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第一話
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古書店には、独特なにおいがただよっている。彼女はそれが、死のにおいなのだと思う。書物に込められた死せる観念が、ゆるやかに立ち上ぼり店内をみたしている。彼女はある意味ここは、墓地のようなところだと思う。
アキは、そっとため息をつく。
中央大通りの西側にある古書店なら、ひまで仕事が少なくそれに安全だろうという理由でこのバイトを選んだ。ところがそれほどひまではなく、おまけに安全であるというほうも怪しくなってきた。
閉店も近い夜更けにやってきた三人組は、マスクにサングラスそれと帽子を目深に被ったという風体だ。まあ、数年前のパンデミック以来マスク姿は珍しくないし、スマートグラスは愛用者も多いのでさほど無理のある姿ではない。
けれど、三人は妙に連携のとれた動きをして、ひとりが入り口近くに見張りとして残りあとの二人がレジにいるアキのほうに向かってくるのは、いかにも怪しい。アキは端末で作業をしているように見せかけていたが、神経をおとこたちに向けている。
ひとりがレジ奥に座るアキの前に、立つ。見た目では、はっきりしないが身体のラインからするとおんなのようだ。アキは、無視をして端末から目をそらさない。おんなは、苛立ったように軽く舌打ちをするとアキに声をかける。
「ねえ、ここにグリモワールがあると聞いたんだけど」
アキは、少しため息をつく。
「ああ、そういうのが欲しければ、中央大通りの向こう、魔法大学の回りで探したほうがいいですよ」
アキは、おんなの声が予想より若々しくて驚く。もしかすると、自分と同じ魔法大学の学生なのかもしれない。ただ、顔は見えないので確信はもてなかった。
「狐の迷宮でこの間みつかったグリモワールを、ここの店長が解析してるときいたのよ」
アキは、こころの中で舌打ちする。けれど、顔には笑みを浮かべていた。
「あー、そういうのは店長がいないと、わからないですねぇ」
おんなは、落ち着いた声で質問してくる。
「店長はいないようだけど、いつ戻るの?」
アキは微笑みを浮かべたまま、応える。
「たぶん、大学の研究室に籠ってますね。急ぎの用事ならそちらにいったほうが。あなた、学生でしょ? 魔法大学の」
アキの言葉におんなは、動揺した様子をみせない。彼女のカマかけは、失敗したらしい。おんなは落ち着き払った態度で、言葉を発する。
「君は、グリモワールがこの店のどこにあるか知っているよね」
アキはこころの中で罵りつつ、なるべく馬鹿っぽくみえる笑みを浮かべる。
「いえ、あたしは、ほんとバイトに入ったばっかで、何にもわからない」
アキは、息をのむ。
おんなは、ポケットから拳銃を取りだしたからだ。二十二口径の、オートマチック。この街では非力でものの役にたたないといわれる小さな銃だが、でも多分撃たれたらすごく痛い。死ぬかも、しれない。
「両手を、みえるとこに出して」
アキが、防犯ブザーに手を伸ばそうとしたのはあっさり阻止された。おんなは、思ったより冷静だ。もしかすると、何かドラッグをキメてるのかもしれない。
「それ、セフティかかったままだよ」
アキの言葉に失笑したおんなは、無造作にトリッガーをひく。ぽん、とレジ脇に置かれた分厚い本に穴があいた。二十二口径にサプレッサーがついてるので、銃声は腹立たしいほど静かだ。
「ねえ、さっさと終わらせたほうが、お互いのためだと思うわ」
おんなは、あくまでも冷静な口調で言った。
アキは、その言葉に頷かざるおえない。アキは、渋々立ち上がる。
そして奥の書架に、向かった。そこには本物であるかは判らないが、ゴールデンバッフの初版本が一揃ならべられている。
アキはうんざりした顔でおんなをちらりとみるが、おんなは気にしたふうもなく二十二口径でアキをうながす。
アキはあからさまにため息をつきつつ、ゴールデンバッフを一冊抜き取る。そこには、ダイヤルロックがあった。
アキはそのダイヤルロックを、操作する。カチリと、書架の奥で音がしたのが判った。
ずん、と微かな振動がおこる。重厚な書架は、ゴールデンバッフとともにゆっくり脇によけてゆきガラスケースの嵌め込まれた壁を顕にした。
二十二口径のおんなが問いかけるように、アキをみたがアキは首を横にふる。
「これの開け方までは、聞いてないけど」
おんなは馬鹿にしたような笑みをうかべ、すこし後ろに下がる。ハンマーを手にしたおとこが、前に出た。
一メートルほどの柄がついた鈍重なハンマーを、ガラスに叩きつける。どうやら一撃目は、持ちこたえたようだ。ハンマーのおとこは身体を、薬か魔法で強化しているようで普通のにんげんよりは強力な打撃をくりだす。
さてと、とアキは考える。グリモワールを手にしたら、アキを彼女らはどうするだろうか。運がよければスタンガンで眠らせられるだけで、すむかもしれない。でも、案外雑そうな彼女らはシンプルな解決を望みそうだ。つまり、二十二口径で心臓をズドン。
アキは、こころの底を探る。月齢はいま、十三日あたりであろうか。満月ではないが、悪くはない。むしろ不幸中の幸いといっても、いいくらいだ。
アキは、こころの中で九字の密印を組んでゆく。もちろん手でそれをしたほうが理想的だが、頭の中でクリアにイメージが描ければ十分といっていい。
残念ながら、強化ガラスはたったの五回で砕けることになった。
「魔法のトラップが、あるかもしれねぇ」
