48 / 120
本編
期待と決意と
しおりを挟む
エマの私室。
花火の始まる前、ルーナは上気した頬を輝かせながら、エマの身支度を整えていた。
「やりましたね、奥様!」
エマの髪を整えながら、ルーナはぱぁっと顔を輝かせた。
「奥様のほうから旦那様をお誘いするなんて……まるで恋物語のヒロインです! あぁ、ロマンチックすぎます!!」
彼女は興奮を隠しきれず、思わず声を弾ませる。ルーナのはしゃぎぶりに、エマは少し頬を赤らめた。
「ふふ……ルーナやローラのおかげよ。いつも身なりを整えて、装いの魔法までかけてくれるから。二人のおかげで、私も少し勇気が出たの」
そう微笑むと、ルーナは目にいっぱい涙をためて、胸に手をあてた
「奥様ぁ……!」
感極まった声をもらしながら、ルーナはきゅっと拳を握りしめる。
「このルーナにお任せください!今夜は、誰にも負けないくらい、世界一美しい貴婦人に仕上げてみせます!!」
その真剣な言葉がくすぐったくて、同時に愛おしくて、エマはくすくすと笑った。
ルーナはせわしなく、しかし慎重に髪を結いあげる。お化粧はいつもより念入りに、それでいてエマの良さを引き出すように。優秀な仕事ぶりだった。
「さあ、これで仕上がりです!」
ルーナはエマの手を引いて鏡の前に立たせると、ぱっと手を離し、数歩下がってエマの姿を眺めた。
ルーナはドレスの裾をちょんと摘み、くるりとエマの周囲を一周する。宝石を散りばめた白いドレスが揺れ、窓辺の灯りを受けてきらきらと輝いた。アクセントのグリーンのレースは、彼女の瞳の色を引き立てた。ドレスに合わせて、ゆるく巻かれた金の髪が揺れる。──その姿は、洗練された清らかさで、まるで百合の花を思わせた。
「……はぁぁぁぁぁ……っ!!」
ルーナは胸の奥から深いため息を吐き出した。
「ため息が出るほど美しい……! もはや言葉が追いつきません……!」
思わず両手を合わせ、恍惚とした表情で拝んでしまう。
「奥様……! この尊さは罪です! 今夜、旦那様は間違いなく魂を抜かれます! いえ、抜かれなければ私が抜きます!!」
「ふふっ……ルーナったら」
エマは顔を赤らめながらも、思わず吹き出してしまった。
しかしエマは、鏡の中の自分を見つめながら、胸の奥でざわめく気持ちを押さえきれなかった。
「……セイル様は、喜んでくださるかしら」
すかさずルーナが力強い声で応じる。
「こんなに美しい貴婦人を前にして、喜ばない殿方はいません!奥様は世界一です!!」
その勢いに背を押され、エマは少し背筋を伸ばす。
「……そうね。ありがとう、ルーナ」
穏やかな微笑みとともに、エマの胸には小さな灯りがともった。
*
――もうすぐ、花火が始まる。
セイルは胸元に忍ばせた小箱を、ぐっと奥へ押し込んだ。
エマの私室へ向かう廊下は、灯りに照らされているはずなのに、不思議と薄暗く感じる。胸の奥で高鳴る鼓動のせいだろう。
彼は歩きながら、決意していた。
――髪飾りは、処分しよう。
そして、妻がいたこと、今もその人を愛していること。すべてをエマに話す。
セイルは、エマの冷ややかな視線が自分に注がれることを想像した。
嫌われるかもしれない。
移り気な夫だと、幻滅されるかもしれない。
それでも、私は、そうしなければならない。
彼女がこの先も安らかな人生を送れるように、力を尽くそう。
彼女が、私の存在が不要だというのなら、それでも構わない。
今さらこんなことを告げること自体、おこがましいのは理解している。
けれど、私にできる誠実は、もはやそれしかない。
ふいに、背後から低い声が彼を呼び止めた。
「旦那様!」
振り返ればモーリスが駆けてくる。
「怪我人が出ました。至急、お力を!」
ほんの刹那、足が止まった。
――エマが待っている。
胸をよぎった思いを、セイルは次の瞬間に叱責した。
「……連れていってくれ、モーリス」
迷ってはいけない。
今、選ぶべき道はただひとつ。
セイルは踵を返し、モーリスとともに広場の外れへ急いだ。
花火の始まる前、ルーナは上気した頬を輝かせながら、エマの身支度を整えていた。
「やりましたね、奥様!」
エマの髪を整えながら、ルーナはぱぁっと顔を輝かせた。
「奥様のほうから旦那様をお誘いするなんて……まるで恋物語のヒロインです! あぁ、ロマンチックすぎます!!」
彼女は興奮を隠しきれず、思わず声を弾ませる。ルーナのはしゃぎぶりに、エマは少し頬を赤らめた。
