中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ

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本編

清一の回想_討伐2(清一視点)

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 討伐軍の兵士たちは、はじめのうちは「聖騎士様」とかしこまって呼んでいた。
 しかし、グランフォード公爵が酒の席で名付けた「セイル」という呼び名は、思いのほかすぐに広まった。

「セイル殿!こちらの傷兵の治癒をお願いします!」
「セイル様、浄化の準備が整いました!」

 誰かが呼ぶたびに、周囲も自然に同じ呼び名を口にする。
 最初は違和感があったが、次第にそれが自分の名として定着していくのを感じた。

 それでも心の奥底では、百合子にとっての「清一」であり続けることだけは、決して揺らがなかった。


 *


 最深部にたどり着いた瞬間、空気が一変した。
 濃密な瘴気が視界を霞ませ、息を吸うだけで喉が焼けるように痛む。
 地面はひび割れ、黒く焦げ、ところどころから硫黄のような臭気を放つ煙が噴き出していた。

「来るぞ!」

 怒号とともに、魔物の群れが四方から押し寄せた。無数の牙と爪が閃き、地を揺らすほどの咆哮が飛び交う。

 俺は浄化の力を放ちながら必死に立ち続けた。だが、魔物の波は途切れることを知らない。
 そのたび、仲間たちが盾となって俺を守ってくれた。槍を突き立て、剣を振るい、時には己の身を投げ出してでも、俺の命を繋いでくれる。
 彼らの叫びと血の匂いが入り混じり、胸を突き上げる。

「セイル、下がれ!」

 グランフォード公爵の声が飛ぶ。

 次の瞬間、大地を抉るような轟音とともに、太い尾が視界を裂いた。
 鋼鉄をも砕くであろうその一撃が俺を直撃するかに思えた。

 その刹那──公爵の体が割り込む。
 彼の大盾が火花を散らし、衝撃が空気を震わせた。

「ぐっ……!」

 公爵の足元がめり込み、土煙が舞い上がる。
 間一髪だった。俺の命は、公爵の盾に救われた。

「立てセイル! お前にはまだ役目がある!」

 彼の怒声に、俺は歯を食いしばり頷いた。

 そして──
 闇を裂いて現れた巨影。

 それは、ただの怪物ではなかった。
 黒々とした鱗に覆われた巨躯、揺らめく焔を喉奥に灯す口、そして何よりも──
 俺の存在を吸い込むように射抜いてくる、その瞳。

 目が合った瞬間、背筋が凍りついた。
 抗えぬ意志がその双眸から流れ込み、足を縫い止められる。
 心臓が掴まれ、呼吸が奪われる。

 ──ドラゴンだ。

 次の瞬間、喉奥で唸りが膨らんだ。
 世界を焼き尽くすほどの炎が、奔流となって俺を呑み込む。

 熱と轟音が一瞬にして全てを塗り潰した。
 視界も、耳も、感覚も、炎に溶かされる。


 炎の奔流が去ったとき、そこにセイルの姿はなかった。
 焼け焦げた大地に立ち尽くす討伐兵たち。

「セイル……!」

 グランフォード公爵が思わず声を張り上げる。
 だが返事はなく、ただ赤熱した空気が揺らめくだけだった。

「どこへ消えた……? 今の炎に呑まれたのか……」

 兵たちは互いに顔を見合わせ、戦慄を隠せない。

「まだ終わっておらんぞ! 怯むな!」

 公爵は怒号と共に剣を振るい、仲間たちを奮い立たせた。
 しかしその目の奥に、一瞬だけ、焦燥と不安が浮かんでいた。
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