転生少女は元に戻りたい

余暇善伽

文字の大きさ
28 / 56

第27話

しおりを挟む
 この体になって二度目の春が終わるとジリジリと暑い夏がとなり、遂に約束の日となった。
 僕は未だに魔力の制御ができないままだ。なんとなく魔力の流れをオンオフできる程度にはなったが、それで何かを発動することはできない。
 剣の方は今の所、僕の勝率は3割と言ったところだろう。分の悪い賭けになるが自分で決めたことだ、覚悟は決まっている。
 決闘はお昼から、それまではいつも通り過ごす。
 一年間、毎日ほとんど休まず修行してきた。残念ながら筋肉が目に見えて付くという事はなかったが、手のひらの硬さだけはそれを証明してくれている。
 大丈夫、やるだけやったんだ、たとえ負けたとしても悔いはない。
 それに、それは多分ロバートも同じだろう。習い事なんかで僕達ほどじゃないにしろ、暇があれば毎日剣を振りにきていた。
 決闘の時間が近づくとギャラリーが増え、俄かに庭が騒がしくなってくる。中にはジョン夫妻や、夏休みで帰ってきているロンデルの姿もある。
 誰かに言いふらしたりはしてなかったのだが、どこからか噂は広まっていたらしい。
 「お待たせ、最後に一つ確認させてもらってもいいかな」
 約束の時間、手には手袋をし、腰にはいつもの木剣を携えたロバートとボルドーがこちらに歩み寄ってくる。
 「何?僕の気持ちなら変わらないよ」
 「そっか、それならいいんだ」
 それだけ言うとロバートの顔からいつもの柔和な表情が消える。
 「我が名はロバート・ホーエンハイム。アスカよ、今ここに正式に決闘を申し込む!」
 決闘の作法なのか身に付けていた白い手袋を地面に叩きつけてロバートが高らかに宣誓すると、騒がしかった庭は一瞬で静まり返る。
 「その決闘、受けて立つ!」
 決闘の作法が分からないので、とりあえずロバートに返そうと手袋を拾った所で庭が一転して大歓声に包まれる。どうやら拾うことが受諾の作法だったようだ。
 手袋をロバートに返すとカインが駆け寄ってくる。
 「本当にやるんだな、介添人は俺とボルドーが務める、アスカ、決闘に身分差はないぞ思いっきりやれ」
 「アスカ様、決闘は木剣で行うと言うことでよろしいですな?」
 ボルドーが念を押して聞いてくるのに頷き、ロバートと距離を取る。
 「それでは、私ボルドーとカイン・ロッカードがその名において、正式に決闘を取り仕切らせていただきます!」
 ボルドーが右手を挙げて宣誓すると庭はまた静まり返る。どうやら見る方は黙ってないといけないらしい。
 仁の方を見ると腕を組んでただじっと見つめている。勝ち負けが自分にも関係すると言うのに、それだけ信頼してくれているのかはたまたどっちでも構わないのか。
 ボルドーを真ん中に挟んでロバートと対峙する。使う武器は木剣とは言え、その顔は真剣そのものだ。
 「始め!」
 ボルドーが宣誓から上げ続けていた手を下げると同時に二人とも動く。
 お互い真っ直ぐ距離を詰め、振り下ろすロバートの木剣と振り上げる僕の木剣とがぶつかり合い高い音を鳴らす。その後二合三合と続け様に打ち合い、ある程度打ち合ったら一旦距離を取り牽制し合う。
 実力でいけばやや不利なのは間違いない、それはロバートも分かっているはずだ。だからかこちらの牽制にやや強気でかかって来ている。
 (いつも通りただ打ち合えばこっちが不利、だけど!)
 強気のロバートの牽制にわざと飛び込み一気に距離を詰める。ロバートは強いが基本的に大人しい、当然剣にもそれが見える。
 こちらが飛び込んでくると思ってなかったのであろうロバートが、狙い通り一拍遅れて対応する。体勢的にはこちらが押した形で幾度か斬り結ぶが、決め手に欠け再び距離を取られてしまう。
