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本編
試験概要と試験官
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テラーゴーストの騒ぎが一段落し、丁度一週間。多少なりともこの学校に平和が戻ったと言えるようになってから学校長に呼び出され、何だ何だと行ってみる。
すると、開口一番こう言われた。
「期末試験をします」
「え?やんの?必要か?」
あまりにも突然で、正直今年はやらないだろうと勝手に思っていたので、即座にそう言った。
「必要です。絶対に」
「……いくつか言いたいこと、聞きたいことがあるが、まず最初に、絶対とまで言い切るほど必要な理由を聞こうか」
「これが無ければこの学校で何をどれだけ学んだか。最低限の水準に達しているかどうか。その判断が付けられないからです。私から聞きますが、何故無いと思ったのですか?」
「何故ってそりゃ……色々あったろ。魔族に攻められて、生徒や先生が死んだり、最近は魔獣が居座ってたり……」
「ここは英雄の育成機関です。魔族は倒せて当たり前。死んだ者はその水準に達していない証左。魔獣に関しても、今回の件はあまりに知識が足りないと言わざるを得ませんね」
「おい待て。最終的に英雄になるのが目標なんだろ。少なくとも一年にあの侵攻を生き残れってのはあまりに厳しすぎるんじゃねぇか?」
「はい。ですので、今回の試験の対象は二年生、三年生のみ。今いる一年生は免除します。加えて貴方を含める一部の二年生、三年生も免除です」
まぁそれなら……分からないでもないか。
一年生なら、何をどうあれあの惨状を生き抜いただけでも賞賛ものだ。二、三年は一人ぐらい倒して欲しいと言うのもまぁわかる。
「……で、一部ってのは主に何を見て判断した?」
「先の魔族の侵攻で大きく戦果を上げた者達です。一例を挙げるなら《緋眼騎士》、《雷光》、《貴刃》。他に生徒の名を挙げるなら──」
「いや、もういい。わかった。つまり今回の期末試験はふるい落とし、って訳だ。で?俺を呼んだ訳は?また試験官か?手持ちの二つ名持ちは使わないのか?」
今、学長室にいるのは俺と学長の二人だけ。どうせならシェパードの《雷光》でも呼べば良いのに。
「その通りです。そして今回は私からのお願い、依頼でもあります」
「依頼ねぇ……そりゃどっちにも所属しないでふらついてる俺がそう言われたらそう簡単にはノーとは言えないが。内容は?」
「言っても構いませんが、その場合、試験内容に関わるので試験官になるか、断るなら一足先に冬休みに入っていただきます。よろしいですか?」
面倒な。俺は舌打ちを一つして先を促した。
「内容は二つ名持ちの試験官。今年は魔族として見立てた貴方と私に対し、二つ名持ちが一人ずつ挑む。そういう形にします」
「……は?」
「そして報酬ですが……聖女様から貴方の追っている彼女の情報が渡されています。それを報酬とします」
「おい待て。それってつまり、本来俺に与えられるはずの情報だろ。だったら一足先に帰る最中に王都に寄って聞くぞ。今の俺なら多少のツテがあるから出来ないこともないしな」
今なら本物の《勇者》が聖女サマの近くにいるはず。そして俺と《勇者》は互いの位置をおよそ把握出来る。そこから繋いでもらうか、他の顔を知ってる英雄に取り次いでもらうことも出来なくはないだろう。
「いえ、それは不可能かと」
「そうか?普通に……かどうかは分からんが、聖女サマに会って聞くのは無理じゃないと思──」
「そうではなく。この情報は、本来聖女様が貴方に絶対に伝えたくないから、私に伝えた情報なので」
「………。」
伏せさせる為に学校長へ伝えた?何故?俺の所にソレについての情報が行かないように制御するため?
