【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵

文字の大きさ
26 / 56
そして婚約は破棄された

26

しおりを挟む
俺、黒魔術リュシアン・ルルワは自分の部屋の小さな窓から川の向こう岸の宮殿を見つめていた。
部屋というよりは物置の端にわずかに人の生活する空間があると言った方が適切なくらい、
粗末な部屋だった。
焦茶に煤けた木の床材は粗悪なもののせいか所々に木のこぶがあり、魔導書の重みに
たわんでミシミシと音を立てる。奥にはついたてで間仕切られた裏にベッド、
空きスペースの中央には簡素な木のテーブルに背もたれのない丸椅子が二つ並んでいる。
時計塔の裏側にあり、定時になると鐘の音が鳴り響く。
大きな窓が一つあるがそこからは大きな文字盤越しに外が見えるようになっており、
白亜の宮殿が見える。

ガラス窓に今の自分の姿が映る。ボサボサの黒髪に吊り目で三白眼の紫色の瞳、やせぎすというほどでもないが細身の体を少し斜めに傾けて窓枠に頭をもたせかけている。
ヒュンッと高い音が響くと、夜の黒い大空に大輪の炎の薔薇が花開き、大空に炎でできたバラが一輪浮かび上がる。おそらく王宮からは綺麗に見えるだろうそれは奇妙に歪んで石造りの街を赤と緑の光に彩り照らす。
大きな時計台の文字盤ごしに、明日に控える王子婚約の儀を祝う炎の精霊の火花ショーは遠く美しく煌めいていた。
「いよいよ明日か・・・」
思わず感慨深げにつぶやいた。

俺は視線を窓の外から、机の上の黒い革装丁の魔導書へと移す。
その表紙の上には、ずいぶん前に書きかけて放り出した日記帳と、今朝読み返したルシファーとの契約書が重なっていた。死亡フラグとなる婚約の儀も明日に控え、ほぼ処刑の見込みはなかろうと彼も呼び出した異次元へと帰っていってしまった。

「死なないための努力が実り、今やこの通り……」

そう呟いて、机の上を指先でとんとんと叩く。
だがその指は、なぜか浮かないリズムで止まった。

確かに、今のところ俺は死ぬ運命を回避した。
その結果ルシファーは地獄に帰ったのである。足元にペンギンがうろついていないのが
少々違和感はあるが、まあすっきりしたと言えばすっきりした。

窓の外の火花がまた一つ、大きく爆ぜた。
バラの形に割れる炎の輪郭が、夜空に瞬いたあと、すぐに溶けて消える。
リュシアン・ルルワの“任務”は、ある意味ここで完了している。
王子が聖女と出会わず、マリーテレーズとの婚約も破棄されていない。
処刑のフラグは潰した。

それなのに。

(なんで、こんなに気分が沈んでんだ……)

「ま、明日が終われば、ほんとに全部、終わるんだ」

俺は椅子の背もたれにもたれながら、目を閉じる。
夜の闇が、時計塔の歯車の奥で静かに軋む音を奏でていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。 しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。 このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。 そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。 俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。 順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。 家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。 だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。

処理中です...