【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

聞く一日。

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 朝いちばん、シャングリラの役所脇の広間で耳役の老人たちに囲まれた。札の束は今日も重い。老人の一人が咳払いをして読み上げる。

「裏路地の井戸が臭う、掃除の札が三……」「夜の見回り、笛が大きすぎて赤子が起きる、二……」「寺子屋をもう一日増やせぬか、一……」「市場の掲示、低い方の札が風でめくれる、四……」

 僕は一つずつ「承った」と短く返し、書記に要点だけを渡す。文句だけの札もあるが、最後に「頼む」と結ぶ札が多いのがこの街の気質だ。耳役たちは目を細めて頷き、また明日の束を集めに散っていった。

 ミザーリと馬に跨がり、伯眼騎士団の若者二人を伴って街を出る。途中の村で馬を止め、共同の畑沿いに腰を下ろす。村の年寄りが麦の穂を一本折って手に載せた。

「今年は土が軽い。麦を続けてしもうたのが悪いんだろうかな」

「輪をしましょう。牛は手配中だ。堆肥を積む場所は風の通り道に」

 隣で見習い書記が頷きながら板に走り書きする。村の娘が手拭いで額の汗を拭き、笑って言った。

「耳箱に書いたら、ほんとに来た。次は、水の話も聞いて」

 川に沿ってしばし歩き、堰の草を抜く手伝いをしてから採石場へ。山肌の灰が陽に光る。グラッツが腕を組んで待っていた。

「進捗は上々。だが困りごとが三つ。楔が足りねぇ、縄が切れる、粉塵が目に入る」

「楔は鍛治に回す。縄は太さを上げる。粉は……水撒きの番を増やそう。目洗い用に酢を薄めた瓶を十、配置してくれ」

「それなら今からできる。目薬は領の手で用意を頼むぜ」

 石工の若い衆が照れくさそうに近づいてきた。

「親方、ここに書いていいかい?『初めての人は午前は軽い玉運び』って」

「書こう。怪我をしないのが一番だ」

 次は海へ。新港の現場は、潮の匂いと木杭の音で満ちている。チャンシルバが濡れた髪を払って手を振る。

「潮の癖が一つ変わりました。北からの押しが強い。潜りの者が二度流された」

「休みを増やそう。満ち引きの間に休憩を挟む。合図札の色も一段強く」

 労志の男が袖を引く。

「昼の飯、並ぶ順で揉めた。抽選札の箱、もう一つ欲しい」

「役所預かりの箱をもう一台置く。港湾と水竜人で鍵を分け合う。札は午前と午後で分けよう」

 桟橋の端では子どもらが魚を眺めている。僕はしゃがんで目線を合わせた。

「低い掲示、読める?」

「うん。でも風でぱたぱたする」

「重しをつけよう。ありがとう、教えてくれて」

 港町に入ると市場の声の波が胸に当たる。顔役たちがいつもの顔で手を振った。

「冷凍箱の抽選、文句は減った。だが朝だけに列が寄る。夕にも一回回してくれねえか」

「やろう。夕の抽選は陽が傾いてから。魚の値崩れも防げる」

「おう、それと、氷室の氷、山側にも小屋が欲しい」

「場所を見よう。邪魔にならぬところに」

 露店の女将が身を乗り出す。

「伯爵様、道に座る子が増えたよ。線をひくと良いよ、赤で」

「線はすぐ引く。ありがとう」

 海風を背に受けてアルカディアへ向かう。遠くに見える天幕の列が昨日よりまた伸びている。入口で地装隊のドワーフ兵が敬礼し、風撃隊のエルフが空を見上げた。

「午後から風が強くなる。埃が舞う」

「水を回そう。飲み場を一つ増やす」

 ヂョウギが図板を脇に抱えて現れる。

「若奥様が指示した流れ、よく回っています。が、棟梁から一つ、注文が」

 オルベールが帽子をいじりながら近づいた。

「新入りを棟の上に上げるな。下で刻みの手を覚えさせろ」

「了解。今日は地上の日にする。棟上げは明日、手慣れた者だけで」

 労志の女たちが鍋をかき混ぜ、湯気の向こうで笑っている。僕は柄杓を受け取り、野菜を切りながら耳を澄ます。

「水場が遠い」「桶が重い」「子を預ける番を回せないか」

「仮の託児の天幕を立てよう。交代表は書記が作る」

 若い獣人が肩で息をしていた。

「休め。息が上がったら怪我をする」

「すみません。でも、早く形にしたい」

「早くより、確かにだ。明日もある」

 夕方、東の空が薄紫に沈む頃、職人衆と労志たちの輪の間をゆっくり歩く。誰もが何か言いたそうで、そして何かを飲み込んでいる顔だ。僕は一人ずつ目を見て、短く質問し、短く返す。

「困っていることは?」

「釘が曲がる」

「長さを変えよう」

「縄が食い込む」

「皮の当てをつける」

「靴が滑る」

「砂を撒く」

 答えは簡単でいい。今できることを、その場で決め、明日までにやる約束をする。それだけで人の顔はほどける。

 日が落ち、火が点り始める頃、ストークと合流して簡単にメモを読み合わせる。僕が聞き取った十数の小さな困りごとと、今日決めた十数の小さな手当て。どれも大層な話ではないけれど、こういう継ぎ目が街を支える。

 ミザーリが湯飲みを差し出した。

「主、今日はよく聞いた。明日は身体も休め」

「わかってる。けど、もう一箇所だけ」

 夜のシャングリラに戻り、耳役の机に札を置く。裏路地の井戸、明朝に掃除。夜笛の音、合図の型を静かなものに。掲示の低札、重しを追加……短い文を重ね、筆を置く。

 外に出ると、街の灯が遠くまで続いていた。聞くだけの一日。何も決めなかったわけじゃない。決めるために、まず聞く。その当たり前を、明日も繰り返そうと思った。ミザーリが肩を軽く小突き、僕は頷く。馬の鼻面を撫で、ゆっくりと歩き出した。
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