中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ

文字の大きさ
103 / 120
おまけ

【短編】グランフォード家の新年会1

しおりを挟む
 本編終了後まもなくのお話。


 エマの執務室。夕暮れのとき。
 窓から差し込む橙色の光に、机上の書類が淡く照らされていた。

 セイルは仕事を終えると、そっと扉を開けて中を覗いた。机に向かう妻の姿が目に入り、思わず口元がほころぶ。

「手伝いましょうか?」

「……大丈夫です、もう少しで終わりますから」

 エマは眼鏡の位置を指先で直し、穏やかに微笑んだ。真剣な横顔に、眼鏡越しに映るエメラルドグリーンの瞳。彼女の仕事姿を見るのが、セイルは好きだった。

 やがてペンを置いた彼女は、ほっと息を吐き、椅子から立ち上がる。伸びをひとつした後、セイルの隣のソファへ腰を下ろし、そのまま自然に彼の肩へと身を預けてきた。

「……百合子さん」

 彼の囁きに、エマは空気が甘く変わったのを感じた。

「清一さん……」

「このまま少しだけ……良いですか?」

「こんなところで……」

「誰も来ません。少しだけ」

 耳元に落とされる声は、普段よりも低く、艶を含んでいた。エマの心臓が跳ね上がる。

 セイルの指が髪を梳き、頬に触れ、やがて唇へ。自然と二人は惹かれ合い、唇を重ねてしまう。ゆったりと、時間が溶けていく。

 エマはこぼれる吐息を感じながら、セイルの首にそっと腕を回した。

 ──その瞬間。


「──おじいちゃま! おばあちゃま! 」

 勢いよく扉が開き、明るい声が響く。

「!?」

 二人は慌てて飛び退き、セイルは机に肘をぶつけて苦悶した。エマは顔を赤くしたままうつむいた。

 駆け込んできたユーリは目を真ん丸にして、数秒固まった。
 そして、なにかを悟った年頃の彼女は、真剣な眼差しを向けてきた。

「……ねぇ。おじいちゃまとおばあちゃまは、運命の相手なの?」

 あまりの直球に、エマは咳き込んだ。慌てたセイルが背中をさすり、ようやく落ち着きを取り戻した。

「ユーリ……突然どうしたの?」

「だってこんなに愛し合っているんだもん。二人は運命の赤い糸で結ばれて結婚したんでしょ?」

 その純粋なまなざしに、エマはどう返していいか分からず目を泳がせる。
 と、セイルがすっと微笑んだ。

「ユーリ……エマは私にとって人生そのもの。いや、命の根源だよ」

「セイル様! 何を言っているの!?」

 真剣なセイルに、エマは顔を真っ赤にして慌てる。
 ユーリは「なるほど……」と妙に納得していた。

「もう、ところ構わずイチャつくのやめてよね」

 不意に背後から聞こえた冷静な声。振り向くと、入り口に雪が腕を組んで立っていた。孫だけでなく娘にまで見られてしまい、二人は思わず顔を見合わせて深く反省する。

「ほらこれ。私と、ユーリにまで招待状が届いたんだけど。お母さんの実家からだよね?」

 雪が差し出した封筒には、美しい装飾とともに、グランフォード公爵家の紋章が印されている。

「まぁ! グランフォード家の新年会の招待状ね!」

 エマは一気に顔を明るくして駆け寄った。

「毎年グランフォード家で新年を祝うパーティーが催されるの。今年は皆で行けるわね。」

「公爵家の立派なパーティーなんでしょ? 私たちまでいいの?」

「もちろん。私の大切な家族なんだから」

 にこやかに笑うエマ。

「ユーリにとっては、はじめての社交界ね」

 その言葉に、ユーリはみるみる瞳を輝かせた。

「憧れの、社交界……!」

「ふふ、楽しみね」

 頬を染めて夢見るように呟くユーリを見て、大人たち三人はそろって微笑み合った。
 夕暮れの執務室には、幸せな空気が満ちていた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜

ルーシャオ
ファンタジー
林間学校の最中突然異世界に召喚された中学生の少年少女三十二人。沼間カツキもその一人だが、自分に与えられた祝福がまるで非戦闘職だと分かるとすみやかにフェードアウトした。『農耕神の手』でどうやって魔王を倒せと言うのか、クラスメイトの士気を挫く前に兵士の手引きで抜け出し、農村に匿われることに。 ところが、異世界について知っていくうちに、カツキは『農耕神の手』の力で目に見えない危機を発見して、対処せざるを得ないことに。一方でクラスメイトたちは意気揚々と魔王討伐に向かっていた。

【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」  長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。  魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2023/06/04  完結 ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2021/12/25  小説家になろう ハイファンタジー日間 56位 ※2021/12/24  エブリスタ トレンド1位 ※2021/12/24  アルファポリス HOT 71位 ※2021/12/24  連載開始

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...