【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳

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11話

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朝起きてベッドから起き上がると、なんだか足取りが重い。ここ数日、俺とノエルさんは調合や複製スキルの研究を詰め込みすぎて、少々オーバーワーク気味だ。もっとのんびりやれればいいんだけど、「王都から来た人」にポーションを飲んでもらった翌日から、父さんがやたらと張り切っていて、「売り時を逃すな!」なんてプレッシャーをかけてくるもんだから、つい燃えてしまう。

「はぁ……今日こそ、ちょっとペース落としたいんだけどなぁ」

寝ぼけ眼をこすりながら廊下を進む。鼻先には、母さんの作る朝食の香りが漂っていて、少しだけ気分が上向く。どうやらあったかいスープがあるらしい。最近、父さんがシチューを作ったりもしてるけど、やっぱり母さんの味には勝てないな。

「リオ、起きたなら顔洗ってきなさい。もうすぐ朝ご飯よ」

キッチンから母さんの声が飛んでくる。うん、いつもの光景だ。こういう平和な日常に感謝しつつ、洗面所で素早く顔を洗って水気を拭う。頬をパシパシ叩いて気合を入れてから、ダイニングへ向かうと、父さんがテーブルに腰を下ろして新聞らしきものを読んでいた。やっぱり張り切ってるのか、妙にそわそわしてるように見える。

「リオ、おはよう。さて、今日こそ客足が多くなるかもしれんぞ。おまえのポーションの噂は、昨日のうちにだいぶ広まった感じがする。街の外れで王都の人と話した連中がいろいろ騒いでたからな」

父さんは新聞をたたみながら、にやっと笑う。俺はちょっと疲れてはいるけど、父さんのその表情を見るとこちらまでテンションが上がってしまうのだから不思議だ。
母さんが鍋をかき混ぜながら、「ま、焦らなくてもいいわよ」と声をかける。

「騎士団への正式な納入が決まるには時間がかかるでしょうし、客が多く来ても『まだ研究中』ってスタンスでいいのよ。でもまぁ、嬉しいことには変わりないわね」

そうなんだよな。実際、昨夜もまとめたノートを見返しながら、まだまだ問題は山積みだと痛感している。たとえば大量生産には氷魔石のコピーが必須で、ノエルさんのサポートがなければ今のところ成功率は低い。それと回復効果がやや物足りないから、いま「シモラ草」などを追加した苦味アレンジを研究中とはいえ、冒険者が本格的に使うレベルかどうかは不明。しかも味の好みによって「甘すぎる」「苦すぎる」という意見が分かれるから、一つのレシピでは賄いきれない感がある。

(とはいえ、ほっといても噂は広まるだろうし、下手に中途半端なまま売り始めると評判を落とすリスクもある。うーん……どうすればいいかな)

そんな考えを巡らせながら椅子に座ると、母さんが熱々のスープをよそってくれた。中には野菜や鶏肉がごろごろ入っていて、いい匂いがする。父さんも「いただきまーす!」とさっそくかき込んでいて、俺も負けじとスプーンを口に運ぶ。

「ああ……うまい。この味がポーションにも活かせれば……なんて、考えちゃうな」
「ははは、料理とポーションじゃ違うだろうが、何かヒントになるかもな」

父さんに笑われるけど、俺は本気だ。地球時代の定食屋手伝いの経験を、そのままポーションづくりに応用しているんだから。旨味の出し方や苦味・酸味の調整、アクを取る技術など、誰も注目していなかった手法でここまで来たんだ。今更「料理とポーションは違う」って言われても、もう一切気にならない。むしろ美味しさを追求するなら、料理の常識を使い倒すしかないでしょ。

「よーし、とりあえず今日は……もう少し“甘みと苦みの両立”をなんとかしたい。昨日のシモラ草入りはけっこう苦かったし、氷魔石で冷やす分、苦味が際立ちやすいからな」

独り言のようにつぶやくと、母さんが「ほどほどにね」と苦笑している。どうやらまた倉庫こもりきりになるだろうと察したらしい。俺は「うん、わかってるよ」と返事して、さっさと朝食を済ませる。食器を片づけていたら、父さんが「店が開く前にオレも倉庫をチェックしていいか?」と言ってきた。

