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第一章 新しい世界
精霊王と王都散策2
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蓮が思っていたより王都は広く、さまざまな店があった。服飾も異世界転生ものにありがちなデザインがイマイチとか、素材がイマイチとかいうこともない。むしろ、さらりとした肌触りの良い柔らかな生地は、日本でも見たことのないものだ。
食べ物の屋台も豊富で、味付けもしっかりしている。日本にいたころと同じくらい充実している、というほどではないが、なかなかの満足度であるといえるだろう。どうやら、この世界は科学の発展はそれほどでもないが、魔道具などが電化製品の代わりなどをしているようである。そのため、場合によっては、日本よりも便利に感じる部分もあるようだ。
「思っていたより快適な生活ができそうだね」
「そうねえ。都市部はかなり発展しているものねえ」
「そうぞな。こういった部分はどの種族よりも人間が得意とするところぞな」
シャナの言葉に、シャーレイが器用にうなずいて同意を示す。この世界には獣人族や竜人族、エルフなどさまざまな種族がいるが、生活面を豊かにすることにかけては人族がもっともすぐれているらしい。ちなみに、魔法の扱いではエルフが、戦闘能力においては竜人族が優れているというように、種族によってそれぞれ特色があるようだ。こういった部分は、蓮が読んでいた小説や漫画に通じるものがある。
ともあれ、クレイやシャナ、シャーレイとの王都散策は存外に楽しい。屋台の食べ歩きも楽しく、目新しいものが多くあるのでついつい目移りしてしまい、あれもこれも食べてしまった。ちょっと食べすぎて気持ち悪いまである。
「うーん、食べすぎちゃった。気持ち悪っ」
「我にまかせるぞな」
失敗した、と反省していると、頭の上でいきなりシャーレイがタップダンスを踊り始め、一瞬ぴかっと小さく光る。
「何を‥‥おお?気持ち悪いのなくなった」
むしろ、今日一番に具合がいい。
「ふふ、さすがは光の精霊王ねえ」
回復は、光系統の精霊の十八番とのことのようだ。「でもそれくらいワタシにもできるわよう」と、謎の対抗意識を燃やすシャナ。だが、なぜタップダンス?なんでもいいが、人の頭の上で踊るのはやめてほしいものである。それはそれとして、治してもらったのは確かなことだ。
「ありがとう、シャーレイ」
気分が良くなった蓮が素直に礼を言うと、シャーレイは蓮の目の前にパタパタと飛んできて、まんざらでもなさそうに胸を張った。うん、かわいい。ついもふってしまったのはご愛嬌というものであろう。と、もふもふしていると、じっとこちらを見つめている子供に気づいた。なにやら、頭の上にネコのような耳がついている。全体的に薄汚れているが、顔立ちは悪くないようだ。大通りから少しはなれた、細い路地の入り口辺りからこちらをみている。
「おお~かわいい。もしかしてあれが獣人?」
「ほんとうねえ。こんなところで獣人を見るなんて珍しいわねえ」
「だな」
シャナの言葉に、クレイがうなずく。
「珍しいの?」
確かに、道行く人をみても、獣人らしきヒトはみない。
「獣人はねえ、もっと南の方に住んでいる種族なのよう。この辺りの気候は体質的に合わないようなのよう」
「へえ~」
では、あの子供たちはどこから来たのだろうか。何より視線がすごい。ものすごい圧を感じる。穴が空きそう。
「よし、声かけてみよう」
「やめておくぞな。あの子らには呪いがかかっているぞな。関わり合いになるのはおすすめしないぞな」
呪い、といった不吉な単語に、蓮は眉をひそめた。彼女が見たところ、多少薄汚れてはいても、特別憔悴している様子はないし、小説や漫画にあるような黒い靄をまとっているわけでもない。呪いといわれても全く実感がわかない。
「呪いって‥‥本当?」
「精霊は嘘なぞつかないぞな。我は呪いの類には敏感ぞな」
頭の上でパタパタと羽根を動かしながら、あれだけ濃い呪いをまとっていれば下級精霊にだってわかると断言するシャーレイ。そこまで言われれば、蓮としても納得せざるを得ない。とはいっても、このまま放置するのもなんだかすっきりしない。
「声をかけるだけで危険?」
「いや、そのようなことはないぞな。かかわったとて、我らがおるでの。主にそこまで危険は及ばぬぞな」
「なんかあってもお前は俺が守ってやるよ。コイツらはともかく、お前には傷一つつけねぇから安心しろや」
ニヤリと笑いながら、クレイが乱暴に蓮の頭をなでる。髪がぐしゃぐしゃになるからやめてほしいものだ。だが、守ってくれるというなら安心である。この世界の精霊王は、地域によっては神と崇められるほどに力があるのだから。
「わかった」
うなずいて、蓮は結局声をかけることにした。その間も、獣人の子供がじっと蓮を見ていたからだ。
「ねぇ、なにか用?」
ててっと近づいて、脅かさないように小さく声をかける。
「あ、えっと」
獣人の子供は、蓮とクレイ、シャナを順に見て、蓮の手を取った。
「こっち」
「え?」
かと思うと、いきなり蓮を引っ張る。
「おい!」
「まつのよう。ついていくのよう」
蓮から獣人の手を離そうとしたクレイに、シャナが待ったをかけた。
「イヤな予感がするのよう」
