キツネの女王

わんころ餅

文字の大きさ
12 / 108

民を焚き付けるのじゃ

しおりを挟む
 ふくが目を覚ますと、気づいたヴォルフがスンスンとニオイを嗅ぎにくる。
 ヴォルフがそばにいた事が嬉しいと思い、ヴォルフの頭を抱きしめる。

「ふく……怒ってない?」

「怒る理由があるものか。言いつけ通りずっとそばに居ってくれたのじゃろう。礼を言おう。」

 ふくは抱きしめたまま頭を、体を撫で繰り回す。
 嬉しくなったヴォルフはそのままひっくり返り、ふくは胸や腹も撫でていく。
 もはや完全に犬であり、戦いの神や邪神などとは程遠い仕草であった。
 いつもなら「気持ち悪い」と一喝するふくではあるのだが、今回ばかりはヴォルフがいなければ自信が大変な目に遭っていたので感謝の気持ちでいっぱいだった。
 
「えへへ……。そういえばふくがこの木を生やしたの?」

「ん……そうじゃ。【樹木】という魔法じゃ。流石にこの範囲の木を生やすのは疲れたの……。じゃが、まだまだやることが残っておっての……」

 ふくは重たい体をゆっくりと動かし、立ち上がるとヴォルフも同じように立ち上がる。
 するとネズミ達がビクリと体を震わせる。
 それを見たふくはヴォルフが何かをしたのか気になっていたが、そもそもヴォルフは邪神として恐れられている事を思い出す。
 歩いて進んでいくと一匹のボロボロになったネズミが目の前を立ち塞がる。
 それはふくを襲おうとしたネズミであり、なぜボロボロになっているのかは不明だったが、ヴォルフに対して挑戦をしているようにも見えた。
 ヴォルフは金色の瞳に細長い瞳孔で見下すとネズミは萎縮してしまうが、自らを奮い立たせてもう一度ヴォルフに挑む。
 ヴォルフは「はあぁ……」と息を吐き、大気が冷えていくと、ふくがヴォルフの頭を平手で軽く叩く。

「止すのじゃ。こやつにそれほどの力は使わなくて良い。寝込みや弱っとるところしか襲えんやつじゃ。放っておくのがお前にとっても良い結果となるじゃろうて」

「でも、コイツはふくを襲おうとしたやつだぞ?ふくはオレのモノなのに」

「それでもじゃ。お前のおかげでわしは何とも無かった。これ以上、事を荒立てるでない」

 ふくはヴォルフを嗜めていると、一人のネズミが歩いて来て、ふくの前に跪く。
 服装を見るからにこの一族の中で一番話が通じそうな雰囲気を醸し出していた。

「寛大な処置、ありがたい。邪神を治める者よ、あなた方の目的は何か教えていただけるだろうか?」

「わしはこのぼるふが統治しておる土地を整え、再び正しき神として、国を創るのが目的じゃ。ここへ寄ったのは偶々じゃがの」

「風の吹きあふれるこの村を森を作っていただき、感謝する。しかし、食糧難はいまだに続いています。どうか、分けていただけぬだろうか?」

「その基礎を作るのじゃ。わしが飯を与えたところで、わしが居らんくなったらどうやって暮らすつもりじゃ?」

 ふくは立ち上がり、木の前に立つ。
 魔法に意識を集中し、手を三回振るう。
 風の刃が一本の木を倒し、三つに分かれる。
 ふくはネズミ族達に広い場所へと運ぶように指示をし、広場らしき場所に辿り着く。

「ふく、今から何をするの?」

「土を耕し、焼いた木を砕いて混ぜ合わせる。そしてエサとなる植物の種を植えて育てるのじゃ。いわゆる農業というもんじゃ」

「お言葉ですが……この土地は農業にむ――」

「じゃから焼いた木を砕いて混ぜると言っておろう。人の話はよく聞くのじゃ。木を焼く事で若干じゃが、土に栄養が回るようになるのじゃ。本当に肥料として使うなら、お前達の糞尿を使うと良いじゃろう。」

 ふくがノウハウを伝えるとネズミ族は嫌そうな顔をする。
 肥溜めを作り、肥料として使うのはふくの世界と時代では一般的な事であったのだが、ここの世界のニンゲンには刺さらなかった。
 それもそのはず、基本的に魔法で何とかすれば良いのだから、態々そんな事をしなくてもいいと思っているからだ。
 それでもふくが勧めるのはネズミ族がこの環境を作ってしまった事に気がついた為である。
 同じ土地で農業をすれば土地は枯れ、作物は育たない。
 それは魔法でも同じ事であり、一度枯れた土地を戻すのは困難な課題である。
 ふくが森を作ったのは防風だけでなく、いつしか出来る実りたちがネズミ達を潤し、余った実りは土へと戻り、土地に栄養を与える、そんな循環を再び創るものだった。
 人間時代ではこのような大規模な事はかなりの時間がかかり、誰もしない為飢饉に陥る事があった。
 それを避けるためにふくは官民問わずこのような政策を行っていた。

「本当はお前達が自分の力で木を植えたりせねばならんかたったのじゃが、急を要するものじゃから今回はわしが何とかしてやるのじゃ。……それともこのまま放置して欲しかったのかの?」

 ふくが訊ねるとネズミ族は一斉に首を横に振る。
 満足そうな笑みを浮かべ、木に向かって手を突き出す。

「今からお前達に働いてもらうのじゃ。これは自分たちでやらねば今後、ネズミどもは衰退し、滅びる運命じゃろう。嫌ならつべこべ言わず動くのじゃ!」

 ふくがネズミ族を焚き付けると一斉に動き出し、ふくの切り倒した木を運び始めた。
 ヴォルフはふくの采配を見てポカンとしていた。
 それは今まで何を言っても動かなかったヒトがふくの説明を聞いて動くようになり、自身の手足のように使っている様を見て驚いていたのだった。
 ふくはそんなヴォルフのそばに寄り、尻をペシンと叩く。

「これが王としての努めじゃ。わしらももう一仕事するのじゃ」

 そう言ってふくはヴォルフの背中に跨り、畑になる予定の広場を眺めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...