【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

モルダー到着。

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 翌朝、僕らは宿営地を発って街道に出た。陽は高く、白い光が砂の粒までくっきり浮かび上がらせる。ほどなく現れた街は、白い壁と赤茶けた屋根が幾重にも折り重なり、坂に沿って波のように連なっていた。素直に美しいと思う。街門で手続きを済ませる間、付き添いの高官が誇らしげに言う。ここは古都で、観光の街だという。何が有名なのか尋ねると、闘牛と料理の都、と肩をすくめて笑った。

 昼餉は人の賑わう広場に面した食堂でいただいた。香辛料を惜しみなく使った煮込み、焼いた魚に酸味の利いたソース、香草を混ぜ込んだ穀の薄餅。口に入れた途端、舌の上で火が跳ねる。ああ、これがサテラージャ料理だったなぁ……と、遠い記憶がすぐ目の前で色を取り戻す。ナミリアとミザーリとミレイユは目を丸くして、でも二口目からは笑顔で箸……いや、手食の国なので小さな匙と薄餅で上手に食べ進めている。付き添いの高官がそこで本気で驚いた顔になった。

「毒見はなさらないのですか?」

「ええ。ハミル殿下とルディス様のいらっしゃる国ですから」

 そう答えると、高官は胸に手を当てて深く頷いた。店主の老婦人が照れくさそうに皿を重ね、厨房からはどこか誇らしげな笑い声がこぼれる。

 食後、馬車を街外れで止めた高官が「見せたいものがある」と手を振る。坂を下り、畑の端に出た瞬間、思わず息を呑む。一面のオウトール……じゃがいも畑。風が走るたび、緑の海が揺れて波紋が広がった。

「ここはあなたが殿下に味をお知らせになり、我が国に導入されたオウトールの畑です。あなたが我々の食生活を豊かなものに変えてくださいました。オウトール・スサン様。この国の者達はあなたをそう呼びます。この国に来ていただき、ありがとうございます」

 高官の声は真っ直ぐで、土の匂いが混じっていた。僕は畝に膝をつき、地面に手を当てる。乾いた上皮の下に、ちゃんと水の冷たさが通っている。作付けの幅、芽欠きの癖、排水溝の角……視線が勝手に職人のようになるのを笑って抑え、立ち上がった。

「こちらこそ。作ってくれる人がいて、初めて味は立ちます。僕の役目は最初の扉を叩いただけです」

 そう言うと、畑の若者が日よけを外して照れ笑いをした。ナミリアは土の粒を払って指先を見つめ、ミレイユは畝間の幅を測って手帳に書き込む。ミザーリは遠くの用水路を眺めて、護衛の配置を一つ変えた。

 再び街道。途中の町では山のように積まれた南の果実を分けてもらう。橙に似た香りのもの、薄緑の瑞々しいもの、黒い蜜を噛むような濃いもの。ミレイユは果物の名を一つずつ聞き出し、発音まで写し取っている。荷台の陰でナビがこっそり一欠片をくわえて「にゃ」と満足げに鳴き、売り子の少年が大笑いした。

 夕刻、首都モルダーが遠景から立ち上がってくる。高い塔の輪郭、白い壁の向こうに、陽の残滓が金色の帯を引いた。街の外縁には、やはり貧しい棚屋の並びがある。どこも同じなんだな……胸の奥に冷たい石が一つ置かれる感覚。それでも僕は約束できない約束はしないと決めている。見る、聞く、覚える。まずはそれだけ。

 門をくぐると、香辛料の匂いが風ごと僕らを包んだ。赤や黄、深い青の布で飾られた商店が通りを埋め、檻に入った香の実、吊るされた乾魚、金槌の音。呼び声が重なり、笑い声が跳ねる。護衛の騎馬が適切な距離をとり、僕らの馬車は市場を抜け、石畳の幅が広がるほどに衣装の色が落ち着き、貴族街に入っていく。庭の噴水が低く鳴り、迎賓館の門が開いた。

「本日はここでご逗留を。明日、謁見がございます。どうぞごゆっくりお休みください」

 館長が丁重に頭を下げる。部屋割りを済ませ、荷を解くふりをして収納の奥を確かめる。王様から預かった密書、王妃様や王太子殿下、ルマーニ殿下の手紙、そして王都の友人達からルディスへの束。全部、無事だ。鍵を二つかけ、さらに書見台の底板に隠した。国外では約束の重さは、手に持つしかない。

 夕食はこの国とコリント王国の料理が溶け合った献立だった。香草で炊いた白い穀に、澄んだ出汁のようなスープ。辛みをまとった肉に、塩気と酸みのバランスが絶妙な漬け物。根菜の煮しめには、どこか懐かしい味噌の影が揺れている。口に運ぶたび、遠い味と近い香りが同じ皿の上で手を取り合う。

「こちらは王国へ料理修行に出した者が作り上げた一品です。お楽しみを」

 そう言われて一皿ずつ静かに味わい、食後にシェフを呼んで礼を述べた。彼は帽子を胸に当てて震え、ぽろぽろ涙をこぼした。

「オウトール様に、褒めていただける日が来るとは……厨房の皆に伝えます」

「伝えるなら、こうも伝えてください。あなた方の料理は、ここでしか生まれない味です。胸を張ってください」

 僕が言うと、彼は何度も何度も頷いた。背中が軽くなる音がした気がした。

 食後、明日の手順を確認する。礼の角度、歩幅、言葉の順。ミレイユは予定表の余白に現地語の挨拶をもう一つ書き加え、ナミリアは侍医としての携行品を点検する。ミザーリは夜の見張りを二重にし、交代の刻を短く決めた。アインス、ツヴァイ、フュンフは館の警備長と短く打ち合わせをして戻り、無言で親指を立てる。

 窓を開けると、庭のナツメヤシが風に擦れて、砂糖の薄い紙を揉むみたいな音を立てていた。遠くで細い笛の音。どこかで子どもが笑い、台所の水音が止む。僕は机に腰を下ろし、懐から小さな香を取り出す。王妃様から託された、ここで焚くと良いと教わったものだ。火を入れると、やさしい甘さが部屋に満ちる。背筋が自然に伸びた。

 明日、僕はハミル様とルディス様に会う。伝えるべき手紙がある。渡すべき約束がある。見せるべき笑顔がある。眠る前、ナビが枕元に丸くなり、尻尾で僕の指を叩いた。

「にゃ」

「うん。明日だ」

 灯りを落とすと、香の糸だけが淡く残り、遠い海の波音が耳の奥でほどけた。
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