中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ

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おまけ

【短編】グランフォード家の新年会8

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 大人たちの会話にすっかり飽きてしまったユーリは、胸の奥に膨らむ高鳴りを抑えきれなかった。

 初めての社交界。
 そこに広がるのは、夢のような世界だった。

 貴婦人たちは優雅に笑い交わし、紳士たちは声を潜めて政治を論じている。煌めく装飾、溢れる御馳走、色とりどりの花や繊細な彫刻。耳に届くのは楽団の調べ。

 絵本で読んだ物語より、ずっと眩しい。
 何もかもが美しく、どこを見ていても飽きない。
 こんな世界がこの世にあったなんて。

 どれほどうっとりと眺めていたのだろう。
 夢中で歩くうちに、気がつけば人の気配が薄れていた。
 母も祖母もいない。さっきまでいた会場とは違う、静かな庭園の一角。

「……どうしよう」

 胸がきゅっと締め付けられる。
 見知らぬ場所にたった一人。

 ──どうしよう、ママに怒られちゃう。
 きっと探してるよね。
 早く戻らなきゃ……

 そう思うものの、自分が今どこにいるのかも分からない。
 歩き回るほどに、ますます人のいない方へ進んでしまう。

 不安に押し潰されそう。
 淑女はこんなことで泣いてはいけない。
 でも、心細くてたまらない。

 涙が溢れそうになるのを堪えていた、そのとき──

「お嬢さん、どうかしたの?」

 背後から降り注いだのは、柔らかく温かな声。
 振り返ったユーリは、瞬きを忘れて見上げた。

「……王子様」

 ユーリは思わず呟いていた。

 白銀の騎士装束に、紋章入りのマント。
 月光のような銀髪が陽の光に揺れ、誰もを魅了する微笑みが浮かんでいた。

 まるで、本の中から出てきた王子様、そのもの。

 見惚れて固まるユーリの前に、彼はすっと屈み込み、胸元から取り出したハンカチを差し出す。

「レディ、これを。……僕以外の男に涙を見せてはいけない」

 長い睫毛の下で、エメラルドグリーンの瞳が弧を描く。
 その優しさに、ユーリの胸は一気に湧き立った。
 顔が真っ赤に染まり、言葉が出ない。ただこくこくと頷き、ハンカチを受け取るのが精一杯だった。

 すると、また足音がひとつ近づいてくる。

「ユーリ……!」

 聞き慣れた低い声。振り向けば、ユーリの祖父、セイルが心配そうな顔で駆け寄ってきていた。
 その馴染みのある姿に、ユーリの頬から力が抜ける。

「……おじいちゃま」

「こんな所に一人でどうしたんだ。エマと雪は?」

「ごめんなさい……私がふらふら歩いて、はぐれちゃったの。ママに怒られちゃう……」

 母の怒った顔を思い浮かべるだけで、背筋が凍る。きっとそれはもう、ものすごく怒られるだろう。
 そんなユーリの手を、隣の“王子様”がそっと取った。

「心配しないで。僕も一緒に謝ってあげる」

 にこりと笑うその顔に、ユーリの胸は爆発しそうだった。

 ──胸の高鳴りが収まらない。
 もしかして 、これが……
 運命の出会い……?

 思わず口をついて出た。

「あの……! 王子様の、お名前は……?」

 一瞬、セイルと“王子様”は顔を見合わせ、きょとんとする。
 やがて彼は小さく噴き出しそうになりながら、耳元に囁いた。

「エドワード・グランフォード。……君のお祖母さんの兄だよ」

 その瞬間。
 ユーリの心は、完全に恋に落ちていた。
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