銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第21章 狂える土

クリーン作戦開始

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 気持ちよく晴れた土曜の朝。
 だが、それは空が見える地上の話だ。
 マンホールの下はそんな事はなく……

「……隊長~。この臭い、何とかならないんすか?」
「おまえらが地上で一切クソをしなけりゃな」
 背後で槍を手にした少年が愚痴り、前で先頭を歩くリーダーが答える。
 舞奈は「そりゃそうだ」と苦笑する。
 そのように、舞奈らは狭く薄暗い下水道を執行部の面子と一緒に歩いていた。

 先方との連携の都合で今日ばかりは早朝から埼玉支部に転移した舞奈と明日香。
 同じく朝から出勤してきた他の面子と禍我愚痴支部へ到着。
 そこで先方と合流し、簡単なミーティングの後に作戦開始地点へ。
 協力者チームと執行部による下水道クリーン作戦の開始だ。

 そして今に至る。

「それより作戦に集中しろ。気を抜いてると川に落ちるぞ」
「ひえっ! 勘弁してくださいよ隊長」
 続く隊長の言葉に少年が心の底から嫌そうに答え、

「でも足元が滑りやすいのは本当ですので、注意してくださいね」
「フランさんまで……」
 列の中央を歩くフランが追い打ちをかける。
 本人は至極真面目に気を遣って言ったのだろうが。
 周囲の少年たちからも笑いが漏れる。

 そのように側を悪臭を放つ下水が流れる狭い通路を、剣と懐中電灯を手にした執行部のリーダーが先陣を切って歩く。
 その後ろに剣や槍を手にした少年たちが続く。
 舞奈、明日香、フランとやんすの協力者チームは少年たちの列の中央。
 女子供を守る隊列だ。

 頭上には錆びたパイプが張り巡らされ、時おり水滴がポタリと落ちる。
 漂う汚物の臭いと、かすかに混じるヤニの悪臭が鼻をつく。
 前回の侵入の際にはザンとドルチェのピンチに駆けつけるべく必死で走り、帰りは帰りで中毒者の群から逃れようと夢中だったので気づかなかった。
 だが、こうやって落ち着いて歩くと臭くて狭くてじめじめしていて最悪だ。
 ミーティングの際に事あるごとにチームの士気を気にしていたリーダー氏の思惑が、ようやく理解できた気がする。

 それに大小さまざまな通路が入り組んだ下水道は、まるでゲームの地下迷宮だ。
 舞奈も入ってきたはしごから移動した方向と距離は把握しているつもりだが、有事の際に前回と同じように迷わず一直線に目的地に向かえるとは思っていない。
 テックや先方が調査した地図が頭に叩きこんであるとしても。
 念には念を入れて全員の胸元にセットされている通信機があっても。
 前回は運が良かったのだ。

 そんな中、タブレット端末を手にしたフランが一行の行く手を指図する。
 チームの道先案内人は地図が表示されたタブレットだ。
 そいつを使って予定通りのルートを辿れているかを常にチェックしているのだ。
 故に他の皆は警戒と戦闘に集中できる。
 なので舞奈も側のフランの様子を気にしつつも周囲に気を配る。

 湿った苔が広がる足元の床を照らすのはリーダーと舞奈たちが持つライトと、何人かの【火霊武器ファイヤーサムライ】【雷霊武器サンダーサムライ】が得物の先に灯した不安定な光。
 光源を兼ねた得物を握りしめた少年たちが臭そうに顔をしかめながら歩く。
 時おり少年たちの戦闘タクティカルスニーカーが不気味な水音をたてる。
 通路にも何かの液体が溜まっているようだ。

 そんな彼らの背中を眺めつつ、舞奈も神経を尖らせながら周囲を睨む。
 単に臭くて不快だからという理由だけじゃない。
 以前に同じように下水道を彷徨った時の記憶が脳裏にちらついたからだ。

 埼玉の一角で、あの時の舞奈たちはは半ダースほどの小集団だった。
 早朝に襲撃を受けてホームセンターからマンホールに逃げこみ、追跡を振り切ろうと、それでも各々が気力を振り絞って陽気に歩いた。
 トルソ、バーン、スプラ、ピアース、切丸。
 道中で切丸がいらん駄々をこねて、舞奈と一戦やらかした。
 その後に脂虫どもに襲撃されて……

 ……だが今回の気心の知れた大所帯では、その類のトラブルはなさそうだ。
 舞奈たちと別の場所から侵入した別チームも同様だろう。

 そっちに加わっている冴子やザン、ドルチェも悪臭に辟易しているだろうか?
 スプラや切丸、舞奈が名も知らない今は亡き仲間に想いを馳せているだろうか?
 そんな感傷を誤魔化すように……