「倉庫のチェック? 何があるの?」
「いや、ほんとにただの在庫確認さ。いつのまにかいろんなモンが増えてきただろ? おまえとノエルさんが変わった素材を引っ張り出したり、魔石をちょっとずつ使ったりしてるから、どれだけ残ってるかまとめたいのさ」
「ああ、まあそれは必要だよね……ありがとう」

俺もすぐ倉庫へ行きたいところだけど、まずは店のシャッターを開け、換気をして棚を軽く拭くのがルーティンだ。父さんに倉庫チェックを任せられるのは助かるかもしれない。最近、そっちの管理がおろそかだったから、母さんから「経費が合わないわよ!」と小言をもらいかけていたんだ。



店を開けると、さっそく何人かの常連が来店する。いつもながら「あの美味しいポーション、今日はあるか?」と聞いてくる冒険者もいれば、「昨日の苦味バージョンは微妙だった。もうちょっと甘くしてくれないか?」などと要望を投げてくる人もいる。意見が分かれるのは毎度のことだが、それだけ関心を持ってくれている証拠でもあるから嬉しい。

ただ、「じゃあ買うよ」と言われても、まだ本格的に売り出しているわけじゃないし、数量も限られているから「すみません、試作品なので今は在庫がほとんど……」と断るしかないのが心苦しい。みんな「そっかぁ、残念」なんて言いながら普通のマズいポーションを買っていく。でもいつか本当にこっちを商品として並べられるようになったら、笑顔で売れるんだろうな……その日が待ち遠しい。

午前中のうちに一段落ついたころ、父さんが倉庫から出てきた。手にはメモを持っていて、何やら計算している様子だ。

「リオ、ちょっといいか? おまえらが調合に使ってる素材、そろそろ整理しないと本当に在庫が混乱しそうだぞ。こないだ仕入れたゴルア草とかシモラ草とか、もともとそんなに大量にないから、気づいたら底をついてたってことになりそうだ」
「ああ、やっぱり? 確かに最近、いろいろ無計画に使ってる感はあるかも。どうしよう……追加で仕入れに行く?」
「それもアリだが、ここ数日でいきなり値上がりしている素材もあるんだ。冒険者が増えたせいか、需要が高まってるのかもな。母さんと相談して、どこから仕入れるか見直さなきゃならん」

父さんが首をかしげる。なるほど、仕入れ値が上がればまたコストが跳ね上がるわけで、ますます“商品化”が遠のくかもしれない。だったら“複製スキル”でハーブをコピーするという手もあるのだが、レア度がそれなりに高いハーブになると成功率は急落するし、氷魔石ほどではないにせよMPが大きく削られる。どうにも楽じゃない。

「うーん、まいったな。仕方ない、どうにか必要最低限の素材だけを使う形で研究を続けるしかないか。あとは誰かが面白い素材を安く持ち込んでくれるのを待つとか……」
「ま、おまえは研究に集中していいんじゃないか。仕入れの話はエレーナとオレがなんとかするさ。そろそろ王都あたりにもルートができればいいんだがな」

父さんが気楽に笑うので、俺は少しだけ気が楽になる。父さんと母さんに任せられる部分は任せて、俺はノエルさんとの研究に注力すべきだろう。
そのタイミングで、ちょうどノエルさんが店に姿を現した。いつもよりちょっと早い。ローブを揺らしながらこちらへ向かい、にこやかな笑みで挨拶をしてくれる。

「リオさん、こんにちは。今日は何から始めます?」
「うーん、そろそろ“甘みと苦みを同時に活かす”やり方を探ってみたくて。昨日のシモラ草入り、味はそこそこだけど、やっぱりまだ強烈に苦かったし」
「ああ、いいですね。前にリオさんが“スパイス的に匂いを変える”って言ってましたよね? あれ、活かせないでしょうか?」

ノエルさんが言う“スパイス”は、地球でいうコショウやカレー粉みたいなものに近い概念だが、この世界ではあまりポーションに使われない。そもそも苦さをどうにか打ち消そうとする発想が少ないから、スパイスを活かす文化が乏しいのだ。
でも、俺の中では「カレーを作るときにスパイスをブレンドして、苦味や香りを組み合わせる」という経験がうっすら残っている。もしそれをポーションに応用できれば、甘味と苦味が絶妙に調和するかもしれない……!

