大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

戦技と穴底

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斬撃痕が残り続ける理由はまるで分からなかったが、とりあえず収穫はあった。
病み上がりで肉体的な性能が下がっているにも関わらず、普段と遜色のない《音狩り》が出た。
それも馬鹿みたいに重い銀剣で出た。
今までこの手の戦技アーツの条件で『武器が軽くなくてはいけない』という条件があったのだが、いつの間にか銀剣でも撃てるようになった。つまり、大体の条件が『双剣であること』と『相手を斬るイメージが明確であること』の二つが揃えば問答無用で相手を斬る事が出来る訳だ。
と言っても、疲労感が半端では無いのでそう連発出来るものでもないし、黒剣の時以上にイメージが明確で無ければ発動しないので、実用性はあまりないのだが。
そして、かなり大きな問題がひとつ浮上した。
夜も更けた学校、その外。
枯れた木がたった一本だけある寂しい荒野で、その木に向かって俺は腰を軽く下ろし、黒剣の柄を握る。
イメージは容易い。得物もこれ以上無い。息を吐き、意を決する。
「──《終々》」
そう言った瞬間、黒剣が抜かれ──ない。
「チッ、やっぱりか」
そう、もうひとつの戦技アーツである《終々》が、どれだけイメージを練っても発動しなくなったのだ。
理由は恐らく、英雄を斬り損ねたせいだろう。斬るという戦技アーツが発動したのに、たった一人のヒトを斬れなかったせいで前提条件が崩れた。そのせいで、この戦技アーツはきっともう使えない。
「参ったな…面倒な事になった」
構えを解き、頭をガシガシと掻く。
この戦技アーツは習得が非常に面倒なのだ。
ただ斬るだけなら俺じゃなくても誰でもやる。それこそ《雷光》あたりは『斬る』一点なら俺を優に上回る。というか俺が勝ってる点の方が少ないのだが。
だと言うのに、何故《雷光》が《音狩り》のような戦技アーツが発現しないのか。
答えは至極単純で、恐らく斬った数が足りないのだ。
数というのはこの場合、量的な意味もそうだし、質的な意味もあるし、種類的な意味も込めての数だ。
《雷光》は相当な修練を積んでいるだろうが、実戦経験が足りないのだ。
いや、《雷光》の倒した相手も普通に見れば相当数だろうが、紅の森に住んでいた俺が《超器用》というスキルを持った上で習得に年単位の時間がかかったのだ。普通のヒトが習得しようとすれば、余程の天才であっても何十年とかかるかもしれない。
俺の記憶が何となく合っていれば、最初の《音狩り》を習得するのに三年、そこからさらに《終々》を習得するのに一年ぐらいかかった気がする。もちろんかなり昔の事なので間違っているかもしれないが、一年は間違いなくかかった。
《終々》の方が複雑なのに習得が早かったのは、恐らくある程度慣れてきていたからだろう。次のこういうタイプの戦技アーツが芽生えるのも割と早いかもしれない。実際、《音狩り》も《終々》も、他の戦技アーツのように「今、この瞬間に身体が認識した」と言った戦技アーツ習得時特有の感覚は無く、いつの間にか習得していたのだ。正直、俺も初めて《音狩り》を出した時は変な声が出たし、《終々》を撃った時は「なんでこんな戦技アーツになった?」と思った。
斬ったという結果を放つ戦技アーツだからこそ、どんな戦技アーツになるかは発現するまで分からないというのもまた面倒な点でもある。
「チッ、出ない物は仕方ないし、またこれも含めて鍛え直すか」
と言いつつ、そのまま足を進める。
向かった先は俺が第七血界で開けた大きな穴。半球状に空いたその穴の底へと斜面を滑りつつ降りてゆく。
別に深い意味は無いのだが、こんな所にわざわざ来るような物好きも居ないだろうし、血界の練習にちょうど良いという考えで来た。
の、だが。
暗闇の中、底が何十メートルもある穴、誰もいないだろうと思って緋眼でロクに見ずに降りると、フードの人影があった。
「今日は偶然ばったり、ってのが多いのかねぇ…」
そんな訳ないが、と一人心の中で答えを出しつつそいつの元へ行く。
「よう、こんな所で奇遇だな、《臨界点》」
「そうか、我輩は貴様を待っておったぞ、《緋眼騎士》よ」
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