「前が視にくいんだが……」
 静かに愚痴る。
 構えたサブマシンガンマイクロガリルに装着されたタクティカルライトの明かりをピクリともゆらさぬまま。
 折角の得物も、前後を同胞に挟まれた状態では撃つに撃てない。
 今の状況では大ぶりな懐中電灯に過ぎない。

 というか普段の作戦では舞奈が最も危険な先頭を陣取るので、他人の背中越しに前方をうかがう状況に慣れないのも事実ではある。
 慣れない安全地帯は思ったより少し苦手だ。
 普段は危機管理に使う脳内のリソースが余って、余計な事を考えてしまう。
 そんな舞奈が見やる先で、

「すまんが君たちやフランを危険に晒す訳にはいかないのでな」
 リーダーは答える。
 口調がやわらかいのは子供を相手にしているからだろう。

 彼らにとっては舞奈はザンの連れ子くらいの認識だ。
 ザンから色々聞いてはいるだろうが、彼らは舞奈が戦うところを見ていない。
 本来は彼らから見れば天上の人であるSランクだなんて言われても実感はない。
 故に戦力ではなく、懐中電灯係を兼ねた保護対象と見なされている。

 まあ、その考えを否定する必要もない。
 少なくとも、それで上手くいっているうちは。

「わたしも皆さんにお手間を取らせてしまって、なんだか申し訳ないです」
「そんな事ないっすよ!」
「そうそう! フランさんを危険な目に遭わせたりしたら執行部の名折れっす!」
 恐縮する生真面目なフランの言葉に、少年たちが気風よく答える。

 暗闇の中、ちらりと舞奈たちを見やってくる視線に気づく。
 以前に3人組の敵回術士スーフィーとの戦闘でフランが手傷を負わされた。
 それを舞奈たちの落ち度だと思っているらしい。
 子供をかばって怪我をしたくらいの認識なのだろう。
 まあ別に構わないが。

「あっしは構わないでやんすよ。危険な仕事は苦手でやんすから」
「あんたな……」
 やんすがサブマシンガンVz61スコーピオンを構えながら呑気に言う。
 覇気のない台詞に合わせてライトの光がゆらゆらとゆれる。
 まったく。

「(ええっ? 銃を持ってるって事はAランクなんじゃ……)」
 背後でボソリと誰かが言った。
 舞奈じゃない。
 いや言おうとしたけど。

 明日香はそういったやりとりを無視して大人しく歩いている。
 小型拳銃モーゼル HScを手にし、油断なく周囲を警戒している。
 生真面目だが現実的な明日香は戦闘集団が軽口を叩く事に頓着しない。
 それで士気が維持され、仕事をこなしてくれれば問題ないと思っている。
 その上で、つき合う気はないので黙っている。
 如何にも明日香らしい挙動だ。

 他に何か考え事でもしているのかもしれないが。
 以前に下水道を進む際にそうしたように【雷波エナギー・ヴェレ】の魔術で側に浮かべた小さな照明を、後ろを歩く少年たちが物珍しそうに見ている。

「にしても、そのデカイ荷物は何だ?」
 背後から、少年のひとりが訝しむように問いかける。
 歩いてきた方向からの奇襲なんか考えられなくて暇を持て余したのだろう。

 それに今日の舞奈が大きなリュックサックを背負っているのは事実だ。
 もちろん予定にはない。
 ちょっとした用心……というか思いつきだ。
 背丈の差で視界は妨げたりしてないはずだが、気になるのは仕方ない。

「菓子か?」
「ここで食いたかないなあ……」
 別の方向からの軽口に、再び少年たちが笑う。
 笑いと軽口は伝播し、何人かの少年が噴き出す。

 不真面目なのではなく緊張に耐えられないのだろう。
 彼らの大半はCランク。
 入念に協議して安全策を施したと言っても、最悪なしくじり方をすると命に関わるような作戦に駆り出される事は多くなかったはずだ。
 故にプレッシャーに十分な耐性がない。
 舞奈が安全な場所に慣れないのと同じくらい、彼らは命の危機に慣れていない。

