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本編
返済と金属
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さて、そんな訳で早速聖学に向けて出発。
ルート的にもいつも通り。まず王都に向けて進み、その後南下して聖学でゴール。
ただし、寄り道としてユーリアの実家であるグランデンジーク家に金を返しとっとと聖学へ──と思ったのだが。
「バルドバル家?君からその名前が出るとは思っていなかったな」
時刻は昼前。場所は王都の中央にある大きな城……に、併設される形の屋敷。剣の一族、グランデンジーク家の執務室。
相手は耳長種の当主たるルプセル・グランデンジークだ。
前はルプセルに無理言って時間を少しだけ貰い、金を返す際にユーリアについての話を少しだけしたが、今回は特に何も無いし、金だけ返してさっさと出ていくつもりだったのだが、今回は逆に呼び止められ、執務室に通された。ちなみにユーリアはもう出発した後だったらしい。
とりあえず金を返しつつ、これで借金が無くなったことを確認すると、ルプセルに「どうやってこんな短期間で大金を集めたか」と問われ、家にあった宝石類のほぼほぼ全てを売り払ったと話し、その結果、貯蓄が尽きたことを冗談交じりに話した。
するとルプセルの方から、ニコラスの時にも聞いた、とある獣人種の話を持ちかけられたのだ。
なんだよ槌人種に借りを作るのは嫌だけど、耳長種ならいいのかよ。とか思ったが、どうやら獣人種がルプセルに相談したのではなく、ルプセルが独自の情報網からその話をキャッチし、個人として依頼を俺に持ちかけたらしい。
どんな情報網だよ。しかも聖学のセラの話もバレてた。こっちは恐らくユーリアからバレたのだろう。
で、どこから依頼されたかは伏せつつ、同じ依頼を受けているから大丈夫だと伝え、ついでに獣人種の屋敷に行って軽く情報集めたりしようかと思ってる、という話をしたところで冒頭に繋がる訳だ。
「南側は元々魔獣の進行が多い土地でね。貴族の中では数が多い獣人種でも人手が足りない事がままあるぐらいだ。そこに先日の魔族結界突破事件や、期待の星だったリオード・バルドバルが負傷しての戦力低下。少なくとも、彼自身の引退は絶対に防がなくてはならない」
結界突破の件は一般的には伏せられているはずだが、流石に大貴族様やすぐ近くの貴族様には伝えられてるのか。まぁ、そうでも無いと備えることも出来んだろうし。
「だと言うのに、バルドバル家の者はプライドが高い者が多くてね。普段であれば槌人種製の義手も使うだろうが、今の槌人種と獣人種の当主同士の仲が悪い。いや、この二箇所がと言うよりも槌人種の当主があまり良くないのだが……」
ベルの親父さんだっけ。まぁ、会ったのは短い時間だったが、ベルからも嫌われてるし、多方向から嫌われているというのなら納得が出来そうな感じはなんとなくある。
「で、ソイツが何で負傷したかとか聞いてるか?」
「西学の訓練の一環で結界の外に出た際、魔族と遭遇し、その戦闘でらしい。曰く、戦技を扱う魔族だったとか」
「──。」
それは、なんとも。
天を仰ぎ、自身のしくじりを思い出して溜息をつく。
「やっぱ生きてやがったか。アイツ」
思い当たるのは瞬間移動のスキルを持つあの魔族。
戦技はヒトの方が習得しやすいが、魔族も習得出来ないわけでは無い。それは戦技はこの世界のシステムの一つだからだ。とは言え、魔族からすれば非効率極まりない戦技を所持しているような変人はソイツと三大魔侯のアイツぐらいしか居ないだろう。
「知っているのか」
ルプセルの目が細まり、やや眼光がきつくなる。俺は「知ってることは全部話すよ」と言う意味を込めて両手を軽く上げ、前の戦闘のことを話す。
「さっき言ってた結界突破事件の時に居た魔族だ。戦技を使う他に《スキル》も持ってる。距離はわからんが、結構連続で瞬間移動してた。俺とやった時に両腕を切り飛ばしてやったんだが……トカゲの尻尾よろしく生えたのか?」
魔族ならやりかねない。奴らの魔術は過程ではなく結果を持ってくる。腕が生えるという結果を間術で持ってくれば可能だろう。
「ま、奴とやり合って逃げれたなら上等だよ。むしろ良く逃げ切ったもんだ」
「他に情報は?君はどうやって倒した?」
