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第21章 狂える土
何か忘れてないか?
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平和な平日の朝。
ホームルーム前の教室で……
「いやそれ、この前のアレだろう。……カモノハシだっけ?」
舞奈は目前に向かって面倒くさそうに答える。
逆向きに座った椅子の背もたれに肘をついたまま足元を見やる。
例によって相手はみゃー子。
ふにゃふにゃ、ふにゃふにゃ。
以前にもしていたように両手を頭のサイドにあてて謎の動きをしている。
「違うのか?」
舞奈はそのままみゃー子にジト目を向けながら、
「じゃあ今度こそ鹿か? 違う物まねするなら動き変えろよ……」
「シュッシュッ」
「生き物じゃないのか? ……じゃあ汽車」
ふにゃふにゃ。
違うらしい。
そのようにやる気のない問答を続けていると――
「――だから、カモシカだっつったでしょ。なに朝から寝ぼけてるのよ」
「マイおはよー」
「おはようマイちゃん」
今日も元気にかしましく、明日香にチャビー、園香がやってきた。
出会い頭に睨んでくる明日香を舞奈は礼儀正しく無視し、
「ちーっす。朝から楽しそうだな。いい事でもあったのか?」
「ちょっと人の話を聞きなさいよ!」
挨拶を返す。
見やったチャビーが普段より笑顔なのは本当だ。
「あのね!、昨日、ネコポチが可愛い事をしたんだよ!」
「ええ、そうなのよ」
「……朝から切り替えが早いな」
チャビーの言葉に相好を崩す明日香に思わず苦笑する。
明日香は小動物に怖がられるのに動物が好きだ。
これでは人の事を言えない気がするのだが、まあ別にいい。
「あのね、ネコポチちゃんがふみふみをしたんだって」
「フニフニってなんだ?」
園香の捕捉に首をかしげ、
「ふにふにじゃなくて、ふみふみ」
「ふみふみは前足でね……そうそう、こうやって前足でふみふみするの!」
みゃー子が始めたゼスチャーにチャビーが反応する。
ふみふみって言うのは前足で何かを踏むゼスチャーの事らしい。
みゃー子もたまには役に立つ。
そう思った途端、
「下々の者たち、御機嫌よう……ぎゃあっ暴れ馬ですわ!」
「あっみゃー子さん、おはようございます」
麗華様がやってきた。
途端に飛んでいったみゃー子にビックリして尻餅をつく。
相も変わらずリアクションが派手で、構い甲斐のある麗華様だ。
その側では取り巻きのデニスが何事もなかったようににこやかに挨拶している。
「それ、カマドウマだぜ麗華様!」
「ふふっ、カマドウマは虫さんかな」
「カモシカだっつってるでしょ。わざと言ってるでしょ」
「かまど……ひいぃぃぃ!」
舞奈の余計なひと言で大騒ぎ。
そういやあ麗華様、虫は苦手なんだっけ。
思い出す舞奈の目前で、続けてみゃー子が始めた別のゼスチャーに、
「今度はアライグマですわ!」
「そいつはフニフニって言うらしい」
「いや、だから」
「朝から麗華様がお騒がせするンす」
絶叫する。
朝から元気で結構な事だ。
舞奈が冷やかし、明日香とジャネットが苦笑していると……
「……ふみふみの事?」
「おっテックか。ちーっす」
寝ぼけた舞奈にジト目を向けながらテックが登校してきた。
そのように、今日も初等部の教室は平和だった。
……そして日中の授業もつつがなく済ませ、放課後。
舞奈も明日香も普段通りに下校して、県の支部から埼玉へ転移。
他の面子と合流して禍我愚痴支部へ赴く。
そこで先日までと同じように執行部との作戦会議を済ませ――
「――今日のミーティングはここまでだ。皆、おつかれさま」
「終わったー! 今日は早かったし、訓練やろうぜ!」
「望むところだザン君!」
トーマスの締めの言葉が終らぬうちに、ザンが勢いよく席を立つ。
会議の間じゅう船を漕いでいたのが嘘のような元気はつらつさだ。
頭を使うより身体を動かす方が好きそうなのは相変わらず。
そんな脳筋ムーブで体育会系な先方からの株が上がっているのだから、今回の共闘で最も輝いているのはザンだ。
「ハハッ! 某もご一緒するでゴザルよ」
「おう! 今日は負けないぜ!」
ドルチェも他の少年たちと一緒に席を立ち、
「じゃあ、わたしたちは先に上がるわ」
「おつかれさまっす。その……グレイシャルさんも気をつけて帰ってください!」
「貴方たちもね。異能力者2人なんだから」
「2人ならタクシー使うから問題ないでゴザルよ」
そんな変哲のないトークの後に、ザンが冴子との仲を先方のリーダーや少年たちに冷やかされながら去っていき……
「……わたしたちも帰りましょうか」
「やんすねー」
「フランちゃんもまた明日!」
「おつかれさまですー……きゃっ!?」
「ちょっと挨拶代わりに人様の尻を触るのやめなさいよ」
ビックリして睨んでくるフランの視線を逃れるように舞奈も支部を発つ。
他の皆も続く。
そのように少しばかり会議が早めに終わった平日の夕方。
舞奈、明日香、冴子にやんすの4人で少し早い帰路に着く最中……
「……あれ? 舞奈さん。埼玉支部はそっちじゃないでやんすよ?」
「なんで今さらボケて道を間違えると思うんだ? ちょっと野暮用だよ」
ハハハうっかりさんでやんすねーみたいな半笑いで見てくるやんすを睨みつつ、舞奈は率先して道をそれて角を曲がる。
他の面子も好奇心か安全上の理由からか、それ以外の理由からか舞奈に続き――
