562 / 593
第21章 狂える土
戦闘2-2 ~ 銃技&戦闘魔術vs異能力&回術
しおりを挟む
県庁舎の最上階に位置する執務室で、殴野元酷を追い詰めた舞奈と明日香。
奴はザンや禍我愚痴支部の執行人たちを死に至らしめた元凶だ。
そして何より、奴を倒せば一連の事件にひとまずの終止符を打つことができる。
だから迎撃にあらわれた『ママ』を仲間たちにまかせ、舞奈と明日香は2人でここまでやってきた。
明日香は出会い頭の【拠点】で奴を部屋ごと戦術結界に閉じこめる。
壁や床を無数に這う金属質のパイプと頭蓋骨の牢獄から奴は逃げられない。
だがボディーガードの4匹の騎士と2匹の回術士が襲いかかってきて――
「――ちょこまかと逃げ回りやがって! このガキ!」
「あんたたちがのろまでどんくさいのが悪いんだろう?」
「何だと!?」
舞奈は目前の騎士たちを挑発しつつ、矢継ぎ早に繰り出される剣戟をしのぐ。
女子小学生を捉え損ねた刃が火の粉を散らし、凄まじい剣圧が空気を裂く。
殴野元酷が最後まで手元に置いていたボディーガードの異能力は強く、腕もそこそこは立つが精神的にはそこらのチンピラ程度。
少し軽口を叩いただけで面白いくらい太刀筋が乱れる。
人語を話す動物のような、典型的な人型怪異だ。
――気立ては良いが未熟だった、誰かさんに反面教師として見せたかった程に。
「――おおっと! そっちはフェイントのつもりか? 大した事ないな!」
「貴……様っ!?」
余計な感傷を誤魔化すように、死角から飛んできた巨大な水刃を避ける。
騎士の中に道術の使い手がいて【水行・刀刃】を放ってきたのだ。
こちらも狙いは酷いもので、今も体幹を少し傾けるだけで回避できた。
舞奈の相手は4匹の騎士。
全員が中毒者だろうから異能力も2つだ。
燃え盛る剣を振るう【火霊武器】【装甲硬化】。
その側で猛烈な一撃を繰り出す【虎爪気功】【装甲硬化】。
改造ライフルによる奇襲を目視で避けた【狼牙気功】。
そんな3匹を後ろから水の道術で援護する道士を相手に、流石の舞奈も出会い頭に瞬殺とはいかない。
現に初弾はすべて【装甲硬化】に防がれ、【狼牙気功】に避けられた。
だから相手の隙をうかがいつつ、結界化した部屋の端をちらりと見やる。
戦場の端に逃げた殴野元酷が先ほどこぼした「先生」という言葉が気になる。
だが考えるのは奴らを片づけてからでも遅くはない。
手にした改造ライフルの握把を強く握る。
別に何を企んでいようが舞奈は奴の脳天に穴を開けるだけだし、それにはまず目前の騎士ども――特に道士を片づけなければならない。
だから松明の如く燃える、鉄槌の如く振るわれる刃を跳び退って避けつつ――
「――!?」
「――なっ!?」
不意に2匹の【装甲硬化】が崩れ落ちた。
2匹の騎士は結界の床を這い回るパイプの上に、ゆっくりうつ伏せに倒れる。
その側に固い音を立てて2本の剣が転がる。
片側の刃を包んでいた異能力の炎が、蝋燭を吹き消すように消える。
倒れ伏した甲冑の下から、ヤニ色の体液が溢れるように漏れ出して床を汚す。
倒れた騎士は動かない。
「バカな!?」
「貴様……何を……?」
遺された【狼牙気功】と、道士の騎士が驚愕する。
対する舞奈は態勢を立て直しつつニヤリと笑う。
手にした改造ライフルの銃口からは硝煙。
所詮【装甲硬化】は身に着けた装備品を強化する異能力だ。
奴らはその異能力で、自身の鎧を集中的に強化していた。
舞奈が知っている達人のように、下に着ている衣服を強化してはいなかった。
それが防御性能を極限まで高める手段のひとつだからだ。
怪異の工場で作っているらしい軽量そうな鎧の強度がどの程度かを舞奈は知らないが、布の衣服よりは硬いのだろう。
そして強化された防具の強度は元の材質と異能力による増強分の総和。
かさ増しの比率が高いので普段はあまり意識しないが、ギリギリの状況では元の材質が貫通するかどうかの明暗を左右する事もある。
故に奴らは鎧の強化だけに集中していた。
そのやり方で、剣と剣の勝負では無敗だったのだろう。
実質的に無敵と化した鎧を着こみ、燃える刃や剛剣で斬りかかるやり方が。
鎧の隙間を狙われるなんて思いもしなかった。
相手が剣でそんな事をしてきても、即座に気づいて防げるからだ。
刃の動きを見切って少しだけ身体を動かせば良い。
だが舞奈ほどの技量があれば、鎧の隙間に銃弾を撃ちこむ程度は造作ない。
