【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

水中調査。

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 翌朝、領都の宿舎で待っていると、年嵩の水竜人が三人のお供を連れて現れた。鱗は薄い緑、瞳は深い群青。胸に手を当てて名乗る。

「私は水竜人伯のご命令でこちらの港の核を調査に参りましたチャンシルバと申します。この港の建設責任者として働かせていただきます。よろしくお願いいたします」

 丁寧な口上に頭を下げると、彼はすぐ本題に入った。

「事前調査をいたします。何かご注文はございますか」

「既存の港町のすぐ隣でも構わない。ただ、境界は明確にしてほしい。漁と荷の動線で揉めないように」

「かしこまりました……が、まず現場を」

 そう言って一同で港町へ。潮の匂いが濃くなる通りを抜け、岸壁が見える。チャンシルバは一瞥して首を横に振った。

「これは、港町の港を将来大きくできなくなります。寄り添わせれば一時は楽ですが、いずれ行き詰まる。二キロほど離れた岩場の海岸がございます。あそこなら自然の根が防波の役目を果たし、掘り下げも少なくて済む。独立した港として育てるのがよろしいかと」

 僕は頷き、一旦港町の役所脇に戻ってローランへ速文を打つ。キースはいる? 間もなく返電。いる、と。そこで港町に独立港を立てる件を問うと、キースの返事は簡潔だった。港町の内に建てられないなら独立でよい。動線をぶつけぬこと、漁の邪魔をしないこと、それだけ守ってくれ――了承だ。

 戻ってチャンシルバにゴーサインを出すと、彼はお供に合図した。二人が海へ滑るように入る。水面が静かに裂け、浮標と縄がすばやく打たれていく。残った一人は岸で貝殻印の板を並べ、流速、深浅、岩の張り出しを記録していく。

「初期調査は三度。今日の潮、明日の満ち、明後日の引き。それが済めば図面を起こします。用地に関しては境界杭の位置案も添えます。では、図面をお待ちください」

 彼らに任せて僕らは港町へ引き上げる。耳役の老人の机を訪ねると、例の穏やかな笑みで迎えられた。

「問題はありません。この仕事を与えていただき、ありがとうございます。今日の札は短く、よくまとまりました」

「助かる。続けて頼む」

 それから顔役を呼び、卓の上に地図を広げる。

「伯爵家の港を立てる。ここから少し離れた岩場だ」

「前にキースさんから話は通ってるよ。だいたいこの辺か」

 指でなぞる場所は、チャンシルバの案とぴたり重なる。

「問題ない。うちらの漁の筋にかからなけりゃ文句はないさ。……それより早いとこ冷凍箱を持ってきてくれよな」

「一台は今日、役所預かりで置く。差配は顔役合議で。喧嘩になったら即刻引き上げる。いいね」

「任せろ。揉め事は勘弁だ」

 耳役の机の近く、目に入りやすい位置に掲示板を立てる。ミレイユが文面を起こし、アールが板へ写す。文は二段。上段は大人用、下段は子どもと小人用、字を大きく。

「伯爵家の港ができます。場所は港町の邪魔にならない岩場です。工事の人と道具の近くで遊ばないこと。漁の邪魔をしないこと。用は耳の席へ」

 顔役の署名はアールが手早くもらって回り、ミレイユが綴じて役所に一部、耳役に一部、僕らの控えに一部。これで港側の合意は整った。

 夕方、チャンシルバが仮の図形を携えて戻ってきた。濡れた髪を払いながら、簡略の見取りを指で示す。

「根は強い。掘るのは入口だけで足ります。初期配備は基本の岸壁と、潮の見張り台を一基。大型の冷凍箱を岸の奥に据え、貿易用の見本棚を併設する小屋を。荷の集散に市を開ける広場が一枚……船は四十肘の浅喫水船を二、遠洋仕様の中船を一。これで潮を見ながら出し入れの癖を掴みます」


 調査隊は再び海へ。僕らは役所に寄って、冷凍箱を一台、役所倉の軒に仮設置する手はずを整える。鍵は役所、顔役、耳役の三者で預かり、貸し出しは札。時間は短く、内容は明記。返却の遅延は翌日の末番送り。顔役たちは真顔で頷き、若い衆が列を整えた。

 港の風は日暮れに向かって少し冷たくなる。僕らは町の宿をとった。帳面に今日の要点を二行でまとめ、明日の回しを書く。アールは顔役の合議の札の型をもう一段短くし、ミレイユは掲示文を子どもが読める言い回しに一部直す。ストークは冷凍箱の貸し出し札を束にして耳役へ。トーマスは見張り台の仮足場の安全を見に行き、ミザーリは荷揚げ場の角で人の流れを眺める。

 夜、更けかけに耳役の老人が顔を出した。

「掲示を見て、子らが近づいてきました。下の板を指でなぞって読み上げていく。親が横で聞いて頷く。……ああいうのは、効きますな」

「二つの高さは、町の二つの背丈に向けたものだから」

「明日も見守ります」

 翌朝。潮見の仮台に登ったチャンシルバが、風を嗅ぐ仕草をして笑った。

「よい潮です。ここなら、港は息をする」

 彼の言う「港の息」がどんなリズムか、僕にも少しわかる気がした。引く、満ちる、留める、送り出す……荷も人も、怒りも喜びも、その息に合わせて動かすのが、港の核というものだ。

 昼、役所預かりの冷凍箱が稼働する。初日の貸し出しは控えめに三組。顔役が札を読み上げ、耳役が返し札を受け、若い衆が箱の口を押さえる。列は短く、声は低く。誰も押さない。終われば箱の前を掃く。これだけで町の空気が変わる。

 夕刻、チャンシルバが最初の正式図を携えて戻る。線は少ないが、迷いがない。

「ここからは人と石です。人の手は多いほど良い。石は根に従う。明日から杭を打ち、縄を張り始めます」

「耳の席には工事の札も立てる。近づくな、ではなく、どうすれば近づけるかを書く。見に来た子らが、いつか港の人になるかもしれないから」

「素敵な考えです」

 顔役をもう一度集め、図を見せる。皆、難しい顔でうなずき、最後は笑った。

「邪魔にならなきゃ良い。……それより、見本棚だ。うちの干物も置けるのか」

「置ける。隣に他領の塩と油も並ぶ。値の札は同じ書き方にする。ケンカにならないように」

「それがいい」

 合意の書類に再び署名が並ぶ。ミレイユが綴じ、アールが控えを配る。耳役の机には新しい札が置かれた。「工事を見に来る人へ」。字は大きく、言葉は短い。上と下、二つの高さで。

 僕は宿に戻り、窓から海を見た。岩場の影が長く伸び、その向こうで水竜人たちの頭が小さく光る。待つことも仕事だ。待ちながら、紙を整え、人を整え、息を合わせる。初期配備で港の心臓を打たせ、四十肘の浅喫水船で血を回し、遠洋の中船で外と繋ぐ。冷凍箱は血を冷やし、見本棚は目となり、広場は港の舌になる。潮の見張り台は、耳だ。

 机に向かって筆を取る。ローランに一通、キースに一通。チャンシルバの働き、港町の合意、冷凍箱の運用、掲示の様子。どれも二行で要。返電はすぐ来た。ローランは「順調。王都側も動線の図を準備」とあり、キースは「合意の筋目、文句なし。喧嘩避けの箱、正解」とあった。僕は小さく頷く。
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