「――ちーっす」
「あっさいもんさん、皆さんもいらっしゃい」
皆して見慣れたビルへとやってきた。
何の事はない。自警団の事務所だ。
「ごめんなさい、連絡もなしに」
「いえいえ気にしないでください。皆さんなら何時でも大歓迎ですよ!」
「お茶をどうぞ」
「どうもでやんす」
応接室へ案内され、おっちゃんたちに笑顔で出迎えられる。
常識的な冴子が恐縮する間に、奥に居たおっちゃんが気を利かせて茶を持ってきてくれた。
微妙に暇していたらしい。
平和でなによりだ。
「前回の調査への協力、いたみいります。あれから変わった様子はないですか?」
生真面目な明日香がせっかくだからと近況を確認する。
今回のクリーン作戦の発端となった中毒者の捕獲作戦。
その前に実施した違法薬物の受渡現場の偵察。
どちらも案内役として自警団の力を借りた。
というか、それらの案件そのものも自警団から持ちこまれたようなものだ。
そして地元民の彼らは怪異どもの情報をいち早く入手出来て、こちらは人間に成りすました怪異に対する実行力を持っている。
なので他にも何か問題を抱えているなら聞いておくのもやぶさかではない。
その考えは舞奈も同じだ。
もっとも新しい案件に取り掛かるのはしばらく先になりそうではあるが。
そう思った舞奈だが、
「あれ以降は至って平和ですよ」
「奴らのトラックが来る頻度も減った気がしますじゃ」
先方の目下の懸念は舞奈たちが解決してしまったようだ。
平和で何より。
「これも明日香ちゃんたちのおかげですよ」
「いえいえ、大したことをした訳じゃありませんよ」
「……そりゃまあ、あの仕事でいちばん働いたのあたしだからな」
調子よく話を合わせる明日香をジト目で睨んでいると……
「あっサィモン・マイナーだー。いらっしゃーい」
ドアがガチャリと開いて、寝ぼけた様子の赤毛の少女が入ってきた。
おっちゃんたちが「あっ先生」みたいに気さくに出迎える。
キャロルだ。
自警団が平和なので用心棒の彼女も暇そうだが、ザンや先方の執行部と違って彼女は退屈も堪能していたようだ。
ミーティングをした様子も無いのにこの有様である。
「おはようさん」
「いや、流石にこの時間まで昼寝してないよ」
(どうだか)
軽口を叩く舞奈を見やりながら、ふわわとあくびをする。
いい身分だ。
舞奈は思わず肩をすくめ、
「で、今日はどうしたのよ? また新しいトラブル?」
退屈しのぎのネタ元みたいにジロジロ見てくるキャロルを睨み、
「『また』じゃなくて『まだ』だ。あの話の続きがあるんだよ。あと、別にあたしが始めた厄介事じゃないからな」
「どういう事よ?」
「いや実はな……」
売り言葉に買い言葉のように事情を語って聞かせる。
つまり下水道クリーン作戦の件だ。
この界隈の下水道には薬物中毒者の狂える土どもが大量に潜んでいる。
そいつらを数日後に【機関】の執行人たちが殲滅する。
多人数で下水道に殴りこんで。
その作戦については特に機密ではないから、協力者に話す分には問題ない。
だが途端――
「――えー。面倒くさいなあ。臭いし」
「誰もおまえに着いてこいなんて言ってねーよ」
キャロルが露骨に嫌そうに、うえっと顔をしかめてみせた。
舞奈は再び赤毛を睨む。
下水道は臭くて暗くて狭くて舞奈も正直、二度と入りたくなんかないし、そんなところで大量の怪異を片づける仕事なんて誰だって嫌に決まってる。
行きたくない気持ちは舞奈にも理解できる。
だが執行部とも都合がついた次の休日に、作戦を施行するのは決定事項だ。
露骨に(うわぁ)みたいな顔をされると微妙に腹が立つ。
だが、ここで愚痴をこぼしても何も良い事はないので、
「仕事は【機関】でカタをつける」
「それは有り難いですじゃ」
務めて事務的な口調で伝える。
途端に返ってきた、捕獲作戦の際にスラムまでの案内をしてくれた爺ちゃんの朗らかな返事で溜飲を下げて、
「けど残党や逃げた奴らがマンホールから出てくるかもしれないから、あんたたちも念のために気をつけておいてほしいんだ」
言葉を続ける。
実はそれが今日の来訪の目的だったりする。
せっかく伝手があるのに【機関】だけで作戦を実施して、何かあった場合に先方をビックリさせるのも間抜けな話だ。
やんすも(なるほど!)みたいな顔をしてるので誰も気にしなかったのだろう。
だが正直、フランに頼んで連絡してもらうほどではないと思っていた。
ちょうど時間に余裕ができて事務所に寄れて良かった。
そしておっちゃんたちも、
「そういう事情なら協力させて頂きますぞ」
「休みの日ですし、せっかくだから散歩がてら見回りでもしますよ」
誰かさんと違って協力的でなにより。
率先的に見回りの仕事までしてくれるなんて、舞奈の身近では珍しいくらい嬉しい誤算だ。
正直、彼らの爪の垢を煎じて飲ませたい奴が地元に何人もいる。なので、
「おう、すまない」
「ご協力に感謝いたします」
皆でペコリと頭を下げて、
「ですが一般市民が多い通りや、普通に歩く分には安全な場所だけの見回りをお願いします。基本的に【機関】のメンバーで殲滅する予定ですし、警戒したせいで普段から地上にいる狂える土に襲われたら本末転倒ですので」
「「「はーい」」」
明日香の念押しにおっちゃんたちが子供みたいに素直に答える側で、
「マンホールから大量のフィーンドが……ぷぷっ」
「いや別にウケる所じゃねーから」
キャロルは呑気に笑っていた。
ったく、大丈夫なのか?
