【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

婚約発表。

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 打ち合わせの部屋に戻ると、さっきまでの地図と紙の匂いに、どこか甘い香りが混じっている気がした。僕の顔を見たマックスさんが、にやりと口の端を上げる。

「レイアム、呼んでくれ」

 すぐにレイアムさんが、アルフォンス君とアメリアちゃんを手をつないで連れてきた。二人とも目をきらきらさせている。何かが始まるのを、子どもはすぐ嗅ぎ分ける。

「で、決まったのか?」とマックスさん。

 喉の奥の震えを息で押さえて、真っ直ぐに答える。

「はい。ナミリアと、エメイラと、ミザーリと結婚します」

 間が一つだけ置かれ、次の瞬間には「おめでとう!」という声と拍手が重なった。アルフォンス君が跳ね、アメリアちゃんがぱちぱちと一生懸命手を叩く。ミザーリは耳まで赤くなり、エメイラは穏やかに微笑み、ナミリアは目元を指で押さえた。

「今日はお祝いだな。婚約おめでとう。――レイ、腕によりをかけさせろ」

 マックスさんの一声に、レイさんが深く一礼する。

「ルステインの守護神様とナミリア様がリョウエスト様と結婚される、これほど嬉しい事はありません……」

 言い終わる前に、頬を伝うものを拭いて、くすっと照れ笑い。「すぐ支度いたします」と廊へ消えた。

 急遽、内輪の宴になった。厨房が唸り、広間に灯が増え、音があたたかく膨らむ。乾杯の合図で杯が触れ合い、塩の香り、焼きたての香ばしさ、薄い香の線が重なる。向こうの役人衆とこちらの面々は、杯の巡りを合図に、すっかり打ち解けた。紙の上で固かった線が、湯気の向こうで丸くなるのが見える。

 レイアムさんが僕の袖を引いた。

「三歳の頃からこうなるんじゃないかと思ってたわ。ねえ、あなた」

「ああ、その通りだ。よろしくな、息子よ」

 マックスさんが、いつになく静かな声で言い、ぎゅっと肩を抱いてくれた。胸の奥で何かが定位置に収まる音がして、思わず笑ってしまう。

 宴は夜更けまで続いた。アルフォンス君は途中でうとうとし、アメリアちゃんはナミリアの袖に頬を寄せ、ミザーリは陽炎隊にからかわれながらも上機嫌、エメイラは杯を控えめにして皆の皿のめぐりを気づかい、レイさんは皿の最後の角まで温度を保ち続けた。向こうの政務・財務の人たちも、こちらのローランやカレルと紙を取り替え、笑いながら要点を二行に落としている。宴をしながら働く、働きながら祝う。ルステインらしい良い夜だった。

 翌日。僕たち四人、僕、ナミリア、エメイラ、ミザーリでスサン商会の本店へ。扉を開けると店の匂い、木と布と香辛の混ざった懐かしい空気が胸いっぱいに入ってくる。父さんと母さん、ロイック兄さんとお嫁さんたちが、顔を見合わせて立ち上がった。

「ただいま戻りました。報告があります」

 四人並んで頭を下げると、母さんが早合点で両手を合わせた。

「まあまあまあ……! やっぱり、そうなのね?」

「はい。ナミリア、エメイラ、ミザーリと婚約しました」

 一拍ののち、店じゅうが一気に春になったように明るくなる。父さんは「よう言った!」と笑って背中を叩き、母さんは三人の手を順番に握りしめる。ロイック兄さんは「弟よ、覚悟はいいな」と笑い、兄嫁たちは「支度の段取りは任せて」と逞しい。店の者たちも次々に出てきて、口々に祝辞。ここでも小さな乾杯と、小皿の甘いものが出た。甘さが胸の不安を丸く包む。

 その足でアトリエへ。リディアにも声をかけ、家族と家臣たちで、もう一度内輪の宴。リディアは「ようやく決めたか」と得意げに鼻を鳴らし、ナビは肩で震えて喉を鳴らす。ミザーリは「主の名誉ある日や、飲め飲め!」と陽炎隊を煽り、エメイラは「飲むのは程々に」と微笑で制する。カレルが費目を控え、ローランが祝辞を二行ずつ束ね、ストークが台所と広間の動線を整え、ミレイユはその光景をさらさらと写し取り、アールは短い口上で場を柔らかく回した。

 席が一段落したところで、僕は父さん、母さん、ロイック兄さんに向き直る。

「もう一つ。王意を賜り、伯爵となって、ルステインの隣の領を治めることになりました」

 父さんは「おお」とだけ言って腕を組み、すぐに商人の顔になる。母さんは胸に手を当てて目を潤ませ、ロイック兄さんは真顔で頷いた。

「人員は揃っている。支店をすぐ建てて――」

「兄さん、ありがとう。ただ、まず『町』を作る。柱を立ててから、支店を。だからその後で、お願いしたい」

 言葉を選んで、はっきりと頼む。兄さんは一瞬だけ考え、すぐ笑って肩を叩く。

「了解だ。柱が立ってから、店を掛ける。筋が通ってる。図面は先に起こしておく。動く時は早いぞ」

 父さんも頷く。

「名も地の利も、焦ってはいかん。柱を立てろ。うちの人間は、必要な時に必要なだけ出す。『引き抜き』はせん。あくまで支えだ」

「ありがとう」

 母さんは三人の手をまた握り、そっと言った。

「よかったねえ。うちのご飯はいつでも用意してるからね。忙しい時ほど、ちゃんと食べるのよ」

「はい」

 笑い声が重なる。台所では香が変わり、焼き色が深くなる。リディアは樽の栓をくるりと回し、「祝いじゃ」と言って小盃に一滴ずつ落とした。「香りだけな」と笑うと、場がさらに柔らかくなる。

 夜が降り切る前、僕は一人で庭に出て、大きく息を吸った。空は高く、遠く、静かだ。けれど、地上はにぎやかで温かい。肩に乗ったナビが尻尾で頬をちょんと叩く。戻ろう、という合図。


 宴の灯の輪に戻ると、三人が同じ高さで笑っていた。僕はその輪に入り、杯を受け、短く言う。

「みんな、ありがとう。これからも、頼む」

 返ってくる「ええ!」と「はい!」と「任せろ!」が、胸の真ん中で一つに重なった。
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