 そんな舞奈の思惑を他所に……

「……そろそろ気をつけてください。前方に数匹いるようです」
「そうみたいですね」
 明日香の言葉に、一拍ほど遅れてフランがうなずく。

「スゲェ、本当にフランさんみたいに奴らを探知できるんだ」
 少年たちが感心する。
 彼らの前であまり喋らないから何か凄そうに見えていたのかもしれない。
 そして術者は魔力感知で狂える土の存在を感知できる。
 普段の作戦で彼らに同行する場合のフランの役割はそれだったのだろう。

 だが今の状況では魔力感知などできない舞奈にもわかる。
 ライトの明かりの一寸先の暗闇で、何かが動く気配。
 側の下水を煮詰めたような凄まじいヤニの悪臭。

 ――不気味な笑い声、あるいは叫び声が狭い下水道に響き渡る。

 指示されるまでもなく全員が一斉に動きを止める。
 息を詰め、前方を警戒した途端――

「――来ましたぜ隊長!」
 暗がりの中から、ボロ布をまとった浮浪者のような喫煙者が跳び出した。
 ヤニで濁った目は血走り、髪を振り乱し、肌はゾンビの如く土気色をしている。
 地上で見かける同類に比べても酷い有様だ。
 すなわち今回の作戦の目的でもある、中毒者の狂える土。
 骨ばった手には鋭く研がれたガラス片が握られている。

「後続も多数、来ます!」
 フランの警告。

 ガラス片の1匹の背後から、似たような格好の狂える土どもが次々に跳び出す。
 その数、1ダースほど。
 こちらは手に手に鉄パイプや錆びた刀を構えている。

 少年たちは一瞬、怯む。
 やはり、この規模の集団と正面から戦った事はなかったか。
 それでもリーダーだけは怯むことなく敵にライトを向けたまま剣を構え、

「全員、構え! よく狙えよ!」
「「ハイ!」」
 時の声。
 弾かれるように少年たちが動く。

 十分に訓練はしているのだろう、思ったより堅実な動作で一斉に槍を構える。
 たちまち中世のファランクスのような槍ぶすまができあがる。
 その先端に【火霊武器ファイヤーサムライ】【雷霊武器サンダーサムライ】による炎が、稲妻が煌めく。

 そんな一行めがけて、中毒者どもは狂乱の形相のまま跳びかかってくる。
 双眸をヤニと薬物で濁らせたまま、訳のわからない何かを叫ぶ。
 骨ばって歪んだ手足が、狂気にかられた抑制のない力強さで凶器を振り回す。
 そのうちのいくつかには、こちらのそれと同じ異能の炎が、紫電が宿る。

 だが少年たちは動じない。
 少なくとも表向きは。
 もちろん異能力者は異能力の副作用によって高揚状態になるが、今の彼らはそれだけじゃない。リーダーのカリスマ性だ。
 故に続けざまに――

「――突け!」
「「ハイ!」」
 号令と共に一斉に槍を突き出す
 躊躇も迷いもない。
 訓練通りの動き。

 燃える、放電する数多の穂先が、敵集団の先頭の腹に突き刺さる。
 異能力の炎が、稲妻が薄汚いボロ切れを焼く。
 狂った突撃による衝撃を、しっかりした構えで受け止める。
 初打を外した者も一旦、槍を引き、動きを止めた狂える土に追撃する。
 そのまま複数の異能の槍で串刺しにする。

「まだ残ってるでやんす!」
 異能力の槍ぶすまをしのいだ後続の中毒者どもを、

「問題ない!」
「死ねやバケモノ!」
 屈強な、あるいは長身な【虎爪気功ビーストクロー】が手にした剣を振り下ろす。

 彼らの得物は少しばかり質が良いだけの普通の剣。
 だが身体強化の異能力で肥大化した筋肉によって振るわれた鈍い刃は、ギロチンやあってはならない悲惨な事故の如く無慈悲に敵の額にめりこむ。
 骨ばった手から落ちた錆びた刀が床を転がる。
 だが刃に脳天を預けたまま、喫煙者は何かを喚き散らす。

「おおっと! まだ生きてるぜ!」
 仲間の脇をすり抜けた【狼牙気功ビーストブレード】が手にしたナイフが、しぶとい喫煙者をめった突きにする。

 その間、リーダーも敵の凶器を【装甲硬化ナイトガード】で防ぎながら2匹を片づける。

 なるほど大きな口を叩くだけの事はある。
 リーダー以下の執行部は、よく訓練された戦闘集団だ。
 個々の実力は少しばかり腕が立つ程度でしかないが、集団としての動きで戦力を何倍にも引き上げている。
 故に一対一では異能力者と互角以上の狂える土を、同数で圧倒している。
 正直なところ、少し彼らを見くびっていたようだ。