舞奈が苦笑する側で、
「蓋がふっとぶんですかな?」
「溢れてくるのかもしれないですぞ」
「ハハハ、シュールな絵面でやんすね」
釣られて周囲のおっちゃん達にもウケている。
やんすも一緒に笑っている。
まったく。
「マンホールから奴らが出てきても、ひとりで相手したらダメでやんすよ」
「わかってますって!」
次いで尻馬に乗ったようにやんすが語りだし、
「こっちから手を出したら傷害事件になっちゃいますからね!」
「すぐにそちらに連絡します!」
「いや、わかってないでやんす……」
返ってきた返事に珍しく困っている最中に――
「――どっかから情報が洩れてない?」
ボソリと声。
キャロルから。
まるで不意打ちのように。
一瞬前のだらけきった様子が嘘のような鋭い声色で。
ひとりごちるような、耳の良い舞奈にしか聞こえないくらい小さな声で。
おそらく人間が油断する仕組みを最大限に利用した、異常な注意力を持つ舞奈にしかまともに聞いていないだろうタイミングで。
舞奈は思わず目を向ける。
「だいたい、前回も誘いこまれたんでしょう?」
「そりゃそうなんだが……」
キャロルは元の寝ぼけたような表情のまま、いけしゃあしゃあと言い放つ。
舞奈は思わず反応に困って渋面を作る。
たしかに前回、逃げた中毒者を追ったザンとドルチェは奴らの群に襲われた。
中毒者どもの巣だった下水道に誘いこまれたのだ。
そして駆けつけた舞奈や冴子らが間に合わなければ、帰ってこなかっただろう。
正直なところ、舞奈たちが中毒者の身柄を求めてスラムを訪れると知っていなければ成立しない企みのような気はしていた。
つまり何らかの手段で舞奈たちの動向を知っていなければ。
逆に普段からあんな事をしているなら、薬物中毒より先に近隣住民と悶着を起こして調査の対象になったと思う。
その考えはキャロルも同じなのだろう。
でもって、情報の流出元として他の面子を疑っているらしい。
何故なら舞奈自身は彼女とヘルバッハの一件で何度か拳を交えた。
逆にブラボーちゃんの一件では共闘した。
そんな中で、何と言うか……そういうタイプじゃないと理解しているのだろう。
明日香も同じだ。まあ生真面目な彼女に知られると学級会議を始められる可能性があるくらいは考えたかもしれないが。
だが他の面子はキャロルにとって他人だ。
舞奈にとって気心が知れた仲間たちも、目前の赤毛にとってはそうじゃない。
だから疑っている。
冴子かやんすを?
あるいは、ここにはいないザンやドルチェ?
それともフラン?
トーマス氏?
