中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ

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本編

清一の回想_孤独1(清一視点)

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 響き渡る人々の歓声、途切れることのない演奏、咲き乱れる花々。
 討伐軍の凱旋は、国を挙げての盛大なものだった。

 俺はその人々のうねりの中に、ただひとりを探し続けていた。

 どこかに、百合子さんがいるかもしれない。
 見知らぬ土地で不安に怯えながら、彼女が俺を待っているかもしれない。
 必死に人々の顔を追っても、その面影はどこにも見当たらなかった。

 王宮へと招かれた軍の上層部に混じって、俺は王の前に跪く。グランフォード公爵が高らかに討伐の成果を報告し、兵一人ひとりに恩賞が授けられていった。そしてついに、王の言葉は自分に向けられた。

 「聖騎士セイル、此度の戦における多大なる功績を称え、そなたには伯爵の位と領地、そして姓を授けよう」

 荘厳な声が宮殿に響き渡る。

 「希望の名はあるか」

 問われ、俺の脳裏にただひとりが浮かんだ。

 ──百合子さん。

 敵国語は、気が引けた。だがドイツ語であれば、そう名乗っても許されるような気がした。

 「……リーリエ」

 王はゆっくりと頷いた。

 「承知した。そなたは今後、セイル・リーリエと名乗ることを命ずる」

 俺は頭を垂れ、王命を受け入れた。百合子さんの名前を背負ったことが、胸に重く響く。

 「その名に恥じぬよう、尽くします」

 俺は静かに告げた。


 *


 与えられた領地は、田舎の小さな村の集合だった。
 特別な産業は無いが、そこに住む人々は自分達の食べる分だけをひっそりと生産しているような、慎ましさがあった。
 そこは早川の屋敷があったあの地域にどことなく似ていて、俺はお父様から教わったことを生かし、治世に励んだ。

 病める者には保護を与え、痛みのあるものには治癒の力を施した。
 なにか産業が必要だと思い、多国間の貿易の架け橋として交通を整備した。
 俺の治癒の力を頼って来るものも増えた。俺は拒むことなく力を使い、診療所を増やしていった。
 そうして少しずつ人口は増え、リーリエの領地は豊かな土地になっていった。

 俺は、百合子さんを探し続けていた。

 手がかりになりそうなものは何でも調べた。古い文献から地方の噂話まで。
 何でもいい。彼女に繋がるものが僅かにでもあるのなら。俺は探すことを諦められなかった。そうして探し続けることだけが、自分を保つ唯一のすべだった。

 俺は毎日、手帳に挟んだあの写真を眺めていた。
 百合子さんのためにと撮った写真が、いつしか自分の心を支える最後の拠り所となっていた。

 彼女に会いたくてたまらなかった。
 恋しくて、苦しくて、仕方がなかった。
 来る日も来る日も、彼女を求め続けた。
 その思いだけで生きていた。

 そうして日々を繰り返すうち、ある日ふと、彼女の顔を思い出せない自分に気が付いた。

 慌てて写真を見返すと、確かに百合子さんが俺の隣で微笑んでいる。
 その写真は色褪せ、擦りきれ、今にも崩れ落ちそうだった。

 途端に俺は恐ろしくなった。

 このままでは、写真は風化し、彼女がいた証が消えてしまう。俺の脳は日に日に彼女を忘れようとする。忘却に抗えない。自分ではもう思い出せなくなっている。

 怖くて、震えが止まらず、ボロボロの写真に触れることが出来なくなった。

 そうして、俺は画家を呼び寄せた。写真と寸分違わぬ、同じ絵を描かせた。
 優れた画家の筆によって、百合子さんは絵画の中に生き返った。写真と生き写しの百合子さんが、絵画の中で微笑んでいる。

 俺はその絵画を見て、彼女の顔を取り戻したことにようやく安堵した。

 その日から、俺は夜毎、絵画の前に立った。

 絵画の百合子さんに語りかけ、こいねがい、縋り付く。返事はない。しかしそれにも慣れてしまった。俺は絵画の百合子さんをいつまでも求め続けた。

 もはやそうすることでしか、自分の孤独を慰めることが出来なくなっていた。
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