手足の関節を動かす甲冑の隙間は最小限にはできるがゼロにはできない。
そんな事をしたら防具ではなく拘束具だ。
そして銃身を短く切り詰めた改造ライフルは大口径なのに小回りが利き、近接距離でも自在に銃口の向きを変えて舞奈が意図した場所を撃てる。
そうやって放たれた銃弾は一瞬で目標を射抜く。
実際、刀剣などとは比較にならない速さだ。
加えて小さな弾丸は防御はおろか、知覚する事すら困難。
そんな代物を、如何に手練れとはいえ初見で回避する事は不可能だった。
剣の達人と銃撃戦の達人はイコールではない。
さらに大口径マグナム弾が命中したら【虎爪気功】では耐えられない。
本来は1キロ先の標的を穿つ用途の弾丸だ。
そんなものに至近距離から撃たれたら人間の肉体など紙きれと同じだ。
少しばかり異能力で強化されていようが誤差の範囲。
そんな凶悪な代物が【装甲硬化】で強化された鎧の内側を跳ね回り、その間にある肉体をズタズタに引き裂いたのだ。
つまり先の2匹は一瞬で無数の刃に胴を貫かれたに等しい。
それを本人たちは最後の瞬間まで気づく事はなかった。
生き残った残りの2匹も同じらしい。
「ガキが何をしようが関係ねぇ! 俺様のスピードには誰も――」
「ああ、そうだな」
吠えつつ【狼牙気功】が襲いかかる。
いきなり4匹のチームを2匹にされた焦りを誤魔化しているのだろう。
先ほどまでに勝る超スピードで剣を振るい、嵐のような無数の斬撃を繰り出す。
なのに、あるいは、それ故に――
「――な……んで?」
「床に当たった弾が跳ね返ったんじゃないのか? 運がなかったな」
不意に立ち尽くした【狼牙気功】に舞奈は苦笑を返す。
勢いを減じて飛んできた大口径マグナム弾を、ひょいとつまんでみせる。
左手のグローブの指につままれた弾頭からしたたり落ちる、ヤニ色をした体液。
超高速の騎士は、ゆっくりと視線を落として自身の身体に目を向ける。
自身の身体の異変の原因に、ようやく気づいたのだろう。
鎧の胸当てを穿った弾痕から体液が溢れ出る様子を見やりながら目を見開く。
次いで……
「そん……な……」
硝煙をあげる改造ライフルの銃口を見やりながら騎士は崩れ落ちる。
茫然自失の表情のまま。
正確には弾丸は騎士の背後から甲冑を穿ち、身体を貫通して胸から飛び出た。
高速化のための身体強化の影響だろうか、丁度よく速度が落ちてきたそれを舞奈は受け止めたのだ。
「志門……舞奈……。非魔法のガキじゃなかったのか!?」
残された道士は驚愕を通り越して混乱する。
だが舞奈は何食わぬ調子で笑う。
要は跳弾だ。
明日香の【拠点】の影響で戦術結界と化した部屋の中は壁にも床にも金属質のパイプが走り、合間から骸骨が顔をのぞかせている。
正直なところ如何にも明日香らしい趣味の悪い結界だと思う。
普段どんな鬱屈した考えで生活しているのだろうか。
だがパイプの見掛け上の材質も角度も舞奈が知っている金属製のパイプと同じ。
故に少しばかり跳弾の訓練をした今の舞奈なら、パイプの微妙な角度を利用して意図的に敵の背後を狙う事だって可能だ。
無論、こちらも舞奈の卓越した技量があってこそ可能な出鱈目な撃ち方だ。
初見で対応するのは無理だろう。
確かに【狼牙気功】の彼は銃弾を目で見て避けられるほど素早かった。
だが視界と意識の外から飛来した跳弾を初見で避ける事はできなかった。
あるいは注意していれば避けられたかもしれない。
だが焦っていては無理だった。
2匹の同胞を屠られて恐怖に凍りついた感覚のまま剣戟を繰り出していては。
彼が違法薬物――神の血とか呼ばれていた代物で得ていたはずの、もうひとつの異能力はわからないままだが、それを知る機会も必要性も、ついでに興味もない。
「お、おのれ……面妖なガキめ……!」
「それをあんたに言われたくないぜ」
道士の騎士は身構えながら後ずさる。
まあ無理もない反応だ。
本来は数多の術を用いて敵を混乱させる側だったであろう目前の怪異は、逆に舞奈の信じられない技量を目にして恐れおののいている。
剣を鞘に収め、代わりに懐から密造拳銃を抜く。
それは良い判断だと思うが……何と言うか最初からそうしていれば舞奈ももう少し苦労させられたのにとも思う。
要は子供を相手に舐めプできる目論見が外れて余計に焦っているのだろう。
そんな騎士たちの醜態を見やり――
「――ええい! な、何をやっておる!?」
結界の端からで焦った殴野元酷の罵声が飛ぶ。