「別に。シンプルだよ。普通に斬り合った。んで、奴の戦技と俺の戦技の撃ち合いになって、俺は胴を、奴は両腕を斬られて逃げられた。仕留めきれなかったのが悔やまれる」
そう言って肩をすくめると、ルプセルは僅かに目を細め、「そうか」と言った。
「対処法はあるか?」
「絶対にタイマンはダメだ。最低二人、出来れば三人一組で対処だな」
「君は誰を隣に?槍のような中近距離の使い手か?それとも同種の剣士?もっとインファイトの方が良いのか?」
「いや?俺一人だが。奴は瞬間移動で何度も視界から消えられるから、多分自分が剣士なら槍使いとかの方がいいだろうな」
そう言うとまた目を細められた。なんだそのリアクション。
「あと魔法使いは辞めといた方がいい。隙を付かれて殺られるから、前衛職で固める。俺が見た時、奴が使った戦技は《紅十字》とか言う戦技で、横薙ぎからの神速の踏み込み、下からの斬り上げだった。二段目が異常に早いから気をつけてくれ、ぐらいだな」
でもどうした?これぐらい、それこそやられた奴に聞けば分かるだろうに。
《白虎》が情報を秘匿している?何故?負けた事を恥だとか思うタイプじゃないだろアイツ。
ともかく、俺が伝えられる情報はこれぐらいか。
「分かった。情報提供感謝する。あぁそれと」
「?」
出ていこうとする俺をルプセルが引き止める。
「先程も言ったように、南側の戦力が落ちるのは非常に困る。現時点で彼が西側に居るとしても、後々は《聖女》様の英雄か、そうでなくとも南の守りの要になるのはほぼ間違いない。なので、これは私からの支援だ」
と言われ、渡されたのは三十センチ四方程の小包。
とりあえず受け取ると、思ったよりも重たく、うっかり落としそうになるのを髪で何とか受け止める。
「……金属?」
重量とサイズから当たりを付けて言う。
「彼の能力は調べがついている。今は没落した、とある名家が好んで使った紫電鋼と言う合金だ。きっと役に立つ」
へー、そんなのが。名前からして雷関連に強い金属なんだろうか。
「……ちなみに代金は?」
「支援だと言ったろう。金は不要だ。だが、代金代わりの対価として、彼の完全復帰、ないしはそれ以上の仕上がりを要求させてもらう」
おお怖い。こうフランクに話してるけど、相手は大貴族だぞ。ざっくりイメージだけど、《王》の次がこの人と竜人種の当主なんだぞ。断れねぇって。
「分かったよ」
「もし上手く行かなかった場合、ユーリアの婚約者になってもらおうか」
「……まーだ言ってんのか。アイツが嫌がるだろ。それに、俺にはアーネが居るんだって」
「では、あの子が拒否しなかったらでいい。何なら表向きには結婚はしなくていいが、同様にあの子も愛してやってくれ」
その言葉に俺は鼻で笑って答える。
「悪いがそりゃ無理だ。俺の隣は一人用でね。しかも予約でもう埋まってる。ま、コイツは有難く貰うし、確実に満足の行く仕上がりにするけどな」
そう言うと、ルプセルの目が俺の手に向いているのに気づく。いや、正確には指輪か。
が、その理由は分からない。
聞く気もなかったので、礼を言って部屋を出る。
さて、聖学に着いたらまずはこの素材がどんな性質を持ってるか調べる所からだな。
── ── ── ── ──
そこから一日半掛けて聖学へ向かい、無事入寮。学校が始まるまで二日ほどあるとの事で、その日は休み、翌日の朝、一番に学長室へと向かった。
理由は単純。一つは例の《白虎》の件。そしてもう一つは、冬季休暇前に聞いたシエルの居場所、断黒崖への遠征許可を貰うためだ。
いつものように扉を蹴破り、学校長に挨拶をしながら「メッセージ、読んだか?」と早速本題に入る。
「読みました。西学の学校長にも確認しましたが、本当に来るそうですね」
「《白虎》の扱いはどうなんだ?前に交換だかなんだかで来たアンジェみたいな感じにするのか?」
「それが一番良いでしょうね。ただ、今回は交換ではなく一方的に来る形ですが」
と言って、学校長が溜息を着く。
「こういう話は前もって相談して頂かないと」
「でも断らねぇんだろ。向こうに貸しを作れるし、相手も貴族だから断りにくいって感じか?」
そうは言うものの、正直なところ、学校長の許可が出るかどうかはかなり賭けだった。
ほぼほぼ俺の都合だし。メッセージを送る際に、学校側のメリットを思いつくだけありったけ載せた上で「頼む」と送った甲斐があった……のだろうか?
