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出会い
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しおりを挟む声をかけられたアーベルはびくっと肩を震わせ、顔を上げる。
涙に濡れた碧眼が、驚きと警戒の色を帯びている。
金色の巻き毛が頬に一筋張り付いていた。
「……君は……?リュシアン……だっけ?」
俺は内心で舌打ちした。
(やっちまった……!)
「……ここで何を?」
アーベルは涙を拭いいつもの様子に戻ろうとする。
「……読書の、つもりだったんだけどな」
俺はため息混じりに答えた。
アーベルは少し気まずそうに視線を逸らした。
「……変なところを見られたな」
そう言う彼の声は、小さく震えていた。
「別に、泣きたい時くらい泣けばいいだろ」
俺はそう言って、そっと手近なハンカチを差し出した。
アーベルは一瞬ためらったが、やがておそるおそるそれを受け取る。
「……ありがとう」
かすかに微笑む彼を見て、俺は胸の奥がざわつくのを感じた。
(ああ、関わってしまった……まあ、この場限りかもしれないしな)
なんとなく、腰を下ろして、彼のそばにいた。俺たちはしばらく沈黙した。
学園の敷地とは思えないほど静かな森の中、木々の木の葉が擦れる音だけが耳に心地よい。
俺はそっと本を閉じ、深く息をついた。
「……帰らないのか?」
俺の問いかけに、アーベルはふっと苦笑する。
「戻ったところで、また取り巻きに囲まれるだけだから。彼らの期待の王子様がメソメソしてたらダメだろ」
アーベルの目尻は、まだ赤く、強く擦った後がついていた。言葉とは裏腹に、その声にはどこか投げやりな響きがあった。
「……それが嫌なのか?」
「嫌じゃないよ。でも……疲れるんだ」
アーベルは膝を抱え、ゆっくりと目を閉じた。
「僕はいつだって"王子"であることを求められる。優しくて、裕福で、完璧な。でも、そんなに立派な人間じゃない。ただ、"期待される僕"を演じているだけなんだよ」
「……そういうのが嫌なら、ここにくればいい」
気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。見開いた青い瞳がこちらを見る
(いや、待て待て待て、何言ってんだ関わらないって決めたろう)
アーベルは驚いたように俺を見つめる。
「……いいの?」
「……別に、楽しい話もしないし、俺が本を読んでるだけだぞ」
アーベルは一瞬きょとんとした後、クスリと笑った。
「それ、なんだか新鮮だな」
「そうか?」
「うん。誰も僕にそんなふうに接しない。みんな、僕を"第二王子"としてやっかんでくるか、必要以上に媚びるか……それだけだったから」
アーベルは楽しそうに言うと、木の幹にもたれかかった。少しの沈黙のあと、掠れた声で彼は聞いた
「……またここに来てもいい?」
「……」
(関わらないって決めたのに……なんでこうなるんだよ)
でも——アーベルの碧眼が、不安げに揺れている。もしここで俺が彼のせっかく見つけた居場所を奪ってしまったら、彼はどうなるのだろう。
「……勝手にしろよ」
そう言うと、アーベルは満足そうに微笑んだ。
こうして、俺は"関わらない"という誓いを、あっさり破ることになったのだった。
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