【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵

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そして婚約は破棄された

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外から、木の階段を上がるゆっくりとした足音にハッとなる。階段を登る静かな音は扉の外で泊まり、コン、コン、と部屋の木の扉が叩かれた。リュシアンと長身の男の二人が描かれた肖像画の額がわずかに揺れた。リュシアンは窓辺から降りて魔道具や分度器、を踏み越え扉を開ける

「こんばんは」

黒い外套を身に纏った背の高い青年を見上げてリュシアンは目を見開いた。アーベル=ミシェル・ド・ロベール=ロレーヌ。皇太子で、明日の婚約の儀の主役である。

「どうした、なにかあったのか?」

「炎の精霊のショーにみんなが夢中だから、目を盗んで抜け出してきたんだ」

フードを外すと、端正な顔立ちが顕になる。少し青みがかったサラサラとした金髪によく晴れた青空のような瞳には優しい光が宿っている。

王家のロレーヌ家は長身の家系で、彼もまた父親である勇敢王アンリに似た
逞しく大きな体をしていた。

「いいのか?主役はお前だろう?」

リュシアンがからかう。第二王子相手にフランクな口調をするのは慣れなかったがアーベルに泣いて懇願されてこの口調にしている。

「・・・お相手は長旅で疲れたのか一言も発することなくすぐに下がってしまって」

婚約相手の隣国の王女マリーテレーズとアーベルは面識すらない。絵に描いたような政略結婚をさせるのは胸が痛むが仕方ない。全ては死亡フラグ回避のためだ。
一緒に見よう。とはしゃぐ青い瞳にリュシアンはため息をついた。

「いい林檎酒が手に入ったから、入れてやる、待ってろ」
「ありがとう」

陶器の厚手の無骨なカップに林檎酒を注いで手渡す。
窓辺に二人で立ち、寄り添って狭い窓を覗き込むようにして、外の華やかな光を眺めていた。
どうやら13本のバラの花束を作ろうとしているらしく既に5本目のバラの花が夜空に輝いている。

「すげーな。あんな数の炎の精霊を操れる奴がいるのか?」
「マリーテレーズ王女のお付きの精霊使いだって」
「帝国出身なのか。神聖魔法だけじゃないんだな」

魔法には3種類ある、一つは神官などが使う神聖魔法、もう一つは精霊を操る精霊魔法、そしてリュシアンが使う悪魔と呼ばれる異世界生命体と契約を結んで使う黒魔術だ。

少し迫り出した窓辺に二人ならんで光のショーを見ていた。
赤い光が緑色の光が、二人の横顔を照らす。
ふと、アーベルの方を見ると、目が合った。予想外に真剣な眼差しと価値あって、動悸が激しくなる。
やめろよ、と言いかけて飲み込んだ。からかい半分の冗談も、この静かな空気には不釣り合いすぎた。
「……さっきの花、五本目だったよな」

ごまかすように話題を振ると、アーベルは少し遅れて「うん」と頷いた。けれど、視線はまだ俺から逸れなかった。

「……十三本の薔薇には、“永遠”の意味があるって、知ってる?」
「え?」

なんでそんなことを俺に聞くんだ。精霊の花火の意味なんて、貴族の教養のひとつかもしれないけど――なんだよ、その声。
「貴族の間でだけどさ。十三本の薔薇は、想いを告げる花束だって」
アーベルが、ほんのわずかに身を寄せた。
 「僕は、――本当に、大切な人に、十三本の薔薇を贈りたいと思ってる」
 「……そんなこと、俺に言うなよ」

 唇が乾くのをごまかすように、カップに残った林檎酒を一気に流し込んだ。けど、喉の渇きは少しも癒えなかった。
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