「実際の所、今の聖学はかなり危ういですからね。持てる手札は多いに越したことはありません。しかし、こちらとしても貴方の要求をそのまま全て呑むのは良くない」
学校長側からしたら、俺は急な無理をした側だ。それを何の対価も無く受け入れるようならば、俺にナメられる。
先の話はメリットがあるが、それはそれとしてこちらにも何かしらの要求があるのは当然。
「何だ?大抵の事は呑むぞ。言ってみろ」
敢えて強気に。こちらが無理を言った側なので、譲歩はする。だが、無理難題は無理と言う。だって俺にしか義手は作れないんだから。
「断黒崖へ派遣するメンバーはこちらで決めさせて頂きます。貴方に口出しはさせません」
「……分かった。呑む」
何を考えているかはか不明だが、現時点でそれ単体を強く拒否する理由が見いだせない。ならば受け入れるしかないだろう。
「ちなみに俺は含まれるのか?」
「お伝えできません」
「……そうかよ」
なにか企んでいるのだろうか。一応俺の方で複数の実力者やら何やらに片っ端から声を掛けていたのだが、それはどうやら無駄になりそうだ。ま、大概は返事すら貰えるか怪しい奴らばかりだったので、きっと無視してくれるだろう。
余談だが、今回義手を作成するリオード・バルドバルにもメッセージを飛ばしていた。
しかし、そうなると俺の二つ目の話は半ば無意味となる。今回は黙って引くか。
「んじゃ、話は終わりだ。《白虎》がもし来たらまず俺の所に来るよう言っといてくれ。それと、プクナイムからニラルケって奴がもし来たら、俺が頼んだ荷物を持って来てくれただけだから通してやってくれ」
「わかりました。それぐらいなら問題ありません」
そう言って学長室を出る。
さて、まずはルプセルから貰った金属がどういう性質なのか調べる所からだな。となると協力者として最適なのは……
「《雷光》、だな」
── ── ── ── ──
「紫電鋼?貴様、何処でこれを手に入れた?」
「うん?ちょっとな。とある人から貰った。ただ、性質を知らねぇからお前で試してみようかと」
その日の午後に《雷光》を捕まえ、アーネも連れて実験をしようとして、事情を説明しながら箱を開いた所で《雷光》が訝しげにそう聞いた。
「そう軽々しく人で試すな。それに、性質なら私がよく知っている」
「悪いな。お前ぐらいしか雷を使う奴が居ねぇんだよ」
そもそも雷由来のスキルないしは魔法は結構レアだ。シンプルに強いんだけどな。
「つか知ってんのか。有名な合金なのか?」
と聞きながらアーネに視線をやると、アーネには「知らない」とばかりに首を横に振られた。
「有名……そうだな。名前自体は有名ではないだろうが、これを使って作られる武具は有名だぞ。私の刀もこれで作られているしな」
と言って《雷光》が刀を具現化する。
見た目は普通の金属。鋼らしい銀の光沢。だが、《雷光》の刀をよくよく見ると、薄らと刃紋の辺りに紫の線が細かく刻んであるのが見える。
「紫電鋼。基本は雷を遮断するが、特定以上の電力を流し込むことにより、逆にそれを増幅して放つ性質を持つ。放出後、電力が特定基準未満になると元の姿へと戻る。主に刃物に使われる」
「その説明だと、魔法使いにも使えそうだけどな」
それを杖の先にでも埋めとけば、アーネの雷版が誰でも出来るようになるはずだ。もちろんタメは必要だが。
「それは無いだろうな。我が家には魔法使いなど不要だ」
「いや、別にお前ん家じゃなくても、そこらの武器屋で仕入れて──」
「出来ん。その金属は私の家、シラヌイ家でのみ作られ、シラヌイ家の武技、その奥義に到達した者のみに送られる武具に使われる金属だ」
へー、そうなんだ。だから詳しいんだな。
そう思って何気なく《雷光》の方を見ると、かなり真剣にこちらを見返していた。
「もう一度聞くぞ《緋眼騎士》。これをどこで手に入れた?」
……どうやらかなり本気で聞きたいらしい。
ルート的にもいつも通り。まず王都に向けて進み、その後南下して聖学でゴール。
ただし、寄り道としてユーリアの実家であるグランデンジーク家に金を返しとっとと聖学へ──と思ったのだが。
「バルドバル家?君からその名前が出るとは思っていなかったな」
時刻は昼前。場所は王都の中央にある大きな城……に、併設される形の屋敷。剣の一族、グランデンジーク家の執務室。
相手は耳長種の当主たるルプセル・グランデンジークだ。
前はルプセルに無理言って時間を少しだけ貰い、金を返す際にユーリアについての話を少しだけしたが、今回は特に何も無いし、金だけ返してさっさと出ていくつもりだったのだが、今回は逆に呼び止められ、執務室に通された。ちなみにユーリアはもう出発した後だったらしい。
とりあえず金を返しつつ、これで借金が無くなったことを確認すると、ルプセルに「どうやってこんな短期間で大金を集めたか」と問われ、家にあった宝石類のほぼほぼ全てを売り払ったと話し、その結果、貯蓄が尽きたことを冗談交じりに話した。
するとルプセルの方から、ニコラスの時にも聞いた、とある獣人種の話を持ちかけられたのだ。
なんだよ槌人種に借りを作るのは嫌だけど、耳長種ならいいのかよ。とか思ったが、どうやら獣人種がルプセルに相談したのではなく、ルプセルが独自の情報網からその話をキャッチし、個人として依頼を俺に持ちかけたらしい。
どんな情報網だよ。しかも聖学のセラの話もバレてた。こっちは恐らくユーリアからバレたのだろう。
で、どこから依頼されたかは伏せつつ、同じ依頼を受けているから大丈夫だと伝え、ついでに獣人種の屋敷に行って軽く情報集めたりしようかと思ってる、という話をしたところで冒頭に繋がる訳だ。
「南側は元々魔獣の進行が多い土地でね。貴族の中では数が多い獣人種でも人手が足りない事がままあるぐらいだ。そこに先日の魔族結界突破事件や、期待の星だったリオード・バルドバルが負傷しての戦力低下。少なくとも、彼自身の引退は絶対に防がなくてはならない」
結界突破の件は一般的には伏せられているはずだが、流石に大貴族様やすぐ近くの貴族様には伝えられてるのか。まぁ、そうでも無いと備えることも出来んだろうし。
「だと言うのに、バルドバル家の者はプライドが高い者が多くてね。普段であれば槌人種製の義手も使うだろうが、今の槌人種と獣人種の当主同士の仲が悪い。いや、この二箇所がと言うよりも槌人種の当主があまり良くないのだが……」
ベルの親父さんだっけ。まぁ、会ったのは短い時間だったが、ベルからも嫌われてるし、多方向から嫌われているというのなら納得が出来そうな感じはなんとなくある。
「で、ソイツが何で負傷したかとか聞いてるか?」
「西学の訓練の一環で結界の外に出た際、魔族と遭遇し、その戦闘でらしい。曰く、戦技を扱う魔族だったとか」
「──。」
それは、なんとも。
天を仰ぎ、自身のしくじりを思い出して溜息をつく。
「やっぱ生きてやがったか。アイツ」
思い当たるのは瞬間移動のスキルを持つあの魔族。
戦技はヒトの方が習得しやすいが、魔族も習得出来ないわけでは無い。それは戦技はこの世界のシステムの一つだからだ。とは言え、魔族からすれば非効率極まりない戦技を所持しているような変人はソイツと三大魔侯のアイツぐらいしか居ないだろう。
「知っているのか」
ルプセルの目が細まり、やや眼光がきつくなる。俺は「知ってることは全部話すよ」と言う意味を込めて両手を軽く上げ、前の戦闘のことを話す。
「さっき言ってた結界突破事件の時に居た魔族だ。戦技を使う他に《スキル》も持ってる。距離はわからんが、結構連続で瞬間移動してた。俺とやった時に両腕を切り飛ばしてやったんだが……トカゲの尻尾よろしく生えたのか?」
魔族ならやりかねない。奴らの魔術は過程ではなく結果を持ってくる。腕が生えるという結果を間術で持ってくれば可能だろう。
「ま、奴とやり合って逃げれたなら上等だよ。むしろ良く逃げ切ったもんだ」
「他に情報は?君はどうやって倒した?」
「別に。シンプルだよ。普通に斬り合った。んで、奴の戦技と俺の戦技の撃ち合いになって、俺は胴を、奴は両腕を斬られて逃げられた。仕留めきれなかったのが悔やまれる」
そう言って肩をすくめると、ルプセルは僅かに目を細め、「そうか」と言った。
「対処法はあるか?」
「絶対にタイマンはダメだ。最低二人、出来れば三人一組で対処だな」
「君は誰を隣に?槍のような中近距離の使い手か?それとも同種の剣士?もっとインファイトの方が良いのか?」
「いや?俺一人だが。奴は瞬間移動で何度も視界から消えられるから、多分自分が剣士なら槍使いとかの方がいいだろうな」
そう言うとまた目を細められた。なんだそのリアクション。
「あと魔法使いは辞めといた方がいい。隙を付かれて殺られるから、前衛職で固める。俺が見た時、奴が使った戦技は《紅十字》とか言う戦技で、横薙ぎからの神速の踏み込み、下からの斬り上げだった。二段目が異常に早いから気をつけてくれ、ぐらいだな」
でもどうした?これぐらい、それこそやられた奴に聞けば分かるだろうに。
《白虎》が情報を秘匿している?何故?負けた事を恥だとか思うタイプじゃないだろアイツ。
ともかく、俺が伝えられる情報はこれぐらいか。
「分かった。情報提供感謝する。あぁそれと」
「?」
出ていこうとする俺をルプセルが引き止める。
「先程も言ったように、南側の戦力が落ちるのは非常に困る。現時点で彼が西側に居るとしても、後々は《聖女》様の英雄か、そうでなくとも南の守りの要になるのはほぼ間違いない。なので、これは私からの支援だ」
と言われ、渡されたのは三十センチ四方程の小包。
とりあえず受け取ると、思ったよりも重たく、うっかり落としそうになるのを髪で何とか受け止める。
「……金属?」
重量とサイズから当たりを付けて言う。
「彼の能力は調べがついている。今は没落した、とある名家が好んで使った紫電鋼と言う合金だ。きっと役に立つ」
へー、そんなのが。名前からして雷関連に強い金属なんだろうか。
「……ちなみに代金は?」
「支援だと言ったろう。金は不要だ。だが、代金代わりの対価として、彼の完全復帰、ないしはそれ以上の仕上がりを要求させてもらう」
おお怖い。こうフランクに話してるけど、相手は大貴族だぞ。ざっくりイメージだけど、《王》の次がこの人と竜人種の当主なんだぞ。断れねぇって。
「分かったよ」
「もし上手く行かなかった場合、ユーリアの婚約者になってもらおうか」
「……まーだ言ってんのか。アイツが嫌がるだろ。それに、俺にはアーネが居るんだって」
「では、あの子が拒否しなかったらでいい。何なら表向きには結婚はしなくていいが、同様にあの子も愛してやってくれ」
その言葉に俺は鼻で笑って答える。
「悪いがそりゃ無理だ。俺の隣は一人用でね。しかも予約でもう埋まってる。ま、コイツは有難く貰うし、確実に満足の行く仕上がりにするけどな」
そう言うと、ルプセルの目が俺の手に向いているのに気づく。いや、正確には指輪か。
が、その理由は分からない。
聞く気もなかったので、礼を言って部屋を出る。
さて、聖学に着いたらまずはこの素材がどんな性質を持ってるか調べる所からだな。
── ── ── ── ──
そこから一日半掛けて聖学へ向かい、無事入寮。学校が始まるまで二日ほどあるとの事で、その日は休み、翌日の朝、一番に学長室へと向かった。
理由は単純。一つは例の《白虎》の件。そしてもう一つは、冬季休暇前に聞いたシエルの居場所、断黒崖への遠征許可を貰うためだ。
いつものように扉を蹴破り、学校長に挨拶をしながら「メッセージ、読んだか?」と早速本題に入る。
「読みました。西学の学校長にも確認しましたが、本当に来るそうですね」
「《白虎》の扱いはどうなんだ?前に交換だかなんだかで来たアンジェみたいな感じにするのか?」
「それが一番良いでしょうね。ただ、今回は交換ではなく一方的に来る形ですが」
と言って、学校長が溜息を着く。
「こういう話は前もって相談して頂かないと」
「でも断らねぇんだろ。向こうに貸しを作れるし、相手も貴族だから断りにくいって感じか?」
そうは言うものの、正直なところ、学校長の許可が出るかどうかはかなり賭けだった。
ほぼほぼ俺の都合だし。メッセージを送る際に、学校側のメリットを思いつくだけありったけ載せた上で「頼む」と送った甲斐があった……のだろうか?