ハンマーのおとこが、余計なことを口にしたのでアキは舌打ちする。二十二口径のおんなが、銃身をふってアキに命じた。
「グリモワールを、出してくれない?」
アキは、そっとため息をつく。
中央大通りの西側にある古書店なら、ひまで仕事が少なくそれに安全だろうという理由でこのバイトを選んだ。ところがそれほどひまではなく、おまけに安全であるというほうも怪しくなってきた。
閉店も近い夜更けにやってきた三人組は、マスクにサングラスそれと帽子を目深に被ったという風体だ。まあ、数年前のパンデミック以来マスク姿は珍しくないし、スマートグラスは愛用者も多いのでさほど無理のある姿ではない。
けれど、三人は妙に連携のとれた動きをして、ひとりが入り口近くに見張りとして残りあとの二人がレジにいるアキのほうに向かってくるのは、いかにも怪しい。アキは端末で作業をしているように見せかけていたが、神経をおとこたちに向けている。
ひとりがレジ奥に座るアキの前に、立つ。見た目では、はっきりしないが身体のラインからするとおんなのようだ。アキは、無視をして端末から目をそらさない。おんなは、苛立ったように軽く舌打ちをするとアキに声をかける。
「ねえ、ここにグリモワールがあると聞いたんだけど」
アキは、少しため息をつく。
「ああ、そういうのが欲しければ、中央大通りの向こう、魔法大学の回りで探したほうがいいですよ」
アキは、おんなの声が予想より若々しくて驚く。もしかすると、自分と同じ魔法大学の学生なのかもしれない。ただ、顔は見えないので確信はもてなかった。
「狐の迷宮でこの間みつかったグリモワールを、ここの店長が解析してるときいたのよ」
アキは、こころの中で舌打ちする。けれど、顔には笑みを浮かべていた。
「あー、そういうのは店長がいないと、わからないですねぇ」
おんなは、落ち着いた声で質問してくる。
「店長はいないようだけど、いつ戻るの?」
アキは微笑みを浮かべたまま、応える。
「たぶん、大学の研究室に籠ってますね。急ぎの用事ならそちらにいったほうが。あなた、学生でしょ? 魔法大学の」
アキの言葉におんなは、動揺した様子をみせない。彼女のカマかけは、失敗したらしい。おんなは落ち着き払った態度で、言葉を発する。
「君は、グリモワールがこの店のどこにあるか知っているよね」
アキはこころの中で罵りつつ、なるべく馬鹿っぽくみえる笑みを浮かべる。
「いえ、あたしは、ほんとバイトに入ったばっかで、何にもわからない」
アキは、息をのむ。
おんなは、ポケットから拳銃を取りだしたからだ。二十二口径の、オートマチック。この街では非力でものの役にたたないといわれる小さな銃だが、でも多分撃たれたらすごく痛い。死ぬかも、しれない。
「両手を、みえるとこに出して」
アキが、防犯ブザーに手を伸ばそうとしたのはあっさり阻止された。おんなは、思ったより冷静だ。もしかすると、何かドラッグをキメてるのかもしれない。
「それ、セフティかかったままだよ」
アキの言葉に失笑したおんなは、無造作にトリッガーをひく。ぽん、とレジ脇に置かれた分厚い本に穴があいた。二十二口径にサプレッサーがついてるので、銃声は腹立たしいほど静かだ。
「ねえ、さっさと終わらせたほうが、お互いのためだと思うわ」
おんなは、あくまでも冷静な口調で言った。
アキは、その言葉に頷かざるおえない。アキは、渋々立ち上がる。
そして奥の書架に、向かった。そこには本物であるかは判らないが、ゴールデンバッフの初版本が一揃ならべられている。
アキはうんざりした顔でおんなをちらりとみるが、おんなは気にしたふうもなく二十二口径でアキをうながす。
アキはあからさまにため息をつきつつ、ゴールデンバッフを一冊抜き取る。そこには、ダイヤルロックがあった。
アキはそのダイヤルロックを、操作する。カチリと、書架の奥で音がしたのが判った。
ずん、と微かな振動がおこる。重厚な書架は、ゴールデンバッフとともにゆっくり脇によけてゆきガラスケースの嵌め込まれた壁を顕にした。
二十二口径のおんなが問いかけるように、アキをみたがアキは首を横にふる。
「これの開け方までは、聞いてないけど」
おんなは馬鹿にしたような笑みをうかべ、すこし後ろに下がる。ハンマーを手にしたおとこが、前に出た。
一メートルほどの柄がついた鈍重なハンマーを、ガラスに叩きつける。どうやら一撃目は、持ちこたえたようだ。ハンマーのおとこは身体を、薬か魔法で強化しているようで普通のにんげんよりは強力な打撃をくりだす。
さてと、とアキは考える。グリモワールを手にしたら、アキを彼女らはどうするだろうか。運がよければスタンガンで眠らせられるだけで、すむかもしれない。でも、案外雑そうな彼女らはシンプルな解決を望みそうだ。つまり、二十二口径で心臓をズドン。
アキは、こころの底を探る。月齢はいま、十三日あたりであろうか。満月ではないが、悪くはない。むしろ不幸中の幸いといっても、いいくらいだ。
アキは、こころの中で九字の密印を組んでゆく。もちろん手でそれをしたほうが理想的だが、頭の中でクリアにイメージが描ければ十分といっていい。
残念ながら、強化ガラスはたったの五回で砕けることになった。
「魔法のトラップが、あるかもしれねぇ」
ハンマーのおとこが、余計なことを口にしたのでアキは舌打ちする。二十二口径のおんなが、銃身をふってアキに命じた。
「グリモワールを、出してくれない?」
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