シャナは水の精霊王。少し先の未来を視る力がある。そして、他のどの系統よりも優れた直感力も。その直感が、今はついていくべきといっている。蓮の頭上にいるシャーレイも、何かを感じとっているようで、静かに辺りを観察していた。
そうして、彼らはたどり着いた。この国の最底辺。王都でもっとも貧しい場所、スラム街に。
食べ物の屋台も豊富で、味付けもしっかりしている。日本にいたころと同じくらい充実している、というほどではないが、なかなかの満足度であるといえるだろう。どうやら、この世界は科学の発展はそれほどでもないが、魔道具などが電化製品の代わりなどをしているようである。そのため、場合によっては、日本よりも便利に感じる部分もあるようだ。
「思っていたより快適な生活ができそうだね」
「そうねえ。都市部はかなり発展しているものねえ」
「そうぞな。こういった部分はどの種族よりも人間が得意とするところぞな」
シャナの言葉に、シャーレイが器用にうなずいて同意を示す。この世界には獣人族や竜人族、エルフなどさまざまな種族がいるが、生活面を豊かにすることにかけては人族がもっともすぐれているらしい。ちなみに、魔法の扱いではエルフが、戦闘能力においては竜人族が優れているというように、種族によってそれぞれ特色があるようだ。こういった部分は、蓮が読んでいた小説や漫画に通じるものがある。
ともあれ、クレイやシャナ、シャーレイとの王都散策は存外に楽しい。屋台の食べ歩きも楽しく、目新しいものが多くあるのでついつい目移りしてしまい、あれもこれも食べてしまった。ちょっと食べすぎて気持ち悪いまである。
「うーん、食べすぎちゃった。気持ち悪っ」
「我にまかせるぞな」
失敗した、と反省していると、頭の上でいきなりシャーレイがタップダンスを踊り始め、一瞬ぴかっと小さく光る。
「何を‥‥おお?気持ち悪いのなくなった」
むしろ、今日一番に具合がいい。
「ふふ、さすがは光の精霊王ねえ」
回復は、光系統の精霊の十八番とのことのようだ。「でもそれくらいワタシにもできるわよう」と、謎の対抗意識を燃やすシャナ。だが、なぜタップダンス?なんでもいいが、人の頭の上で踊るのはやめてほしいものである。それはそれとして、治してもらったのは確かなことだ。
「ありがとう、シャーレイ」
気分が良くなった蓮が素直に礼を言うと、シャーレイは蓮の目の前にパタパタと飛んできて、まんざらでもなさそうに胸を張った。うん、かわいい。ついもふってしまったのはご愛嬌というものであろう。と、もふもふしていると、じっとこちらを見つめている子供に気づいた。なにやら、頭の上にネコのような耳がついている。全体的に薄汚れているが、顔立ちは悪くないようだ。大通りから少しはなれた、細い路地の入り口辺りからこちらをみている。
「おお~かわいい。もしかしてあれが獣人?」
「ほんとうねえ。こんなところで獣人を見るなんて珍しいわねえ」
「だな」
シャナの言葉に、クレイがうなずく。
「珍しいの?」
確かに、道行く人をみても、獣人らしきヒトはみない。
「獣人はねえ、もっと南の方に住んでいる種族なのよう。この辺りの気候は体質的に合わないようなのよう」
「へえ~」
では、あの子供たちはどこから来たのだろうか。何より視線がすごい。ものすごい圧を感じる。穴が空きそう。
「よし、声かけてみよう」
「やめておくぞな。あの子らには呪いがかかっているぞな。関わり合いになるのはおすすめしないぞな」
呪い、といった不吉な単語に、蓮は眉をひそめた。彼女が見たところ、多少薄汚れてはいても、特別憔悴している様子はないし、小説や漫画にあるような黒い靄をまとっているわけでもない。呪いといわれても全く実感がわかない。
「呪いって‥‥本当?」
「精霊は嘘なぞつかないぞな。我は呪いの類には敏感ぞな」
頭の上でパタパタと羽根を動かしながら、あれだけ濃い呪いをまとっていれば下級精霊にだってわかると断言するシャーレイ。そこまで言われれば、蓮としても納得せざるを得ない。とはいっても、このまま放置するのもなんだかすっきりしない。
「声をかけるだけで危険?」
「いや、そのようなことはないぞな。かかわったとて、我らがおるでの。主にそこまで危険は及ばぬぞな」
「なんかあってもお前は俺が守ってやるよ。コイツらはともかく、お前には傷一つつけねぇから安心しろや」
ニヤリと笑いながら、クレイが乱暴に蓮の頭をなでる。髪がぐしゃぐしゃになるからやめてほしいものだ。だが、守ってくれるというなら安心である。この世界の精霊王は、地域によっては神と崇められるほどに力があるのだから。
「わかった」
うなずいて、蓮は結局声をかけることにした。その間も、獣人の子供がじっと蓮を見ていたからだ。
「ねぇ、なにか用?」
ててっと近づいて、脅かさないように小さく声をかける。
「あ、えっと」
獣人の子供は、蓮とクレイ、シャナを順に見て、蓮の手を取った。
「こっち」
「え?」
かと思うと、いきなり蓮を引っ張る。
「おい!」
「まつのよう。ついていくのよう」
蓮から獣人の手を離そうとしたクレイに、シャナが待ったをかけた。
「イヤな予感がするのよう」
シャナは水の精霊王。少し先の未来を視る力がある。そして、他のどの系統よりも優れた直感力も。その直感が、今はついていくべきといっている。蓮の頭上にいるシャーレイも、何かを感じとっているようで、静かに辺りを観察していた。
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