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第3話
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広さの割に申し訳程度の照明しかない、薄暗い廊下をトボトボと行く小さな人影が一つ。
石造りの上、やけに広い割に光源は小さな電灯が所々にしかなく、先が良く見えないのが薄気味悪さを演出している。だが、生憎今の僕にはこの演出を怖がる心の余裕すらなかった。
「うぅ、どうして僕がこんな目に…」
立ち込める強烈な臭い
飛び交う小さな羽虫
掃除が行き届いてない便座
思い出しただけでも気分が悪くなる、お世辞にも衛生的とは言えないトイレ環境。腐っても日本で育ってきた身としては筆舌に尽くし難い物があり、できればさっさとお別れしたいところなのだが、心の壁がそれを許してはくれない。
やはりこの体は下も無ければ上も無い、幼い少女だったのだ。名前で散々女の子と揶揄われてきたことがあるとはいえ僕はレッキとした男だ。
いや、男だったか?それとも心は男だ、か?
ともかく、この体で用を足すと言うことに抵抗があったのだ。それも物凄く。
しかも、女の子のトイレの仕方も分からない上、誰かに聞くわけにもいかないから手探りだ。
しかし、いずれは必ずトイレに行かなければならないのは間違いない。我慢したからと言ってトイレに行かなくて済むわけではないし、何よりこの体で漏らしたりしたら僕の精神面へのダメージは計り知れない。
結局ウジウジしないで大人しく用を終わらせてしまうのが最善だったとはずだ。そうだ、そうに違いない。と半ば自分に言い聞かせるようにそう結論づけてさっきまでいた部屋へと戻る。暗い上、同じ様な扉が並んでいるので分かり難いが多分この部屋で間違い無いはず。
「間違いないはずなんだけど、誰だろう…」
部屋の扉の前に一人の少年の姿があった。歳は今の自分達と同じくらだろうか?こちらに背中を向けている為顔は見えないが、赤い髪と白いシャツにサスペンダー付きのズボンと絵に描いたお坊ちゃんの様な格好の少年が扉の隙間から僕達の部屋の中を覗いている。
「え~っと、僕達に何か用?」
そのままでは中に入れそうにないし、気になるので少年に話しかけてみる。
「あ、ご、ごめんなさい!」
しかし、少年は驚いたのかそれだけで逃げて薄暗い廊下の奥に消えていってしまった。
「なんだったんだろう…」
とりあえず扉の前が空いたので部屋に帰る。するといつの間にか着替えていた仁がベッドに突っ伏していた。何ともだらしない格好である。
「何してるの仁、寝るなら寝るでちゃんと転がりなよ」
「チゲェよ、ちょっと考えを纏めてんだ」
なんだ、魔法のお預けや完全な子供扱いで不貞腐れてるのかと思ったら違ったらしい。
「あ、それとさっきメイドが着替え持ってきたぞ。ほれ、お前の分」
ポンと投げ渡されたそれは部屋着というよりパジャマの様だ。上下一体型の薄手のワンピースに幾らかのフリルが付いている。
「このパジャマを僕が着るの…?」
「パジャマというよりネグリジェってやつじゃないか?それに今着てる穴空きのボロ切れみたいな服じゃあまり変わらないだろ」
ネグリジェ?パジャマとどう違うんだろ。それに今の服は元から着ていたものだから諦めもつくけど、この服を自分の意思で着るというのは流石に抵抗がある。
とは言え、仁の言う通り今のボロボロな服を着たままって訳にもいかないので仕方なく着替えることにした。
「それで、考えを纏めてたって一体何を考えてたの?」
着替える間の気恥ずかしさを紛らわすために仁に話しかけてみる。
「この世界のことだよ。話は通じたけど文字は日本語なのかとか、テクノロジーの発展具合とかな」
意外と真面目な事を考えていたらしいが、そんなこと考えた所で分かるのだろうか?
