大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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外伝

血界の時間

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無数の手が蠢き、百の白鎧を襲う。
『ひ、うおわああああああああああ!?』『腕が!?』『がぶっ!!』『隊長!指示を──』『来るな…!来るな!来る──』『おいマリア!しっかりしろ!!』『痛い痛い痛い痛』
ある者が腕を掴まれる。
そのまま、紙を握りつぶすかのように、鎧や筋肉を無視して握りつぶされる。
すると、握った手のひらの中には既にその者の腕はなく、ぼとりとその先の腕が地面に落ち、血が吹き上がる。
その血を吸って腕が増える。
どれだけ硬い鎧でも関係ない。
防御を貫通し、音もなく消滅していく。
正しく阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた門付近だったが、それもわずか十秒ともたずに消える。
悲鳴をあげる者がいなくなったからだ。
転がるのは白鎧の残骸のみ。
ばしゃり、と音を立てて血腕が全て砕けるようにして消える。
「……!!」
途端に膝から崩れ落ちる少女。
一キロほどずっと全力疾走をしたように、滝のような汗を身体中から吹き出しながら空気を貪る。
目は血走り、直前までの疲労感はすべて消し飛んだが、代わりに痛いほどの危険信号が脳裏で暴れ回る。
およそ戦闘中に見せてはいけないようなスキだらけの状態でのたうち回る。
血界、並びに緋眼を多用したための副作用だ。
本来ヒト種には存在しない能力を付けた存在、特注品オーダーメイドであったとしても、その力はその身に余る。
どれだけ効率よく血界を使用した所で、人では絶対に生じるほんの僅かな誤差、狂い。
それが無数に積み重なり、それを操る頭へと多大な負荷がかかる。
使用すればする程に、それは「慣れ」という形で馴染むが、それでも無くなることは無い。
もしも、完璧に自分の描いた血界と一切のズレも作らずにそれを操れたのなら、そういった事は無いだろうが…それはありえない空想と大差ない。
「………。」
『落ち着いたかしら?』
(──何とか)
よろよろと、生まれたての子鹿のように頼りない、しかし確かに両の足で立ち上がる。
(何人殺った?)
『わからないわ。あなたの血腕の範囲が広すぎたもの。少なくとも、私達の知覚範囲以内…その中ではあなたしかいないわ』
(その中ではどれだけだ?)
『今の血腕だけで三百は仕留めたわね』
(…そうか)
手近な白鎧の千切れた手甲を拾い上げ、中に残った手を強引に引き抜き、装着してみる。
サイズがかなり大きかったが、探している時間が無い。
既に最初、合図を打ち上げてから一時間ほど経過しているとひしゃげた柱時計が伝えていた。
そして。

それはつまり、高確率で二つ、もしくは三つの軍がこちらへ出向いているという事だ。
普段なら三十分もかからずに飛んでくるそれらが、なぜ一時間経ってもまだ来ないのかが不思議だったが──今はそれどころではない。
ここは殲滅出来てはいないかもしれないが、離脱すべきだろう。
すぐにでも出ようとする彼女が門の方へ一歩踏み出した所で、足が止まる。
「……アベル」
『あの男の子?見捨てなさい。軍がいつ来てもおかしくないわ』
冷静に切り捨てる声に抗い、彼女は踵を返す。
街の奥へ。
彼を探しに。
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