自分は剣すら握っていないのにこの言いようである。
だが、こちらの反応も特に不思議とは思わない。
あの胡散臭い眼鏡の団塊男は、簒奪した県知事の権力を振りかざすだけで、今までは何もかもが自分の思う通りになっていたのだろう。
知事である自身の護衛が敵対者を倒せないという状況を把握できないのだ。
そんな一方で――
「――コドモ! 死ネ! 日本人ノ! 黒イ! コドモ!」
影法師の式神を【熱の刃】で追い回しながら、回術士の狂える土が叫ぶ。
掌からのびる槍みたいな長さの光の刃が術者としての実力を示している。
あるいは魔力だけなら『ママ』をも凌駕するかもしれない。
対して2体の式神は二手に別れてサブマシンガンで牽制しつつ、追われる方は誘うようにからかうように左右に移動しながら光の槍の間合いを逃れる。
もう片方は滑るような動作で背後に回りこみつつ足を止めて集中射撃。
魔力で現実を歪める事によって疑似的に存在する式神は、銃弾も発砲するたびに生成されるので実質的に弾数は無限だ。
そして敵は全面からの掃射は【光の盾】で防げるが、後ろからは当たり放題。
正直なところ小口径弾を雨あられと喰らって【強い体】だけで耐えられるのならば、他に有効な戦い方はいくらでもあると思う。
だが逆に、奴も今まではそうする必要はなかったのだろう。
出力の高い回術だけで、たいていの敵は力押しのまま倒せてしまっていた。
戦術を模索する必要はなかった。
だから少し性格の悪い術者に操られた式神に、いいようにあしらわれている。
業を煮やした回術士は【熱の拳】のレーザーを放つが、当たらない。
次いで携えていた密造ライフルを構えて撃つも、式神は素早く影に逃げこむ。
小口径ライフル弾は空しく結界の床を這うパイプを穿つ。
その側で性格の悪い明日香本人と対峙していたもう1匹の回術士は、騎士どもの大半が舞奈に倒されたのに気づいたらしい。
連射していた【熱の拳】を思わず止めて、露骨に動揺してみせる。
その僅かな隙を、修羅場慣れした性格の悪い明日香は逃さない。
4枚の【氷盾】を器用に制御しながら、クロークの裏から何か取り出す。
新たな大頭だ。
再び大魔法を行使するつもりか。大盤振る舞いである。
埼玉支部の調整役を言いくるめて弾薬を補給する際に、術の触媒もせしめていたのだろう。用意周到でなによりだ。
右手には護身用の小型拳銃、左手には大頭を携えながら真言を紡ぐ。
途端、手にした大頭がまばゆく輝き始める。
門外漢の舞奈にすら知覚できるレベルの強大な魔力を放出しているのだ。
故に、敵も今までの攻撃魔法とは別格の手札であると気づいたのだろう。
こちらの回術士は相方とは違って目端が利くらしい。
見た目は同じ狂える土なのに。
そんな回術士は施術を妨害しようと再び【熱の拳】を放つ。
レーザー光線を、明日香の周囲を飛翔する氷の盾が受け止める。
だが、さらに次の瞬間、そちらの回術士の周囲に2体の式神があらわれた。
明日香が陰の中に温存していた予備の式神。
今まで隠し持っていたそれを、このタイミングで出現させたのだ。
2体は相方にしているのと同じように左右からサブマシンガンをぶっ放す。
回術士は慌てて両手に【光の盾】を展開して鉛のシャワーを防護する。
そんな僅かな攻防の隙に、明日香は大魔法を完成させた。
戦闘魔術師の掌の中には、大頭の代わりにまばゆく輝くエネルギーの塊。
即ち【滅光大撃】。
光の塊は術者の合図で砲弾のように放たれ、目標を穿った数秒後に爆発する。
もちろん普通の爆発じゃない。核爆発だ。
そんな物騒な魔術の狙いを定める視線の先には壁際から戦場を見やる殴野元酷。
僅かな隙をついて、明日香は殴野元酷に核攻撃を仕掛けようとしているのだ。
無茶苦茶だ。
だが効果的な戦術には違いない。
舞奈たちの標的はあくまで殴野元酷だ。
馬鹿正直にボディーガードを全滅させてから挑む必要はない。
舞奈もそう考えて先ほど直に殴野元酷を狙ったが、大口径マグナム弾は騎士の道術で防がれてしまった。
だが核爆発を、片手間の防御魔法で防ぎきる事はできない。
それには敵も気づいたらしい。
戦闘魔術師の掌の中で解放の時を待つ核の魔弾を見やって顔色を変えつつ……だが2匹の狂える土の回術士も、舞奈の目前の道士も目立った動きは見せない。
式神や目前の相手に対応するのに手一杯というのとも少し違う。
普通に殴野元酷を見捨てるつもりらしい。
