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14歳の助走。
リディアを連れて現場に。
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翌朝、ローランと研修中の二人……文官候補のオレリー、財務候補のドニーズを連れて玄関を出ると、門前の馬車に先客がいた。リディアが腕を組み、ふふんと笑う。
「わらわも見にいくのじゃ」
「だめだよ。今日は現場での……」
「だめでも行くのじゃ」
これはテコでも動かないやつだ。観念してトーマスに目配せする。陽炎隊から三人を指名して護衛につけ、王城にも「見学一名追加」と伝令を走らせた。
最初の役場前広場には、若い役人たちがすでに集まっていた。視線が揃ってこちらへ来る。誰ですか、と目で問う顔。僕が「王様の知り合い」とだけ言うと、リディアが一歩出て胸を張る。
「わらわは友達じゃ。みな、今日はがんばれよ」
あちゃー……と内心で額を押さえつつ、気を取り直して進行に戻る。
「では、置き場所をあなた方の目線で説明してください」
代表格の役人が指し棒で示す。広場の角、庁舎の掲示板の手前、石柱の影。悪くはないが、列ができると庁舎口とぶつかる配置だ。僕は柱を背にして立ち、視線の高さをずらしてから告げる。
「人の流れが横に切れます。半歩下げて、庁舎口の視界を開けましょう。箱の口は子どもの目線で差せる高さに。掲示は二行で動ける文だけ、大きく」
巡回の兵を読み手に使う案も出たが、彼らが重なる刻は人の往来も膨らむ。ローランが静かに補う。
「運用初期は、刻をずらして。読みは薄く確実に」
役人たちが頷く。オレリーは要点だけを二行で走り書きし、ドニーズは掲示板の柱の幅を測って控えに写した。
次は市場入口。人通りが薄い刻で、ちょうど良かった。露台の布が涼風に揺れ、呼び声も低い。リディアが興味津々で首を伸ばすので、僕はドニーズに小さな袋を渡す。
「申し訳ないけど、案内を。戻る刻は日陰の針がここに来たら」
「承知。行きますよ、リディア殿」
「うむ!」
僕らは入口の柱列と小屋根の影を見ながら、置き場所と動線を詰めていく。荷の出入りを邪魔しない位置、雨の日に足元が滑らない板の角度。読み手と書記の立つ向き。アガットが「最初の二行だけで動く掲示文の雛形」をさらさらと書き出した頃、リディアが串焼きと甘い揚げ菓子を両手に持って戻ってきた。
「買い食いは楽しいのう」
「……後で一つください」
「よきにはからおう」
三か所目は宿場通り。刻によっては人波がぶ厚く重なる。役人たちが提案する。
「茶屋の一角に掲示板と箱を置かせてもらえないか、と」
「見に行こう」
暖簾をくぐる。店内は奥に細く、入口脇に一段低い土間がある。人の出入りとぶつからない、良い隅だ。僕は頷いた。
「場所はここで良いと思います。通りからの視認も効く」
トーマスが周囲を一巡して言う。
「混む刻は人が溜まります。外で間を取る者を置いた方が良い」
店主が奥から顔を出し、笑い皺を寄せた。
「溜まった方が茶が売れるから良いよ。ただね、使うなら費用も少しは頼むよ」
ドニーズが前に出る。穏やかな声で、しかし要点だけ。
「掲示板の板と箱の保守は役所持ち、場所代は月に小銀貨一。混み合う刻の掃除は店側、その代わり役所の掲示に店名を小さく併記。いかがでしょう」
店主は腕を組み、天井を一度見てから頷いた。
「悪くない。うちはそれでいい」
役人たちも顔を見合わせ、「まとめてまた交渉させてください」と揃って礼をした。自然な足並み。良い。
茶屋に席を借り、湯気の薄い茶で喉を潤しながら軽い会議に切り替える。骨子はほぼ固まった。初期の読み刻は薄く、掲示は二行、返せない札の扱いは理由と次の刻を明示……役人たちの口から「試験運用で確かめたい」という言葉が出る。
