キツネの女王

わんころ餅

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蹂躙するのじゃ

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 ふくは挨拶がわりに風の刃を一つ飛ばすと、硬い鱗に阻まれる。

「ほう、お主中々硬い体を持っておるのじゃな!」

「良いだろう!いくらでもぶつけてもかまわんぞ!はっはっは!」

「では遠慮なく……」

 ふくは魔力を更に込めて人差し指と中指を揃えて竜人の男に向ける。
 慌てたレオンがふくの腕を取りやめさせる。
 
「お待ちください!ふく様!」

「なんじゃ、ええ所で……」

「それこそ戦争になりますって!」

「良いのだ、レオン!女子の力ではワシには傷ひとつつかん!」

「ほれ、こう言っておるんじゃ。やっても構わんじゃろう?」

 竜人は両手を広げてふくを挑発する。
 ふくはレオンを睨みつけて「手を出すな」と牽制する。
 再び指を竜人に向けてニヤリと笑みを浮かべ、魔法を発動させる。

「『凍れ』」

 竜人は笑顔のまま氷像と化した。
 ふくはケラケラと笑い、レオンは絶望の表情をし、ジェットは呆然としていた。
 この竜人はレオンとジェットと肩を並べられるほどの実力を持っている筈なのだが、ふくに油断しこの有様であった。

「ふく様、どうするんです?完全に宣戦布告ですよ?」

「カカカッ!愉快なヤツじゃ!戦争?したけりゃ受けて立つのじゃ。わしはトカゲどもには良い思い出がないのでの」

「ヤバい奴とは思っていたが……これ程とは……」

 ふくは笑いすぎて涙が出たため、手で拭いながら握り拳を竜人の氷像に向ける。
 ふくの表情は冷酷なものに変わり呟く。
 
「さらばじゃ。『爆ぜよ』」

 氷像は爆発四散し、砕け散った。
 ふくの行動にその場にいた全てのヒトが立ち止まり、動かなくなる。
 竜人族の一人がしかも軍団長クラスのヒトが死んだ。
 その事実が周囲に伝わり、皆がふくを見る。

「……さて、次は誰がわしの遊び相手になってくれるんじゃ?」

 冷酷、強者の風格、遊び感覚と様々な表情を入り混ぜたその顔は誰も彼女に逆らうことを許さないものだった。
 しかし、竜人は違った。
 一度怯んだものの、自らを奮い立たせ、ふくに急接近する。
 ふくは向かってくる竜人にニィッと笑い、周囲を取り囲む竜人に向けて魔法を放つ。

「『白銀の抱擁』」

 ふくの周りを吹雪が包み込み、竜人たちを凍らせていく。
 火の魔法で凍結を免れた者は範囲から抜け出し、特大の火球を作り出す。
 複数の火球を目にしたふくは吹雪の魔法を解除し、掌を天に向ける。

「『吹きあふれる嵐』」

 日中ではあったが、急に積乱雲が呼び出され、周囲が暗くなる。
 竜人たちは特大の火球をふくに目掛けて放った瞬間、暴風雨が火球を消し去る。
 それを確認し、嵐の魔法を解除させると一人の竜人に向かって歩き始める。
 圧倒的な魔法の力で制圧された上、距離を詰められ、竜人は後ろへ下がっていく。

「火の魔法がお前たちの専売特許ではないのじゃよ?『獄炎の檻』」

 青く燃える焔が竜人を包み込み、逃げることを許さなかった。
 初めこそ、熱に強い鱗や内臓は耐えているが、竜人族の使う炎は赤色。
 ふくの使う焔は青色であり火力が雲泥の差である。
 赤色の炎を耐えられる竜人は残念ながら青い焔には耐えられず、ドロドロに溶け、溶けた端から蒸発していった。
 その惨状を見ていた後ろに控えていた竜人たちは散り散りになって逃げていった。

「鳥頭」

 そう告げられたジェットは戦慄する。
 発汗機能は鳥人族として失われていた筈だったが、全身から脂汗をダラダラと流す。
 異様な光景を見たホークスたちはジェットを置いて退却していく。
 ふくが一歩、また一歩と近づく度、心臓が跳ね上がる。
 不規則に脈打つ心臓で呼吸もままならなくなり、過呼吸になっていく。
 そしてそのストレスは目に見える形に現れる。
 ジェットの頭部の毛はどんどん失われていき、地肌が見えていく。
 鷹は禿鷹になってしまった。
 厳密にはストレスで毛が抜けたので禿鷹ではなく禿げた鷹なのだが。
 嘴をカチカチと鳴らし、涙が流れ、失禁し、壁際まで追い詰められる。

(た……食べられる……!)

「お前のところの女王に伝えるがよい。王の座にふんぞり返らず、直々に会いに来いと。でないと貴様ら鳥頭は焼き鳥にして食うてやると」
 
「は、はひ……!」

「もうよい、さっさと帰るのじゃ」

「しししししししししししかと、おおおおおおつつつつたえいたしししししますすすすっ!」

 ジェットは飛ぶことを忘れたように走ってふくから逃げ去っていった。
 全ての軍勢を一人で追い払い、元集落には静けさが戻る。
 レオンはヴォルフに匹敵するほどの力を持っていそうだと感じ、ふくの前に跪く。

「女王……貴女の実力、この目で見られて光栄です……!今後、貴女の手となり足となり支えさせていただきたい……この願い、叶えていただけるだろうか?」

 ふくにそう告げた瞬間、ふくは倒れた。
 完全に魔力が枯渇し、休眠が必要になっていた。
 急に倒れたふくを介抱しようと手を出した瞬間、ふくはレオンの前から消える。
 周囲を確認してふくを探していると声をかけられてビクリとする。

「ヒトの嫁に手を出すな」

 そこには狼の獣人が立っており、その両手にふくが抱えられていた。

「……お前は一体……!?狼族は……絶滅したのでは……?」
 
「ヴォルフだ。ふくはオレの嫁でこの国の女王になる女だ。ふくをこんなにしたのはお前か?」

「い、いえ……ふく様は鳥人族と竜人族を一度に追い払って、倒れたのです……」
 
 レオンはヴォルフと名乗る獣人が邪神ヴォルフと同一人物に見えず、困惑した。
 それでも圧倒的な魔力を持ち、一歩でも動けば、嘘をつけば即噛み殺される……そんなイメージを持ち正直に答えることにした。
 
「証拠は?」

「ありませんが……この牙と鬣に誓って、嘘はついておりません……」

 種族の特徴を使って誓いを立てるのは獣人の嘘偽りのない行動だと証明する方法の一つであり、レオンは牙と鬣の二つを出したことで、その言葉の真偽を証明する十分なものだった。
  ヴォルフはそれを聴き、レオンが敵対する者でないと察すると、興味がなくなったように視線を外しふくの寝顔を見る。

「今日もふくは美しい……」

 【太陽】は光を失い、夜へと変わるのであった。
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