ボディーガードとはいえ所詮は怪異だ。
大事なのは自分自身の生命だけだ。
相手が弱ければ無理のない範囲で護衛対象を守ろうとするが、圧倒的な攻撃によって自分の身が危険に晒されれば保身に専念して護衛対象など放置する。
奴らにとって自己犠牲や挺身は騙された馬鹿がする愚行だ。
例えば今のように護衛対象が核攻撃にさらされる直前などには特に。
それでも、そんな手下を使う方も同じ精神構造をした怪異だ。
殴野元酷は薄情な手下を睨みつけながら――
「――神の血に命ずる! 私の盾となれ!」
何かのゼスチャーをしながら叫ぶ。
途端、
「!? 何ヲスル!? ヤメロ!」
狂える土のうち1匹が不自然に動く。
最初から明日香の式神と遊んでいた方の回術士だ。
背後から2丁のサブマシンガンで撃たれながら、見えない力で引きずられるように戦場を横切り、殴野元酷をかばう格好で明日香の前に躍り出る。
なるほど人型怪異の脳内には怪異のチップが仕込まれている。
そいつが奴らに追加の異能力をあたえ、身体能力を増強している。
だがチップには表向きの仕様にはない機能がいくつかあるらしい。
蜘蛛やネズミを魔獣にしたり、捕らえられた仲間を始末したり、いかにも怪異らしい残忍で姑息な機能だ。
同じ要領で身体の制御を奪って頭目の意のままに操る事もできるのだろう。
それを使って無理やり自身の盾にしたのだ。
手下が手下なら上司も上司だ。
違法薬物という力を餌に騙して挺身させる程度は日常茶飯事なのだろう。
もちろん明日香が、そんな無様な部下と上司の悶着を見逃すはずもない。
だから――
「――ヤメテ!」
防御を考える余裕すらなかったはずだ。
明日香が放った光弾は、回避すら封じられた回術士の胸元にめりこむ。
まばゆい光と衝撃、爆発前から砲弾に宿った熱に怪異は悲鳴をあげる。
「嫌ダ! 死ニタクナイ!」
自身の胸で光り輝くそれを見やりながら、狂える土は慌てふためく。
もう1匹の回術士と道士の騎士、そして殴野元酷も同様に慌てる。
大魔法による核爆発のダメージが直撃した1匹だけにとどまる訳はない。
圧倒的な爆発の余波で部屋の中――結界内にいるすべての者は残らず消し炭だと考えるのが普通だ。
そんな核爆弾を残して術者が自分だけ結界から離脱すると思ったのだろう。
あながち間違った読みではない。
「何ヲスル!? ヤメテ! 俺ヲ助ケロ!」
「ダマレ! 俺ガ助カレ!」
「テメェがヘマするのが悪い!」
叫ぶ同胞めがけて回術士と道士は必死に施術する。
胸に光弾が埋まった同胞を囲むように【光の盾】が展開される。
その外側に符が撒かれ、【水行・防盾】による水の盾が幾重にも形作られる。
仲間を光弾ごと封じこめようとしているのだ。
そんな様子を殴野元酷も祈るような表情で見守る。
奇しくも怪異による共同作業。
奴らの世界でただ唯一価値のある、自分自身の命がかかっているからだ。
そんな必死な怪異どもに、だが舞奈は改造ライフルを構えて無常に撃つ。
回避されないよう策を弄する必要すらなかった。
大口径マグナム弾が、防御魔法を使う余裕もない道士の背を穿つ。
同様に、いつの間にか明日香の手にも錫杖が握られていた。
真言と魔術語と共に空気がよじれ、杖の先から地獄の業火が噴き放たれる。
即ち【火炎放射】。
容赦のない魔術の火炎放射が狂える土の回術士を瞬時に焼き尽くす。
こちらも核の封じこめで手一杯だった。
自身の身を守る余裕などなかった。
敵を仕留めた明日香は笑う。
舞奈も笑う。
胸に核を埋めたままの怪異も釣られて笑う。
奴ら怪異を突き動かす最も強い感情は恨みつらみだから、一度でも裏切られて敵と判断した同胞の死を心の底から喜べる。
そして次の瞬間、舞奈は元の広くて豪華な執務室に放り出された。
明日香ともども結界からはじき出されたのだ。
正確には執務室の壁と黒い結界に挟まれた、室内の廊下のような狭い空間。
部屋そのものを結界化させたのではなく、部屋の中に一回り小さな戦術結界を形成したらしい。
こういう事態を最初から予測して結界を創造したのだろうか?
舞奈が卓越した身体感覚で態勢を整える間に、
「念のために一旦、外へ!」
次いで自分ではじき出されてきた明日香は手近なドアを開けて廊下へ。
舞奈も続く。
そしてドアを背中で閉めた次の瞬間、背後で小さいが剣呑な爆音と衝撃。
殴野元酷との遭遇の前に下の階から響いたそれと少し似ている。
結界の中で核が爆ぜた音だろうか?
