には傷つくだけの価値がある。
仲間とのふれあいは負傷と釣り合う報酬になり得る。
いかにも彼女らしいと思う。
そんなフランは……
「……それに変装用の衣装も買い足さなくちゃいけませんし」
「ごめんなさい……」
次いでニコニコと答える。
今度は舞奈が少しバツが悪そうにする。
以前の狂った女との戦闘で、舞奈は変装用の帽子をひとつお釈迦にしていた。
「あっいえ、古くなり過ぎないように定期的に新しい衣装を買ってるので」
「なるほど……。それは盲点でした」
恐縮しながら語られた気遣いに明日香が感心する。
諜報部の気遣いなのか、フラン個人の気遣いなのかはわからないが。
そんな様子を見やって笑いながら、
「にしても、ここらは変わらないなあ」
「やんすねー」
舞奈は街に目を向け、ひとりごちる。
人型怪異に実効支配された埼玉の一角は相変わらずだ。
あちらこちらで狂える土どもが大騒ぎをしている。
免許を持ってない舞奈ですらヤバイとわかる積載量オーバーなトラックが、昨日のライトバンみたいな挙動で通りを暴走している。
運転手はもちろん狂える土だ。
舞奈たちがひとつ、ふたつの悪を正しても、街そのものが変わる訳じゃない。
狂える土どもは街ひとつを実質的に占拠しているのだ。
その上で、何か大きな災厄をもたらそうとしている。
先日の勝利も、所詮は根本的な状況の究明と解決への布石でしかない。
だが今の舞奈たちがやるべき事は休養だ。
厄介な事件への対応は、また明日から嫌というほどできるのだから。
なので今回は幸運にも騒ぎに巻きこまれる事なく百貨店へ。
「おっこれ、ここの服だったんだ」
「気に入ってたのか、それ」
入って早々、ザンが見覚えのあるシャツを見つけてはしゃぐ。
以前に変装して偵察に出かけた時に着ていたものだ。
3匹の怪異を探ろうとしていた時だったか。
いや、当時は敵は2匹だと思っていた。
その時の服装を、彼は地味に気に入っていたらしい。
「まさか一張羅を汚したくないから動きが悪かったとか言わないよな?」
「ええっ舞奈さん、それは酷いっすよ」
やれやれと苦笑する舞奈たちから、少し離れた婦人服の売り場では……
「……さ、流石にこれは派手なんじゃ」
「フランちゃん若いんだし、似合うと思うわよ」
「やんすねー」
女の子たちもかしましく盛り上がっていた。
「おおっ明日香殿! リアルな猫の顔柄のシャツでゴザルか。お目が高い」
「いえ、特に買うつもりはないですよ」
別の場所でも盛り上がっていた。
どうでもいいが、女児服のコーナーで女児に普通に声をかけられるドルチェは肝が据わってるなあと思った。
そのように皆で楽しく買い物をした結果――
「――いい買い物をしたでゴザル」
「それは……よかったわね」
ドルチェは満面の笑みを浮かべて言った。
背には自身の体積が倍になったように膨らんだリュック。
買ったものを詰めこんだのだ。
冴子は遠い目をして、何かを諦めたような表情で答える。
何故ならドルチェは例のアニメキャラのシャツを大量に買っていた。
しかも自分に合うサイズの。
ちょうどセールをしていたらしい。
明日からは毎日ちょっとずつ違う顔のアニメキャラの顔が見られるのだろう。
まあ、本人が満足しているのなら舞奈としては何も言う事はない。
そのように店を出て歩きながら、
「何処かで食事をしていくでやんす」
「おっ! そいつはいい!」
やんすの提案にザンが喝采をあげる。
彼の手にもシャツを買った紙袋。
「何か食べたいものはありますか?」
「そうね……」
フランの問いに冴子が考え……
「……絶対に後ろを向かないようにして聞いてくれ」
「どうしたでやんすか?」
「言った通りだ。できればこのまま面白い話をしてる感じで」
不意に舞奈が声をひそめる。
「何かのゲームでやんすか?」
「まあ、そんな感じだ」
のんびりと尋ねてくるやんすに、舞奈は肩をすくめて答える。
「ザン殿は苦手そうなゲームでゴザルなあ」
「そりゃねぇよ」
ドルチェの軽口に、
「わっ!? な、なんすかっ!?」
冴子がザンの頭を押さえる。
言ってるそばから後ろを向こうとした様子に冴子が気づいたらしい。
そんな様子を横目で見やって苦笑しながら……
「……誰か尾行てきてる。複数人だ」
「ひっ!?」
ボソリと言った。
やんすが小さく悲鳴をあげたのは、ナチュラルに振り返ろうとしたので睨みつけて制止したからだ。まったく。
それはともかく……
「……たぶん全員が異能力者よ」
「そうみたいね」
明日香が視線を向けないように言う。
冴子もうなずいたという事は、魔力感知で後方を探ったか。
異能力者や妖術師は、その身に魔力を宿している。
それを術者である明日香や冴子は魔力感知で察知する事ができる。
術を使っている最中の他の術者も同じようにわかる。
そんな中で全員を異能力者だと断じたのは魔力の量か質からか。
だが明日香自身のような魔術師を、常時に魔力感知で見つける事はできない。
魔術師は施術の直前に無から魔力を生み出すからだ。
逆に言えば尾行者の中にも魔術師がいる可能性はゼロではない。
そうだった場合、こちらに異能力者が3人いる事はバレている。
フランが妖術師なのも同様だ。
幸いにも風下なのにヤニの悪臭はしない。
相手が怪異である可能性は低い。
だが異能力者のグループを尾行する異能力者が普通じゃないのも事実だ。
舞奈はやれやれと肩をすくめる。
作戦直後の思わぬ休日の最中に、これまた思いがけずあらわれた謎の集団。
どうやら新たな厄介事は、明日まで待ってはくれなかったらしい。
「しゃあないなあ……」
ひとりごち、舞奈は背後の集団に気づかれぬよう動き始めた。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
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