「断っても構いませんが、私は天秤に釣り合うものしか載せるつもりはありません。そしてこの期末試験、こちらの内情を言ってしまえば人手が足りない。加えて次の《聖女》が決まる日も近い。その時に、選ばれる聖学の生徒が不甲斐ないのでは、こちらの面目が立たない。玉石のふるい落としは終わり、残った玉の中でも、一際輝ける玉を更に磨き上げる為のさらなる仕分け。そこに妥協は要りません」
「なら試験しない一年生はもうハズレって訳か?」
「今いる一年生を全て潰してしまえば、それ以降の聖学の存続が難しくなります。とはいえ既に一般的な一年生の水準を満たしてはいますし、次の候補は二年以上に絞れば問題はありません」
聖女サマの寿命の事を当たり前のように言いやがった。その上でこの女が見据えてるのは「この次の《聖女》」で、「その後も続く結界の中の平穏」。既に結界を何度も破られているのに、聖女サマ達の寿命は縮んでいるのに、まだ大丈夫だと言っているのか。
「相当ぶっちゃけたな」
「聖女様の事は貴方も知っているのでしょう?次がいつか分からない。しかしそう遠くない。ならそれに備える。当然の事です」
そうかよ。なら俺の答えはひとつしかない。
「乗った。やってやるさ。その前にひとつ確認させろ。持ってる情報ってのはシエルの事についてだな?」
「はい。シエル・フィーネのその後についての情報で間違いありません」
俺はもう一度舌打ちをし、改めて期末試験の内容について聞き始めた。
── ── ── ── ──
去年の冬季休暇前の試験は、普通の試験と同じで筆記と実技の両側面からチェックされたが、今年は実技のみに絞るらしい。
まぁ、最近の聖学の傾向からしてほとんど実技寄りになってたから、そりゃそうかって感じなんだが。
先程もあったように、一年は免除。二年は実技担当の先生達とのタイマン。および用意された魔獣に対しての連携などで総合的に評価するらしい。
三年生は《雷光》と《貴刃》のコンビとの戦闘だけだが、そもそもこの二人を同時に相手取って勝てる三年生がどれだけいるのか。
で、俺は学校長と組んで《剣姫》と《緋翼》、それぞれの試験官をやる訳だ。
あ?《臨界点》?アレはハナから全部免除。元々そうなんだとか。
「でもこれ俺達が相手ってバレたら対策されねぇ?」
試験内容が直前まで伏せられていても、対面してしまえば何が弱点で何が危険かはひと目でわかる。特に二つ名持ちはそれが顕著だ。
「皆さんには姿を誤認させる魔導具を支給します。魔法や挙動も別のものに見せることが出来る、研究室の傑作です」
魔法や挙動が別のものに見せることが出来る、というのがどういうことかさらに聞いてみる。
「例で言えば、《雷光》のスキルは強力ですが、変装してもスキルが発動しただけでそれが彼女であると誰もが気づくでしょう。あるいはその刀を見ただけで気づく者もいるかもしれません。しかし、スキルの発動を雷の魔法に置き換え、武器を不可視にして手のひらから鉄剣を生成するように見せる。あとは見た目を黒の肌に白の髪、真紅の瞳に変えてしまえば──」
「大半のヤツは《雷光》だと気づかない。気づいたとしてももう遅い、って奴か」
加えて場には《貴刃》ことユーリアもいる。場を分析する余裕はほぼない。しかもアイツは本物の魔法使いで本物の剣士だ。姿を魔族にしてしまえば、尚更訳が分からなくなるだろう。
「貴方にも同様にその処置を施し、私は遠方から貴方の挙動に合わせて魔法を送り込みます。これで擬似的に貴方も魔法が使えます」
「なるほど、俺にも魔族の振りをしろと」
俺は魔法が使えない。その事は全生徒が知っているし、俺もよく言う。だからこそバレにくい訳だ。
「でも試験の時に俺達が居ないのは明らかに不自然だろ。どうすんだ?」
「そこは問題ありません。《雷光》には私の命令で南端の調査に行った。《貴刃》には実家から呼び出された。そういう風に偽装を済ませてあります」
と言って学校長が取り出したのは、明らかに上質な紙に細やかな装飾が刻み込まれた封筒。
そして封蝋には見覚えのある大貴族の印。
「これバレたらヤバいんじゃねぇの?そこまでする必要あるのか?」
全く知らないが、どう見ても本物っぽい。むしろこういうのって偽物の方がヤバいんだっけ?
「公正さが求められるので。許可はとってあります」
学校長ってやっぱりすげぇんだな。
「で?俺は何て理由で出てった事にするんだ?」
「貴方は出ていく必要はありません。三人も居ないと流石に不審がられますからね。普通に試験を受けたということにしておきましょう」
まぁ、俺の場合はそもそも誰に呼ばれてどこに行くかって話になるしな。
《雷光》は割とよく学校長からの任務で学校に居ないし、ユーリアは呼び出しなんてされた事ないが、あってもおかしくない立場だし。
翻って俺は……あり得るとしたら聖女サマとかだろうが、これは周りに言っても信じられないだろうし、俺と《雷光》がペアで任務ってのもちょっとしっくり来ない。
「ま、その辺はわかった。ところで俺の挙動に合わせて魔法を撃つってのは……?」
「文字通りの意味です。私が貴方の挙動に合わせて魔法で攻撃します。近くには居ないので、相手からは貴方が魔法で攻撃しているように見えるでしょう」
なるほどね……ん?
