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ベルに滅茶苦茶怒られた。
朝も夜も誰も居ない、寂れたあの飯屋に行くと、入った瞬間睨まれ、胸ぐらを捕まれてギャイギャイと愚痴混じりの文句を吐きつけられたのだ。
彼女の方はどうもあまり上手くいっていないようで、若干……うん、ちょっとばかり機嫌が悪いらしい。朝より眉間のシワも深かった。
結果から言うと、三日目の成果は俺がとりあえず始眼のコントロールをモノにしたという事、あとはベルが朝渡してくれた試作の義眼という事になるだろう。
それでふと、俺の次の修行がどうなるのかヴァルクスに聞くと、彼は顎の髭を手で触りながら天井の方を向いた。
「そうじゃな……と言っても、儂が教えられる事と言えば、その目の使い方、あとは儂のスキルを前提とした儂の剣技ぐらい。目にしても性質が若干似通っているから多少のアドバイスが出来る程度。恐らくここから先は、君が何をどうしたいかを儂に言い、それに合わせた事をするべきじゃろう」
そう言われて、少しだけ考える。
物の死を、剣による斬撃に乗せて放つヴァルクスの剣は、俺の始眼の見せた世界と同じ結果を持ってくることが多い。
方や一撃必殺、方や絶対切断の目。似通っているだけで共通はしていないが、真似ることで学ぶ事も多いだろう。
「じゃあ剣技の方を教えてくれって言ったら?」
「ふむ、それもいいが……教わる事はあっても、教える事は無かったし、遠出も出来んしな……なら恐らく、儂と直に戦う方がいいじゃろう。君は呑み込みも早いしな」
少し始眼に慣れた程度で、何十年も使い込んだ眼を持つヴァルクスとタイマンで勝負?
流石に荷が重い。
「……じゃあ最終日までに一回はやっておきたいって事で。明日は……また明日までに考えとく。一応、もう少し始眼を鍛える方針で」
「では儂も少し考えておくとしよう。それと、多少コントロール出来るとはいえ、万が一のことを考えて、儂がおらん所でその戦技を使うのは禁止じゃぞ」
「了解師匠」
と言った会話をしてその日はその場で解散。
さて、それじゃあまた少し身体を動かしてから寝ようか。そう思っていると、シャルが声をかけてきた。
『少し王都を見て回ろうぜ。新しい発見があるかもしれねぇ』
「つってもそんな広くねぇし、行ってないところの方が少ないだろ」
既に何度も王都に来ているし、なんなら一回ユーリアに案内してもらってるし。
そういや、《勇者》はどこに行ったのだろうか。
一時的に一緒に行動していたとは言え、本能的に俺と《勇者》は相性が悪い。
《勇者》である。同じ血脈である。そういう意味では非常に相性がいい。戦い方も同じため、戦闘で組むなら互いをわかりあった判断をできるだろう。
だが皮肉にも、《勇者》である。同じ血脈であるという理由で、凄まじい悪寒がするのだ。
この世界に《勇者》は一人しか居られないはずなのに、二人いるというイレギュラー。
それが自分と同じである。
同じでありながら、根元が決定的に違っている。
まるで、鏡の中にいる真逆の自分が、自由に動いているような。
それでいて、皮肉が極まった話で俺の方が鏡の中の《勇者》なのだ。
背筋を擦るあの感覚は、もしかしたらただの嫌悪感ではなく、羨望や妬みが混じった、俺の底にある暗いものなのかもしれない。
などと思いつつ、実はここに来てからずっと《勇者》がそこそこ近くにいるのは感じていた。
例の嫌な感覚的に、王都にいるのは間違いないのだが、どこにいても常に遠いような感じがする。奇妙な話だ。
まぁ、この調子だと会うことはまず無いだろう。先日の作戦の時の方が近かったので、まだマシ。少しばかり耐性がついたらしい。
「じゃあ行くにしたって、どこ行くよ」
『そうだなぁ……俺がいた時とは相当変わってるし……あ、じゃあ、俺が今から言う所に行ってくれねぇ?』
「あ?まぁいいけど」
珍しいな。シャルが俺に頼んでどこかに行きたいなんて。
『じゃあちょっと指示するから、そっちの方行ってくれ。多分何も無いけど』
ふむ。彼女が生きていた頃に何かしらあった場所だろうか。
ともかく、俺はシャルの指示に従いながら、ふらふらと裏路地に入っていった。