「なら、その計画もあなた方で立ててみて。僕らは足りないところだけ見る」
自分の言葉で、期日と役割が並び始める。良い意見が続いたところで切り上げ、王城へ戻って会議室で骨子を清書する。役人達はこちらが用意したローランやキースの書類を見せると、それを読み込み要旨に加えてまとめ、各所の刻を表に落とし、自分の持ち場に印を打つ。仕上げに僕が一枚紙へ要点を載せた。
「これをまず提出して、叩き台にしましょう。紙は軽く」
ふう、と誰かの息がこぼれる。リディアが椅子の背で腕を組み、しみじみと言った。
「役人というものも、大変な仕事なんじゃな」
「僕らはここで彼らに仕事を渡して終わりだけど、彼らはこれから作り上げて、運用して、直し続けていくからね」
「うむ……よき働きよ」
机の上の紙が乾き、刻が来た。僕は代表に向き直る。
「これで耳箱の仕事は託します。あとはあなた方の番。困ったら速文を」
「はい。ありがとうございます」
深い礼がそろい、会議は解散となった。廊下へ出ると侍従が近づき、王太子の控えに本件の報告が上がっていると伝える。僕はその侍従に一言託した。
「王太子様にお伝えください。現場の警備、ありがとうございました」
「承りました」
帰りの石段を降りながら、オレリーが小声で言う。
「掲示の『二行』、現場でも効きますね」
「紙が軽いと、人も軽く動ける」
ドニーズは茶屋の帳簿を思い出している顔で、ぽつり。
「費用の道筋も、札と同じく刻を決めて細く回すのが良い」
「そう。それで十分だ」
外へ出ると、日が傾きかけた王都の屋根が淡く光っていた。馬車までの道、トーマスと陽炎隊が少し距離を置いて流れを整える。リディアは満足そうに空を仰ぎ、口の端にまだ甘い香りを残している。
「よい一日じゃ。わらわ、もう一つ菓子が食べたいのう」
「……帰ってからね」
皆が笑った。耳箱の一連は、ここでいったん区切りだ。紙は渡した。あとは彼らが自分の街で息を入れる。背中に心地よい疲れを乗せ、僕らはタウンハウスへの道を取った。
「わらわも見にいくのじゃ」
「だめだよ。今日は現場での……」
「だめでも行くのじゃ」
これはテコでも動かないやつだ。観念してトーマスに目配せする。陽炎隊から三人を指名して護衛につけ、王城にも「見学一名追加」と伝令を走らせた。
最初の役場前広場には、若い役人たちがすでに集まっていた。視線が揃ってこちらへ来る。誰ですか、と目で問う顔。僕が「王様の知り合い」とだけ言うと、リディアが一歩出て胸を張る。
「わらわは友達じゃ。みな、今日はがんばれよ」
あちゃー……と内心で額を押さえつつ、気を取り直して進行に戻る。
「では、置き場所をあなた方の目線で説明してください」
代表格の役人が指し棒で示す。広場の角、庁舎の掲示板の手前、石柱の影。悪くはないが、列ができると庁舎口とぶつかる配置だ。僕は柱を背にして立ち、視線の高さをずらしてから告げる。
「人の流れが横に切れます。半歩下げて、庁舎口の視界を開けましょう。箱の口は子どもの目線で差せる高さに。掲示は二行で動ける文だけ、大きく」
巡回の兵を読み手に使う案も出たが、彼らが重なる刻は人の往来も膨らむ。ローランが静かに補う。
「運用初期は、刻をずらして。読みは薄く確実に」
役人たちが頷く。オレリーは要点だけを二行で走り書きし、ドニーズは掲示板の柱の幅を測って控えに写した。
次は市場入口。人通りが薄い刻で、ちょうど良かった。露台の布が涼風に揺れ、呼び声も低い。リディアが興味津々で首を伸ばすので、僕はドニーズに小さな袋を渡す。
「申し訳ないけど、案内を。戻る刻は日陰の針がここに来たら」