「遠方からってさっき言ってたが、フィールドとかに遮られないのか?」
「問題ありません。当日はフィールドを使わないので」
……なんて?
「何で使わねぇんだよ」
「何故魔族相手にフィールドを使う必要があるのですか?」
「……まさか本気でやらせようってのか?」
「貴方はただ戦ってください。試験の合否はこちらで決めるので、終わったら即座に戦闘を止めます」
「事故の可能性は?」
「自分がやられるかも、と思っているのですか?」
そんな訳ない。だってこちらは実質二人に対してあちらは一人。向こうの方にもしもがあったら。そう言いたかったが、そう言ってもこの女が何を言うのかは大体想像がつく。
それに、もう乗ると言った上にここまで話を聞いているのだ。頷くしかない。
「わぁったよ。けど戦ってんのはあくまで俺だ。そのこと忘れんなよ」
「えぇ。勿論」
そう言って渡されたのは、さっきも言っていた姿を変える魔導具。
見た目は腕に巻くリングか。
試しにくるりと巻いてみるが、さてどうか。
「……成功のようですね。ただ髪が……」
むぅ、俺には分からないが、見た目は変わったらしい。それでもこの長すぎる髪は変えられなかったようで、学校長はそこに難色を示している模様。
「髪が長いだけなら問題ないだろ」
「貴方の場合、背丈が小さいのもあるので特定されやすいんですよ」
直球で小さいと言われ、少しばかり頭にカチンと来たが、一旦事実として受け止め、しばし考えて方法を思いつく。
「わかった、後でどうにかする」
話が終わったことを確認し、部屋を出る。
試験は五日後だそうだ。
── ── ── ── ──
産まれた時から始まっていたその諍いに、私はもう辟易していました。
昔は相当頑張りました。発明品や魔法陣の考案、未知の鉱石の発見とその活用方法の考案。
何十何百、ひょっとしたら何千何万かも知れません。ともかく、長い間頑張って、尽くしてきたのです。
けれど終わりが見えなかった。だから私は、後輩に後を託し、ひっそりと隠居したのです。
そしてもう決して関わり合いにならないよう、ひっそりと自分の世界に閉じこもっていました。
「だからだよ。だから助かった。ありがとう」
見たことも聞いたことも無い、けれど嫌に整った顔の男性が、ある日急に私の前に現れてそう言いました。
全くもって悪意のない、真摯で直球な感謝の言葉。
意味がわからなくて固まっていた私に、彼は笑顔で語りかけてくるのです。
「生まれ落ちて背負わされた自身の役目を最後まで全うせずに逃げ出した臆病者。こんな余裕のない時代にそんなことをすれば、普通ならどこかに放り捨てられて魔族にでも殺されてしまうだろうに。けれど君の出自の特異さ、君自身の能力の高さから、奴らは幽閉……いや、隔離してしまうしかない。君は賢者であり、猛毒であり、宝剣であり、また心臓でもあるから。あぁ、だからもう一度言おう。ありがとう。君のおかげで助かった」
「誰、ですか?それに、私がなにかしましたか?」
非常に上機嫌な彼とは裏腹に、私は心底恐怖と嫌悪を抱いていました。
彼の笑顔は私を安堵させるためのものではなく、今からどうしてやろうかという嗜虐心に似たそれの顔。
彼の声はよく通り、よく響き、だからこそその内に秘める獰猛さは隠しきれません。
そして何より彼の視線。宝石で出来た猛獣を見るような今までの人達とは違って、ただの宝石の原石を見るようなそれは、恐怖を抜いた純粋な黒い好奇心を向けられているようで心がひとつも休まりません。
「名乗る程の者──ではあるけど、君には勿体ない。それと、君が何をしたかって話だろう?機嫌がいいから話してあげる。何もしてないよ。何もしてないから、僕らは助かったんだ」
意味がわかりません。けれど、ただ煙に巻いているようでは無いのは何となく分かります。
「もしも君がまだ現役だったら、僕らは間違いなく壊滅的な打撃を受けていた。君がたった一枚でもこの紙を外に持ち出しただけで、戦況は一変したろうに、『私には関係ない』という君のくだらない意地で、最後の最後までただ傍観してくれたから、君達は負けたんだ。裏切り者に、世紀の大失敗に、疲れきった老梟。このどれかひとつでも正常に動いていれば、どうとでもなっていただろうに」
言っている意味が分かりません。
「負けた、のですか?」
「なんだ、それも理解していなかったのか。負けたよ。ついさっきね。だから僕が君を徴収しに来たんだ」
その言葉の意味を理解して、私は逃げようとします。
けれど、脱出用の魔導具は何一つ発動してくれません。
「効くわけないだろう?もう徴収と編纂は始まっている。逃げられんぞ」
それが私の記憶の最後。
次に目覚めた時は、何もかもを書き換えられ、別のものを植え付けられた状態でした。
すると、開口一番こう言われた。
「期末試験をします」
「え?やんの?必要か?」
あまりにも突然で、正直今年はやらないだろうと勝手に思っていたので、即座にそう言った。
「必要です。絶対に」
「……いくつか言いたいこと、聞きたいことがあるが、まず最初に、絶対とまで言い切るほど必要な理由を聞こうか」
「これが無ければこの学校で何をどれだけ学んだか。最低限の水準に達しているかどうか。その判断が付けられないからです。私から聞きますが、何故無いと思ったのですか?」
「何故ってそりゃ……色々あったろ。魔族に攻められて、生徒や先生が死んだり、最近は魔獣が居座ってたり……」
「ここは英雄の育成機関です。魔族は倒せて当たり前。死んだ者はその水準に達していない証左。魔獣に関しても、今回の件はあまりに知識が足りないと言わざるを得ませんね」
「おい待て。最終的に英雄になるのが目標なんだろ。少なくとも一年にあの侵攻を生き残れってのはあまりに厳しすぎるんじゃねぇか?」
「はい。ですので、今回の試験の対象は二年生、三年生のみ。今いる一年生は免除します。加えて貴方を含める一部の二年生、三年生も免除です」
まぁそれなら……分からないでもないか。
一年生なら、何をどうあれあの惨状を生き抜いただけでも賞賛ものだ。二、三年は一人ぐらい倒して欲しいと言うのもまぁわかる。
「……で、一部ってのは主に何を見て判断した?」
「先の魔族の侵攻で大きく戦果を上げた者達です。一例を挙げるなら《緋眼騎士》、《雷光》、《貴刃》。他に生徒の名を挙げるなら──」
「いや、もういい。わかった。つまり今回の期末試験はふるい落とし、って訳だ。で?俺を呼んだ訳は?また試験官か?手持ちの二つ名持ちは使わないのか?」
今、学長室にいるのは俺と学長の二人だけ。どうせならシェパードの《雷光》でも呼べば良いのに。
「その通りです。そして今回は私からのお願い、依頼でもあります」
「依頼ねぇ……そりゃどっちにも所属しないでふらついてる俺がそう言われたらそう簡単にはノーとは言えないが。内容は?」
「言っても構いませんが、その場合、試験内容に関わるので試験官になるか、断るなら一足先に冬休みに入っていただきます。よろしいですか?」
面倒な。俺は舌打ちを一つして先を促した。
「内容は二つ名持ちの試験官。今年は魔族として見立てた貴方と私に対し、二つ名持ちが一人ずつ挑む。そういう形にします」
「……は?」
「そして報酬ですが……聖女様から貴方の追っている彼女の情報が渡されています。それを報酬とします」
「おい待て。それってつまり、本来俺に与えられるはずの情報だろ。だったら一足先に帰る最中に王都に寄って聞くぞ。今の俺なら多少のツテがあるから出来ないこともないしな」
今なら本物の《勇者》が聖女サマの近くにいるはず。そして俺と《勇者》は互いの位置をおよそ把握出来る。そこから繋いでもらうか、他の顔を知ってる英雄に取り次いでもらうことも出来なくはないだろう。
「いえ、それは不可能かと」
「そうか?普通に……かどうかは分からんが、聖女サマに会って聞くのは無理じゃないと思──」
「そうではなく。この情報は、本来聖女様が貴方に絶対に伝えたくないから、私に伝えた情報なので」
「………。」
伏せさせる為に学校長へ伝えた?何故?俺の所にソレについての情報が行かないように制御するため?
「断っても構いませんが、私は天秤に釣り合うものしか載せるつもりはありません。そしてこの期末試験、こちらの内情を言ってしまえば人手が足りない。加えて次の《聖女》が決まる日も近い。その時に、選ばれる聖学の生徒が不甲斐ないのでは、こちらの面目が立たない。玉石のふるい落としは終わり、残った玉の中でも、一際輝ける玉を更に磨き上げる為のさらなる仕分け。そこに妥協は要りません」
「なら試験しない一年生はもうハズレって訳か?」
「今いる一年生を全て潰してしまえば、それ以降の聖学の存続が難しくなります。とはいえ既に一般的な一年生の水準を満たしてはいますし、次の候補は二年以上に絞れば問題はありません」
聖女サマの寿命の事を当たり前のように言いやがった。その上でこの女が見据えてるのは「この次の《聖女》」で、「その後も続く結界の中の平穏」。既に結界を何度も破られているのに、聖女サマ達の寿命は縮んでいるのに、まだ大丈夫だと言っているのか。
「相当ぶっちゃけたな」
「聖女様の事は貴方も知っているのでしょう?次がいつか分からない。しかしそう遠くない。ならそれに備える。当然の事です」
そうかよ。なら俺の答えはひとつしかない。
「乗った。やってやるさ。その前にひとつ確認させろ。持ってる情報ってのはシエルの事についてだな?」
「はい。シエル・フィーネのその後についての情報で間違いありません」
俺はもう一度舌打ちをし、改めて期末試験の内容について聞き始めた。
── ── ── ── ──
去年の冬季休暇前の試験は、普通の試験と同じで筆記と実技の両側面からチェックされたが、今年は実技のみに絞るらしい。
まぁ、最近の聖学の傾向からしてほとんど実技寄りになってたから、そりゃそうかって感じなんだが。
先程もあったように、一年は免除。二年は実技担当の先生達とのタイマン。および用意された魔獣に対しての連携などで総合的に評価するらしい。
三年生は《雷光》と《貴刃》のコンビとの戦闘だけだが、そもそもこの二人を同時に相手取って勝てる三年生がどれだけいるのか。
で、俺は学校長と組んで《剣姫》と《緋翼》、それぞれの試験官をやる訳だ。
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「でもこれ俺達が相手ってバレたら対策されねぇ?」
試験内容が直前まで伏せられていても、対面してしまえば何が弱点で何が危険かはひと目でわかる。特に二つ名持ちはそれが顕著だ。
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「貴方にも同様にその処置を施し、私は遠方から貴方の挙動に合わせて魔法を送り込みます。これで擬似的に貴方も魔法が使えます」
「なるほど、俺にも魔族の振りをしろと」
俺は魔法が使えない。その事は全生徒が知っているし、俺もよく言う。だからこそバレにくい訳だ。
「でも試験の時に俺達が居ないのは明らかに不自然だろ。どうすんだ?」
「そこは問題ありません。《雷光》には私の命令で南端の調査に行った。《貴刃》には実家から呼び出された。そういう風に偽装を済ませてあります」
と言って学校長が取り出したのは、明らかに上質な紙に細やかな装飾が刻み込まれた封筒。
そして封蝋には見覚えのある大貴族の印。
「これバレたらヤバいんじゃねぇの?そこまでする必要あるのか?」
全く知らないが、どう見ても本物っぽい。むしろこういうのって偽物の方がヤバいんだっけ?
「公正さが求められるので。許可はとってあります」
学校長ってやっぱりすげぇんだな。
「で?俺は何て理由で出てった事にするんだ?」
「貴方は出ていく必要はありません。三人も居ないと流石に不審がられますからね。普通に試験を受けたということにしておきましょう」
まぁ、俺の場合はそもそも誰に呼ばれてどこに行くかって話になるしな。
《雷光》は割とよく学校長からの任務で学校に居ないし、ユーリアは呼び出しなんてされた事ないが、あってもおかしくない立場だし。
翻って俺は……あり得るとしたら聖女サマとかだろうが、これは周りに言っても信じられないだろうし、俺と《雷光》がペアで任務ってのもちょっとしっくり来ない。
「ま、その辺はわかった。ところで俺の挙動に合わせて魔法を撃つってのは……?」
「文字通りの意味です。私が貴方の挙動に合わせて魔法で攻撃します。近くには居ないので、相手からは貴方が魔法で攻撃しているように見えるでしょう」
なるほどね……ん?
「遠方からってさっき言ってたが、フィールドとかに遮られないのか?」
「問題ありません。当日はフィールドを使わないので」
……なんて?
「何で使わねぇんだよ」
「何故魔族相手にフィールドを使う必要があるのですか?」
「……まさか本気でやらせようってのか?」
「貴方はただ戦ってください。試験の合否はこちらで決めるので、終わったら即座に戦闘を止めます」
「事故の可能性は?」
「自分がやられるかも、と思っているのですか?」
そんな訳ない。だってこちらは実質二人に対してあちらは一人。向こうの方にもしもがあったら。そう言いたかったが、そう言ってもこの女が何を言うのかは大体想像がつく。
それに、もう乗ると言った上にここまで話を聞いているのだ。頷くしかない。
「わぁったよ。けど戦ってんのはあくまで俺だ。そのこと忘れんなよ」
「えぇ。勿論」
そう言って渡されたのは、さっきも言っていた姿を変える魔導具。
見た目は腕に巻くリングか。
試しにくるりと巻いてみるが、さてどうか。
「……成功のようですね。ただ髪が……」
むぅ、俺には分からないが、見た目は変わったらしい。それでもこの長すぎる髪は変えられなかったようで、学校長はそこに難色を示している模様。
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「貴方の場合、背丈が小さいのもあるので特定されやすいんですよ」
直球で小さいと言われ、少しばかり頭にカチンと来たが、一旦事実として受け止め、しばし考えて方法を思いつく。
「わかった、後でどうにかする」
話が終わったことを確認し、部屋を出る。
試験は五日後だそうだ。
── ── ── ── ──
産まれた時から始まっていたその諍いに、私はもう辟易していました。
昔は相当頑張りました。発明品や魔法陣の考案、未知の鉱石の発見とその活用方法の考案。
何十何百、ひょっとしたら何千何万かも知れません。ともかく、長い間頑張って、尽くしてきたのです。
けれど終わりが見えなかった。だから私は、後輩に後を託し、ひっそりと隠居したのです。
そしてもう決して関わり合いにならないよう、ひっそりと自分の世界に閉じこもっていました。
「だからだよ。だから助かった。ありがとう」
見たことも聞いたことも無い、けれど嫌に整った顔の男性が、ある日急に私の前に現れてそう言いました。
全くもって悪意のない、真摯で直球な感謝の言葉。
意味がわからなくて固まっていた私に、彼は笑顔で語りかけてくるのです。
「生まれ落ちて背負わされた自身の役目を最後まで全うせずに逃げ出した臆病者。こんな余裕のない時代にそんなことをすれば、普通ならどこかに放り捨てられて魔族にでも殺されてしまうだろうに。けれど君の出自の特異さ、君自身の能力の高さから、奴らは幽閉……いや、隔離してしまうしかない。君は賢者であり、猛毒であり、宝剣であり、また心臓でもあるから。あぁ、だからもう一度言おう。ありがとう。君のおかげで助かった」
「誰、ですか?それに、私がなにかしましたか?」
非常に上機嫌な彼とは裏腹に、私は心底恐怖と嫌悪を抱いていました。
彼の笑顔は私を安堵させるためのものではなく、今からどうしてやろうかという嗜虐心に似たそれの顔。
彼の声はよく通り、よく響き、だからこそその内に秘める獰猛さは隠しきれません。
そして何より彼の視線。宝石で出来た猛獣を見るような今までの人達とは違って、ただの宝石の原石を見るようなそれは、恐怖を抜いた純粋な黒い好奇心を向けられているようで心がひとつも休まりません。
「名乗る程の者──ではあるけど、君には勿体ない。それと、君が何をしたかって話だろう?機嫌がいいから話してあげる。何もしてないよ。何もしてないから、僕らは助かったんだ」
意味がわかりません。けれど、ただ煙に巻いているようでは無いのは何となく分かります。
「もしも君がまだ現役だったら、僕らは間違いなく壊滅的な打撃を受けていた。君がたった一枚でもこの紙を外に持ち出しただけで、戦況は一変したろうに、『私には関係ない』という君のくだらない意地で、最後の最後までただ傍観してくれたから、君達は負けたんだ。裏切り者に、世紀の大失敗に、疲れきった老梟。このどれかひとつでも正常に動いていれば、どうとでもなっていただろうに」
言っている意味が分かりません。
「負けた、のですか?」
「なんだ、それも理解していなかったのか。負けたよ。ついさっきね。だから僕が君を徴収しに来たんだ」
その言葉の意味を理解して、私は逃げようとします。
けれど、脱出用の魔導具は何一つ発動してくれません。
「効くわけないだろう?もう徴収と編纂は始まっている。逃げられんぞ」
それが私の記憶の最後。
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