続く数秒に何の音もない事を確認してから再びドアを開け――
「――無茶苦茶しやがるな」
部屋の中は台風の後のようだった。
広い執務室の壁も床もズタズタに斬り裂かれ、豪華な家具や装飾品は残らず倒され、叩き割られて部屋中に散らばっている。
結界を破壊した核爆発の余波が、嵐となって部屋の中を吹き荒れたのだ。
「ちったあ加減しろよ」
「問題ないわ。最悪でも死体の確認はできる計算よ」
「だと良いけどな」
軽口を叩きながら部屋を見渡し……
「……お、いたいた」
部屋の隅で尻餅をついた殴野元酷を見つけた。
死体どころか五体満足で目立った怪我もないようだ。
何とも悪運が強い怪異である。
だが逃げ隠れする余力まではなかったらしい。
舞奈は改造ライフルを、明日香は小型拳銃を構えながら慎重に部屋を横切って殴野元酷の目前に並んで立ち、
「志門舞奈……おまえたちは……」
「あんたの手札はさっきので仕舞いか? 年貢の納め時だな」
不快な人型怪異の顔面に、何食わぬ表情のまま銃口を突きつけた。
奴はザンや禍我愚痴支部の執行人たちを死に至らしめた元凶だ。
そして何より、奴を倒せば一連の事件にひとまずの終止符を打つことができる。
だから迎撃にあらわれた『ママ』を仲間たちにまかせ、舞奈と明日香は2人でここまでやってきた。
明日香は出会い頭の【拠点】で奴を部屋ごと戦術結界に閉じこめる。
壁や床を無数に這う金属質のパイプと頭蓋骨の牢獄から奴は逃げられない。
だがボディーガードの4匹の騎士と2匹の回術士が襲いかかってきて――
「――ちょこまかと逃げ回りやがって! このガキ!」
「あんたたちがのろまでどんくさいのが悪いんだろう?」
「何だと!?」
舞奈は目前の騎士たちを挑発しつつ、矢継ぎ早に繰り出される剣戟をしのぐ。
女子小学生を捉え損ねた刃が火の粉を散らし、凄まじい剣圧が空気を裂く。
殴野元酷が最後まで手元に置いていたボディーガードの異能力は強く、腕もそこそこは立つが精神的にはそこらのチンピラ程度。
少し軽口を叩いただけで面白いくらい太刀筋が乱れる。
人語を話す動物のような、典型的な人型怪異だ。
――気立ては良いが未熟だった、誰かさんに反面教師として見せたかった程に。
「――おおっと! そっちはフェイントのつもりか? 大した事ないな!」
「貴……様っ!?」
余計な感傷を誤魔化すように、死角から飛んできた巨大な水刃を避ける。
騎士の中に道術の使い手がいて【水行・刀刃】を放ってきたのだ。
こちらも狙いは酷いもので、今も体幹を少し傾けるだけで回避できた。
舞奈の相手は4匹の騎士。
全員が中毒者だろうから異能力も2つだ。
燃え盛る剣を振るう【火霊武器】【装甲硬化】。
その側で猛烈な一撃を繰り出す【虎爪気功】【装甲硬化】。
改造ライフルによる奇襲を目視で避けた【狼牙気功】。
そんな3匹を後ろから水の道術で援護する道士を相手に、流石の舞奈も出会い頭に瞬殺とはいかない。
現に初弾はすべて【装甲硬化】に防がれ、【狼牙気功】に避けられた。
だから相手の隙をうかがいつつ、結界化した部屋の端をちらりと見やる。
戦場の端に逃げた殴野元酷が先ほどこぼした「先生」という言葉が気になる。
だが考えるのは奴らを片づけてからでも遅くはない。
手にした改造ライフルの握把を強く握る。
別に何を企んでいようが舞奈は奴の脳天に穴を開けるだけだし、それにはまず目前の騎士ども――特に道士を片づけなければならない。
だから松明の如く燃える、鉄槌の如く振るわれる刃を跳び退って避けつつ――
「――!?」
「――なっ!?」
不意に2匹の【装甲硬化】が崩れ落ちた。
2匹の騎士は結界の床を這い回るパイプの上に、ゆっくりうつ伏せに倒れる。
その側に固い音を立てて2本の剣が転がる。
片側の刃を包んでいた異能力の炎が、蝋燭を吹き消すように消える。
倒れ伏した甲冑の下から、ヤニ色の体液が溢れるように漏れ出して床を汚す。
倒れた騎士は動かない。
「バカな!?」
「貴様……何を……?」
遺された【狼牙気功】と、道士の騎士が驚愕する。
対する舞奈は態勢を立て直しつつニヤリと笑う。
手にした改造ライフルの銃口からは硝煙。
所詮【装甲硬化】は身に着けた装備品を強化する異能力だ。
奴らはその異能力で、自身の鎧を集中的に強化していた。
舞奈が知っている達人のように、下に着ている衣服を強化してはいなかった。
それが防御性能を極限まで高める手段のひとつだからだ。
怪異の工場で作っているらしい軽量そうな鎧の強度がどの程度かを舞奈は知らないが、布の衣服よりは硬いのだろう。
そして強化された防具の強度は元の材質と異能力による増強分の総和。
かさ増しの比率が高いので普段はあまり意識しないが、ギリギリの状況では元の材質が貫通するかどうかの明暗を左右する事もある。
故に奴らは鎧の強化だけに集中していた。
そのやり方で、剣と剣の勝負では無敗だったのだろう。
