【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳

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29話

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 朝、宿の朝食をとっていると、父さんが何やら落ち着かない様子で周囲をキョロキョロ見回している。
「リオ、今日はどうするんだ? もう公認も取れたし、いい加減“販売の準備”しようぜ! オレ、やる気満々なんだが!」
「はは、父さん、焦りすぎだって……。一応、ノエルさんとの打ち合わせや、研究所に顔を出して話を詰める予定だよ。貴族の高級路線だけじゃなく、大衆向けもどこかにルートを確保しなきゃいけないし」

 そう答えると、父さんは「よし、ならオレもついてく!」と鼻息荒くしている。どうやら王都のいろんな店や人に声をかけて、販売ルートを開拓したいらしい。母さんがいれば冷静にサポートしてくれるんだろうが、今は父さん一人で突っ走る危険性もある……でも、放っておくわけにもいかない。

「じゃあ父さん、まずは研究所へ行って契約関係の話を聞いてから、大通りや商業区を回るか。ノエルさんもいいかな?」
「もちろん。私としても、実際に売る際の細かいルールを確認したいですし、一緒に行きましょう」

 ラットは「おれは今日もギルドに行ってみる。仕事のチャンスがあるって、昨日の店主から声かけてもらったし……もし余裕があればそっちと合流するけど、場所教えてくれる?」と訊ねてくる。父さんが「おお、バイト決まりそうか?」と笑うと、ラットは「あんまり期待はしてないけど……」と肩をすくめる。でも彼の表情には少し希望がにじんでいた。



 ノエルさんと父さんを伴い、王都魔法省の研究所へ。門番はもう顔なじみだが、父さんの大声に苦笑いしながら通してくれる。
 奥へ入ると、オリヴァーが「おはようございます、リオさん。今日はどんなご用件で?」と迎えてくれた。父さんの顔を見るなり、「あ、ガルスさんでしたね。また一段と元気そうだ」とニコリと笑う。

「おお、オリヴァーさん! 実はリオたちがそろそろ実際に売り出そうとしてるから、どんな手続きが要るのか詳しく聞いておきたくてな!」
「なるほど。公認が下りたからといって何もかも自由にできるわけではなく、ある程度の報告や、安全性のチェック体制は維持していただきたいのですよ。たとえば、材料の確保先とか、衛生面の基準とか……」

 オリヴァーは慣れた手つきで書類を広げ、販売する際のルールを簡潔に説明してくれる。王都では独自の“安全基準”があり、ポーションを量産・流通させるにはライセンス登録や定期的な検査が必要とのこと。それはまさに、普通の料理店の保健所チェックみたいなものだ。
 父さんが「ふむふむ、まあそのへんはリオがちゃんとやるだろう」と言いながらメモを取っているが、俺は軽くため息。「父さん、オレの負担が増えるんだけど……大丈夫かな?」

「ガルスさんのように営業活動が得意な方が、店や商人との交渉をする一方で、リオさんは調合管理を徹底する……役割分担すればスムーズでしょう」とノエルさんがフォローしてくれる。たしかにそういう形なら頑張れそうだ。
「よし、わかった。エレーナやリオの母さん――いや、同じだ――と協力しつつ、なんとか枠を整えるさ!」
 父さんは何かを勘違いしているようだが、勢いは感じる。オリヴァーが苦笑しながら「何かわからないことがあればいつでもどうぞ」と手を振る。



 研究所を出てから、ノエルさんと父さんは連れ立って王都の商業区を回り始める。俺も後ろからついていくが、途中で父さんが「おーい、ここの店、大きくないか?」と勝手に突撃していくため、対応に追われる形だ。
 ある店では若い商人が出迎え、「うちは武具がメインだが、ポーションの取り扱いも検討してる」と興味を示す。ただ「従来品と比べて仕入れ値が高いならあまり買えない」と釘を刺され、父さんは「ああ、大丈夫大丈夫!」と何とかごまかしている。
 ノエルさんが後ろで「いや、実際にはコストが高めなんだけど……」と困惑しているが、父さんが勢いだけで交渉してしまう。

「まあ、まずは数本単位で買って試してみてくれ。気に入ったら追加発注してくれればいいんだ。なあリオ、それでいいよな?」
「え、ええ……まあ、お試し販売みたいな形でやっていただけるならありがたいですけど……」
「そうそう、それが大事だ! 味を知れば絶対リピートするから! はっはっは!」

 商人は「ふむ……まあ、少量なら構わないが、値段次第だぞ」と一応前向きに応じる。父さんがその場で「よし、詳しい話はあとで書面で送る!」と宣言して店を出る。
 ……こうして何軒か回った結果、軽い口約束が数件取れた。これが本当に契約になるかは別だが、父さんの飛び込み営業が意外に功を奏してるのが面白い。

「やるじゃん、父さん。あとはちゃんと書面交わさないといけないけど、少し前進したね」
「だろう? こういうのは“まずは顔を売ってみる”のが大事だ。細かいことはあとでリオやノエルちゃんが詰めてくれればいいさ! はっはっは!」

 うーん、この勢いをどう制御するかが課題だが、少なくとも俺の一人では回れない数の店と交渉してくれるのはありがたい。ノエルさんも「これはこれで効率がいいのかもしれませんね……」と苦笑している。