まあ、可能性の話をしただけで特定の誰かという訳ではないのかもしれないが。
もちろん仲間を疑われて楽しい訳がない。
だが彼女は今は正体こそ隠しているがヴィランだ。
舞奈より裏切りや策略と近しいであろう、いわば警戒のプロだ。
その用心深い意見を無視すべきでない事は理解できる。
だから何食わぬ表情のまま思案に沈む舞奈を……
「舞奈さん、また何かやらかしたでやんすか?」
「何もしてねーよ」
赤毛の思惑通りに聞いてなかったやんすが「?」みたいな表情で訝しんできたので思わず睨みつける。
やんすはビックリして思わず首をすくめる。
そんな、まあ良い意味で見れば朴訥そうな表情を見やり、
「……敵に占術の使い手がいるかもしれないだろう?」
「そっちの見立てはそうなんだ」
思いついた反論を口に出す。
対してキャロルはあくび混じりに広い窓の外を見やってみせる。
他に心当たる事でもある様子だ。
それを彼女はあえて口には出さない。
だから舞奈は、それが何なのかはわからない。
流石にこれは相手の意図を察しようにも情報が足りなさすぎる。
だが問いただしても、はぐらかされるだけだろう。
そもそも一から十まで説いて聞かせるような話題でもない。
ひょっとして彼女も思ったことを言ってみただけなのかもしれない。
その類の直感が、うっかり忘れてしまっていた大事な何かをトリガーにしていると過去の経験から知っているから、とりあえず舞奈に伝えた可能性は十分にある。
自分がそうだからわかる。
なので……
「……そういやあ霧島のお姉ちゃんたちは今日は来てないのか? あと、あんたんところのチビちゃんも」
「あの子たちなら買い物だってー。メリルがついて行ってるから大丈夫っしょ」
「ったく、働かん奴だなあ」
舞奈も誤魔化すように言って、返された答えに苦笑する。
わからない事をわからないまま考えても無駄だ。
なら別の事をしたほうが良い。
それも舞奈が過去のロクでもない経験から学習した物事の道理だ。
「そっちも今日は数が少ないじゃん。デブちゃんと、あのイケメンの子」
「子ってあんたな……」
赤毛も何食わぬ表情で軽口を返す。
「ドルチェさんとザンさんは支部でトレーニングしてます」
「っていうかイケメンって、あんたはああいうタイプが好みなのか」
「そんなんじゃないわよ。そっちこそトレーニングしなくていいの?」
そのように、その後は何でもない雑談をしながらしばしくつろぐ。
でもって茶と見回りの礼を言っておいとまして、本当の帰り道に……
「……おっこりゃ奇遇だ」
霧島姉妹に会った。
事務所では会えなかった預言者の姉妹。
妹さんのほうが銀髪の幼女を抱っこしている。
ちっちゃなメリルを連れて買い物と洒落こんでいたのは本当らしい。
「あっ皆さんこんばんは!」
両手に紙袋を提げた活発そうな鈴音さんが舞奈に気づき、
「お仕事の帰りですか?」
「ま、そんな所だ」
物静かな静音さんが、抱っこしていたメリルを舞奈に渡す。
別に舞奈はこの子の何かじゃないんだが、まあ受け取ったものは仕方がないので両手で受け取った体勢のまま上下に動かしてみる。
「おー!」
「事務所の方にもお伝えしたのですが――」
メリルが喜んでいる間に明日香がクリーン作戦の事情を話す。
二度目なの嬉々とした様子で、一回目より少しブラッシュアップした感じで。
説明好きな優等生の面目躍如である。
「――なので、お出かけの際には注意してください」
「ありがとう、明日香ちゃん」
「他の人たちに危険が及ばないように見回った方がいいかしら……?」
こちらも何処かの赤毛と違って気前よく働こうとする。
事務所の面々に守られていたり、誘拐されたところを救出されたからという意識があるからだろうか?
そんな様子を微笑ましく見やりながら、
「これも言いましたが、十分な人数を集めて警戒に臨んでください。見かけても少数で対処しようとなされないでくださいね。相手は凶暴な怪異です」
「もちろんよ」
「心配してくれてありがとう」
続けられた明日香の言葉に、姉妹は礼儀正しく再び笑みを返し、
「メリルちゃんを危ない目に遭わせる訳にもいかないものね」
「おー」
(いや、イエティがいるならむしろ安全なんだが)
続く姉妹の言葉に苦笑する。
というかメリルがほぼ常に姉妹と一緒にいる状況ができあがっているらしい。
見た目によらず強力な超能力者でもあり、有事の際には身近な人間ごと氷の巨人イエティに変身できるという、ある意味でチート護衛な彼女と。
キャロルの差金なら、上手い事やったものだと素直に思う。
まあ自分が働きたくないだけなのかもしれないが。
そんな事を考えながら、
「それより、あれから別の預言とかしてないかい?」
何食わぬ表情で尋ねてみる。
「特にあれからビジョンは見てないわね」
「お役に立てなくてごめんなさい」
「いや、悪い預言がないってのは良い知らせだよ」
そんな姉妹の返事に、舞奈もメリルを持ち上げたまま何食わぬ表情で答える。
だが脳裏をよぎるのは前回の預言。
裏切りと死。
その不吉な予言が先日の作戦で成就する事はなかった。
あれが裏切り、すなわち何者かの情報漏洩の結果だったなら、その話はそれで終わりだ。
何故なら預言の後半は舞奈の機転と冴子の【紫電掃射】によって覆された。
だが預言が別の何かを示しているのだとしたら……?
精度に難のある姉妹の預言に時期の指定はい。
それが現段階から見て過去に当たるのか、未来に当たるのかはわからない。
そんな事を、預言がなされてから相応に時間の過ぎた今になって再び思い出したのは、先ほどキャロルからあんな話を聞いたからだろう。
それでも今それを考えても仕方がないと、意識して頭の隅に追いやる。
不確かな預言を元にして根拠の薄い疑惑を周囲に向けるのも、裏切りと同じくらい厄介だと舞奈は知っている。
というか、単純に不発や気のせいという可能性も無くはない。
識者の見解を総合すると、姉妹の預言の精度はその程度らしい。
やれやれだ。
なので……
「……舞奈さん?」
「なんだよ」
「流石に相手が大能力者だからといって、協力者の一般人のお尻を狙うのはやりすぎでやんすよ?」
「狙わねぇよ! やんすてめぇ!」
「えっ舞奈ちゃん?」
「預言がないかってってそう言う……」
「いや違うよ! ……ああっ!? 明日香や冴子さんまで!」
そのように姉妹とも当たり障りのない馬鹿話をした後に、本当に帰路に着いた。
ホームルーム前の教室で……
「いやそれ、この前のアレだろう。……カモノハシだっけ?」
舞奈は目前に向かって面倒くさそうに答える。
逆向きに座った椅子の背もたれに肘をついたまま足元を見やる。
例によって相手はみゃー子。
ふにゃふにゃ、ふにゃふにゃ。
以前にもしていたように両手を頭のサイドにあてて謎の動きをしている。
「違うのか?」
舞奈はそのままみゃー子にジト目を向けながら、
「じゃあ今度こそ鹿か? 違う物まねするなら動き変えろよ……」
「シュッシュッ」
「生き物じゃないのか? ……じゃあ汽車」
ふにゃふにゃ。
違うらしい。
そのようにやる気のない問答を続けていると――
「――だから、カモシカだっつったでしょ。なに朝から寝ぼけてるのよ」
「マイおはよー」
「おはようマイちゃん」
今日も元気にかしましく、明日香にチャビー、園香がやってきた。
出会い頭に睨んでくる明日香を舞奈は礼儀正しく無視し、
「ちーっす。朝から楽しそうだな。いい事でもあったのか?」
「ちょっと人の話を聞きなさいよ!」
挨拶を返す。
見やったチャビーが普段より笑顔なのは本当だ。
「あのね!、昨日、ネコポチが可愛い事をしたんだよ!」
「ええ、そうなのよ」
「……朝から切り替えが早いな」
チャビーの言葉に相好を崩す明日香に思わず苦笑する。
明日香は小動物に怖がられるのに動物が好きだ。
これでは人の事を言えない気がするのだが、まあ別にいい。
「あのね、ネコポチちゃんがふみふみをしたんだって」
「フニフニってなんだ?」
園香の捕捉に首をかしげ、
「ふにふにじゃなくて、ふみふみ」
「ふみふみは前足でね……そうそう、こうやって前足でふみふみするの!」
みゃー子が始めたゼスチャーにチャビーが反応する。
ふみふみって言うのは前足で何かを踏むゼスチャーの事らしい。
みゃー子もたまには役に立つ。
そう思った途端、
「下々の者たち、御機嫌よう……ぎゃあっ暴れ馬ですわ!」
「あっみゃー子さん、おはようございます」
麗華様がやってきた。
途端に飛んでいったみゃー子にビックリして尻餅をつく。
相も変わらずリアクションが派手で、構い甲斐のある麗華様だ。
その側では取り巻きのデニスが何事もなかったようににこやかに挨拶している。
「それ、カマドウマだぜ麗華様!」
「ふふっ、カマドウマは虫さんかな」
「カモシカだっつってるでしょ。わざと言ってるでしょ」
「かまど……ひいぃぃぃ!」
舞奈の余計なひと言で大騒ぎ。
そういやあ麗華様、虫は苦手なんだっけ。
思い出す舞奈の目前で、続けてみゃー子が始めた別のゼスチャーに、
「今度はアライグマですわ!」
「そいつはフニフニって言うらしい」
「いや、だから」
「朝から麗華様がお騒がせするンす」
絶叫する。
朝から元気で結構な事だ。
舞奈が冷やかし、明日香とジャネットが苦笑していると……
「……ふみふみの事?」
「おっテックか。ちーっす」
寝ぼけた舞奈にジト目を向けながらテックが登校してきた。
そのように、今日も初等部の教室は平和だった。
……そして日中の授業もつつがなく済ませ、放課後。
舞奈も明日香も普段通りに下校して、県の支部から埼玉へ転移。
他の面子と合流して禍我愚痴支部へ赴く。
そこで先日までと同じように執行部との作戦会議を済ませ――
「――今日のミーティングはここまでだ。皆、おつかれさま」
「終わったー! 今日は早かったし、訓練やろうぜ!」
「望むところだザン君!」
トーマスの締めの言葉が終らぬうちに、ザンが勢いよく席を立つ。
会議の間じゅう船を漕いでいたのが嘘のような元気はつらつさだ。
頭を使うより身体を動かす方が好きそうなのは相変わらず。
そんな脳筋ムーブで体育会系な先方からの株が上がっているのだから、今回の共闘で最も輝いているのはザンだ。
「ハハッ! 某もご一緒するでゴザルよ」
「おう! 今日は負けないぜ!」
ドルチェも他の少年たちと一緒に席を立ち、
「じゃあ、わたしたちは先に上がるわ」
「おつかれさまっす。その……グレイシャルさんも気をつけて帰ってください!」
「貴方たちもね。異能力者2人なんだから」
「2人ならタクシー使うから問題ないでゴザルよ」
そんな変哲のないトークの後に、ザンが冴子との仲を先方のリーダーや少年たちに冷やかされながら去っていき……
「……わたしたちも帰りましょうか」
「やんすねー」
「フランちゃんもまた明日!」
「おつかれさまですー……きゃっ!?」
「ちょっと挨拶代わりに人様の尻を触るのやめなさいよ」
ビックリして睨んでくるフランの視線を逃れるように舞奈も支部を発つ。
他の皆も続く。
そのように少しばかり会議が早めに終わった平日の夕方。
舞奈、明日香、冴子にやんすの4人で少し早い帰路に着く最中……