「いいかも。たとえばハーブの苦味をスパイスの香りでまろやかにするっていう方向性、料理じゃ定番だし。まぁ、ポーションがカレー味になるのは勘弁だけど……」
「ふふ、それはそれで面白そうですけどね。じゃあ倉庫に行って試しますか?」

父さんが「店番はオレとエレーナに任せろ」と背中を押してくれる。ちょっと手が空いたタイミングだし、お言葉に甘えて倉庫へ直行することにした。やっぱり俺は研究のほうが性に合ってるな。



倉庫に入ると、相変わらずハーブや素材がごちゃごちゃ置かれている。父さんが在庫チェックしてくれたおかげで、どれがどれだけ残っているかメモがあるのは助かる。
「ええと……甘口ベースのレシピに、苦味を少しと、スパイスを加える……って感じですよね?」
ノエルさんが確認してくれるので、頷きながら火を起こす。いつものコンロだ。

「そうそう。こっちは、いままで通り氷魔石で冷却して、薬臭さを減らす方向。そこにごく少量のゴルア草と、“スパイス”のモドキを入れてみようかな。どれほど効くかわからないけど」
「いいですね。あ、でもスパイスは量を間違えると辛みが立ちすぎて、飲むのがきつくなるかもしれませんね」

たしかに、何事もほどほどが肝心。とりあえず少量ずつ実験しよう。
鍋に水を張ってビーカーを浮かべ、ハーブを煮出す。小さな泡が出てきたらアクを取りつつ、氷魔石から取り出した冷却エネルギーをじわじわ加える。慣れた作業だけど、今回はスパイスと苦味ハーブを合わせる工程が新しいので、二人して緊張気味だ。

「匂いはどうです? まだそんなに強くないかな」
「うん、苦味と香りがなんか混ざってるけど……うわ、ちょっとくしゃみ出そう……はくしゅん!」

鼻に刺激が来るのは想定内だが、実際にやられると地味につらい。でも煮込んでいけば落ち着くかもしれない。アクを取り、甘み成分も少し加え、温度管理を細かくやる。ノエルさんが魔力を注ぎ、氷魔石が急激に冷やしすぎないよう注意してくれる。

「よし、火を止めましょうか。あとは少し蒸らして……」
「うん……スパイスがいい感じに出てるといいんだけど」

5分ほど待ってから、恐る恐るビーカーの蓋を開けてみる。匂いは……うわ、なんというか、複雑すぎて言葉が出ない。少しピリッとした香りがあるけど、同時に甘いような、苦いような……。

「小瓶に移して味見してみましょう。失敗しても最小限の被害ですむように、少量だけにしましょうね」
「はは、そうですね。じゃあ、いきます……」

細口の瓶に移したポーションをほんの少し冷ましてから、二人でそれぞれ試飲する。口に含んだ瞬間、予想を超えた複雑味が広がり……正直、俺は面食らった。

「……んんん……? なんか、不思議な味だ……」
「そうですね、苦いような、でも甘いような、そして後からピリッと来る。意外と飲める? けど、美味いかと言われると判断が難しい……」

ただ、“えぐい”とか“吐き出したくなる”という感じでもない。舌に広がる刺激は嫌いじゃないが、ポーションでこの味を求める人がどれだけいるか……。飲み込んだあと、うっすらスパイスの香りが鼻に抜けていく。好みは分かれそうだけど、俺自身は「なんだかクセになりそう」な感じはある。

「少なくとも、今までの苦いだけや甘いだけとは違うね。かなり刺激的というか……冒険者の中には、こういうの好きな人いるかもしれない」
「ですよね。癖が強いから万人受けはしないだろうけど、“何か変わったポーションが飲みたい”って人にはハマりそう」

ひとまず大失敗ではない。むしろ「スパイス入りポーション」という新ジャンルが生まれたかもしれない。ただし、これを“美味しい”と断言できるかは微妙だ。高級料理店で出るようなスパイスとは程遠い粗さがあるし、回復効果をどう評価するかも未知数だ。

「まぁ、数人に試してもらって反応を見ましょうか。合う人は合うかもしれないし……」
「そうですね。お客さんの意見が大事ですし、これがもしかしたらヒットするかもですよ?」

