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第三話
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そこは、吹き抜けで剥き出しの夜空の下に開かれた空間であった。四角い館に囲い込まれた中庭であるが、館の規模が大きいためサッカーグランドほどの規模がある。そしてその広い空間は、轟音と言ってもいい音楽と歓声、それに激しく交錯しながら色彩を散りばめるレーザー光線で満ちていた。
大編成のバンドが切り裂くようなエレキストリングスの音で高速のメロディを駆け登らせ、暴力的なホーンセクションに金属の咆哮を放たせる。重低音の電子ドラムが狂ったような変拍子で館ごと脳髄を揺さぶってくれた。
中庭には半裸で踊るおとこやおんなが、溢れている。スポーツカーのように研ぎ澄まされ磨きあげれられた身体のおんながアクロバティックに宙を舞うと、野獣のように獰猛な体つきのおとこたちが獲物を捕える獅子となり、おんなたちを受け止めた。
高価な酒を満たしたボトルが惜しげもなく次々に叩き割られ、煙草のそれではなく官能を揺さぶる香りを湛えた煙があちこちで立ち上ってゆく。笑い声、悲鳴、怒号、早口のしゃべり声、それらは煙や光とともに音楽の背後で渦巻き流れていった。
ヒースは、中庭の来客者にダンジョン関係者が混ざっているのをみとめる。元ダンジョンガイドであるヒースは、匂いのようなものでそれを感じるとることができた。
彼らはおそらく、C級あたりのガイドやプロのダンジョンエクスプローラー。いつもとは違い、もっともらしいスーツを身につけていた。彼らは刹那的ではあるが、底抜けに陽気でもある。
「なるほど、こいつは」
トキオは、薄く笑う。そして、ぼそりとつぶやく。
「仕上っているね」
トキオの後ろで隻眼の老人が、静かに頷く。
「ご満足いただけたようで、なにより」
「おいおい」
ヒースが、呆れ声をだした。
「いったい、あれはなんだい?」
中庭の対面側で門が開き、大きな獣が姿を顕す。そのシルエットは猛犬に似ていたが大きさは雄牛ほどもあり、なにより首が三つある。
けっこう位の高いモンスター、ケルベロスであった。
トキオが、ウインクしてみせる。
「大丈夫、ちゃんと許可はとってある」
ヒースは、やれやれと首を振った。
「そういう問題じゃあ、ないだろう」
しかし、その地獄の番犬と呼ばれるモンスターは、ひとびとの歓声をもって迎い入れられる。厳しい顔つきで厳重に武装したモンスターテイマーが、ケルベロスを追い立て中庭の中央にある魔法陣へと封じ込めた。
ケルベロスは金属を擦り合わせるような吠え声を、夜空に響かせる。ひとびとは、狂ったように喜びの声をあげ、囃し立てた。バンドは重厚な葬送曲を十六ビートでアレンジして、ケルベロスを歓迎する。
なるほど、ここは地獄のようだなとヒースは思う。みな、より強い刺激をもとめ、絶叫をあげながら何かを求め手をのばす。その様は、救いをもとめる地獄の亡者にも似ている。これはトキオ流のブラックジョークなのかと、ヒースは思った。
トキオは、二階から突き出したバルコニーに立つ。その先は、中庭へと下る階段があった。トキオは階段の最上段で神を降ろすというかのように、両手を高々と掲げる。それと同時に、トキオの両脇から轟音と爆炎が放たれ次々と花火が打ち上げられた。
火薬の轟音と煙に、なぜかPMCに所属していたころ赴いた中東の戦場を思い出し、ヒースは苦笑する。
色彩の交響曲が夜空に乱舞し、頭蓋を揺さぶる轟音が地上を駆け抜けた。ひどびとはその轟音に負けぬ絶叫と歓声をあげ、トキオに向けて手をのばす。
ひとしきり狂乱する色彩が夜空を蹂躙したあと奇跡のような静寂が、中庭へ降りてきた。地獄に降臨した太陽神の笑みを浮かべたトキオは、ゆっくりとあたりを見回しおもむろに口をひらく。
「ようこそ、ようこそ! よくぞ来てくれた、我が宴に。こころより、感謝と祝福を贈る」
ひとびとの歓声が、波のように中庭を通り過ぎる。
「さあ、みんな。残酷な朝が終わりを告げるまで、存分に楽しんでいってくれ。そして皆でシン・トウキョウの繁栄と、ベリアル王の栄光を讃えようではないか!」
トキオの挨拶に応えるかのように、ケルベロスが破滅の晩鐘となった咆哮を響かせる。それにひとびとの歓声が、被さってゆく。
群衆は狂乱し混沌にのまれてはいたが、奇妙な一体感が中庭には満ちている。ヒースは、その宴を皮肉な笑みをもって眺めていた。
トキオのパーティーに招かれるものは、皆それなりに裕福で地位もある。しかし、ここでは狂乱の群衆となっていた。つまり、彼らにとってこの島は、秩序の外にある無法の地であるということかとヒースは思う。
だが、この島で生まれ育ったトキオは全てを怜悧な瞳で眺めている。この狂乱も、トキオの奏でる一つの音楽なのだというかのように。
いつしかバンドの演奏が緩やかなバラードに切り替わり、狂乱も鎮静してくる。雰囲気は、やや落ちついたものになった。
二階から突き出したバルコニーには来賓らしき客たちがおり、彼や彼女らは次々とトキオの元に挨拶をしにくる。その上流階級に属しているふうの賓客たちは、ダンジョン・エクスプローラー流ともいっていいこのパーティに少し辟易としているようにみえた。彼らはトキオの鷹揚な態度にのまれたふうに、おざなりな挨拶をしてそそくさと立ち去る。ある意味、トキオのねらいどおりなのだろうとヒースは思う。