実質的に無敵と化した鎧を着こみ、燃える刃や剛剣で斬りかかるやり方が。
鎧の隙間を狙われるなんて思いもしなかった。
相手が剣でそんな事をしてきても、即座に気づいて防げるからだ。
刃の動きを見切って少しだけ身体を動かせば良い。
だが舞奈ほどの技量があれば、鎧の隙間に銃弾を撃ちこむ程度は造作ない。
手足の関節を動かす甲冑の隙間は最小限にはできるがゼロにはできない。
そんな事をしたら防具ではなく拘束具だ。
そして銃身を短く切り詰めた改造ライフルは大口径なのに小回りが利き、近接距離でも自在に銃口の向きを変えて舞奈が意図した場所を撃てる。
そうやって放たれた銃弾は一瞬で目標を射抜く。
実際、刀剣などとは比較にならない速さだ。
加えて小さな弾丸は防御はおろか、知覚する事すら困難。
そんな代物を、如何に手練れとはいえ初見で回避する事は不可能だった。
剣の達人と銃撃戦の達人はイコールではない。
さらに大口径マグナム弾が命中したら【虎爪気功】では耐えられない。
本来は1キロ先の標的を穿つ用途の弾丸だ。
そんなものに至近距離から撃たれたら人間の肉体など紙きれと同じだ。
少しばかり異能力で強化されていようが誤差の範囲。
そんな凶悪な代物が【装甲硬化】で強化された鎧の内側を跳ね回り、その間にある肉体をズタズタに引き裂いたのだ。
つまり先の2匹は一瞬で無数の刃に胴を貫かれたに等しい。
それを本人たちは最後の瞬間まで気づく事はなかった。
生き残った残りの2匹も同じらしい。
「ガキが何をしようが関係ねぇ! 俺様のスピードには誰も――」
「ああ、そうだな」
吠えつつ【狼牙気功】が襲いかかる。
いきなり4匹のチームを2匹にされた焦りを誤魔化しているのだろう。
先ほどまでに勝る超スピードで剣を振るい、嵐のような無数の斬撃を繰り出す。
なのに、あるいは、それ故に――
「――な……んで?」
「床に当たった弾が跳ね返ったんじゃないのか? 運がなかったな」
不意に立ち尽くした【狼牙気功】に舞奈は苦笑を返す。
勢いを減じて飛んできた大口径マグナム弾を、ひょいとつまんでみせる。
左手のグローブの指につままれた弾頭からしたたり落ちる、ヤニ色をした体液。
超高速の騎士は、ゆっくりと視線を落として自身の身体に目を向ける。
自身の身体の異変の原因に、ようやく気づいたのだろう。
鎧の胸当てを穿った弾痕から体液が溢れ出る様子を見やりながら目を見開く。
次いで……
「そん……な……」
硝煙をあげる改造ライフルの銃口を見やりながら騎士は崩れ落ちる。
茫然自失の表情のまま。
正確には弾丸は騎士の背後から甲冑を穿ち、身体を貫通して胸から飛び出た。
高速化のための身体強化の影響だろうか、丁度よく速度が落ちてきたそれを舞奈は受け止めたのだ。
「志門……舞奈……。非魔法のガキじゃなかったのか!?」
残された道士は驚愕を通り越して混乱する。
だが舞奈は何食わぬ調子で笑う。
要は跳弾だ。
明日香の【拠点】の影響で戦術結界と化した部屋の中は壁にも床にも金属質のパイプが走り、合間から骸骨が顔をのぞかせている。
正直なところ如何にも明日香らしい趣味の悪い結界だと思う。
普段どんな鬱屈した考えで生活しているのだろうか。
だがパイプの見掛け上の材質も角度も舞奈が知っている金属製のパイプと同じ。
故に少しばかり跳弾の訓練をした今の舞奈なら、パイプの微妙な角度を利用して意図的に敵の背後を狙う事だって可能だ。
無論、こちらも舞奈の卓越した技量があってこそ可能な出鱈目な撃ち方だ。
初見で対応するのは無理だろう。
確かに【狼牙気功】の彼は銃弾を目で見て避けられるほど素早かった。
だが視界と意識の外から飛来した跳弾を初見で避ける事はできなかった。
あるいは注意していれば避けられたかもしれない。
だが焦っていては無理だった。
2匹の同胞を屠られて恐怖に凍りついた感覚のまま剣戟を繰り出していては。
彼が違法薬物――神の血とか呼ばれていた代物で得ていたはずの、もうひとつの異能力はわからないままだが、それを知る機会も必要性も、ついでに興味もない。
「お、おのれ……面妖なガキめ……!」
「それをあんたに言われたくないぜ」
道士の騎士は身構えながら後ずさる。
まあ無理もない反応だ。
本来は数多の術を用いて敵を混乱させる側だったであろう目前の怪異は、逆に舞奈の信じられない技量を目にして恐れおののいている。
剣を鞘に収め、代わりに懐から密造拳銃を抜く。
それは良い判断だと思うが……何と言うか最初からそうしていれば舞奈ももう少し苦労させられたのにとも思う。
要は子供を相手に舐めプできる目論見が外れて余計に焦っているのだろう。
そんな騎士たちの醜態を見やり――
「――ええい! な、何をやっておる!?」
結界の端からで焦った殴野元酷の罵声が飛ぶ。
自分は剣すら握っていないのにこの言いようである。
だが、こちらの反応も特に不思議とは思わない。