「承知。行きますよ、リディア殿」
「うむ!」
僕らは入口の柱列と小屋根の影を見ながら、置き場所と動線を詰めていく。荷の出入りを邪魔しない位置、雨の日に足元が滑らない板の角度。読み手と書記の立つ向き。アガットが「最初の二行だけで動く掲示文の雛形」をさらさらと書き出した頃、リディアが串焼きと甘い揚げ菓子を両手に持って戻ってきた。
「買い食いは楽しいのう」
「……後で一つください」
「よきにはからおう」
三か所目は宿場通り。刻によっては人波がぶ厚く重なる。役人たちが提案する。
「茶屋の一角に掲示板と箱を置かせてもらえないか、と」
「見に行こう」
暖簾をくぐる。店内は奥に細く、入口脇に一段低い土間がある。人の出入りとぶつからない、良い隅だ。僕は頷いた。
「場所はここで良いと思います。通りからの視認も効く」
トーマスが周囲を一巡して言う。
「混む刻は人が溜まります。外で間を取る者を置いた方が良い」
店主が奥から顔を出し、笑い皺を寄せた。
「溜まった方が茶が売れるから良いよ。ただね、使うなら費用も少しは頼むよ」
ドニーズが前に出る。穏やかな声で、しかし要点だけ。
「掲示板の板と箱の保守は役所持ち、場所代は月に小銀貨一。混み合う刻の掃除は店側、その代わり役所の掲示に店名を小さく併記。いかがでしょう」
店主は腕を組み、天井を一度見てから頷いた。
「悪くない。うちはそれでいい」
役人たちも顔を見合わせ、「まとめてまた交渉させてください」と揃って礼をした。自然な足並み。良い。
茶屋に席を借り、湯気の薄い茶で喉を潤しながら軽い会議に切り替える。骨子はほぼ固まった。初期の読み刻は薄く、掲示は二行、返せない札の扱いは理由と次の刻を明示……役人たちの口から「試験運用で確かめたい」という言葉が出る。
「なら、その計画もあなた方で立ててみて。僕らは足りないところだけ見る」
自分の言葉で、期日と役割が並び始める。良い意見が続いたところで切り上げ、王城へ戻って会議室で骨子を清書する。役人達はこちらが用意したローランやキースの書類を見せると、それを読み込み要旨に加えてまとめ、各所の刻を表に落とし、自分の持ち場に印を打つ。仕上げに僕が一枚紙へ要点を載せた。
「これをまず提出して、叩き台にしましょう。紙は軽く」
ふう、と誰かの息がこぼれる。リディアが椅子の背で腕を組み、しみじみと言った。
「役人というものも、大変な仕事なんじゃな」
「僕らはここで彼らに仕事を渡して終わりだけど、彼らはこれから作り上げて、運用して、直し続けていくからね」
「うむ……よき働きよ」
机の上の紙が乾き、刻が来た。僕は代表に向き直る。
「これで耳箱の仕事は託します。あとはあなた方の番。困ったら速文を」
「はい。ありがとうございます」
深い礼がそろい、会議は解散となった。廊下へ出ると侍従が近づき、王太子の控えに本件の報告が上がっていると伝える。僕はその侍従に一言託した。
「王太子様にお伝えください。現場の警備、ありがとうございました」
「承りました」
帰りの石段を降りながら、オレリーが小声で言う。
「掲示の『二行』、現場でも効きますね」
「紙が軽いと、人も軽く動ける」
ドニーズは茶屋の帳簿を思い出している顔で、ぽつり。
「費用の道筋も、札と同じく刻を決めて細く回すのが良い」
「そう。それで十分だ」
外へ出ると、日が傾きかけた王都の屋根が淡く光っていた。馬車までの道、トーマスと陽炎隊が少し距離を置いて流れを整える。リディアは満足そうに空を仰ぎ、口の端にまだ甘い香りを残している。
「よい一日じゃ。わらわ、もう一つ菓子が食べたいのう」
「……帰ってからね」
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