朝も夜も誰も居ない、寂れたあの飯屋に行くと、入った瞬間睨まれ、胸ぐらを捕まれてギャイギャイと愚痴混じりの文句を吐きつけられたのだ。
彼女の方はどうもあまり上手くいっていないようで、若干……うん、ちょっとばかり機嫌が悪いらしい。朝より眉間のシワも深かった。
結果から言うと、三日目の成果は俺がとりあえず始眼のコントロールをモノにしたという事、あとはベルが朝渡してくれた試作の義眼という事になるだろう。
それでふと、俺の次の修行がどうなるのかヴァルクスに聞くと、彼は顎の髭を手で触りながら天井の方を向いた。
「そうじゃな……と言っても、儂が教えられる事と言えば、その目の使い方、あとは儂のスキルを前提とした儂の剣技ぐらい。目にしても性質が若干似通っているから多少のアドバイスが出来る程度。恐らくここから先は、君が何をどうしたいかを儂に言い、それに合わせた事をするべきじゃろう」
そう言われて、少しだけ考える。
物の死を、剣による斬撃に乗せて放つヴァルクスの剣は、俺の始眼の見せた世界と同じ結果を持ってくることが多い。
方や一撃必殺、方や絶対切断の目。似通っているだけで共通はしていないが、真似ることで学ぶ事も多いだろう。
「じゃあ剣技の方を教えてくれって言ったら?」
「ふむ、それもいいが……教わる事はあっても、教える事は無かったし、遠出も出来んしな……なら恐らく、儂と直に戦う方がいいじゃろう。君は呑み込みも早いしな」
少し始眼に慣れた程度で、何十年も使い込んだ眼を持つヴァルクスとタイマンで勝負?
流石に荷が重い。
「……じゃあ最終日までに一回はやっておきたいって事で。明日は……また明日までに考えとく。一応、もう少し始眼を鍛える方針で」
「では儂も少し考えておくとしよう。それと、多少コントロール出来るとはいえ、万が一のことを考えて、儂がおらん所でその戦技を使うのは禁止じゃぞ」
「了解師匠」
と言った会話をしてその日はその場で解散。
さて、それじゃあまた少し身体を動かしてから寝ようか。そう思っていると、シャルが声をかけてきた。
『少し王都を見て回ろうぜ。新しい発見があるかもしれねぇ』
「つってもそんな広くねぇし、行ってないところの方が少ないだろ」
既に何度も王都に来ているし、なんなら一回ユーリアに案内してもらってるし。
そういや、《勇者》はどこに行ったのだろうか。
一時的に一緒に行動していたとは言え、本能的に俺と《勇者》は相性が悪い。
《勇者》である。同じ血脈である。そういう意味では非常に相性がいい。戦い方も同じため、戦闘で組むなら互いをわかりあった判断をできるだろう。
だが皮肉にも、《勇者》である。同じ血脈であるという理由で、凄まじい悪寒がするのだ。
この世界に《勇者》は一人しか居られないはずなのに、二人いるというイレギュラー。
それが自分と同じである。
同じでありながら、根元が決定的に違っている。
まるで、鏡の中にいる真逆の自分が、自由に動いているような。
それでいて、皮肉が極まった話で俺の方が鏡の中の《勇者》なのだ。
背筋を擦るあの感覚は、もしかしたらただの嫌悪感ではなく、羨望や妬みが混じった、俺の底にある暗いものなのかもしれない。
などと思いつつ、実はここに来てからずっと《勇者》がそこそこ近くにいるのは感じていた。
例の嫌な感覚的に、王都にいるのは間違いないのだが、どこにいても常に遠いような感じがする。奇妙な話だ。
まぁ、この調子だと会うことはまず無いだろう。先日の作戦の時の方が近かったので、まだマシ。少しばかり耐性がついたらしい。
「じゃあ行くにしたって、どこ行くよ」
『そうだなぁ……俺がいた時とは相当変わってるし……あ、じゃあ、俺が今から言う所に行ってくれねぇ?』
「あ?まぁいいけど」
珍しいな。シャルが俺に頼んでどこかに行きたいなんて。
『じゃあちょっと指示するから、そっちの方行ってくれ。多分何も無いけど』
ふむ。彼女が生きていた頃に何かしらあった場所だろうか。
ともかく、俺はシャルの指示に従いながら、ふらふらと裏路地に入っていった。
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