ノエルさんの言葉に、思わずクスリと笑う。確かに、どこでどんな需要があるかはわからないし、今のところ失敗作とは言えない出来だ。



結局、そのスパイス入りポーションは昼過ぎに常連の冒険者何人かに試してもらったところ、「案外イケる」「ちょっとくせぇな」と好反応と微妙な反応が半々。しかし、「強い刺激があって眠気が吹き飛びそう」「甘いのが苦手な俺にも飲みやすいかも」という意見も出て、そこそこ手応えあり。まさに“好き嫌いがハッキリ分かれる系”のポーションになりそうだった。

夕方、店が落ち着いたところでノエルさんは「今日はもう帰りますね。さすがに疲れました」と宿へ戻っていく。俺も倉庫の片づけを終えてから、ちょっとだけ店番を手伝って店じまいの準備に入る。母さんも父さんも今日はもう疲れているようで、「早めに閉めちゃおうか」という流れになった。

そんな中、唐突に扉がガラリと開いた。閉店間際のタイミングで来客とは珍しい。しかも、よく見ると昼間に来た貴族風の男性……ではなく、別の人。王都からの使者……かどうかはわからないが、明らかに普通の地元民とは違う高級感がある男性だ。深い藍色のローブに、金の刺繍が施されていて、腰には短杖をぶら下げている。髪を後ろで結い、顔立ちは端正というより神経質そうな印象。何やら深刻そうにこちらを見据えている。

「す、すみません、もう閉店時間なんですが……」
俺が申し訳なさそうに言うと、男はスッと小さな紙を取り出して見せる。そこには王都の紋章が書かれているように見える。まさか、本当に王都の公的機関の人間か?

「私は王都の魔法省に属する者だ。少し前に、この町を視察していた仲間が『アイザワ商店のポーションが面白い』と報告してきてね。急ぎ確認させてもらいに来たんだ。……本日は申し訳ないが、すぐにでもお話ができればと思うが、時間が厳しいか?」

予想外の展開に、母さんが「ええと……すぐには無理ということもありませんが、どういったお話でしょう?」と切り出す。男は腕を組みつつ、ローブの袖から書類のようなものを取り出す。

「どうやら、そちらの息子さんが“美味しい”ポーションを開発していると聞きました。もしそれが王都でも評価に値するものなら、正式な調合師ギルドへの推薦や、場合によっては宮廷魔術団への協力要請なども視野に入るかもしれない。……王都で詳細にテストをしたいのだが、まずは実際に見せてもらいたい」

な、なんだって……? 俺は突然の急展開に頭が追いつかない。王都の調合師ギルドへの推薦? 宮廷魔術団への協力要請? そんな大げさな話になるとは思わなかった。
母さんや父さんも面食らっているのがわかる。ただ、相手は不遜な態度ではないものの、目が細められていてちょっと威圧感がある。まるで「こちらは本気で調査している。いい加減な対応をするなよ」とでも言いたそうだ。

「ええと、店はもう閉めるところではありますが、もし少し時間をいただけるなら、今ある試作品をお見せすることはできます。……ただ、本格的な量産や効能テストまではまだまだでして……」
俺が口ごもりながらもなんとか説明すると、男は一つ頷いた。

「結構。では少しだけでいい。現物を確認させてもらいたい。ここで飲んでみて、今後の段取りを決めよう」

母さんが慌ててランプの明かりをつけ直し、カウンターを片づける。父さんは「がんばれよ、リオ」と小さく囁いてくるが、俺も緊張が隠せない。昼間に試飲させた貴族風の人とは違い、この人は“王都の魔法省”の肩書きまで持ち出している。下手な対応をすれば、王都で悪評が立つ可能性もある。
それでも、こういうのはチャンスでもあるはずだ。ゆっくり深呼吸して、頭を整理する。

「こちらに3種類ございます。甘口、苦口、あと最近はスパイス入りなんてのも作っていまして……もしよければ試してみてください。ただ、まだ試作品のため味や効果は最終調整中です」

男は静かに頷き、グラスに注がれた甘口ポーションを少し含む。表情はまったく変わらない。続いて苦口、そしてスパイス入りも試す。少しずつの試飲とはいえ、立て続けに飲むとはなかなか強者だ。

「……ふむ、なるほど。味は確かに一般的なポーションに比べれば段違いにマシだな。飲みやすい。中でもスパイス入りは独特だが、これが狙いだろうか? 刺激がある分、戦闘後の眠気や倦怠感を吹き飛ばす効果も期待できるかもしれない」
意外と好印象か? でもまだ油断はできない。男はカウンター越しに俺を見据え、改まった口調で続ける。