「うぅ…着てみたけどやっぱりスースーして落ち着かない」
若干サイズが大きいものの、生地自体は良い物らしく肌触りは凄く良い。だけど、今はそのスベスベ具合が落ち着かなさを助長している。それに動く度にフラフラ裾が動く感覚も変な感じだ。
「着終わったならさっさと寝ようぜ、今日は疲れた」
「他人事だからってヒトの葛藤をサラッと流さないでくれない?」
仮にも成人男性が女児用の寝巻を着る事になるこの恥ずかしさをこいつにも分けてやりたい。
でも僕もなんか異様に疲れてるのは間違いないし、今日は寝てしまおう。寝て起きたら元に戻ってるかもしれないし。
そう思いベッドに入る。最初は長い髪が気になって仕方なかったが、結局眠さには勝てず早々に眠りに落ちたのだった。
石造りの上、やけに広い割に光源は小さな電灯が所々にしかなく、先が良く見えないのが薄気味悪さを演出している。だが、生憎今の僕にはこの演出を怖がる心の余裕すらなかった。
「うぅ、どうして僕がこんな目に…」
立ち込める強烈な臭い
飛び交う小さな羽虫
掃除が行き届いてない便座
思い出しただけでも気分が悪くなる、お世辞にも衛生的とは言えないトイレ環境。腐っても日本で育ってきた身としては筆舌に尽くし難い物があり、できればさっさとお別れしたいところなのだが、心の壁がそれを許してはくれない。
やはりこの体は下も無ければ上も無い、幼い少女だったのだ。名前で散々女の子と揶揄われてきたことがあるとはいえ僕はレッキとした男だ。
いや、男だったか?それとも心は男だ、か?
ともかく、この体で用を足すと言うことに抵抗があったのだ。それも物凄く。
しかも、女の子のトイレの仕方も分からない上、誰かに聞くわけにもいかないから手探りだ。
しかし、いずれは必ずトイレに行かなければならないのは間違いない。我慢したからと言ってトイレに行かなくて済むわけではないし、何よりこの体で漏らしたりしたら僕の精神面へのダメージは計り知れない。
結局ウジウジしないで大人しく用を終わらせてしまうのが最善だったとはずだ。そうだ、そうに違いない。と半ば自分に言い聞かせるようにそう結論づけてさっきまでいた部屋へと戻る。暗い上、同じ様な扉が並んでいるので分かり難いが多分この部屋で間違い無いはず。
「間違いないはずなんだけど、誰だろう…」
部屋の扉の前に一人の少年の姿があった。歳は今の自分達と同じくらだろうか?こちらに背中を向けている為顔は見えないが、赤い髪と白いシャツにサスペンダー付きのズボンと絵に描いたお坊ちゃんの様な格好の少年が扉の隙間から僕達の部屋の中を覗いている。
「え~っと、僕達に何か用?」
そのままでは中に入れそうにないし、気になるので少年に話しかけてみる。
「あ、ご、ごめんなさい!」
しかし、少年は驚いたのかそれだけで逃げて薄暗い廊下の奥に消えていってしまった。
「なんだったんだろう…」
とりあえず扉の前が空いたので部屋に帰る。するといつの間にか着替えていた仁がベッドに突っ伏していた。何ともだらしない格好である。
「何してるの仁、寝るなら寝るでちゃんと転がりなよ」
「チゲェよ、ちょっと考えを纏めてんだ」
なんだ、魔法のお預けや完全な子供扱いで不貞腐れてるのかと思ったら違ったらしい。
「あ、それとさっきメイドが着替え持ってきたぞ。ほれ、お前の分」
ポンと投げ渡されたそれは部屋着というよりパジャマの様だ。上下一体型の薄手のワンピースに幾らかのフリルが付いている。
「このパジャマを僕が着るの…?」
「パジャマというよりネグリジェってやつじゃないか?それに今着てる穴空きのボロ切れみたいな服じゃあまり変わらないだろ」
ネグリジェ?パジャマとどう違うんだろ。それに今の服は元から着ていたものだから諦めもつくけど、この服を自分の意思で着るというのは流石に抵抗がある。
とは言え、仁の言う通り今のボロボロな服を着たままって訳にもいかないので仕方なく着替えることにした。
「それで、考えを纏めてたって一体何を考えてたの?」
着替える間の気恥ずかしさを紛らわすために仁に話しかけてみる。
「この世界のことだよ。話は通じたけど文字は日本語なのかとか、テクノロジーの発展具合とかな」
意外と真面目な事を考えていたらしいが、そんなこと考えた所で分かるのだろうか?
「うぅ…着てみたけどやっぱりスースーして落ち着かない」
若干サイズが大きいものの、生地自体は良い物らしく肌触りは凄く良い。だけど、今はそのスベスベ具合が落ち着かなさを助長している。それに動く度にフラフラ裾が動く感覚も変な感じだ。
「着終わったならさっさと寝ようぜ、今日は疲れた」
「他人事だからってヒトの葛藤をサラッと流さないでくれない?」
仮にも成人男性が女児用の寝巻を着る事になるこの恥ずかしさをこいつにも分けてやりたい。
でも僕もなんか異様に疲れてるのは間違いないし、今日は寝てしまおう。寝て起きたら元に戻ってるかもしれないし。
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