あの胡散臭い眼鏡の団塊男は、簒奪した県知事の権力を振りかざすだけで、今までは何もかもが自分の思う通りになっていたのだろう。
知事である自身の護衛が敵対者を倒せないという状況を把握できないのだ。
そんな一方で――
「――コドモ! 死ネ! 日本人ノ! 黒イ! コドモ!」
影法師の式神を【熱の刃】で追い回しながら、回術士の狂える土が叫ぶ。
掌からのびる槍みたいな長さの光の刃が術者としての実力を示している。
あるいは魔力だけなら『ママ』をも凌駕するかもしれない。
対して2体の式神は二手に別れてサブマシンガンで牽制しつつ、追われる方は誘うようにからかうように左右に移動しながら光の槍の間合いを逃れる。
もう片方は滑るような動作で背後に回りこみつつ足を止めて集中射撃。
魔力で現実を歪める事によって疑似的に存在する式神は、銃弾も発砲するたびに生成されるので実質的に弾数は無限だ。
そして敵は全面からの掃射は【光の盾】で防げるが、後ろからは当たり放題。
正直なところ小口径弾を雨あられと喰らって【強い体】だけで耐えられるのならば、他に有効な戦い方はいくらでもあると思う。
だが逆に、奴も今まではそうする必要はなかったのだろう。
出力の高い回術だけで、たいていの敵は力押しのまま倒せてしまっていた。
戦術を模索する必要はなかった。
だから少し性格の悪い術者に操られた式神に、いいようにあしらわれている。
業を煮やした回術士は【熱の拳】のレーザーを放つが、当たらない。
次いで携えていた密造ライフルを構えて撃つも、式神は素早く影に逃げこむ。
小口径ライフル弾は空しく結界の床を這うパイプを穿つ。
その側で性格の悪い明日香本人と対峙していたもう1匹の回術士は、騎士どもの大半が舞奈に倒されたのに気づいたらしい。
連射していた【熱の拳】を思わず止めて、露骨に動揺してみせる。
その僅かな隙を、修羅場慣れした性格の悪い明日香は逃さない。
4枚の【氷盾】を器用に制御しながら、クロークの裏から何か取り出す。
新たな大頭だ。
再び大魔法を行使するつもりか。大盤振る舞いである。
埼玉支部の調整役を言いくるめて弾薬を補給する際に、術の触媒もせしめていたのだろう。用意周到でなによりだ。
右手には護身用の小型拳銃、左手には大頭を携えながら真言を紡ぐ。
途端、手にした大頭がまばゆく輝き始める。
門外漢の舞奈にすら知覚できるレベルの強大な魔力を放出しているのだ。
故に、敵も今までの攻撃魔法とは別格の手札であると気づいたのだろう。
こちらの回術士は相方とは違って目端が利くらしい。
見た目は同じ狂える土なのに。
そんな回術士は施術を妨害しようと再び【熱の拳】を放つ。
レーザー光線を、明日香の周囲を飛翔する氷の盾が受け止める。
だが、さらに次の瞬間、そちらの回術士の周囲に2体の式神があらわれた。
明日香が陰の中に温存していた予備の式神。
今まで隠し持っていたそれを、このタイミングで出現させたのだ。
2体は相方にしているのと同じように左右からサブマシンガンをぶっ放す。
回術士は慌てて両手に【光の盾】を展開して鉛のシャワーを防護する。
そんな僅かな攻防の隙に、明日香は大魔法を完成させた。
戦闘魔術師の掌の中には、大頭の代わりにまばゆく輝くエネルギーの塊。
即ち【滅光大撃】。
光の塊は術者の合図で砲弾のように放たれ、目標を穿った数秒後に爆発する。
もちろん普通の爆発じゃない。核爆発だ。
そんな物騒な魔術の狙いを定める視線の先には壁際から戦場を見やる殴野元酷。
僅かな隙をついて、明日香は殴野元酷に核攻撃を仕掛けようとしているのだ。
無茶苦茶だ。
だが効果的な戦術には違いない。
舞奈たちの標的はあくまで殴野元酷だ。
馬鹿正直にボディーガードを全滅させてから挑む必要はない。
舞奈もそう考えて先ほど直に殴野元酷を狙ったが、大口径マグナム弾は騎士の道術で防がれてしまった。
だが核爆発を、片手間の防御魔法で防ぎきる事はできない。
それには敵も気づいたらしい。
戦闘魔術師の掌の中で解放の時を待つ核の魔弾を見やって顔色を変えつつ……だが2匹の狂える土の回術士も、舞奈の目前の道士も目立った動きは見せない。
式神や目前の相手に対応するのに手一杯というのとも少し違う。
普通に殴野元酷を見捨てるつもりらしい。
ボディーガードとはいえ所詮は怪異だ。
大事なのは自分自身の生命だけだ。
相手が弱ければ無理のない範囲で護衛対象を守ろうとするが、圧倒的な攻撃によって自分の身が危険に晒されれば保身に専念して護衛対象など放置する。
奴らにとって自己犠牲や挺身は騙された馬鹿がする愚行だ。
例えば今のように護衛対象が核攻撃にさらされる直前などには特に。
それでも、そんな手下を使う方も同じ精神構造をした怪異だ。
殴野元酷は薄情な手下を睨みつけながら――
「――神の血に命ずる! 私の盾となれ!」
何かのゼスチャーをしながら叫ぶ。
途端、
「!? 何ヲスル!? ヤメロ!」
狂える土のうち1匹が不自然に動く。