しかし、最後に登場したそのおんなは違った。
黒地に金色のバラを描いた派手なデザインのナイトドレスを戦闘服のように纏って武装したおんなは、夜空を飾った花火よりも派手な笑顔でトキオの前に立つ。
大編成のバンドが切り裂くようなエレキストリングスの音で高速のメロディを駆け登らせ、暴力的なホーンセクションに金属の咆哮を放たせる。重低音の電子ドラムが狂ったような変拍子で館ごと脳髄を揺さぶってくれた。
中庭には半裸で踊るおとこやおんなが、溢れている。スポーツカーのように研ぎ澄まされ磨きあげれられた身体のおんながアクロバティックに宙を舞うと、野獣のように獰猛な体つきのおとこたちが獲物を捕える獅子となり、おんなたちを受け止めた。
高価な酒を満たしたボトルが惜しげもなく次々に叩き割られ、煙草のそれではなく官能を揺さぶる香りを湛えた煙があちこちで立ち上ってゆく。笑い声、悲鳴、怒号、早口のしゃべり声、それらは煙や光とともに音楽の背後で渦巻き流れていった。
ヒースは、中庭の来客者にダンジョン関係者が混ざっているのをみとめる。元ダンジョンガイドであるヒースは、匂いのようなものでそれを感じるとることができた。
彼らはおそらく、C級あたりのガイドやプロのダンジョンエクスプローラー。いつもとは違い、もっともらしいスーツを身につけていた。彼らは刹那的ではあるが、底抜けに陽気でもある。
「なるほど、こいつは」
トキオは、薄く笑う。そして、ぼそりとつぶやく。
「仕上っているね」
トキオの後ろで隻眼の老人が、静かに頷く。
「ご満足いただけたようで、なにより」
「おいおい」
ヒースが、呆れ声をだした。
「いったい、あれはなんだい?」
中庭の対面側で門が開き、大きな獣が姿を顕す。そのシルエットは猛犬に似ていたが大きさは雄牛ほどもあり、なにより首が三つある。
けっこう位の高いモンスター、ケルベロスであった。
トキオが、ウインクしてみせる。
「大丈夫、ちゃんと許可はとってある」
ヒースは、やれやれと首を振った。
「そういう問題じゃあ、ないだろう」
しかし、その地獄の番犬と呼ばれるモンスターは、ひとびとの歓声をもって迎い入れられる。厳しい顔つきで厳重に武装したモンスターテイマーが、ケルベロスを追い立て中庭の中央にある魔法陣へと封じ込めた。
ケルベロスは金属を擦り合わせるような吠え声を、夜空に響かせる。ひとびとは、狂ったように喜びの声をあげ、囃し立てた。バンドは重厚な葬送曲を十六ビートでアレンジして、ケルベロスを歓迎する。
なるほど、ここは地獄のようだなとヒースは思う。みな、より強い刺激をもとめ、絶叫をあげながら何かを求め手をのばす。その様は、救いをもとめる地獄の亡者にも似ている。これはトキオ流のブラックジョークなのかと、ヒースは思った。
トキオは、二階から突き出したバルコニーに立つ。その先は、中庭へと下る階段があった。トキオは階段の最上段で神を降ろすというかのように、両手を高々と掲げる。それと同時に、トキオの両脇から轟音と爆炎が放たれ次々と花火が打ち上げられた。
火薬の轟音と煙に、なぜかPMCに所属していたころ赴いた中東の戦場を思い出し、ヒースは苦笑する。
色彩の交響曲が夜空に乱舞し、頭蓋を揺さぶる轟音が地上を駆け抜けた。ひどびとはその轟音に負けぬ絶叫と歓声をあげ、トキオに向けて手をのばす。
ひとしきり狂乱する色彩が夜空を蹂躙したあと奇跡のような静寂が、中庭へ降りてきた。地獄に降臨した太陽神の笑みを浮かべたトキオは、ゆっくりとあたりを見回しおもむろに口をひらく。
「ようこそ、ようこそ! よくぞ来てくれた、我が宴に。こころより、感謝と祝福を贈る」
ひとびとの歓声が、波のように中庭を通り過ぎる。
「さあ、みんな。残酷な朝が終わりを告げるまで、存分に楽しんでいってくれ。そして皆でシン・トウキョウの繁栄と、ベリアル王の栄光を讃えようではないか!」
トキオの挨拶に応えるかのように、ケルベロスが破滅の晩鐘となった咆哮を響かせる。それにひとびとの歓声が、被さってゆく。
群衆は狂乱し混沌にのまれてはいたが、奇妙な一体感が中庭には満ちている。ヒースは、その宴を皮肉な笑みをもって眺めていた。
トキオのパーティーに招かれるものは、皆それなりに裕福で地位もある。しかし、ここでは狂乱の群衆となっていた。つまり、彼らにとってこの島は、秩序の外にある無法の地であるということかとヒースは思う。
だが、この島で生まれ育ったトキオは全てを怜悧な瞳で眺めている。この狂乱も、トキオの奏でる一つの音楽なのだというかのように。
いつしかバンドの演奏が緩やかなバラードに切り替わり、狂乱も鎮静してくる。雰囲気は、やや落ちついたものになった。
二階から突き出したバルコニーには来賓らしき客たちがおり、彼や彼女らは次々とトキオの元に挨拶をしにくる。その上流階級に属しているふうの賓客たちは、ダンジョン・エクスプローラー流ともいっていいこのパーティに少し辟易としているようにみえた。彼らはトキオの鷹揚な態度にのまれたふうに、おざなりな挨拶をしてそそくさと立ち去る。ある意味、トキオのねらいどおりなのだろうとヒースは思う。
しかし、最後に登場したそのおんなは違った。
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