中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ

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本編

百合子の回想_青年期3(百合子視点)

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 <百合子視点>


 その日はとても寒い日でした。

 縁側に腰かけていると、襖が静かに開き、清一さんが一枚の毛布を肩にかけてくれました。

「……風邪をひきますよ」

 私がありがとうと微笑むと、彼は何も言わず、隣に腰を下ろしました。
 ふたりで同じ毛布を分け合っている、ただそれだけなのに、心臓の鼓動が早まる心地。

 しばし、沈黙。
 庭の梅のつぼみが膨らんでいて、けれどまだ咲かない。そんな季節。

「……百合子さん」

 呼ばれて、私は彼のほうを見ました。
 清一さんは、まっすぐにこちらを見つめています。
 その目は――もう、少年の目ではありません。

「最近、……僕のことを避けておられる気がして」

「……そんなつもりは、ないのよ」

「……もしかして僕が、百合子さんを苦しめているのではないかと思えるんです」

 私は言葉に詰まりました。

 たしかに私は苦しかった。
 清一さんが好き。でも、好きだなんて言ってはいけない気がして。
 彼の未来を狭めてしまうような気がして。
 何より、この先、彼が戦争に行ってしまったら――。

 そんな想いを、私は飲み込んできました。
 でも、今この瞬間、彼の目を見ていると、もう何もごまかせなくなる。

「……あなたの未来を、縛りたくなかったの」

 私は、小さな声で言いました。

「私と一緒にいたら、あなたは、きっと不自由するでしょう。夢をあきらめなければならないことも、あるかもしれない。……それが、怖かった」

 沈黙が落ちる。
 庭を風が抜けて、梅の枝がかすかに揺れていました。

 清一さんは、しばらく何も言いません。
 けれど、次に発したその声は、静かで、でも、決して揺るぎなく響きました。

「僕の夢は、百合子さんと生きていくことです」

「……!」

「僕が望んでいるのは、あなたのそばにいることです。たとえ、この先にどんな運命が待っていようと……それだけは変わりません」

 彼はそう言って、そっと私の手を取りました。

 指先が、少し震えている。
 けれど、それは私の手も同じでした。

「百合子さん。……あなたが、もしも、僕を怖れているのなら、僕は何も言いません。でも――」

 清一さんは、唇を噛んで、それでも真っ直ぐに続けます。

「僕は、あなたを愛しています。……子どものころから、ずっと」

 その言葉に、胸が締めつけられました。
 清一さんは、私を、こんなにも誠実に想ってくれていた。

「僕は、人生の暗闇で百合子さんと出会って、あなたのために生きたいと思いました」

 彼の言葉に、胸がいっぱいになる。

「初めてあなたに手を引かれた日から、ずっと……ずっと、あなたのぬくもりを心の支えにしてきました」

 彼は、私の正面に向き直りました。肩にかけていた毛布が落ちる音。

「あなたと過ごした日々が、どれほど救いだったか。僕に、生きる理由をくれたのは、百合子さん、あなたです」

 清一さんの顔がとても近く、目が離せない。

「どうか……僕の妻になってください」

 その瞳は、まるで祈るように、私の答えを待っていました。

 私の目に、涙があふれてきました。
 でも、それは悲しみではなく、言いようのないほどの、喜びでした。

「……はい」

 私は頷きながら、そっと笑いました。

「わたしも……あなたのそばにいたい。できるだけ、ずっと……」

 それだけで、彼は安堵したように微笑んでくれました。
 私たちの心が、確かに結ばれたように感じられました。

「……私も」

 私はようやく、震える声で言葉を返しました。

「私も、あなたが好きです。……ずっと、ずっと」

 彼はそっと私の髪に触れ、頬に触れ、目をのぞき込みました。
 彼の呼吸を間近に感じ、私が静かに目を閉じると、彼の冷たい指先は私の唇に触れました。
 
 それから私たちは、誓いあうように、静かに唇を重ねたのでした。
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