最初から明日香の式神と遊んでいた方の回術士だ。
背後から2丁のサブマシンガンで撃たれながら、見えない力で引きずられるように戦場を横切り、殴野元酷をかばう格好で明日香の前に躍り出る。
なるほど人型怪異の脳内には怪異のチップが仕込まれている。
そいつが奴らに追加の異能力をあたえ、身体能力を増強している。
だがチップには表向きの仕様にはない機能がいくつかあるらしい。
蜘蛛やネズミを魔獣にしたり、捕らえられた仲間を始末したり、いかにも怪異らしい残忍で姑息な機能だ。
同じ要領で身体の制御を奪って頭目の意のままに操る事もできるのだろう。
それを使って無理やり自身の盾にしたのだ。
手下が手下なら上司も上司だ。
違法薬物という力を餌に騙して挺身させる程度は日常茶飯事なのだろう。
もちろん明日香が、そんな無様な部下と上司の悶着を見逃すはずもない。
だから――
「――ヤメテ!」
防御を考える余裕すらなかったはずだ。
明日香が放った光弾は、回避すら封じられた回術士の胸元にめりこむ。
まばゆい光と衝撃、爆発前から砲弾に宿った熱に怪異は悲鳴をあげる。
「嫌ダ! 死ニタクナイ!」
自身の胸で光り輝くそれを見やりながら、狂える土は慌てふためく。
もう1匹の回術士と道士の騎士、そして殴野元酷も同様に慌てる。
大魔法による核爆発のダメージが直撃した1匹だけにとどまる訳はない。
圧倒的な爆発の余波で部屋の中――結界内にいるすべての者は残らず消し炭だと考えるのが普通だ。
そんな核爆弾を残して術者が自分だけ結界から離脱すると思ったのだろう。
あながち間違った読みではない。
「何ヲスル!? ヤメテ! 俺ヲ助ケロ!」
「ダマレ! 俺ガ助カレ!」
「テメェがヘマするのが悪い!」
叫ぶ同胞めがけて回術士と道士は必死に施術する。
胸に光弾が埋まった同胞を囲むように【光の盾】が展開される。
その外側に符が撒かれ、【水行・防盾】による水の盾が幾重にも形作られる。
仲間を光弾ごと封じこめようとしているのだ。
そんな様子を殴野元酷も祈るような表情で見守る。
奇しくも怪異による共同作業。
奴らの世界でただ唯一価値のある、自分自身の命がかかっているからだ。
そんな必死な怪異どもに、だが舞奈は改造ライフルを構えて無常に撃つ。
回避されないよう策を弄する必要すらなかった。
大口径マグナム弾が、防御魔法を使う余裕もない道士の背を穿つ。
同様に、いつの間にか明日香の手にも錫杖が握られていた。
真言と魔術語と共に空気がよじれ、杖の先から地獄の業火が噴き放たれる。
即ち【火炎放射】。
容赦のない魔術の火炎放射が狂える土の回術士を瞬時に焼き尽くす。
こちらも核の封じこめで手一杯だった。
自身の身を守る余裕などなかった。
敵を仕留めた明日香は笑う。
舞奈も笑う。
胸に核を埋めたままの怪異も釣られて笑う。
奴ら怪異を突き動かす最も強い感情は恨みつらみだから、一度でも裏切られて敵と判断した同胞の死を心の底から喜べる。
そして次の瞬間、舞奈は元の広くて豪華な執務室に放り出された。
明日香ともども結界からはじき出されたのだ。
正確には執務室の壁と黒い結界に挟まれた、室内の廊下のような狭い空間。
部屋そのものを結界化させたのではなく、部屋の中に一回り小さな戦術結界を形成したらしい。
こういう事態を最初から予測して結界を創造したのだろうか?
舞奈が卓越した身体感覚で態勢を整える間に、
「念のために一旦、外へ!」
次いで自分ではじき出されてきた明日香は手近なドアを開けて廊下へ。
舞奈も続く。
そしてドアを背中で閉めた次の瞬間、背後で小さいが剣呑な爆音と衝撃。
殴野元酷との遭遇の前に下の階から響いたそれと少し似ている。
結界の中で核が爆ぜた音だろうか?
続く数秒に何の音もない事を確認してから再びドアを開け――
「――無茶苦茶しやがるな」
部屋の中は台風の後のようだった。
広い執務室の壁も床もズタズタに斬り裂かれ、豪華な家具や装飾品は残らず倒され、叩き割られて部屋中に散らばっている。
結界を破壊した核爆発の余波が、嵐となって部屋の中を吹き荒れたのだ。
「ちったあ加減しろよ」
「問題ないわ。最悪でも死体の確認はできる計算よ」
「だと良いけどな」
軽口を叩きながら部屋を見渡し……
「……お、いたいた」
部屋の隅で尻餅をついた殴野元酷を見つけた。
死体どころか五体満足で目立った怪我もないようだ。
何とも悪運が強い怪異である。
だが逃げ隠れする余力まではなかったらしい。
舞奈は改造ライフルを、明日香は小型拳銃を構えながら慎重に部屋を横切って殴野元酷の目前に並んで立ち、
「志門舞奈……おまえたちは……」
「あんたの手札はさっきので仕舞いか? 年貢の納め時だな」
不快な人型怪異の顔面に、何食わぬ表情のまま銃口を突きつけた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる