中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ

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本編

清一の回想_エマ(清一視点)

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 顔に、手に、皺が増えていく。
 私は己の老いを、嫌でも自覚し始めていた。

 心はもう、夢の中に漂うようにぼんやりと日々を消化していた。痛みを感じる気力は、とうに尽きていた。

 そんな折、珍しくグランフォード公爵から手紙が届いた。
 久方ぶりの呼び出しに微かな疑問は浮かんだものの、大して気に留めることもなく足を運んだ。

「……娘と結婚してくれないか、セイル」

 唐突に告げられた言葉に、耳を疑った。

「……お話の意図がよく解らないのですが」

「末娘のエマは体が弱くてな。長いこと公爵邸の奥でひっそりと暮らしてきたんだが、あの子も年頃になってきた」

 公爵はどこか居心地悪そうに、しかし真剣に続けた。

「結婚させてやりたいんだが、良い相手が見つからん。そこでわしは思ったのだ。お前も独り身だろう。年は離れておるが、あの子は昔から大人びた娘だ。……きっと、お前たちは合うはずだ」

 紅茶の杯をあおりながら、公爵は言いづらさを押し殺すように言葉を重ねる。

「……お言葉ですが、私は生涯、結婚する気がありません」

「わかっておる! だがな、わしの思いもどうか汲んでくれ。お前ほど信用できる男はおらんのだ。あの子だって、いつまで元気でいられるかわからん……頼む、セイル! 後生だ!」

 まるで拝み倒すように、公爵は頭を下げんばかりの勢いで懇願してきた。
 その姿に、かつて命を救われた恩を思い出す。これほど必死に頼まれては、無下に突き放すこともできない。

「……お会いしてみるだけで、良ければ」

 きっと断られる。
 こんなに年の離れた男と結婚したい若き貴族令嬢など、いるはずもない。
 私は断られることを前提に、公爵令嬢と顔を合わせる約束を交わした。

「ああ、ありがとうセイル! 娘をどうか頼んだぞ! はっはっは!」

 公爵は泣き笑いのような顔で、力強く握手を交わし、何度も私の背を叩いた。


 *


 グランフォード公爵令嬢は、私の顔を見た途端に涙をこぼした。
 その涙の理由は解らなかった。だが今まで感じたことのない切なさに胸を締めつけられ、私は目を逸らすことができなかった。

「エマ・グランフォードでございます。伯爵様、どうぞよろしくお願いいたします」

 涙をそっと拭いながら、彼女は微笑んだ。
 その笑みは儚くも温かく、私の心を掴んで離さない。
 初めて会った女性に、これほどまで心を揺さぶられたことはない。
 己の動揺に驚きながら、私は紳士を装った。

 彼女は慎ましく、穏やかな人だった。
 言葉を交わせば、冷えきった胸の奥に、やわらかな火が灯るようだった。
 失われたはずの体温を、みるみる取り戻していく感覚を味わった。

 また会いたい。
 その思いに抗えず、私はすぐに次の約束を取りつけていた。

 この感情にふさわしい名前は見つからなかった。

 短い生を懸命に生きようとする彼女に心惹かれた――そう言えば美しく聞こえるだろう。

 けれど実際はもっと醜い。
 彼女を知れば知るほど、私は彼女が欲しくてたまらなくなった。
 触れたい。
 求めたい。
 彼女を自分で埋め尽くしてしまいたい。

 欲望がどろどろと沸き上がり、己を蹂躙する。
 疲れ果てた心は、その熱にただ翻弄され、混乱していた。

「伯爵様。私を妻にしていただけませんか」

 ある日、彼女は小さくそう囁いた。

 その瞬間、胸の奥から込み上げる喜びに抵抗できなかった。
 言いようのない幸せがほとばしり、全身を満たしていく。
 温かく包み込むような幸福に、私は呑み込まれていった。

 彼女は父である公爵の意を汲んでいるだけかもしれない。
 それはわかっている。わかっていながら――私は彼女にプロポーズした。

 欲しい。
 どうしても欲しい。
 理由などどうでもいい。
 ただ、求めずにはいられなかった。

 壊れかけた私の心には、彼女は唯一の救いのように感じられた。
 もはや正気でいられなかった。
 私は欲望のままに彼女を手に入れようとしていた。

 それでも。

 彼女は幸せそうに微笑んだ。
 その笑みを前に、私はただ願った。

 ――僕を……助けてください。

 こうして私と彼女は、生涯を共にすることを約束した。
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