「ふふ……ルーナやローラのおかげよ。いつも身なりを整えて、装いの魔法までかけてくれるから。二人のおかげで、私も少し勇気が出たの」
そう微笑むと、ルーナは目にいっぱい涙をためて、胸に手をあてた
「奥様ぁ……!」
感極まった声をもらしながら、ルーナはきゅっと拳を握りしめる。
「このルーナにお任せください!今夜は、誰にも負けないくらい、世界一美しい貴婦人に仕上げてみせます!!」
その真剣な言葉がくすぐったくて、同時に愛おしくて、エマはくすくすと笑った。
ルーナはせわしなく、しかし慎重に髪を結いあげる。お化粧はいつもより念入りに、それでいてエマの良さを引き出すように。優秀な仕事ぶりだった。
「さあ、これで仕上がりです!」
ルーナはエマの手を引いて鏡の前に立たせると、ぱっと手を離し、数歩下がってエマの姿を眺めた。
ルーナはドレスの裾をちょんと摘み、くるりとエマの周囲を一周する。宝石を散りばめた白いドレスが揺れ、窓辺の灯りを受けてきらきらと輝いた。アクセントのグリーンのレースは、彼女の瞳の色を引き立てた。ドレスに合わせて、ゆるく巻かれた金の髪が揺れる。──その姿は、洗練された清らかさで、まるで百合の花を思わせた。
「……はぁぁぁぁぁ……っ!!」
ルーナは胸の奥から深いため息を吐き出した。
「ため息が出るほど美しい……! もはや言葉が追いつきません……!」
思わず両手を合わせ、恍惚とした表情で拝んでしまう。
「奥様……! この尊さは罪です! 今夜、旦那様は間違いなく魂を抜かれます! いえ、抜かれなければ私が抜きます!!」
「ふふっ……ルーナったら」
エマは顔を赤らめながらも、思わず吹き出してしまった。
しかしエマは、鏡の中の自分を見つめながら、胸の奥でざわめく気持ちを押さえきれなかった。
「……セイル様は、喜んでくださるかしら」
すかさずルーナが力強い声で応じる。
「こんなに美しい貴婦人を前にして、喜ばない殿方はいません!奥様は世界一です!!」
その勢いに背を押され、エマは少し背筋を伸ばす。
「……そうね。ありがとう、ルーナ」
穏やかな微笑みとともに、エマの胸には小さな灯りがともった。
*
――もうすぐ、花火が始まる。
セイルは胸元に忍ばせた小箱を、ぐっと奥へ押し込んだ。
エマの私室へ向かう廊下は、灯りに照らされているはずなのに、不思議と薄暗く感じる。胸の奥で高鳴る鼓動のせいだろう。
彼は歩きながら、決意していた。
――髪飾りは、処分しよう。
そして、妻がいたこと、今もその人を愛していること。すべてをエマに話す。
セイルは、エマの冷ややかな視線が自分に注がれることを想像した。
嫌われるかもしれない。
移り気な夫だと、幻滅されるかもしれない。
それでも、私は、そうしなければならない。
彼女がこの先も安らかな人生を送れるように、力を尽くそう。
彼女が、私の存在が不要だというのなら、それでも構わない。
今さらこんなことを告げること自体、おこがましいのは理解している。
けれど、私にできる誠実は、もはやそれしかない。
ふいに、背後から低い声が彼を呼び止めた。
「旦那様!」
振り返ればモーリスが駆けてくる。
「怪我人が出ました。至急、お力を!」
ほんの刹那、足が止まった。
――エマが待っている。
胸をよぎった思いを、セイルは次の瞬間に叱責した。
「……連れていってくれ、モーリス」
迷ってはいけない。
今、選ぶべき道はただひとつ。
セイルは踵を返し、モーリスとともに広場の外れへ急いだ。
152
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜
ルーシャオ
ファンタジー
林間学校の最中突然異世界に召喚された中学生の少年少女三十二人。沼間カツキもその一人だが、自分に与えられた祝福がまるで非戦闘職だと分かるとすみやかにフェードアウトした。『農耕神の手』でどうやって魔王を倒せと言うのか、クラスメイトの士気を挫く前に兵士の手引きで抜け出し、農村に匿われることに。
ところが、異世界について知っていくうちに、カツキは『農耕神の手』の力で目に見えない危機を発見して、対処せざるを得ないことに。一方でクラスメイトたちは意気揚々と魔王討伐に向かっていた。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる