あなたと恋に落ちるまで～御曹司は、一途に私に恋をする～

桜の季節、それぞれの想い

6

私は、店の奥の控え室に駆け込んだ。


息が荒くなる。


『雫ちゃん』


その声に驚いて振り向くと、そこにはあんこさんが立っていた。


私の顔をただ見つめて、優しく微笑んでから、そっと抱きしめてくれた。


『…あんこさん』


ダメだ…


あんこさんの体に包み込まれて、私、大声を出して泣いてしまいそうだよ…


『大丈夫、大丈夫。落ち着いて。私がついてるから』


私達のやり取りを聞いてたんだね…


あんこさんは、私の髪を優しく撫でて、そして言ってくれた。


『果穂ちゃんはね…慧君のことが好き過ぎて周りが見えないんだよ。若さゆえ…かな。果穂ちゃんの想い…それは本物。だから、私だって出来ることなら応援したい。慧君はいい子だしね。だけど…残念ながら、慧君の想いは…果穂ちゃんには無いの』


って。


『え…』


私は、あんこさんから離れた。


『慧君の気持ち、私、前に聞いたことがあってね…それは、果穂ちゃんではなかった。可哀想だけどね。でも、果穂ちゃんの一途な想いはさ、私もすごいと思ってる。大事にしてあげたいし…複雑…かな。慧君の気持ちを果穂ちゃんに言うわけにもいかないしね。慧君も…なかなか気持ち言わないし、本当に…じれったい』


あんこさんはそう言って、さらに続けた。


『みんな、恋してる。恋するって素晴らしいこと。上手くいっても、いかなくても…必ず何かを得る。成長出来る。雫ちゃんがそうだったように…それに恋愛の仕方なんて人それぞれ。だから、果穂ちゃんに言われたことは気にしないで、ゆっくり焦らず、1歩ずつ前に進めばいいから』


『ありがとうございます。またあんこさんに元気もらいましたね。私、あんこさんがいないとダメみたいです。いつも心の灯台でいてくれるあんこさんに明るく照らしてもらえて、私…幸せです。これからも…よろしくお願いします』


『ドンと来い！いつでも照らしてあげるから…迷った時は…灯りの見える方においで』


『情けなくて…すみません。ありがとうございます、あんこさん』


その優しさに、我慢出来なくて…私は泣いた。