【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵

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仮面の下で

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「……実は、その……枢機卿を探していて……」

自分の口から出た言葉に、思わず眉をしかめた。なんだこの雑な言い訳は。もっとこう、あっただろ……「姉が迷子で」とか、「大切な物を落として」みたいなやつが。

けれどアーベルは、特に不審がる様子もなく、ほんの一瞬だけ目をしばたたかせると、すぐに微笑んで言った。

「先せ……いえ、猊下なら、おじ様――アルベルト様と一緒に、さっき運河へ出て行かれましたよ。ゴンドラで。風を楽しみに、だそうです」

「……え?」

思考が、ふっと止まった。ゴンドラ? 運河? 舞踏会の真っ最中に?

「ほら、この会場、宮殿の南棟でしょう? 運河に面してるから、仮面舞踏会の夜には毎年、特別に水路からの出入りも許されるんです。猊下はあまり踊りが得意ではないから、早々に退席されたんだと思いますよ」

アーベルの口ぶりは軽やかだったけど、俺の頭の中はすでに警報レベルでざわついていた。

(……枢機卿がアルベルト公と?)

アルベルト公って、確か……アーベルの叔父、現王の弟で、隣国バルディアの王女と婚約が決まってたはず。そんな立場の男が、この夜に、よりによって枢機卿とゴンドラで運河を……?

(いやいやいや……なんで舞踏会の最中に二人で消える必要がある?)

背中に嫌な汗がじっとり滲んでくる。俺の知らないルートか? こんなの、シナリオにはなかったぞ。

「……あなたは、猊下のご関係の方なんですね」

急に、隣から低い声が囁かれた。アーベルだ。

「っ……え、い、いえ、ただの……」

言い訳が追いつかなくて、声が変にうわずった。魔法で変えている声がわずかに震えているのが自分でもわかって、慌てて視線を逸らした。

「そうですか。……でも、あなたの瞳、どこか似ている気がして……不思議ですね」

その言葉に、俺の心臓が跳ね上がる。

(やめろ、やめろって、そういうの……ズルいんだよ、王子……)

仮面の奥から向けられるまっすぐな視線に、まともに目が合わせられなくなる。見透かされてる気がして。

気づけば、俺の口が勝手に動いていた。

「に、似ているなんて嫌ですわ! その方の代わりになさるんですの!?」

やべぇ、勢いで言っちまった。けど、これで何とかこの場を切り抜けられれば――。

「そ、そういうの、私、嫌なんです!」

手を振り解いて、体を起こす。もうここから逃げるしかない。

言い訳が喉に詰まりそうだったけど、とにかく離れたかった。立ち上がる勢いで裾を踏みそうになって、慌てて持ち上げる。変な仕草を見られていないといいんだが。

「……すみません。そんなつもりじゃなかったんです。ただ……」

アーベルの低い声が背中から届いた。でも、それ以上聞いてしまったら、きっと自分の中で何かが揺らぐ気がした。

……いや、すでに揺れてる。

俺は足早にその場を離れた。アーベルは、追っては来なかった。
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