 そう。1ダースの敵集団と相対しているのは前衛のみ。
 舞奈たちの後ろにいる組は動いてすらいない。
 油断なく得物を構え、背後からの奇襲を警戒している。
 挟撃に、あるいは【偏光隠蔽ニンジャステルス】による奇襲に対して備えているのだろう。

 思いがけず統制のとれた異能力者たちの動きに感心する。
 この調子なら舞奈たちの出番はなさそうだ。
 そう思った途端――

「――おっと、活きがいい奴がいたぜ!」
 左手で幅広のナイフを抜く。

 同時に、側を流れる下水の中から中毒者が跳び出した。
 舞奈も同時に跳びかかりながら、ヘドロ怪人みたいな怪異の喉笛を裂く。
 出現と同時に動かない汚物人形になった人影を蹴り飛ばす。
 反動で通路の壁際に着地。
 隊列の中央にいると言えど、戦闘中に仲間の足元をすり抜けるくらいは容易い。
 少しばかり大きなリュックを背負っていても同じだ。

 巨大な荷物に喉笛を切り裂かれた汚物まみれの中毒者が、跳び出してきた汚物の川にボチャリと落ちて飛沫を散らす。
 幸い他に出てくる様子はない。なので、

「流れて行く……」
 そういえばあれ、最後まで流れていったら騒ぎになるんじゃないか?
 戸籍すらない人型怪異も、表の社会では人と同じ扱いだ。
 舞奈は下水に浮かんで運ばれていくヘドロ怪人を見やって呑気にひとりごち、

「何処に行くんだろう……?」
「下水処理場よ。今日の作戦に伴って禍我愚痴支部の一般渉外部なり諜報部なりから秘密裏に何らかの通達が行ってると思うけど」
「そっか」
 明日香の答えに適当な相槌を打つ。
 そんな様子に気づいたように、

「ん……あっ悪ぃ! 気づかなかった……」
「いいって事よ」
 背後を警戒していた少年がビックリする。
 落ちる音と流れていった人影、そして舞奈と明日香の会話で気づいたらしい。

「――ん? おまえが見逃したのか?」
「すんません!」
「いや、あれは仕方がないよ。クソの中から跳び出してきたんだ」
「それに君は気づいたのか」
「まあな。目と耳には自信があるんだ」
 同じくこちらの様子に気づいて振り返ったリーダーが少し驚く。

 目前の敵をすべて片づけ、他に手出しが必要な戦局もないので状況の把握に専念する気になったのだろう。敵がいなくなるまで加勢すると部下が成長しない。
 前衛を兼ねたリーダーは大変だ。
 ディフェンダーズのミスター・イアソンとも違ってチームの中で個人としての戦闘能力が突出して強いのも彼みたいだし。
 そんな事を考えながら、

「【断罪発破ボンバーマン】はいないのか? 錬度によっちゃあ川の中にいる奴を問答無用で爆破できるはずだが」
「その手の異能力の使い手は諜報部で働いてもらっている」
「そっか……」
 尋ねてみる。

 異能力【断罪発破ボンバーマン】は脂虫を爆破させる効果を持つ。
 敵が煙草を吸ってなければ無いと同じ異能力だが、状況を選べば火力は圧倒的。
 少なくとも今回の殲滅対象である中毒者の狂える土は全員が該当する。
 だが、まあ本人が無くていいと言うなら別に異論もない。

 現に、それでも問題なく前衛の面子は順調に中毒者どもを倒していく。
 状況の有利さはリーダーが背後を気にしていられるほど。

 というか、見やると最後の一匹が両断されていた。

「隊長! 終わりました!」
「ざっとこんなもんっすよ!」
「雑魚ばっかりじゃないっすか!」
「油断するなよ! 情報では、まだ先には怪異の群がうじゃうじゃいる」
「そうっすね! のんびりしてたらザンたちに先をこされちまいますもんね!」
「今のって何匹いたんだっけ……?」
「舞奈が片づけたのを含めて11匹ですね」
「あっすまん明日香ちゃん」
 と、そのように舞奈たちのチームの初戦は呆気ないほど順調な勝利に終わった。

 ……その後も討伐は順調に続いた。

 長い通路の先や細い通路から数匹~1ダースの中毒者どもが散発的に跳び出す。
 それを少年たちが殲滅していく。

 その繰り返しだ。
 幸いにも舞奈の出番もほとんどない。

 明日香が律義に数える討伐数の桁がひとつ増えるころには一行もかなり手慣れてきて、戦闘というより作業の調子で怪異どもを片づけられるようになっていた。
 それでも油断はしないのは訓練の賜物か。
 あるいはリーダーの手腕か。
 一行は隊列を崩さぬまま下水道を進む。

