選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由

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50.クッキーの試食

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「確かに3年前の何気ない食事の事などそうそう覚えているものではありません。なのであなたのその記憶が間違っていようと誰も責めることはできません。

しかし資料の提出があってから裁判職員はアルジラという植物について調べました。
アルジラという植物は平民街にはよく自生している植物だが、貴族街では繁殖力が強いため徹底して駆除されてきた植物でもあります。だから私たちにはなかなかなじみのない植物になっておりました。

そのため裁判職員も植物研究家に教えてもらいながらいちから調べました。そしてあなたの証言にあった通りアルジラを混ぜたクッキーを作ってみることにしました。するとナタリアの証言通り、とても匂いの強いクッキーに仕上がりました。

それと同時に今回植物研究家たちによって毒を抜くことにも成功できたので、毒抜きのクッキーを作って複数人で試食をしてみました。もちろん私も。

鼻で匂うよりも口に入れた方が強烈なクッキーで、確かにこのクッキーを食べた翌日に体調を崩したら、このクッキーを覚えているのも頷けるという結論に至りました。
要するに当時ナタリアが口にしたものは、アルジラの毒で作られた毒入りクッキーで間違いがないと言うことです」

ニコニコとしながら告げられた内容はヨランダの証言を確実に覆すものだった。

裁判所はざわざわと動揺が広がるのがわかる。この事実だけをはじめに聞いていたんならここまで大きな衝撃は与える事はなかっただろう。でもヨランダの言葉を聞いてからこの事実を聞くと印象は全く異なることになる。

「さて、それでは先ほどの証言をもう一度お願いしましょう。

なぜ同じくお茶をしたあなたたちは一切毒の影響を受けずに、ナタリアだけが毒入りクッキーを食べてしまったのでしょう」

場違いなほどにニコニコした裁判長からの質問。その笑顔から恐怖を感じてしまうのは私だけなんだろうか。

しかし私と同じようにヨランダも恐怖を感じたのだろうか。いや、もしかしたら説明するだけの言葉が見つからなかったのかもしれない。

それは…あの…と言葉を詰まらせるだけだった。

こんな時口を挟まずにいられないのがアルバ。

「裁判長、私からの発言をお許しいただけますか?」

その言葉に裁判長はニコニコとしたまま、「えぇ、もちろんどうぞ」と優しく言葉をかけた。

その言葉を聞いてアルバは何を思ったのかぱぁっとわかりやすく顔を輝かせた。
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