 その後もお互い距離を詰めては斬り結び、斬り結んでは決め手に欠けて距離を取る。
 「やるねアスカ、それでこそボクのライバル。でも、だからこそ負けないよ!」
 言葉と同時にロバートが一直線に飛び込んでくる。
 「それはこっちのセリフだっての」
 突くような一撃目は避け、できた隙を狙って木剣を叩き込むも返す刃で弾かれる。その場で二合三合と切り結び隙を窺うが…
 「そこっ!」
 逆にこちらの一瞬の隙を突いた一撃を撃ち込まれ、なんとか弾くも姿勢を崩されてしまう。
 「クソッ!」
 崩れた姿勢を立て直せないままロバートの追撃をいなす。だが厳しい追撃の中でなかなか姿勢を持ち直せずジリジリと追い込まれていき、重い一撃に打ち負け上体を大きく跳ね上げられてしまう。
 「これでボクの勝ちだ!」
 普段ならここで負けていただろう。気力や集中力の問題じゃない、こんな姿勢からでは打ち合おうにも間に合わないのだ。
 「そうは、させるかぁ!!」
 それでも打ち負けた時に浮いた右足を地面に強く踏み込み、胴を薙ごうとするロバートの一撃に渾身の力で叩き込む。普段なら間に合わないはずの一撃、だが今日は違った。
 まるで体の奥から湧いてくるような力で無理やり加速しロバートの一撃を弾く。
 「そ、そんな馬鹿な!」
 完全に勝利を確信していたのであろうロバートの顔に焦りと困惑の色が浮かぶ。
 そのまま溢れる力に任せて数回斬り結ぶと、今度はロバートが防戦一方になる。
 「アスカのどこにこんな力が!まさかこれが!?」
 ロバートが何かを言い終える前に一際大きな音と共に木剣が宙を舞う。ロバートに隙らしい隙があったわけではない、ただ僕が力で圧倒したのだ。
 木剣をロバートの喉元に突きつけると腰砕けてへたり込み、同時に庭に詰めかけていたギャラリーが沸く。
 「勝負あり!勝者アスカ様!」
 ボルドーの声が響くとギャラリーが一際大きく沸き、大歓声となる。
 「勝った…僕が?」
 終盤は無我夢中だったからボルドーの声にも歓声にもイマイチ実感がわかない、そもそもなんで僕は勝てたのだろう。
 「クッソォォォ!」
 僕が呆然としている中、ロバートの絶叫で沸いていたギャラリーが静まり返る。
 「どうして、ボクはただ二人と一緒に…」
 フラフラと立ち上がったロバートがぶつぶつ言いながらこちらに歩み寄ってくる。
 「ボクはただ、二人とずっと一緒に…友達でいたかった!」
 僕の両肩を掴んでロバートが泣き出す。なんだかんだロバートが泣いているところは初めて見たかもしれない。
 「ロバート、お前まだ分かってないみたいだな」
 静まり返ったギャラリーの中から仁が一人歩み出てくる。
 「何が!分かってないのはアスカとジンでしょ!ボクはただ二人と友達になりたかっただけなのに!」
 ロバートが顔中涙や汗や鼻水だらけにして叫ぶ。せっかくの美形が台無しだ。
 「だからそれが分かってねぇつってんだよ!」
 仁がロバートの両肩を掴み無理やり向き直させる。
 「俺たちはとっくに友達だっただろ」
 「へっ?」
 「バカ仁、決闘したのは僕なんだから僕のセリフ盗らないでよ」
 勝者が敗者にかける言葉じゃないだろと仁に諭されるが、それでも一番良いところをもって行かれたのは納得できない。
 「ボク達が友達…?でも今まで一度も友達だって…」
 「前にも言っただろ、友達ってのはな『なって下さい』『はい、いいですよ』でなるもんじゃねえ。同じ時間を過ごしていつかなれるもんだって。俺たちはもう充分、同じ時間を過ごしただろ」
 「そっか…ボク…いつの間にか二人の友達になれてたんだね」
 そう呟くとロバートはまた泣き始める。でもさっきまでとは違いその顔は笑顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...