「にしても……」
 流石に悪臭も気にならなくなった……というか鼻が諦めて臭いを感じなくなった狭い通路を歩きながら、ふと舞奈は首をかしげる。

「舞奈君、どうしたのかね? 気になる事があるなら聞かせてほしい」
「ああ、いやな……」
 リーダーにうながされて話す。

 何度か小規模な狂える土のグループを殲滅するうち、舞奈は奴らの散発的な出現に違和感を抱いていた。
 前回は周到に誘いこまれ、大量の群に襲われたというのに。

「こちらの戦力が圧倒的だから、恐れをなしてるんじゃないのか?」
「だと良いんだが」
 リーダーの言葉に舞奈は苦笑する。
 だが少年たちは異口同音にリーダーに同意する。

 まあ今のところ連戦連勝なのは事実だ。
 彼らが調子づくのも仕方はないと理解はできる。
 というか高まった士気に水を差す必要はない。
 少なくとも彼らは、そういうやり方で実力以上の力を発揮する類の集団だ。
 そんな事を舞奈が考えるうちに……

「皆、止まってくれ。定時連絡の時間だ。これより10分ほど休憩とする」
「おっそんな時間か」
 リーダーの号令で一行は歩みを止める。
 支部及び別チームとの定時連絡だ。

「ふー! 疲れたぜ!」
「明日香ちゃん、今のKILL数いくつっすか?」
「165です。わたしとフランさんの分も入ってますが」
「うおー! スゲー!」
「なんだかんだ言って、けっこう倒したでやんすね」
「……あんた以外の奴らがな」
 無駄口を叩きつつ、何人かの少年が床にどっかりと腰を下ろす。
 普段なら信じられない凶行に思えるが、汚物みたいな中毒者どもとの連戦で感覚が麻痺してしまっているのだろう。
 飛沫を浴びまくった彼らの見た目もちょっと先方に似てきた。

 舞奈もリュックを下ろし、その上に腰かける。
 もちろん帰ったら本格的なクリーニングとかしてもらう事を前提で。

 立っているフランをひとりがふざけて膝の上に誘ってる間に、明日香が施術して壁際に大きな氷の塊を創造して上に座る。
 冷気を放つ【冷波カルト・ヴェレ】の魔術の応用だ。
 珍しく場の雰囲気に飲まれたか氷塊の表面には余計な装飾とかされている。
 猫か何かを模したつもりだろうが術者の壊滅的な芸術センスによって怪物みたいになったそれを、誰かが「格好いい鬼の彫り物っすね!」と褒め称える。
 気が大きくなると周囲のものが好ましく思える性質らしい。
 あるいは討ち漏らしを明日香が魔術で何匹か片づけたので、実力を認められているという理由も少しはあるのだろう。

 そのようになごやかにしている側で、リーダーは無線機を片手にビジネスマンみたいに通話を続けている。
 大変な役割だなあと少し思う。
 もちろん通話の相手は禍我愚痴支部と、他の場所で戦っている別チーム。

 耳の良い舞奈はなんとなく会話を盗み聞く。
 幸いにも向こうのチームも順調で、誰も怪我ひとつしていないようで何より。
 というか、拍子抜けしているようだ。
 こちらと同じ状況ならそれもそうだろう。
 そんな事を考えながら何となく通路を見やり――

「――うわっ!?」
 次の瞬間、立っていた背の高い【虎爪気功ビーストクロー】を蹴り倒す。
 荷物の上に座っていた体勢から一挙動で。

「痛ぇ!」
「おおい君、何を……!?」
「おまえらも伏せろ!」
 驚きと怒声、舞奈の叫びに――

「――守護《エイワズ》!」
 明日香の施術が重なる。
 同時に通路の奥を封鎖するように氷の壁が建つ。
 壁際の氷塊が小石に見えるほどの、通路を塞ぐ巨大な氷壁。
 即ち【氷壁・弐式アイゼスヴァント・ツヴァイ】。

「うわ冷たっ!」
「明日香ちゃんも何を?」
 少年たちが、通信機を片手にリーダーが困惑する。
 だが更に次の瞬間――

「――!?」
 魔術によって顕現した分厚い氷の壁が白く輝く。

 正確には閃光、そして轟音。

 とっさに建てられた氷壁が、通路の奥から放たれたレーザーを受け止めたのだ。
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