 夕方、宿へ戻る途中に、商店街の角でバッタリラットと遭遇する。ラットは荷車を押していて、汗だくの様子だ。どうやら本当に倉庫整理と運搬の仕事が見つかったらしい。
「ラット、荷車押してるじゃん! ついに仕事決まったの?」
「う、うん……昨日助けた子供の親が、店の倉庫を整理したいって言ってて、今日一日雇ってくれたんだ。報酬もまあまあだし、週に何回か来てくれってさ!」
「すげえじゃん!」と父さんが手を叩いて喜ぶ。ラットは照れながらも誇らしげだ。

「これなら宿代くらいは自力で稼げるかもしれない……おれ、リオたちに頼りっぱなしも嫌だし、ちょっと頑張るよ」
「いいぞいいぞ、ラットくん、さすがだ!」
「べ、別に……。おじさんも今日、なんか契約とか取ってきたんでしょ?」
「ははは! お互い上々だな!」

 珍しく二人とも楽しそうに笑い合っていて、ノエルさんも「仲がいいですね」と目を細める。やはりスリを捕まえた一件で急速に仲良くなったようだ。



 夜、宿に戻り、食堂で再び軽い乾杯をする。父さんが「今日も成果があったな!」と上機嫌に杯をあげ、ラットは荷車運びのバイトの報酬をさっそく宿代に回している。それを見た父さんが「まじめで偉いぞ」と頭を撫で、ラットが「やめろって……」と顔を赤らめるのが恒例の光景になりつつある。
 ノエルさんはそんな様子を微笑ましく見ながら、「明日は研究所へ行く必要ないんですよね? もう特に呼び出しもないですし、オリヴァーさんが“書類手続きは進んでる”って言ってましたし」と訊ねる。

「うん、当面は自由行動って感じかな。父さんといろんな店回って、契約を固めたいし……あとシュトラス家のレミア様から“高級路線の試作品をどうする?”って聞かれてるし、どっちに傾くかそろそろ意思表示しないとね」
「確かにね。大衆向けと貴族向けを分けるにしても、まずは価格設定も……」
 そんな話をしていると、宿のスタッフが「リオさん、夜に手紙が届きましたよ」と封筒を持ってくる。最近、手紙が多いなと苦笑しつつ受け取ると、差出人はシュトラス家レミアの名が書かれている。

「え、シュトラス家から? また夜会の誘いとかかな……?」
 開封してみると、そこには短い文章――「先日の夜会は盛況でした。ぜひ高級版のポーションについて進めたい。ご都合が合うとき、再度お会いしたい」と書かれている。
 やはり貴族層への売り込みが本格化しそうだ。父さんが「おお、やっぱり貴族ルートきたか!」と勢いづいている。ノエルさんは「どうします? うまく話を詰めないと、いつまでたっても量産に着手できませんよ」と慎重。



 遅めの食事を済ませて部屋に戻ると、父さんとノエルさんと三人(ラットは先に寝ている)でテーブルを囲んで話し合う。
「高級路線で進めるなら、貴族相手にまとめて売る形になるか……でもこれじゃ庶民には手が届かない。でも収益は大きいし、量産しなくても安定するかも」
「そうですね。大衆路線だと薄利多売、かつコストと手間がかかるんで、いきなりは難しいです。いずれやりたいとしても、まずは資金を集める手段として高級版を作るのはアリかもしれませんね」

 父さんも腕を組みながら唸る。「オレは、まずは資金を得て、施設を整えて、それから広く売りたいってのがいいと思う。出し惜しみで高く売るだけじゃリオの理想に反するけど、現実は金がないと動けないからな」
「そうだよね……。いまのオレはまだ雑な調合のやり方だし、アク取り工程を自動化する装置とか、複製スキルの熟練度を上げるにしても時間とお金が要るし……」

 これからどうするかは簡単には決まらないが、「まずは騎士団や貴族向けに限定販売をスタートし、その収益で設備と人材を整え、徐々に大衆向けを展開する」という案が最有力になりつつある。
 やることは多いが、それだけ夢が広がっている証拠でもある。



 部屋の灯りを落とし、父さんがいびきをかきながら寝袋代わりの布団で寝転がる。ノエルさんは「おやすみなさい、リオさん」と声をかけて控えめに笑う。ラットもすでに眠り込んでいるし、今夜は賑やかさが落ち着いて久々の静かな空間だ。
 目を閉じると、あれこれ思考が巡る。公認を得てからほんの数日でも、父さんの営業やラットの奮闘、ノエルさんのサポートで新しい可能性が見えてきた。この世界で“美味しいポーション”を普及させるには、まだ先は長いが、一歩ずつ着実に進んでいる。
 小さくガッツポーズを握り、心の中で決意を新たにする。王都での生活はますます忙しくなるだろうが、父さんが加わった今ならなんとかなる。ラットも仕事を得て自信をつけ始めているし、頼れる仲間が揃ってきた感じだ。

(ああ、オレ、ほんとにここまで来ちゃったんだな……でもまだ先がある。もっと大きな夢を実現するために、今は立ち止まってる暇なんかない。)

 そう自問自答しながら、同時に喜びを噛みしめる。背中を支えてくれる人がいて、待っていてくれる地元の店があって、新たに求められるルートがある。全てが繋がる未来を思い描きながら、俺はゆっくりとまぶたを閉じた。夜の王都は深い静寂に包まれ、遠くから風の囁きだけが聞こえてくる。
――明日もきっと新しい展開が待っている。スリ事件で成長したラットや突撃営業の父さんと共に、俺の“美味しいポーション”への道はますます広がっていくのだ。
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