「……あれ? 舞奈さん。埼玉支部はそっちじゃないでやんすよ?」
「なんで今さらボケて道を間違えると思うんだ? ちょっと野暮用だよ」
ハハハうっかりさんでやんすねーみたいな半笑いで見てくるやんすを睨みつつ、舞奈は率先して道をそれて角を曲がる。
他の面子も好奇心か安全上の理由からか、それ以外の理由からか舞奈に続き――
「――ちーっす」
「あっさいもんさん、皆さんもいらっしゃい」
皆して見慣れたビルへとやってきた。
何の事はない。自警団の事務所だ。
「ごめんなさい、連絡もなしに」
「いえいえ気にしないでください。皆さんなら何時でも大歓迎ですよ!」
「お茶をどうぞ」
「どうもでやんす」
応接室へ案内され、おっちゃんたちに笑顔で出迎えられる。
常識的な冴子が恐縮する間に、奥に居たおっちゃんが気を利かせて茶を持ってきてくれた。
微妙に暇していたらしい。
平和でなによりだ。
「前回の調査への協力、いたみいります。あれから変わった様子はないですか?」
生真面目な明日香がせっかくだからと近況を確認する。
今回のクリーン作戦の発端となった中毒者の捕獲作戦。
その前に実施した違法薬物の受渡現場の偵察。
どちらも案内役として自警団の力を借りた。
というか、それらの案件そのものも自警団から持ちこまれたようなものだ。
そして地元民の彼らは怪異どもの情報をいち早く入手出来て、こちらは人間に成りすました怪異に対する実行力を持っている。
なので他にも何か問題を抱えているなら聞いておくのもやぶさかではない。
その考えは舞奈も同じだ。
もっとも新しい案件に取り掛かるのはしばらく先になりそうではあるが。
そう思った舞奈だが、
「あれ以降は至って平和ですよ」
「奴らのトラックが来る頻度も減った気がしますじゃ」
先方の目下の懸念は舞奈たちが解決してしまったようだ。
平和で何より。
「これも明日香ちゃんたちのおかげですよ」
「いえいえ、大したことをした訳じゃありませんよ」
「……そりゃまあ、あの仕事でいちばん働いたのあたしだからな」
調子よく話を合わせる明日香をジト目で睨んでいると……
「あっサィモン・マイナーだー。いらっしゃーい」
ドアがガチャリと開いて、寝ぼけた様子の赤毛の少女が入ってきた。
おっちゃんたちが「あっ先生」みたいに気さくに出迎える。
キャロルだ。
自警団が平和なので用心棒の彼女も暇そうだが、ザンや先方の執行部と違って彼女は退屈も堪能していたようだ。
ミーティングをした様子も無いのにこの有様である。
「おはようさん」
「いや、流石にこの時間まで昼寝してないよ」
(どうだか)
軽口を叩く舞奈を見やりながら、ふわわとあくびをする。
いい身分だ。
舞奈は思わず肩をすくめ、
「で、今日はどうしたのよ? また新しいトラブル?」
退屈しのぎのネタ元みたいにジロジロ見てくるキャロルを睨み、
「『また』じゃなくて『まだ』だ。あの話の続きがあるんだよ。あと、別にあたしが始めた厄介事じゃないからな」
「どういう事よ?」
「いや実はな……」
売り言葉に買い言葉のように事情を語って聞かせる。
つまり下水道クリーン作戦の件だ。
この界隈の下水道には薬物中毒者の狂える土どもが大量に潜んでいる。
そいつらを数日後に【機関】の執行人たちが殲滅する。
多人数で下水道に殴りこんで。
その作戦については特に機密ではないから、協力者に話す分には問題ない。
だが途端――
「――えー。面倒くさいなあ。臭いし」
「誰もおまえに着いてこいなんて言ってねーよ」
キャロルが露骨に嫌そうに、うえっと顔をしかめてみせた。
舞奈は再び赤毛を睨む。
下水道は臭くて暗くて狭くて舞奈も正直、二度と入りたくなんかないし、そんなところで大量の怪異を片づける仕事なんて誰だって嫌に決まってる。
行きたくない気持ちは舞奈にも理解できる。
だが執行部とも都合がついた次の休日に、作戦を施行するのは決定事項だ。
露骨に(うわぁ)みたいな顔をされると微妙に腹が立つ。
だが、ここで愚痴をこぼしても何も良い事はないので、
「仕事は【機関】でカタをつける」
「それは有り難いですじゃ」
務めて事務的な口調で伝える。
途端に返ってきた、捕獲作戦の際にスラムまでの案内をしてくれた爺ちゃんの朗らかな返事で溜飲を下げて、
「けど残党や逃げた奴らがマンホールから出てくるかもしれないから、あんたたちも念のために気をつけておいてほしいんだ」
言葉を続ける。
実はそれが今日の来訪の目的だったりする。
せっかく伝手があるのに【機関】だけで作戦を実施して、何かあった場合に先方をビックリさせるのも間抜けな話だ。
やんすも(なるほど!)みたいな顔をしてるので誰も気にしなかったのだろう。
だが正直、フランに頼んで連絡してもらうほどではないと思っていた。
ちょうど時間に余裕ができて事務所に寄れて良かった。
そしておっちゃんたちも、
「そういう事情なら協力させて頂きますぞ」
「休みの日ですし、せっかくだから散歩がてら見回りでもしますよ」
誰かさんと違って協力的でなにより。
率先的に見回りの仕事までしてくれるなんて、舞奈の身近では珍しいくらい嬉しい誤算だ。
正直、彼らの爪の垢を煎じて飲ませたい奴が地元に何人もいる。なので、
「おう、すまない」
「ご協力に感謝いたします」
皆でペコリと頭を下げて、
「ですが一般市民が多い通りや、普通に歩く分には安全な場所だけの見回りをお願いします。基本的に【機関】のメンバーで殲滅する予定ですし、警戒したせいで普段から地上にいる狂える土に襲われたら本末転倒ですので」
「「「はーい」」」
明日香の念押しにおっちゃんたちが子供みたいに素直に答える側で、
「マンホールから大量のフィーンドが……ぷぷっ」
「いや別にウケる所じゃねーから」
キャロルは呑気に笑っていた。
ったく、大丈夫なのか?
