キツネの女王

わんころ餅

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首領を説得するのじゃ

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 ふくはキツネの首領の家の前に立っていた。
 中々入らないため、ヴォルフはふくの顔を覗き込むと、胸を軽く押さえ、息を整えているように見える。
 余程気になる存在であったのだろう。
 恋するふくを見て、ヴォルフは少し寂しそうな表情をする。
 首を横にブンブンと振り、ふくに話しかける。
 
「行かないの?」

「……う、うむ。行こうと思っておったのじゃ……」

 二人は門を開けて、敷地の中に入る。
 完全にふくの居た世界と同じ【和】をテーマにしたアプローチが広がる。

「なんだか今までに来たことがない場所だな……」

「……わしのおった世界に本当にそっくりというか……そのもののようなのじゃ……」

 歩みを進めていくと、戦闘の準備をしていた首領がいた。
 ふくは走って彼の傍に行き、話しかける。

「お前はどこに行こうというのじゃ?」

「我の配下を守るのに理由がいるのか?」

「いらぬが……」

「ならば止めるな。そして、部外者はとっとと去れ。」

 そう言うと、戦闘用の服を着こんでいく。
 魔獣の毛や革を利用したものでそれなりの防御性能を誇っているのが分かる。
 しかし、二人はそのようなものに意味がないと感じる。
 見つめ続けているふくに嫌気がさしたのか男の方から口を開く。

「貴様、『日本』のニンゲンだろ」

 ふくの鼓動がドクンと大きく跳ね上がる。

「そうじゃ。わしは『藤原』のニンゲンじゃ」

「へえ。良い所の女中か?我はこの世界に来てすでに二百年の時を過ごしている。ニンゲンの頃の名前は忘れた。何をして生きていたのかも全て……」

「今の名は何というんじゃ?」

「綱彦」

「綱彦……わしのおった時代より昔でも名前は似るものじゃのぅ……」

(つな……?でかい魚……!?)

 ふくはもじもじして、綱彦に寄る。
 鬱陶しく感じる綱彦であったが、まだ何か言いたそうな雰囲気をするふくを見る。

「なんなんだ。早く済ませてくれ」

「綱彦や、悪いことは言わん、民を逃がすのじゃ。あやつらは土地や木、命を腐らせ、殺す魔力を持っておる。ネズミ族が滅んだのはそれが理由じゃ」

「……逃げる理由にならんな。……ではこうしよう、村人は逃がしてやる。だが、我は戦闘に行く。無事に生き残れば我の子を産め。それが条件だ」

「……良いじゃろう。それでは綱彦や、お主は村人を逃がしておくれ。村人はわしの言うことは聞かぬのじゃから。それから合流するのじゃ」

 そう言うと綱彦は何も言わずに出発した。
 ふくは、ほっと胸をなでおろし、ヴォルフに話しかける。
 が、ヴォルフの姿が見えなくなっていた。
 周りを見ても、魔力を目に込めて魔力を追跡しようにも残滓がなく、本当に消えたような感じであった。

「ぼるふ!どこじゃ!?……ぼるふ?……おらぬのか……?」

 ヴォルフの姿が見えなくなり、ふくの心がぽっかりと空いた気がした。
 それでも民を守るため、慣れないが、走って現場に向かうのであった。

 §

 ヴォルフは荒野をとぼとぼ歩いていた。
 強力なライバル綱彦が現れ、ふくがヴォルフのことを見なくなり、姿をくらました。
 ヴォルフは狩りをするとき、魔力の残滓は一切残さない。
 それを応用した技術で神速の速さで野狐族の集落から去っていた。
 随分走った気がしていたが、犬族の集落が見え、素通りをしようとしていた。
 しかし運悪く、コロンに見つかる。

「ヴォルフさま!どうしてこちらへ……?ふくさまは……」

「……いいんだ。また一人に戻るだけだから」

 そういって去ろうとするヴォルフの尻尾を引っ張る。
 いくら子供でも、弱点である尻尾を引っ張られると痛いものは痛い。
 コロンに牙を剥いて噛みちぎろうとした寸前で止まる。
 コロンは足を震わせ、歯もガチガチと鳴らし、恐怖で涙目になるが、ヴォルフの顔を見て驚く。
 
「ヴォルフさま……泣いてる……」

「オレが……泣く……?本当だ……」

「ちょっと来てください。お話、聞かせてください」

 ヴォルフはコロンに連れられ、犬族の集落に入っていく。
 戦闘訓練や、異形の化け物の退治で信頼を得たヴォルフは村人から恐怖の対象から外れ、落ち込んでいるヴォルフの元に犬族が集まってくる。

「おや?ヴォルフ様では?どうされましたか?それにふく様のお姿が見えませんが……」

「ふくならもう帰ってこない……。野狐のオスの元に行った」

 ふくが野狐族のところに行ったと聞き、犬族は驚くが、同時に納得する者もいた。
 
「ふく様は野狐だからしょうがないよな……」

「でもこれから建てる国はどうなるんだ?ふく様の国じゃ……」

「そこは安心してほしい。オレがお前たちの生活を守る。」

「でもこの前みたいな怪物が現れたらどうするのですか!?ふく様がいたから斃せたんじゃないのですか?」

「オレはまだ本気を出していない。本気を出したら、この集落がなくなるから、弱い魔法しか使えなかった」

 ヴォルフが実力をまだ隠していると聞き、犬族は安心する。
 コロンは不安そうな顔をしてヴォルフの鼻を触る。

「ヴォルフさま。さみしい?」

「多分……な」

 神であるはずのヴォルフは、子犬のコロンに慰められ、立場が崩れていた。
 相当重症だとコリーは判断し、ネズミ族の集落に移動するときはヴォルフも一緒に移動するように周囲の男たちに周知する。

「邪魔するよ。犬ども」

 犬族とヴォルフの集まりの中に一人の女性が現れる。
 彼女は野狐族のイナホであった。
 ヴォルフは興味がなさそうに伏せ、犬族は困惑したのだった。
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