「ただし、味だけでなく、しっかり回復効果を備えているかを王都で検証したい。おまえ自身が作り方を“正式”にまとめて提出できるなら、ギルドとの相談も進むだろうが、どうだ? 協力する意思はあるか?」
「正直、まとまったレシピはなく、手探りでやっている部分が大きいです。地球――いえ、前の世界の料理知識をなんとか応用してるだけというか……。だけど、いずれは形にしたいと思ってます。もし、そのときに王都でテストしてもらえるなら、ありがたいです」

俺はしどろもどろになりながらも正直に答える。男は感心したのか、それとも呆れたのか、少し口角を上げて笑い、「なるほどね。まだ言語化されていない独自技術、か」と呟いた。

「……わかった。では、近々また改めて報告に来よう。おまえが“レシピ”をまとめる支援もできるだろうし、最悪、魔法省の調合師を派遣して分析する手もある。正式に取り組むかどうかは、上の判断次第だが……とりあえず、この味なら十分に検討に値すると思う」
「は、はい。よろしくお願いします……?」

状況がよくわからないまま、俺は深々と頭を下げる。男は「では失礼する」と一言だけ言い残し、さっさと店を出て行った。母さんも父さんも、しばらく呆然としたあと、顔を見合わせている。

「リオ……今の人、相当なお偉いさんなんじゃない?」
「だ、だよね……王都の魔法省って。そんな大それた人がなんでうちなんかに……」
「さあ、でも味については評価してくれた感じね。これは本当にすごいことかもしれないわよ」

母さんがぽつりとつぶやく。「評判が広がってる」とは聞いていたけど、まさか魔法省の人が夜遅くに視察というか、試飲に来るとは夢にも思わなかった。今後、もし本格的に“王都でテストする”なんて流れになったら、ノエルさんや家族どころか、俺一人の手には収まらないほどの大騒ぎになりそうだ。
だけど、胸の中で湧き上がるのは不安よりも期待だ。もし王都のギルドや魔法省で正式に認められたら、騎士団や貴族、冒険者ギルドに一気に普及するかもしれない。王都にまで俺のポーションが広がれば、味の常識を変えられるかもしれない……!

「ま、まずは俺、レシピをまとめないと話にならないかもな。ノエルさんとも相談して、ちゃんと言語化する必要がある……」
「そうね。今までずいぶん適当にやってきた部分も多いでしょうし、頑張りなさいな」
「うん……!」

父さんが「いよいよ忙しくなるなあ。店だって増築しなきゃならないんじゃないか?」とか能天気なことを言ってる。母さんが「気が早いわよ」と突っ込んでいるが、確かに将来そんな展開があるかもしれないと思うと、心が躍る。
興奮しすぎて眠れなかったら困るけど、これが大きな一歩なのは間違いない。王都の人たちが連日やってきたり、魔法省が関わってきたりで、事態は急速に動き出しているようだ。

──美味しいポーションを世に広める。それは単なる趣味や自己満足じゃなく、この世界を変えるかもしれない大きな流れになるかもしれない。俺はその中心に、いつの間にか立たされているのだ。

「……よし、明日も早く起きてノートを整理しよう。ノエルさんにもいろいろ頼まなきゃ」

店の戸締まりを済ませ、家に戻る足取りが妙に軽い。母さんと父さんも「いいことが起きそうだねえ」と笑っていて、なんだか家族全員、浮足立っている気がする。
もちろん困難も多いだろうし、回復効果やコストの問題も解決には程遠い。だが、それでも明るい未来を想像するだけで胸が高鳴る。ポーションの味を変えるってだけで、こんなに大きな波紋が広がるんだ。転生してからずっと「不味いポーションってなんで?」と疑問を抱いてきた自分にとって、最高の展開じゃないか。
今宵はきっと、興奮でなかなか寝付けないだろう。でも、この高揚感を大事にしたい。王都も、魔法省も、騎士団も、何もかもひっくるめて面白くなってきたじゃないか。

こうして俺の“ポーション革命”は、また一歩大きなステージに近づいていく。明日から先、いったいどんな嵐が待っているのか──。その不安と期待を抱きながら、今日は深い夢の世界へ落ちていこうと思う。
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