舞奈が苦笑する側で、
「蓋がふっとぶんですかな?」
「溢れてくるのかもしれないですぞ」
「ハハハ、シュールな絵面でやんすね」
釣られて周囲のおっちゃん達にもウケている。
やんすも一緒に笑っている。
まったく。
「マンホールから奴らが出てきても、ひとりで相手したらダメでやんすよ」
「わかってますって!」
次いで尻馬に乗ったようにやんすが語りだし、
「こっちから手を出したら傷害事件になっちゃいますからね!」
「すぐにそちらに連絡します!」
「いや、わかってないでやんす……」
返ってきた返事に珍しく困っている最中に――
「――どっかから情報が洩れてない?」
ボソリと声。
キャロルから。
まるで不意打ちのように。
一瞬前のだらけきった様子が嘘のような鋭い声色で。
ひとりごちるような、耳の良い舞奈にしか聞こえないくらい小さな声で。
おそらく人間が油断する仕組みを最大限に利用した、異常な注意力を持つ舞奈にしかまともに聞いていないだろうタイミングで。
舞奈は思わず目を向ける。
「だいたい、前回も誘いこまれたんでしょう?」
「そりゃそうなんだが……」
キャロルは元の寝ぼけたような表情のまま、いけしゃあしゃあと言い放つ。
舞奈は思わず反応に困って渋面を作る。
たしかに前回、逃げた中毒者を追ったザンとドルチェは奴らの群に襲われた。
中毒者どもの巣だった下水道に誘いこまれたのだ。
そして駆けつけた舞奈や冴子らが間に合わなければ、帰ってこなかっただろう。
正直なところ、舞奈たちが中毒者の身柄を求めてスラムを訪れると知っていなければ成立しない企みのような気はしていた。
つまり何らかの手段で舞奈たちの動向を知っていなければ。
逆に普段からあんな事をしているなら、薬物中毒より先に近隣住民と悶着を起こして調査の対象になったと思う。
その考えはキャロルも同じなのだろう。
でもって、情報の流出元として他の面子を疑っているらしい。
何故なら舞奈自身は彼女とヘルバッハの一件で何度か拳を交えた。
逆にブラボーちゃんの一件では共闘した。
そんな中で、何と言うか……そういうタイプじゃないと理解しているのだろう。
明日香も同じだ。まあ生真面目な彼女に知られると学級会議を始められる可能性があるくらいは考えたかもしれないが。
だが他の面子はキャロルにとって他人だ。
舞奈にとって気心が知れた仲間たちも、目前の赤毛にとってはそうじゃない。
だから疑っている。
冴子かやんすを?
あるいは、ここにはいないザンやドルチェ?
それともフラン?
トーマス氏?