「実際の所、今の聖学はかなり危ういですからね。持てる手札は多いに越したことはありません。しかし、こちらとしても貴方の要求をそのまま全て呑むのは良くない」
学校長側からしたら、俺は急な無理をした側だ。それを何の対価も無く受け入れるようならば、俺にナメられる。
先の話はメリットがあるが、それはそれとしてこちらにも何かしらの要求があるのは当然。
「何だ?大抵の事は呑むぞ。言ってみろ」
敢えて強気に。こちらが無理を言った側なので、譲歩はする。だが、無理難題は無理と言う。だって俺にしか義手は作れないんだから。
「断黒崖へ派遣するメンバーはこちらで決めさせて頂きます。貴方に口出しはさせません」
「……分かった。呑む」
何を考えているかはか不明だが、現時点でそれ単体を強く拒否する理由が見いだせない。ならば受け入れるしかないだろう。
「ちなみに俺は含まれるのか?」
「お伝えできません」
「……そうかよ」
なにか企んでいるのだろうか。一応俺の方で複数の実力者やら何やらに片っ端から声を掛けていたのだが、それはどうやら無駄になりそうだ。ま、大概は返事すら貰えるか怪しい奴らばかりだったので、きっと無視してくれるだろう。
余談だが、今回義手を作成するリオード・バルドバルにもメッセージを飛ばしていた。
しかし、そうなると俺の二つ目の話は半ば無意味となる。今回は黙って引くか。
「んじゃ、話は終わりだ。《白虎》がもし来たらまず俺の所に来るよう言っといてくれ。それと、プクナイムからニラルケって奴がもし来たら、俺が頼んだ荷物を持って来てくれただけだから通してやってくれ」
「わかりました。それぐらいなら問題ありません」
そう言って学長室を出る。
さて、まずはルプセルから貰った金属がどういう性質なのか調べる所からだな。となると協力者として最適なのは……
「《雷光》、だな」
── ── ── ── ──
「紫電鋼?貴様、何処でこれを手に入れた?」
「うん?ちょっとな。とある人から貰った。ただ、性質を知らねぇからお前で試してみようかと」
その日の午後に《雷光》を捕まえ、アーネも連れて実験をしようとして、事情を説明しながら箱を開いた所で《雷光》が訝しげにそう聞いた。
「そう軽々しく人で試すな。それに、性質なら私がよく知っている」
「悪いな。お前ぐらいしか雷を使う奴が居ねぇんだよ」
そもそも雷由来のスキルないしは魔法は結構レアだ。シンプルに強いんだけどな。
「つか知ってんのか。有名な合金なのか?」
と聞きながらアーネに視線をやると、アーネには「知らない」とばかりに首を横に振られた。
「有名……そうだな。名前自体は有名ではないだろうが、これを使って作られる武具は有名だぞ。私の刀もこれで作られているしな」
と言って《雷光》が刀を具現化する。
見た目は普通の金属。鋼らしい銀の光沢。だが、《雷光》の刀をよくよく見ると、薄らと刃紋の辺りに紫の線が細かく刻んであるのが見える。
「紫電鋼。基本は雷を遮断するが、特定以上の電力を流し込むことにより、逆にそれを増幅して放つ性質を持つ。放出後、電力が特定基準未満になると元の姿へと戻る。主に刃物に使われる」
「その説明だと、魔法使いにも使えそうだけどな」
それを杖の先にでも埋めとけば、アーネの雷版が誰でも出来るようになるはずだ。もちろんタメは必要だが。
「それは無いだろうな。我が家には魔法使いなど不要だ」
「いや、別にお前ん家じゃなくても、そこらの武器屋で仕入れて──」
「出来ん。その金属は私の家、シラヌイ家でのみ作られ、シラヌイ家の武技、その奥義に到達した者のみに送られる武具に使われる金属だ」
へー、そうなんだ。だから詳しいんだな。
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