まあ、可能性の話をしただけで特定の誰かという訳ではないのかもしれないが。
もちろん仲間を疑われて楽しい訳がない。
だが彼女は今は正体こそ隠しているがヴィランだ。
舞奈より裏切りや策略と近しいであろう、いわば警戒のプロだ。
その用心深い意見を無視すべきでない事は理解できる。
だから何食わぬ表情のまま思案に沈む舞奈を……
「舞奈さん、また何かやらかしたでやんすか?」
「何もしてねーよ」
赤毛の思惑通りに聞いてなかったやんすが「?」みたいな表情で訝しんできたので思わず睨みつける。
やんすはビックリして思わず首をすくめる。
そんな、まあ良い意味で見れば朴訥そうな表情を見やり、
「……敵に占術の使い手がいるかもしれないだろう?」
「そっちの見立てはそうなんだ」
思いついた反論を口に出す。
対してキャロルはあくび混じりに広い窓の外を見やってみせる。
他に心当たる事でもある様子だ。
それを彼女はあえて口には出さない。
だから舞奈は、それが何なのかはわからない。
流石にこれは相手の意図を察しようにも情報が足りなさすぎる。
だが問いただしても、はぐらかされるだけだろう。
そもそも一から十まで説いて聞かせるような話題でもない。
ひょっとして彼女も思ったことを言ってみただけなのかもしれない。
その類の直感が、うっかり忘れてしまっていた大事な何かをトリガーにしていると過去の経験から知っているから、とりあえず舞奈に伝えた可能性は十分にある。
自分がそうだからわかる。
なので……
「……そういやあ霧島のお姉ちゃんたちは今日は来てないのか? あと、あんたんところのチビちゃんも」
「あの子たちなら買い物だってー。メリルがついて行ってるから大丈夫っしょ」
「ったく、働かん奴だなあ」
舞奈も誤魔化すように言って、返された答えに苦笑する。
わからない事をわからないまま考えても無駄だ。
なら別の事をしたほうが良い。
それも舞奈が過去のロクでもない経験から学習した物事の道理だ。
「そっちも今日は数が少ないじゃん。デブちゃんと、あのイケメンの子」
「子ってあんたな……」
赤毛も何食わぬ表情で軽口を返す。
「ドルチェさんとザンさんは支部でトレーニングしてます」
「っていうかイケメンって、あんたはああいうタイプが好みなのか」
「そんなんじゃないわよ。そっちこそトレーニングしなくていいの?」
そのように、その後は何でもない雑談をしながらしばしくつろぐ。
でもって茶と見回りの礼を言っておいとまして、本当の帰り道に……
「……おっこりゃ奇遇だ」
霧島姉妹に会った。
事務所では会えなかった預言者の姉妹。
妹さんのほうが銀髪の幼女を抱っこしている。
ちっちゃなメリルを連れて買い物と洒落こんでいたのは本当らしい。
「あっ皆さんこんばんは!」
両手に紙袋を提げた活発そうな鈴音さんが舞奈に気づき、
「お仕事の帰りですか?」
「ま、そんな所だ」
物静かな静音さんが、抱っこしていたメリルを舞奈に渡す。
別に舞奈はこの子の何かじゃないんだが、まあ受け取ったものは仕方がないので両手で受け取った体勢のまま上下に動かしてみる。
「おー!」
「事務所の方にもお伝えしたのですが――」
メリルが喜んでいる間に明日香がクリーン作戦の事情を話す。
二度目なの嬉々とした様子で、一回目より少しブラッシュアップした感じで。
説明好きな優等生の面目躍如である。
「――なので、お出かけの際には注意してください」
「ありがとう、明日香ちゃん」
「他の人たちに危険が及ばないように見回った方がいいかしら……?」
こちらも何処かの赤毛と違って気前よく働こうとする。
事務所の面々に守られていたり、誘拐されたところを救出されたからという意識があるからだろうか?
そんな様子を微笑ましく見やりながら、
「これも言いましたが、十分な人数を集めて警戒に臨んでください。見かけても少数で対処しようとなされないでくださいね。相手は凶暴な怪異です」
「もちろんよ」
「心配してくれてありがとう」
続けられた明日香の言葉に、姉妹は礼儀正しく再び笑みを返し、
「メリルちゃんを危ない目に遭わせる訳にもいかないものね」
「おー」
(いや、イエティがいるならむしろ安全なんだが)
続く姉妹の言葉に苦笑する。
というかメリルがほぼ常に姉妹と一緒にいる状況ができあがっているらしい。
見た目によらず強力な超能力者でもあり、有事の際には身近な人間ごと氷の巨人イエティに変身できるという、ある意味でチート護衛な彼女と。
キャロルの差金なら、上手い事やったものだと素直に思う。
まあ自分が働きたくないだけなのかもしれないが。
そんな事を考えながら、
「それより、あれから別の預言とかしてないかい?」
何食わぬ表情で尋ねてみる。
「特にあれからビジョンは見てないわね」
「お役に立てなくてごめんなさい」
「いや、悪い預言がないってのは良い知らせだよ」
そんな姉妹の返事に、舞奈もメリルを持ち上げたまま何食わぬ表情で答える。
だが脳裏をよぎるのは前回の預言。
裏切りと死。
その不吉な予言が先日の作戦で成就する事はなかった。
あれが裏切り、すなわち何者かの情報漏洩の結果だったなら、その話はそれで終わりだ。
何故なら預言の後半は舞奈の機転と冴子の【紫電掃射】によって覆された。
だが預言が別の何かを示しているのだとしたら……?
精度に難のある姉妹の預言に時期の指定はい。
それが現段階から見て過去に当たるのか、未来に当たるのかはわからない。
そんな事を、預言がなされてから相応に時間の過ぎた今になって再び思い出したのは、先ほどキャロルからあんな話を聞いたからだろう。
それでも今それを考えても仕方がないと、意識して頭の隅に追いやる。
不確かな預言を元にして根拠の薄い疑惑を周囲に向けるのも、裏切りと同じくらい厄介だと舞奈は知っている。
というか、単純に不発や気のせいという可能性も無くはない。
識者の見解を総合すると、姉妹の預言の精度はその程度らしい。
やれやれだ。
なので……
「……舞奈さん?」
「なんだよ」
「流石に相手が大能力者だからといって、協力者の一般人のお尻を狙うのはやりすぎでやんすよ?」
「狙わねぇよ! やんすてめぇ!」
「えっ舞奈ちゃん?」
「預言がないかってってそう言う……」
「いや違うよ! ……ああっ!? 明日香や冴子さんまで!」
そのように姉妹とも当たり障りのない馬鹿話をした後に、本当に帰路に着いた。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
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